Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
新宿ダンジョンギルド本部での面会を終え、俺は地下要塞のオフィスへと帰還した。
代理人用のタクティカルスーツとガスマスクを脱ぎ捨て、いつものパーカー姿に戻りながらメインフロアへ向かうと、そこには修羅の形相でキーボードを連打している
「もう! 遅いわよ、バカ社長!!」
ずいぶん作業が立て込んでいたのだろう。
俺の顔を見るなり、凛が血走った目で怒声を上げる。
「こっちがどれだけ大変だったか分かってるの!? 昨日の今日で、世界中のギルドやら政府機関、果ては海外のトップメディアから『Eye様にコンタクトを取りたい』って問い合わせが殺到して、回線がパンク寸前だったのよ! 私一人で全部捌いて、何件もお断りの対応をしてたんだからね! 特別ボーナスくらいじゃ絶対割に合わないわよ!」
「悪かったって。でも、これを見れば機嫌も直るだろ」
俺はギャーギャーと文句を垂れる凛の前のテーブルに、先ほど東郷さんから受け取った一枚の黒いカードを見せた。
「何よこれ。ただの黒いカードで私の怒りが収まるとでも――」
凛は不満げにカードを手に取り、そこに刻印された金色の紋章を見た瞬間、ピタリと文句を止めた。
「ギルドマスターからの特別報酬だ。……ダンジョン産アイテムの取引にかかる税金が、全額免除になる『特A級VIPパス』らしいぞ」
「……は?」
凛はテーブルの上の黒いカードと、俺の顔を三往復くらい見比べた。
「ぜ、ぜいきん、めんじょ……?」
「ああ。今後のオークションのダンジョン産アイテムの売り上げ、半分国に持っていかれずに、全部そのままウチの会社の純利益になるってことだ。お前のマージンも引かれずに済むな」
「きゃあああああああああっ!! 社長さま! 一生ついていくわ!! あなたこそ本物の神様よ!!」
文句タラタラだった凛は猛獣のような勢いで俺に飛びつかんばかりに歓喜し、黒いカードを俺の手から引き抜き、頬ずりし始めた。見事なまでの手のひら返しである。
だが、これで税金の支払いに怯えることなく、世界中の富豪たちと取引ができるのだ。
これほどありがたいことはない。
「さあ! 税金がタダになったと分かれば、もう怖いものなんて何もないわ! 今すぐ『Master_Eye公式オークション』の最終セッティングを終わらせるわよ!」
現金なもので、凛のタイピング速度が、スタンピード防衛戦の時すら凌駕する凄まじいスピードに跳ね上がる。
今回開催するのはVIP限定ではなく、全世界の誰でも参加可能な『オープン・オークション』。
出品されるのは、昨夜の戦場で三百人の探索者たちに実戦でレンタルされた、神話級および伝説級の武器・防具の数々だ。
『――これより、株式会社アンティーク・アイ主催、Master_Eye謹製アーティファクトのオンラインオークションを開始します!』
メッセージを打ち込むと、凛が高らかに開始のボタンをターンッ! と叩いた。
その瞬間。
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【Lot.001:伝説級『不動明王の城盾』】
>現在の入札:1000万円
>現在の入札:5000万円
>現在の入札:1億5000万円
「うおっ!? はやっ!?」
開始からわずか一秒。
入札額のカウンターが、スロットマシンのように高速で跳ね上がり始めた。
「サーバーが焼き切れそうなのは怖いけど……入札してるのは、防衛戦に参加してた日本の探索者の連中……ふふふ、宣伝効果はバッチリだったみたいね。これなら、予定より儲かりそうだわ」
モニターの端に表示させたチャット欄が、滝のような勢いで流れていく。
『俺のだ! その大盾は俺の相棒なんだよォォ!』
『予算全ツッパだ! あの魔力無限の杖を逃したら一生後悔する!』
『あの剣さえあれば深層でいくらでも稼げるんだから実質タダだろ!』
「……すげえな。一度強い武器の味を覚えた人間って、ここまで必死になるのか」
「そういうものよ。高みを知った人間は、それを簡単には手放せないの」
探索者たちが、一生分のローンやギルドの未来を賭けて、昨夜自分が使った「あの武器」を取り戻そうと血眼になって入札ボタンを連打しているのだ。
俺の仕掛けた『お試し商法』は、予想を遥かに超える劇薬となって市場を狂わせていた。
「ふふふっ、いいわよ、もっと競り合いなさい! どんどん値段が上がっていくわ……ッ!」
凛が円マークの形をした目を輝かせながら、モニターに齧り付く。
だが、狂乱はそれだけでは終わらなかった。
オークション開始から十分が経過し、日本の探索者たちの資金が尽きかけ、入札額が「数十億円」のラインで落ち着きそうになった、その時だった。
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【Lot.001:伝説級『不動明王の城盾』】
>現在の入札:50億円
>現在の入札:5000億円
「……は?」
俺と凛は、同時に息を呑んだ。
ケタが、一つ……いや、二つ違う。
一桁ずつチマチマと上がっていた入札額が、いきなり『5000億円』というレベルの違う数字で上書きされたのだ。
「り、凛、これシステムのバグか?」
「ち、違うわ……正規の入札よ。しかもこの盾だけじゃない、出品してる三百個のアイテム全部に、桁違いの金額で爆撃みたいな入札が連続で入ってきてる……多分、中継のおかげね」
チャット欄の探索者たちも、突如現れた圧倒的な資本の暴力に絶望の悲鳴を上げている。
俺が直した武器の恐ろしさは、昨夜の通信ジャックと生中継によって、全世界に証明されてしまっていた。
アラブの石油王、アメリカの巨大ギルド、各国の軍事機関。世界中の超大物たちが、本気で俺の在庫を奪い合いにきたのだろうか。
「それ自体は理解できるんだけど……透くん。やっぱり、ちょっとおかしいわ」
狂乱する入札履歴を解析していた凛が、ふと、真剣な表情になってモニターの一部を指差した。
「見て。この、片っ端から最高額を叩き出してるアカウント群……IPアドレスは上手いこと世界中に分散されてるけど……」
凛はメインモニターの横にトラフィック解析用の別ウィンドウを開き、凄まじい速度でキーボードを叩き始めた。
世界中に散らばるダミーの経路を逆探知し、資金移動の暗号化プロトコルと入札のタイミングを次々と照合していく。やがて、画面上に無数に散らばっていた光点が、一本の線となって繋がり始めた。
「ほらやっぱり、大きい一つの組織だわ」
「一つの組織? どっかの国か?」
「国……ではないと思う。国として買い物するにしては、偽装のやり方とか、そういう立ち回りに少し違和感がある気がして……」
「違和感?」
「まあ、ただの勘だけど……なんにせよ、こんだけ武器を買い占めるのは、きな臭いったらないわね。……ま、私は金払いがいいなら気にしないけど!」
凛はそう言ってオークションの管理作業に戻ったが、俺はどうにも違和感を拭えない。
探索者でも国家でもなく、謎の巨大組織が、何千億、何兆という資金を使って俺の武器を買い占めようとしている? 何のために?
(ただ独占したいだけか? ……けど、少し不気味だな。ただの金持ち、なんだよな?)
得体のしれない違和感に少しだけ身震いしたが、オークション自体は勢いが加速し、大成功だ。
最終的に、俺と凛が開催した『大オークション』は、出品された三百個のアイテムが全て完売。
総落札額は、『十数兆円』という、まさに桁違いの大記録を打ち立てて、幕を閉じたのだった。