Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~   作:えだのあ

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第43話 聖なる魔剣

「せーのっ!」

 

 俺は掛け声とともに高圧洗浄機のノズルを握り、スイッチを入れた。

 

 ブシャアアアアアアッ!!

 

 けたたましいモーター音と共に、高圧の水流が魔剣の刀身に叩きつけられる。

 重曹とクエン酸のペーストによって根元から浮き上がっていた数百年分の泥と血錆が、水しぶきと共に勢いよく吹き飛ばされていく。

 

『ギャアアアアッ!? やっぱり、やめっ……あ、アレ? なんだか……悪くな……? んっ……』

 

 最初は悲鳴を上げていた魔剣だが、汚れが落ちるにつれて、その声に妙な恍惚感が混じり始めた。

 

「よし、仕上げだ」

 

 俺は高圧洗浄機を止め、柔らかいマイクロファイバーのクロスで刀身の水分を丁寧に拭き取っていく。

 すると、禍々しい鉄屑だったそれは、息を呑むほど美しい姿を現した。

 

 刀身の半分は、光を吸い込むような漆黒。そしてもう半分は、鏡のように澄み切った白銀。相反する二つの色が、波打つような美しい刃紋を描いて完全に融合している。

 

『……ハァ、ハァ。キ、キサマ、よくもワタシの誇り高き闇をこんな……しかしながら主様、大変素晴らしいお湯加減でございました、心より御礼申し上げます……?』

 

「なんだお前、キャラがブレブレじゃないか」

 

『い、致し方ありません! ワタシの誇り高き魔の力に、キサマの使ったあの白くてシュワシュワするやつ……あの強烈な浄化の力が混ざり込んでしまったのです! おかげでワタシの気高き邪心が……し、心身ともに清らかにされてしまいました』

 

 俺は右目の『真贋鑑定』を発動し、新しく生まれ変わったステータスを確認した。

 

 ====================

【名称】未設定

【ランク】神話級

【状態】極めて良好。度重なる丁寧な洗浄と強い浄化作用により、元々の『魔力吸収(闇)』の性質に『邪気浄化(光)』の聖なる性質が完全に融合。聖と魔、双方の力を併せ持つ至高の自律兵器へと昇華した。

 

「おお、ランクが上がってる。しかも……なるほど。元々の魔剣の性質と、聖剣の性質が混ざったのか」

 

『左様でございます! キサマの無駄に丁寧な手作業のおかげで、ワタシはかつてない高みへと至ってしまった……ああっ、溢れ出るこの聖なる光が鬱陶しい! ……ですが主様への忠誠心で胸がいっぱいでございます』

 

 荒々しい魔剣の人格と、浄化された聖剣の従順な人格。

 二つの性質がせめぎ合い、情緒不安定なことになっているが……まあ、俺を害するつもりはないらしい。

 

『ところで主様。生まれ変わったワタシに、どうか新たな名を与えてはいただけないでしょうか。キサマのセンスで、ワタシに相応しい至高の名を……お付けくださいませ……責任は……と、とってください……』

 

「変な言い方するな! けど、そうか。名前、か……」

 

 俺は少し考えた。

 

 俺の人生が大きく変わるきっかけになったのは、あの日ゴミ捨て場で拾い、風呂場で磨き上げたセイラの『聖剣エクスカリバー』だ。

 この新しい相棒にも、あの剣にあやかった、それに匹敵する名前をつけてやりたい。正直、もう愛着もわいてきてしまっているしな。

 

「……『カリバーン』はどうだ? 確かエクスカリバーの別名で、原型とも言われる剣の名だ。お前も聖剣の力を得たわけだし、どうだ?」

 

『カリバーン……。フフッ、キサマにしては悪くない名です。……大変素晴らしいお名前を感謝いたします、主様。これよりワタシは、キサマの……主様の敵を、残らず塵にして差し上げます』

 

 黒と銀の刀身が、嬉しそうにブォンと空中で共鳴音を鳴らす。どうやら気に入ってもらえたらしい。

 カリバーンは、ふわりと宙に浮き上がり、俺の背後にピタリと寄り添うように滞空した。

 自動追従の自律護衛モード。これで、俺自身のセキュリティも格段に向上したわけだ。

 

「透くん、終わった?」

 

 凛がタブレットを抱え、少しだけ険しい顔を和らげて歩いてきた。俺の背後に浮かぶカリバーンを見て目を丸くしている。

 

「何よそれ。半分黒くて半分銀色……すっごく綺麗ね。それが例のガラクタ?」

 

『小娘、気安くワタシを見るな……。しかしながら自己紹介を、主様の第一の剣、カリバーンと申します。以後お見知りおきを』

 

「……なんか、情緒不安定な剣ね」

 

「いろいろあってな、多分そのうち安定するよ。それより、ギルドの方はどうなった?」

 

 凛は小さく頷き、声を落とした。

 

「東郷ギルドマスターの専用回線に、さっきのメッセージの件を内密に報告したわ。マスターも『エデン・グループ』の名前が出た瞬間、かなり警戒していたみたい。『ギルドとしても裏で情報収集に動く。相手は手段を選ばない連中だから、十分に気をつけろ』って」

 

「そうか。やっぱり、ただの金持ちってわけじゃなさそうだな」

 

「ええ。私たちも警戒は怠らないようにしないと──」

 

「んん……ふわぁ……」

 

 不意に、フロアのソファから可愛らしいあくびの声が聞こえた。

 毛布を蹴飛ばし、寝癖のついたプラチナブロンドの髪を揺らしながら、セイラがむくりと身を起こす。

 

「おはよう、透、凛……。あれ? 透の横に浮いてるその剣、どうしたの?」

 

 セイラが不思議そうに目をこすりながら近づいてくる。

 その瞬間、俺の背後にいたカリバーンが、ビクッと露骨に震え上がった。

 

『ひっ!? あ、あの時のヤバい女……! お、おはようございます!』

 

 どうやらカリバーンは、ギルドの地下保管庫にいた時から、セイラから発せられるバケモノじみた気配を察知し、それを覚えていたらしい。荒ぶる魔剣の人格が一瞬で引っ込み、綺麗な方だけになっている。

 

「なんだか面白そうな剣だね! 透が直したの? ちょっと触ってみていい?」

 

『ヒッ! 主様、お助けを! ワタシの刀身がヘシ折られてしまいますぅぅっ!』

 

「折らないよ!」

 

 怯えて俺の背中に隠れようとするカリバーンと、興味津々で追いかけ回すセイラ。

 その光景を見ながら、俺と凛は思わず顔を見合わせて吹き出してしまった。

 

 新しい相棒が出来たことだし、今は平穏な日常を噛み締めたいところだが、今はそうもいかない。セイラが起きた以上、情報共有はしておいたほうがいいだろう。

 

「セイラ、ちょっと話しておきたいことがあるんだが、少しだけいいか?」

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