Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
新宿ダンジョン、中層エリア。
先日のスタンピードの爪痕が色濃く残る岩肌の道を、俺とセイラは慎重に進んでいた。
隣を歩くセイラは、いつものように『聖剣エクスカリバー』を腰に帯びているが、その足取りは普段よりほんの少しだけ重い気がする。彼女なりに、動揺を隠そうと必死なのだろう。
そんな少し沈んだ空気とは裏腹に、俺の背後では、黒と銀の刀身を持つ『神魔剣カリバーン』が、フワフワと落ち着きなく宙を舞っていた。
『主様! いかがなさいますか、あの薄汚れた魔物の群れは! ワタシの白銀の刃で浄化し、漆黒の刃で絶望の淵へと沈めてやりましょう!』
「落ち着けって。お前はあくまで俺の『自衛用』だ。無闇矢鱈に突っ込むな」
「ふふっ。本当に面白い剣だね、カリバーンは」
カリバーンの情緒不安定な意気込みを聞いて、セイラがようやく少しだけ自然な笑みをこぼした。
「さっきからずっと透の周りをぐるぐる飛んでて、犬みたい」
『い、犬!? 、ワタシをただの獣と一緒に――いえ、主様の忠犬になれるのであれば、それもまた一つの誉れ……?』
「じゃあ早速、その忠犬っぷりを見せてもらうか。ほら……前方から来るぞ」
俺の言葉と同時。
薄暗い通路の奥から、低く濁った唸り声が響いた。現れたのは、中層の定番、ブラッドオークの群れだった。
赤黒い皮膚を持ち、通常のオークの三倍近い腕力を持つ厄介な個体だ。それが五体、血走った目でこちらを睨みつけている。
「私がやるよ、透」
「いや、セイラは下がっててくれ。カリバーンの実戦テストだ。……行け、カリバーン」
セイラがスッと前に出ようとのを制止し、その時だった。
『御意に! フハハハッ、塵芥ども! ワタシの主様の御前を汚すなど、万死に値します!』
シュンッ!! という鋭い風切り音。
空中に浮かんでいたカリバーンが、まるで弾丸のようにオークの群れへと飛翔した。
ギャアアアアッ!?
先頭のオークが反応する間もなく、その巨体が斜めに両断された。
ただ斬っただけではない。斬り裂かれた傷口からは漆黒のオーラが溢れ出し、周囲のオークたちの魔力を強制的に吸収していく。そして同時に、カリバーンの銀色の刀身から眩い浄化の光が放たれ、魔力を奪われたオークたちを光の塵へと変えていった。
魔力吸収による弱体化と、浄化の光による魔物特攻。
ものの数秒で、五体のブラッドオークは跡形もなく消え去っていた。
『ふぅ……。他愛もない。主様、いかがでしたでしょうか? ワタシの華麗なる舞は』
「……お前、想像以上にエグい性能してるな」
俺は思わず引き攣った笑いを浮かべた。自衛用どころか、ちょっとした小隊ならこいつ一本で壊滅させられるのではないだろうか。
「すごいね……! 私が守らなくても、もう透は一人で大丈夫かもね」
セイラが目を丸くして感嘆の声を上げる。
その言葉にはほんのわずかに、自分の役割がなくなることへの不安のようなものが混じっている気がする。
「馬鹿言うな。こいつはあくまで俺の周囲しか守れないし、咄嗟の細かい判断もできない。俺が本当に背中を預けられるのは、セイラだけだよ」
「っ……うん! そうだよね、私がいなきゃダメだよね!」
俺の言葉に、セイラはパッと顔を輝かせた。
いつもの彼女らしい笑顔が戻ったことにホッとしながら、俺たちはダンジョンのさらに奥、人目を避けた隠し通路のような場所へと足を踏み入れた。
◇
今回のもう一つの目的は、今後の商売のための『仕入れ』だ。
スタンピードによってダンジョン内の構造が一部変化したことで、普段は入れないような崩落跡や、魔物たちのゴミ溜めが露出している場所があるのだ。
「さて、お宝探しといくか」
俺は右目の『
しばらく探していると、泥まみれの瓦礫の下に埋もれていた小さな部品にシステムウィンドウが反応を示した。
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【名称】ひび割れた通信機
【状態】重度の破損。魔力回路の断線と泥詰まりにより機能停止中。
【真価】あらゆる言語や暗号を自動翻訳し、持ち主の脳内に直接伝える『超小型万能翻訳機』。
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「おっ、当たりだな。凛がある程度やってくれてるとはいえ、海外の富豪とやり取りするのに、自動翻訳機があるのは助かるからな」
俺は泥だらけの小さな機械部品を拾い上げ、アイテムボックスへと収納した。
さらに奥へと進みながら、めぼしいガラクタを回収していく。
(……それにしても、エデン・グループか)
ゴミを漁りながら、先ほど届いたあの不穏なメッセージをふと思い出す。
東郷さんいわく、相手は手段を選ばない巨大組織。いくら地下要塞の防犯設備が万全とはいえ、何が起こるか分からない。
俺にはカリバーンがあり、セイラには圧倒的な戦闘力がある。
だが、拠点に残してきた凛はどうだろうか。
(そういえばあいつ、元々はヒーラーだったな……)
剛田のパーティにいた頃、凛は回復魔法担当だったはずだ。だが、今は完全にデスクワーク専従になっており、戦闘能力は現役の頃よりもさらに弱体化していると見ていいだろう。
もし要塞が物理的な襲撃を受けた時、彼女が自分の身を守れる防衛手段が必要だ。常に身につけておけるようなのがいいんだけど……。
そんなことを考えながら『真贋鑑定』の視界を巡らせていた俺は、ふと、魔物の骨の山に紛れ込んでいた、黒ずんだ金属の輪っかを見つけた。
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【名称】黒ずんだ白金《プラチナ》の腕輪
【状態】呪いと酸化により真っ黒に変色。
【真価】持ち主の魔力に呼応して強力な防護障壁《シールド》を展開し、さらに回復魔法の威力を大幅に増幅させる『聖女の光盾と慈愛の腕輪』。
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「これにするか」
俺はその腕輪を拾い上げた。
これなら、腕につけておくだけで咄嗟の物理攻撃や魔法から身を守れるし、いざという時は凛のヒーラーとしての力も引き出せる。
(物騒になるかもしれないし、凛への防衛用のお土産として直してやるか。……まあ、あいつに渡したら『これ売ったらいくらになるかしら!?』って金にしようとしそうだけど)
凛の円マークになった瞳を想像して、俺はガスマスクの下で苦笑いした。
まあ、その時は俺が社長命令で身につけさせればいいだけだ。
「ふう……」
「もう終わりにする?」
俺がガラクタ漁りをやめて伸びをすると、周囲の警戒に当たってくれていたセイラが声をかけてくる。
「ああ、今日の仕入れはこのくらいで十分だ。帰ろうか、セイラ」
「うんっ! 帰ったら、お茶にしようね!」
カリバーンのテストと商品の仕入れ。一通りの目的を達成した俺たちは、ダンジョンをあとにし、地下要塞へと帰還するのだった。