Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~   作:えだのあ

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第44話 虚勢

 カリバーンを追いかけ回すのをやめさせ、俺は真面目なトーンで切り出した。

 セイラは少し不思議そうに小首を傾げながら、メインデスクの前に置かれたソファにストンと腰を下ろす。

 

「うん? どうしたの、改まって」

 

 セイラは魔剣カリバーンから手を離し、小首を傾げた。カリバーンはホッとしたように俺の背後にスッと隠れる。

 俺は凛に目配せし、凛がタブレットをセイラに向けた。

 

「実は、オークションでウチの武具を買い占めていた謎の組織があったんだけど、そこから直接メッセージが届いたの。それが……」

 

 凛が送信元の解析結果と、メッセージの翻訳を見せる。

 

「ヨーロッパの巨大企業グループ、『エデン・グループ』の会長名義よ」

 

「っ、エデン……」

 

 その名前を聞いた瞬間。セイラの小さな肩がビクッと震えた。

 そして、無邪気な顔から血の気がスッと抜けていき、右手で左手首をギュッと掴んだ。

 

 気のせいだろうか。いつも宝石のように輝いている碧眼が、わずかな怯えと、強い拒絶の色を帯びて激しく揺れているようにも見える。

 

「セイラ?」

 

 俺が心配になって声をかけると、セイラはハッとして、慌てて顔を上げた。

 

「あ、えと……すごいね! そんな世界的な大企業から連絡が来るなんて、透たちの会社もついに世界進出だね!」

 

 セイラはいつもの明るい調子で笑ってみせる。

 だが、その声は少しだけ上ずっており、唇の端は不自然に強張っていた。

 

(……何か知ってるのか)

 

 鈍感な俺にさえ分かる。彼女は今、必死に『いつものセイラ』を演じて、目の前の現実から逃げようとしている。

 

 詳しいことは分からない。だが、『エデン・グループ』と何らかの関わりがあることは間違いなかった。

 直接事情を問い詰めたい衝動に駆られるが、その震える指先を見てしまうと、これ以上踏み込むことが躊躇われる。

 

「……そうね。ただの金持ちの冷やかしならいいんだけど」

 

 凛が、静かに口を開いてこちらに目配せしてくる。

 

 俺でも気づいたのだ。目ざとい凛が、セイラの動揺を見逃すはずもない。

 だが、凛も詮索するつもりがないらしく、すぐにタブレットをパタンと閉じた。

 

「私たちみたいな新興企業にいきなり会長名義で連絡してくるなんて、非常識にもほどがあるわ。だから、しばらくは無視して泳がせることにしたの」

 

「そ、そうなんだ! それがいいよ、うん! 透たちはすごいんだから、堂々としてればいいんだよ!」

 

 セイラは目に見えてホッとしたように息を吐き、ブンブンと首を縦に振った。

 凛が再び俺に目配せしてくる。――『今は合わせなさい』という合図だ。

 

「ああ。相手が誰であれ、俺たちのペースを乱されるつもりはない。ただ、一応セイラの名前も文面に出ていたから、共有しておこうと思ってな」

 

「っ、私の名前が……そっか。でも大丈夫! もしそのエデンなんとかって人たちが透や凛に手出ししようとしたら、私が全部ぶっ飛ばしてあげるから!」

 

 セイラは胸を張り、いつもの自信に満ちた顔に戻った。

 

「私、透の専属護衛だもん。この場所は、絶対に守るから」

 

 その言葉には、自分自身言い聞かせているように聞こえた。

 やはり、いつもの彼女ではない。

 

『笑止! 主様を守るのはこの第一の剣、カリバーンでございます! キサマの出る幕など……と言いたいところですが、ワタシはまだ実戦経験が乏しいため、どうかお手柔らかにお願いいたします』

 

 空気を読んだのか読まなかったのか、カリバーンが俺の背後からひょっこりと刀身を出し、威勢よく啖呵を切ったかと思えば、すぐにへりくだった。

 

「なにおー、生意気なのかお利巧なのかよく分からない剣だなぁ。とにかく私が透を守るの! カリバーンは下がってて!」

 

『ヒィッ! 申し訳ありません! しかしワタシの存在意義が……ッ!』

 

 セイラがカリバーンの柄を掴もうとして、カリバーンが悲鳴を上げながら逃げ回る。

 一見すれば、いつもの騒がしくも平和な日常が戻ってきたかのような光景だ。だが、俺と凛の視線は、カリバーンを追いかけるセイラの背中に、わずかな違和感を拭いきれずにいた。

 

 俺と凛が目配せを交わすと、凛は小さく溜息をつき、静かにデスクへと戻っていった。

 彼女の指先がキーボードの上で踊り始める。エデン・グループへの「無視」を決め込みつつも、万が一の接触に備えた防衛プログラムの強化。それが今の彼女にできる、セイラへの、そしてこの場所への配慮なのだろう。

 

「……さて」

 

 俺は逃げ回るカリバーンを呼び戻し、手元に浮遊させた。このままこの重苦しい空気を引きずるのは良くない。

 

「セイラ、ひとまずこいつを実戦で試してみたい。新しい素材の仕入れも兼ねて、近くのダンジョンへ行こうと思うんだが、付き合ってくれるか?」

 

「うん、もちろん! カリバーンがちゃんと役立つか、私が厳しくチェックしてあげる!」

 

 セイラは腰に手を当てて笑ってみせる。その笑顔は完璧だった。

 少しずつ調子を取り戻してきたのだろうか。

 

「分かった。じゃあ、準備ができたら出発だ」

 

 俺はアイテムボックスから必要な道具を取り出し、作業着の上から、ガスマスクをはじめとする、Master_Eyeの代理人装備一式を、身につける。

 

 エデン・グループ。その名前が、何を意味するのかはまだ分からない。

 

 まずは目の前のことから一歩ずつ片付けよう。このカリバーンを使いこなし、最低限、身を守る力を身に着けるのだ。

 

「それじゃあ、行ってくる。こっちは任せたぞ」

 

「ええ。そっちも気を付けてね」

 

 俺たちは凛に見送られ、地下要塞を後にした。

 

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