Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
15億で落札された直後に届いた、落札者からのメッセージ。
俺は恐る恐るその内容を確認した。
『ID: ■■■■(Sランク)』
『落札させてもらいました。最高の剣だね。
実は、明日の遠征でどうしても使いたいの。
住所を教えるから、今から届けてくれたりできないかな?
無理を承知でのお願いだから、やってくれたら追加で1億払うよ。出来ればでいいけど考えてくれると助かります!』
……追加で、1億?
俺は目をこすった。
15億でもキャパオーバーなのに、さらにドンと積まれるとは。
金銭感覚がバグっているとしか思えない。
だが、問題はそこじゃない。
「今から届けてくれ」という点だ。
通常、ネットオークションの商品は匿名配送サービスを使う。
互いの住所氏名を明かさずに取引できるのがメリットだ。
だが、直接届けるとなれば、俺の正体がバレるリスクがある。
そうなれば、
「……でも、1億円か」
俺はゴクリと喉を鳴らした。
15億で麻痺しそうになったが1億円あれば、家が建つ。
それを「配送料」としてポンと出す相手だ。断るのはあまりにも惜しい。
それに、相手はSランク探索者。
ならば、誠意を見せて恩を売っておくほうが、今後のためにもなるんじゃないか?
リスクと、目の前の1億(と15億の入金確定)。
天秤にかけるまでもなかった。
「……やるしかない。バレなきゃいいんだ、バレなきゃ」
俺は震える指で『承諾』の返信を送った。
すぐに、地図アプリのURLと、入館用のパスコードが送られてくる。
場所は……港区の超高級タワーマンション『バビロン・タワー』。
日本に数人しかいないSランク探索者や、トップ企業の役員しか住めないと言われている要塞だ。
「よし、変装だ」
俺はクローゼットをひっくり返した。
探索者時代に使っていた、目立ちにくい黒のパーカー。
顔を隠すための黒マスク。
そして、深く被れるキャップ。
鏡を見る。
そこには、どう見ても不審者しか映っていなかった。
「……職務質問されたら終わるな」
だが、背に腹は代えられない。
次に、商品の梱包だ。
国宝級の聖剣を入れるケースなんて持っていない。
俺は部屋の隅にあった、『プチプチ(気泡緩衝材)』を手に取った。
グルグルグルグル。
聖剣エクスカリバーが、安っぽいビニールに巻かれていく。
最後に、以前バイトで使っていたデリバリーバッグに斜めに突き刺す。
柄の部分がはみ出しているが、遠目にはフランスパンに見えなくもない。
「よし、完璧だ」
俺は15億円のフランスパンを背負い、夜の街へと飛び出した。
◇
一時間後。
俺は『バビロン・タワー』の最上階、ペントハウスの前に立っていた。
エントランスの警備員には、送られてきたパスコードを見せたら「失礼しました!」と敬礼された。Sランクの威光、すさまじい。
エレベーターも、俺のボロアパートの部屋より広かった。
そして今、目の前には重厚な扉。
心臓が口から出そうだ。
この向こうに、あの『落札者』がいる。
「……ふぅ」
深呼吸をして、インターホンを押す。
ピンポーン。
数秒後。
カチャリ、とロックが外れる音がして、扉が開いた。
「はーい、早かったね!」
現れたのは、テレビの画面越しにしか見たことのない人物だった。
プラチナブロンドの長い髪。
宝石のような碧眼。
そして、信じられないほど整った顔立ち。
Sランク探索者、『剣聖』こと
だが、俺が言葉を失ったのは、その美貌のせいだけではない。
彼女の格好だ。
テレビで見る鎧姿ではない。
サイズの大きなTシャツに、ショートパンツ。
髪は少し湿っていて、風呂上がり特有の甘い香りが漂ってくる。
(無防備すぎないか!? どんな奴が来るかわからなかっただろ!?)
俺は動揺を必死に抑え込み、フードを深く被り直した。
あくまで俺は、謎の出品者『Master_Eye』だ。
挙動不審になってはいけない。
「……お届け物です」
声を低く作って言う。
セイラは俺の顔(マスク姿)を見ても驚く様子もなく、むしろ興味深そうに目を輝かせた。
「君がMaster_Eye? 意外と若いんだね。もっと頑固な鍛冶師のお爺ちゃんかと思ってた」
「代理の者です」
「ふーん? それで、商品は?」
俺は背中のバッグから、プチプチに包まれた棒状の物体を取り出した。
「これです」
「…………」
セイラの笑顔が固まった。
沈黙が流れる。
タワマンの最上階で、15億円の取引商品が、100均の緩衝材に巻かれて差し出されている。
「あー、えっと……これだよね? あってる?」
「中身は保証します」
「そ、そうだよね! 大事なのは中身だもんね!」
彼女は苦笑いしながらそれを受け取ると、無造作にプチプチを引きちぎった。
ビリビリ、という情けない音と共に、白銀の刀身が露わになる。
その瞬間。
部屋の空気が変わった。
「……っ!」
セイラの表情が一変する。
探索者の顔。
彼女は流れるような動作で剣を構え、軽く空を薙いだ。
ヒュンッ!!
鋭い風切り音が響き、衝撃波で部屋の観葉植物が揺れる。
ただ振っただけだ。魔力すら込めていないのに、この威力。
「すっごい」
セイラはうっとりとした表情で、刀身を撫でた。
「写真で見た時も驚いたけど、実物はそれ以上。歪み一つない重心バランス。それに、この魔力伝導率……今の日本で作れる職人がいるなんて信じられない」
彼女は興奮した様子で、俺に詰め寄った。
風呂上がりの良い匂いがして、俺は思わず後ずさる。
「ねえ、これ本当に君がメンテナンスしたの? この『封印解除』の術式、どうやったの? 古代語魔法?」
「え、あ、いや……」
まさか『台所用洗剤で洗いました』とは言えない。
俺は必死に言葉を濁す。
「き、企業秘密です」
「むぅ、ケチ。でも、いい仕事なのは認めないとね」
彼女は満足そうに頷くと、スマホを取り出した。
「約束通り、落札額15億+配送料1億、計16億円。今送るね」
ピッ。
俺のポケットの中で、スマホが震えた。
通知を確認するまでもない。
だが、確認せずにはいられない。
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【入金通知】
振込人:ジングウジ セイラ
金額:¥1,600,000,000
【残高】:¥1,600,000,632
(じゅ、16億……!)
ゼロの数が多すぎて、一瞬スパムメールかと思った。
だが、これは現実だ。
俺は今日、今この瞬間、億万長者になったのだ。
「か、確認しました。確かに」
「うん、いい取引だったよ。ありがとう」
セイラはニッコリと笑い、そして――急に真剣な眼差しで俺を見つめた。
「ところで、さっきの代理って話、