Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~   作:えだのあ

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第46話 お手入れ

 新宿ダンジョンから地下要塞へと帰還した俺たちは、除染ゲートを抜けてメインフロアへと足を踏み入れた。

 

「お帰りなさい、二人とも。特に問題はなかったみたいね」

 

 大型モニターの前から、凛が振り返って迎えてくれる。その手はキーボードに置かれたままで、画面には無数のデータと海外のネットワークトラフィックが流れていた。

 

「ああ、ただいま。そっちはどうだ?」

 

「エデン・グループからの追加の接触はないわ。ネットワークにも不審な動きはなし。不気味なくらい静かね」

 

 凛はそう報告しながらも、少し険しい顔つきでモニターを睨み続けている。

 

 普段と変わらない様子だが、オークションの入札処理に始まり、昨夜から今朝にかけてのエデン・グループからの接触。彼女の負担は計り知れない。目の下には、うっすらとだが疲労の色が見え隠れしていた。

 

「……凛、少し目を休ませろ。ずっとパソコンに齧り付きっぱなしだろ」

 

「え? でも、もし急に向こうが動いてきたら……」

 

「社長命令だ。エデンが動くとしても、今すぐミサイルが飛んでくるわけじゃない。コーヒーでも淹れて、少し休憩にしよう」

 

 俺がそう言ってモニターの電源をスリープ状態にすると、凛は少し驚いたように瞬きをし、やがてふっと肩の力を抜いた。

 

「確か冷蔵庫にマカロンが入ってたろ? 賞味期限が切れる前に食べないとな」

 

「マカロン! 食べる食べる!」

 

 甘いものの名前に、これまで少し沈んでいたセイラが嬉しそうに飛び跳ね、キッチンへと向かっていく。

 俺たちはテーブルを囲み、凛が手早く淹れてくれたコーヒーと、色とりどりのマカロンでささやかなティータイムを始めた。

 

「ん〜っ! 美味しいっ!」

 

「ちょっとセイラ、私の分のピスタチオ味まで食べないでよ」

 

 文句を言いながらも、凛の表情は柔らかい。

 エデンという名前に怯えていたセイラの顔にも、甘いものを前にしていつもの無邪気な笑顔が戻っていた。

 

 その光景を見ながら、俺はコーヒーを啜り、ふと口を開いた。

 

「そうだ。凛、セイラ……午後から二人で、地上の街に遊びに行って来たらどうだ?」

 

「えっ?」

 

「買い物でも、カフェ巡りでもいい。俺はカリバーンの手入れと、拾ってきた物を片付けてるから。偶には女の子同士で羽を伸ばしてこい。ずっと気を張ってばかりだとキツイだろ?」

 

 俺の提案に、セイラは目を丸くし、凛は少しだけ目を伏せた。

 

 エデン・グループの件で情緒が不安定になっているセイラの気を紛らわせること。そして、地下にこもって働き詰めの凛自身に外の空気を吸わせるという二つの意図に、凛は気が付いたのだろう。

 

「……でも、透の護衛はどうするの?」

 

 セイラが心配そうに尋ねてくる。

 

「ここには要塞のセキュリティもあるし、それに、俺の背後には過保護な剣が浮いてるからな」

 

『ハッ! 左様でございます! 主様の御身は、このカリバーンが刃に代えてもお守りいたします』

 

 背後でブンブンと空を切るカリバーンを親指で指差すと、対抗意識からかセイラは少しだけ不満そうに唇を尖らせた。

 

 だが、凛がセイラの肩を優しくポンと叩いた。

 

「……透くんの言う通りね。たまには、社長の厚意に甘えさせてもらいましょうか。ね、セイラ。原宿の新しいクレープ屋さん、行ってみたかったんでしょ?」

 

「あっ……うん! 行きたい!」

 

 凛は俺に『任せて』というように、小さくウインクをして見せた。

 

「そんじゃ、美味いもんでも食って、好きな服でも買ってこい。支払いはこれでいいから」

 

 俺がクレジットカードをテーブルに滑らせると、凛の瞳がわずかに円マークに光ったような気がしたが、彼女はすぐに呆れたように息を吐き、微笑んだ。

 

「……行くわよ、セイラ。Sランク探索者に変な虫がつかないように、私がしっかりガードしてあげる」

 

「むっ、守るのは私の仕事! ほら、私がエスコートしてあげる!」

 

 守ってあげるといわれて少し不満そうなセイラと、それに手を引かれながら、呆れつつも楽しそうな凛。

 二人は足取り軽く、エレベーターに乗って地上へと向かっていった。

 

 ◇

 

 女子二人が出かけ、静まり返った地下要塞。

 俺は空になったマグカップを片付けると、自分専用のワークスペースへと向かった。

 

『フン。やっと騒がしい女どもが消えましたね。これでようやく、主様とワタシだけの静かで甘美な時間が……』

 

「はいはい。お前も今日はお疲れ様。初陣、完璧だったぞ」

 

『当然!』

 

 俺は空中に浮いていたカリバーンを優しく掴み、作業台の上に敷いた柔らかな布の上に寝かせた。拾ってきたガラクタをいじる前に、まずは今日頑張ってくれた相棒のメンテナンスが優先だ。

