Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~   作:えだのあ

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閑話 死人に口なし

 Side:剛田 浩司〈ごうだ こうじ〉

 

 冷たくて硬い、コンクリートの床。

 ギルド本部の最深部にある、窓一つない秘密の地下牢の中で、俺は重い『魔力封じの拘束具』をはめられたまま壁際に転がされていた。

 

 鉄格子の外に置かれた小さなモニターからは、今朝行われたギルドの公式記者会見の映像が流れている。

 

『――此度の新宿スタンピードは、中層における未知の魔力異常溜まりが引き起こした「未曾有の自然災害」であると断定されました。我々ダンジョンギルドは、この教訓を活かし、各層への高感度魔力センサーの増設および、緊急隔壁の多重化といった具体的な改善案を直ちに実行し……』

 

「……は?」

 

 俺は乾いた唇を震わせ、モニターを凝視した。

 自然災害? 未知の魔力異常? 何を言っているんだ。俺が『封印の要石』をぶっ壊したのが原因じゃないのか?

 

「目が覚めたようだな、剛田浩司」

 

 不意に、重い鉄扉が開く音が響き、巨大な影が地下牢に入ってきた。

 日本の全ての探索者を束ねる頂点、東郷 仁一朗(とうごう じんいちろう)ギルドマスター。当然知っている顔だ。

 

 威圧的なスリーピーススーツを着こなすその老人は、俺を見下ろしながら葉巻の煙をゆっくりと吐き出した。

 

「な、なんで……なんで、自然災害って……じゃあなんで俺が捕まってんだ!? ほら見ろ!! やっぱ俺は悪くなかったじゃねえか!! 今すぐ解放しやがれ!」

 

 俺は鎖をガシャガシャと鳴らしながら、東郷に向かって叫んだ。

 自然災害とかいうなら、俺は悪くないんだ。やっぱり俺のせいじゃない。

 むしろ、ここから東京を救った英雄として──

 

「なあに、簡単なことだ。お前が持ち込んだ『要石』の欠片を、ウチのヤブ鑑定士がただのゴミだと見落としたことが世間にバレりゃあ、ギルド及び日本の信用は地に落ちちまう。国民からも他国からもな……だから、あれは『予見不可能な事故』だったことにして処理したのさ。ワシも納得しちゃいねえがな」

 

「じ、事故……?」

 

「ああ。そして、お前はすでに『スタンピードに巻き込まれて死亡した』ことになっている。戸籍も、探索者免許も、全て真っ白に消し飛ばしてやったんだ。感謝しろ」

 

 東郷の言葉に、俺は全身の血の気が引くのを感じた。

 死んだことになっている? 存在が消された? 

 ……ふざけるな。俺は英雄なんだぞ。ゴミクズの相馬のヤツに、Master_Eyeに力を与えたのはこの俺なんだ!

 

「ち、違う! 俺は生きている! そうだ、マスターアイだ! あのガスマスクの代理人は、俺のパーティで荷物持ちをしてた相馬透っていう無能なんだよ! 俺がアイツに石を売ってやったから、アイツはチートを手に入れたんだ! だから東京を救ったのは実質俺なんだよォッ!」

 

 俺は必死に捲し立てた。相馬の秘密をバラせば、ギルドも俺を無視できなくなるはずだ。

 

 あんな変装してたんだアイツだって隠したかったに決まっている。

 アイツに力を与え、その弱みを握っている俺は、特別な待遇を受ける権利がある。

 

 だが、東郷は驚くどころか、冷たく濁った瞳で俺をゴミのように見下ろした。

 

「……どうしようもねえな」

 

「え……?」

 

「あの若者の正体が相馬透だということくらい、直に会って言葉を交わせば、嫌でも察しがつく。だがな……それが何だと言うんだ? 彼が東京を救った。その事実に何か変わりがあるのか?」

 

「いや、だからそれは俺が──」

 

「黙れ。聞くに耐えねえ」

 

 東郷がずしりと一歩を踏み出すと、それだけで空気が凍りついたようなプレッシャーが俺の全身を圧迫した。息ができない。

 

「いいか? ギルドは彼とズブズブの協力関係を結んだ。彼は今後、我が国に何兆という利益と、強力な武具をもたらす『最高の宝』だ。……ひるがえって、お前は何だ? 才能の原石を自らゴミ箱に蹴り捨てた挙句、八つ当たりで国を滅ぼしかけた、ただの腐った石ころじゃねえか」

 

「あ……がっ……」

 

「その石ころが、ワシらの大事な取引相手の『秘密』をよそでベラベラと喋り散らかすのは……非常に都合が悪い」

 

 東郷は懐から、禍々しい呪力がこびりついた『黒い鉄の首輪』を取り出した。ギルドの地下深くで厳重に保管されていたであろう、危険な呪具の類だ。

 

「ヒッ……や、やめろ……俺は、俺は英雄なんだぞ! そうだ! 田代! 田代はどうした! アイツも同罪だろ!! あのとき一緒にいたんだ!」

 

「そいつは今も重体らしいぞ? せいぜい心配してやれ。まあ、今はそんなこと、どうでもいいがな」

 

「い、いやだ……! 助け――」

 

 ガシャッ!!

 東郷の太い腕が俺の首根っこを掴み、無理やりその黒い首輪をはめ込んだ。

 瞬間、首輪の裏側に刻まれた呪いのトゲが俺の喉元に食い込み、声帯と魔力回路を完全に焼き切った。

 

「ガッ!? ァ……ッ……!?」

 

「これは『沈黙の首輪』。お前はこれから一生、声を発することも、首輪を外すこともできねえ。社会的に死んだ亡霊として、一生光の当たらない最深部懲罰ダンジョンで魔石を掘り続けるんだ……簡単に死ねると思うなよ」

 

 声が出ない。

 血を吐くような痛みに悶えながら叫ぼうとしても、喉からはヒューヒューという空気が漏れる音しか鳴らなかった。

 

「存分に後悔するといい。もっとも、どれだけ反省したところで日の目を浴びることはねえがな」

 

 東郷はそう言い捨てて背を向け、鉄の扉を閉めた。

 ガチャン、と重い鍵がかけられ、俺は完全な暗闇の中に一人取り残された。

 

『あ……ぁぁ……』

 

 言葉すら奪われた独房で、俺は自分の泥だらけの手のひらを見つめた。

 俺は、ただの「無能な荷物持ち」を捨てたんじゃない。──違う

 

 触れたものを全て国宝級の宝に変える、文字通りの黄金の卵を産むガチョウを捨てたんだ。──違う

 

 もしアイツを大事にしていれば。俺は今頃、伝説の魔剣を振るい、数兆円の資産を背景に、世界最高の探索者としてテレビで笑っていたかもしれないのに。──

 

『ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』

 

 声なき絶望の咆哮が、冷たい地下牢に空しく吸い込まれていく。

 こうして、かつて天才職人を追放した男は、誰の記憶にも残ることなく、暗い泥の底へと沈んでいったのだった。

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