Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
俺とセイラは、東郷さんの案内でギルドの地下深くにある『未鑑定品保管庫』へと足を踏み入れていた。
厳重な生体認証と分厚い隔壁をいくつも抜け、専用の直通エレベーターで地下数十メートルまで降下する。
(俺をわざわざこんなトコに通したってことは、やっぱり俺がMaster_Eye本人だってことは、完全にバレてるんだろうなぁ……まぁ、触れないでくれるのはありがたいけども)
そんな事を考えながら辺りを見回す。
保管庫の扉が開いた瞬間、思わずガスマスク越しでも顔をしかめたくなるような、強烈な異臭が鼻を突いた。
そこには、魔力を帯びた謎の石碑や、ヒビの入った宝玉、血に塗れたままサビ付いた武具などが、まるでスクラップ工場のように無造作に積み上げられていた。
密閉空間のせいもあってか、ガラクタの臭いや嫌な気配が空間全体にどろりと溜まっており、かなりキツイ。
正直言って、俺が普段通っている上層のゴミ山よりも、環境としては最悪だ。まともに管理するつもりもない不良債権の山なのだろうが……それにしても、もう少し頑張ってくれ、日本探索者ギルド。
「うわぁ……仁さん、これ本当にただのガラクタの山じゃない?」
「だから未鑑定品保管庫と言っとろうが。呪いが強すぎて鑑定機が弾き飛ばされた物や、使い道が分からず放置するしかない物ばかりだからな。不用意に素手で触らん方がいいぞ」
セイラが少し鼻をつまみながら顔をしかめる中、俺は右目の『
視界に次々と半透明のウィンドウが展開されていくが、そのほとんどは『呪われた鉄屑』や『ただの魔力溜まりの石』といった、本当にただのゴミだった。
だが、部屋の最奥。
スクラップの山の頂上に、ひと際禍々しい、ドス黒いオーラを放つ一本の『ボロボロの長剣』が突き刺さっているのを見つけた。
他の物とは比にならないくらい泥とサビで汚れきっているが、なぜか俺の鑑定スキルが、その剣に強く惹きつけられるように反応している。
――ブォン。
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【名称】意志を持つ魔剣(極度のサビにより休眠中)
【ランク】伝説級(修復時)
【状態】重度の汚染および呪縛。ダンジョンの泥と魔物の血錆により、剣の『意志』が完全にグレており、触れる者の魔力を吸い尽くして悪態をつく呪いの剣に成り下がっている。
【真価】持ち主の魔力に呼応して自動で動き、所有者を護る自律型兵器。
【修復方法】重曹とクエン酸のペーストで表面の頑固な泥を溶かし、金属用の極細研磨剤で三日三晩磨き上げ、剣の性根を物理的(清掃)に叩き直すこと。
「……おお、いいじゃん」
自我を持ち、持ち主の魔力を吸って乗っ取ろうとする邪悪な魔剣。普通の探索者なら絶対に手を出さない、文字通りの『呪いの装備』だ。
だが……案の定、俺の掃除スキルと市販の洗剤の組み合わせなら、簡単に直せるみたいだ。直すというより、物理的に汚れを落として「お灸をすえる」ような感じだが。
(こいつをピカピカに洗浄して性根を叩き直せば、セイラさんが近くにいないときでも、ある程度身を守れそうだ)
俺の戦闘力は、悲しいかな一般人程度の『Fランク』だ。
先ほどの裏路地で剛田に襲い掛かられた時も、もしセイラさんが隣にいなければ、俺はあいつのヤケクソのナイフで刺されていたかもしれない。これから商売の規模が大きくなれば、剛田のような逆恨みや、俺の資産を狙う凶悪な輩に目をつけられる危険性は跳ね上がる。
降りかかる火の粉を全てセイラさんに払ってもらうわけにもいかない以上、自動で持ち主の周囲を飛び回り、護衛してくれる『自律兵器』は、今の俺が喉から手が出るほど欲しい手札だった。
よし、これにしよう。
「東郷ギルドマスター。私は、この剣を頂いていきます」
俺はガスマスク越しの低い声で宣言し、スクラップの山に登って、その泥まみれの魔剣を引き抜いた。
「ん? そんなサビと泥の塊でいいのか? いくらなんでも汚すぎるだろう。安物ばっかだが、一応手前の方には魔力を帯びた宝石とかもあるぞ? まあ、そっちも使い道はねえが」
「本当だよ代理人さん。なんかその剣、すっごく嫌なオーラ出てるし……なんか生ゴミと血が混ざったような臭いがするし。絶対呪われてるよ、それ」
東郷さんが呆れたように言い、セイラが露骨に嫌そうな顔をして一歩後ずさる。
「問題ありません。ウチの主は、こういった一見どうしようもないガラクタを無心で磨き上げて直すのが、大好きなものでして」
俺はボロボロの魔剣を、悪影響が出ないように素早くアイテムボックスへと収納した。
◇
用件を済ませ、ギルド本部のエントランスまで戻ってきた。
自動ドアを抜けると、外はすっかり明るくなり、新しい朝が始まろうとしている。
遠くに見える新宿の街は、昨夜のスタンピードの爪痕で所々黒く焼け焦げているが、すでに復旧作業の重機が動き出し、力強い活気に満ちていた。
「ふぁぁ……それじゃあ、私は一旦家に帰って寝るね。泥々になっちゃったし、早くお風呂にも入りたいから」
セイラが朝日を浴びながら、可愛らしく大きなあくびをした。
いくら星霊のチョーカーを身につけているとはいえ、昨日の昼からダンジョンに潜り、そのまま徹夜で魔物の大群とヒドラを相手に戦い抜いたのだ。その疲労は計り知れないだろう。
「徹夜で戦ってもらって、さらに事後処理まで……本当にありがとうございました。ゆっくり休んでください」
「うんっ! あ、それと……お寿司の約束、絶対だからね! 一番高いコース頼むんだから!」
セイラは最後に念を押すようにビシッと俺を指差してウィンクすると、軽やかな足取りで、迎えに来ていたギルドの専用車へと乗り込んでいった。
日本全国の税金が免除される圧倒的な『特A級VIPパス』と、新たな護衛戦力となる『魔剣』。
ギルドからの最高の報酬を手に入れ、俺は意気揚々と、凛が待つ自分たちのオフィスへと帰還したのだった。