 そう考えて、極細繊維の専用クロスと、コーティング剤をアイテムボックスから取り出す。

 

 俺は刀身についたわずかな魔物の血の匂いや、微細な汚れを、クロスで優しく丁寧に拭き取っていく。

 

『アッ……主様、そこは……! ああっ、主様の優しき御手が、ワタシの刃を滑るように……ッ!!』

 

「お前、直す時といい磨く時といい、いちいちリアクションが変だぞ」

 

『キ、キサマの磨き方が無駄に丁寧すぎるのです! ワタシのような血塗られた魔剣を、まるで宝物のように扱うなど……その深い愛情、ワタシの刃の髄まで染み渡るようでございます……』

 

 悪態をつきながらも、カリバーンの刀身は喜びに打ち震えるように微かな光を放っている。コーティング剤を丁寧に塗り込んでいくと、漆黒と白銀の刃紋が、濡れたような美しい艶を帯びた。

 

「よし、お前はこれで完璧だ」

 

『ハァ……至福……。主様の期待に応え、さらに切れ味を増してお見せしましょう』

 

 満足そうに再び宙に浮き上がったカリバーンを確認し、俺はようやくアイテムボックスから今日拾ってきた二つのガラクタを取り出した。

 泥まみれの『ひび割れた通信機』と、黒ずんだ『白金の腕輪』だ。

 

 まずは通信機から。俺はピンセットと精密ドライバーを手に取り、手早く分解する。

 

「泥が回路の奥まで入り込んでるな。……よし、こいつの出番だ」

 

 棚から引っ張り出してきたのは、業務用の『超音波洗浄機』だ。

 

 洗浄液を満たした水槽の中に基盤とパーツを沈め、スイッチを入れる。

 ジーーーーーッ、という細かな振動音が響き始める。

 

『何ですかその機械は? 水が小刻みに震えて……アッ、泥が、奥底に詰まっていた泥が煙のように吐き出されていくではありませんか……』

 

「超音波の振動で、目に見えない隙間の汚れを弾き出してるんだよ。古い機械部品の洗浄にはこいつが一番だ」

 

 洗浄機から引き上げたパーツは泥が完全に落ち、本来の金属の光沢を取り戻していた。エアダスターで水分を飛ばし、断線していた魔力回路をハンダごてで丁寧に繋ぎ直す。

 外装を磨き上げて組み直すと、イヤーカフ型の『超小型万能翻訳機』へと生まれ変わった。俺は右目の『真贋鑑定』を発動し、ステータスを確認する。

 

 ====================

【名称】超小型万能翻訳機(イヤーカフ型)

【ランク】国宝級

【状態】極めて良好。断線していた魔力回路は完璧に修復され、超音波洗浄により細部の汚れも完全に除去された。

【効果】あらゆる言語・暗号のリアルタイム自動翻訳。装着者の脳内に直接音声を届ける。

 ====================

 

「よし、一つ目完了。次は……こっちだな」

 

 俺は呪いと酸化で真っ黒に変色した『聖女の光盾と慈愛の腕輪』を手に取った。

 

「呪いの付与された金属のサビ落としには、やっぱりこの重曹ペーストと、この銀製品用の専用ポリッシュクロスだな」

 

『クッ……ワタシという至高の剣を磨き終えた後に、他の品に愛情を注がれると、複雑です……!』

 

「嫉妬すんなって。またお前のことも磨いてやるから」

 

 俺は腕輪に重曹ペーストを塗り込み、特殊な研磨剤が練り込まれたクロスで、キュッキュッと丁寧に磨き始めた。

 クロスが黒く汚れていくのと反比例するように、腕輪の表面から気品ある白い輝きが顔を出し始める。仕上げに柔らかいネル布で乾拭きを行うと。

 

 ――ピカァッ!

 

 腕輪に込められていた『聖女の慈愛』の魔力が解放され、作業場が温かく澄んだ光に包まれた。

 呪いの黒ずみは完全に消え去り、そこには息を呑むほど美しい、純白のプラチナの腕輪が輝いていた。再び鑑定をかける。

 

 ====================

【名称】聖女の光盾と慈愛の腕輪

【ランク】神話級

【状態】極めて良好。呪いは完全に浄化され、プラチナ本来の神聖な輝きと魔力伝導率を取り戻している。

【効果】自動防護障壁《シールド》の展開。装備者の回復魔法の効果を大幅に増幅・拡張する。

 ====================

 

「完璧だ。これなら、いざという時に凛を守ってくれるはずだ」

 

 俺はピカピカになった腕輪を光に透かしながら、満足げに頷いた。

 会社が大きくなり、エデン・グループのような得体の知れない敵も現れた。俺一人の力は弱いが、こうしてアイテムを最高の状態に磨き上げることで、仲間たちを支えることができる。

 

「二人とも、楽しんでるといいな」

 

 俺は、地上の喧騒へと出かけていった凛とセイラの姿を思い浮かべながら、作業台の上の道具を片付け始めた。

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