Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~   作:えだのあ

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第5話 15億円を運ぶ(百均梱包)

15億で落札された直後に届いた、落札者からのメッセージ。

俺は恐る恐るその内容を確認した。

 

『ID: ■■■■(Sランク)』

『落札させてもらいました。最高の剣だね。

 実は、明日の遠征でどうしても使いたいの。

 住所を教えるから、今から届けてくれたりできないかな?

 無理を承知でのお願いだから、やってくれたら追加で1億払うよ。出来ればでいいけど考えてくれると助かります!』

 

……追加で、1億?

 俺は目をこすった。

 15億でもキャパオーバーなのに、さらにドンと積まれるとは。

 金銭感覚がバグっているとしか思えない。

 

 だが、問題はそこじゃない。

 「今から届けてくれ」という点だ。

 

 通常、ネットオークションの商品は匿名配送サービスを使う。

 互いの住所氏名を明かさずに取引できるのがメリットだ。

 だが、直接届けるとなれば、俺の正体がバレるリスクがある。

 そうなれば、Master_Eye(マスターアイ)なんてアカウント名でかましたハッタリが台無しだ。最悪、信用を失って全部がパーに──

 

「……でも、1億円か」

 

 俺はゴクリと喉を鳴らした。

 15億で麻痺しそうになったが1億円あれば、家が建つ。

 それを「配送料」としてポンと出す相手だ。断るのはあまりにも惜しい。

 

 それに、相手はSランク探索者。

 ならば、誠意を見せて恩を売っておくほうが、今後のためにもなるんじゃないか?

 リスクと、目の前の1億(と15億の入金確定)。

 天秤にかけるまでもなかった。

 

「……やるしかない。バレなきゃいいんだ、バレなきゃ」

 

 俺は震える指で『承諾』の返信を送った。

 すぐに、地図アプリのURLと、入館用のパスコードが送られてくる。

 

 場所は……港区の超高級タワーマンション『バビロン・タワー』。

 日本に数人しかいないSランク探索者や、トップ企業の役員しか住めないと言われている要塞だ。

 

「よし、変装だ」

 

 俺はクローゼットをひっくり返した。

 探索者時代に使っていた、目立ちにくい黒のパーカー。

 顔を隠すための黒マスク。

 そして、深く被れるキャップ。

 

 鏡を見る。

 そこには、どう見ても不審者しか映っていなかった。

 

「……職務質問されたら終わるな」

 

 だが、背に腹は代えられない。

 次に、商品の梱包だ。

 国宝級の聖剣を入れるケースなんて持っていない。

 俺は部屋の隅にあった、『プチプチ(気泡緩衝材)』を手に取った。

 

 グルグルグルグル。

 聖剣エクスカリバーが、安っぽいビニールに巻かれていく。

 最後に、以前バイトで使っていたデリバリーバッグに斜めに突き刺す。

 

 柄の部分がはみ出しているが、遠目にはフランスパンに見えなくもない。

 

「よし、完璧だ」

 

 俺は15億円のフランスパンを背負い、夜の街へと飛び出した。

 

 ◇

 

 一時間後。

 俺は『バビロン・タワー』の最上階、ペントハウスの前に立っていた。

 

 エントランスの警備員には、送られてきたパスコードを見せたら「失礼しました!」と敬礼された。Sランクの威光、すさまじい。

 エレベーターも、俺のボロアパートの部屋より広かった。

 

 そして今、目の前には重厚な扉。

 心臓が口から出そうだ。

 この向こうに、あの『落札者』がいる。

 

「……ふぅ」

 

 深呼吸をして、インターホンを押す。

 ピンポーン。

 

 数秒後。

 カチャリ、とロックが外れる音がして、扉が開いた。

 

「はーい、早かったね!」

 

 現れたのは、テレビの画面越しにしか見たことのない人物だった。

 

 プラチナブロンドの長い髪。

 宝石のような碧眼。

 そして、信じられないほど整った顔立ち。

 

 Sランク探索者、『剣聖』こと神宮寺(じんぐうじ)セイラ。

 

 だが、俺が言葉を失ったのは、その美貌のせいだけではない。

 彼女の格好だ。

 

 テレビで見る鎧姿ではない。

 サイズの大きなTシャツに、ショートパンツ。

 髪は少し湿っていて、風呂上がり特有の甘い香りが漂ってくる。

 

(無防備すぎないか!? どんな奴が来るかわからなかっただろ!?)

 

 俺は動揺を必死に抑え込み、フードを深く被り直した。

 あくまで俺は、謎の出品者『Master_Eye』だ。

 挙動不審になってはいけない。

 

「……お届け物です」

 

 声を低く作って言う。

 セイラは俺の顔(マスク姿)を見ても驚く様子もなく、むしろ興味深そうに目を輝かせた。

 

「君がMaster_Eye? 意外と若いんだね。もっと頑固な鍛冶師のお爺ちゃんかと思ってた」

 

「代理の者です」

 

「ふーん? それで、商品は?」

 

 俺は背中のバッグから、プチプチに包まれた棒状の物体を取り出した。

 

「これです」

 

「…………」

 

 セイラの笑顔が固まった。

 沈黙が流れる。

 タワマンの最上階で、15億円の取引商品が、100均の緩衝材に巻かれて差し出されている。

 

「あー、えっと……これだよね? あってる?」

 

「中身は保証します」

 

「そ、そうだよね! 大事なのは中身だもんね!」

 

 彼女は苦笑いしながらそれを受け取ると、無造作にプチプチを引きちぎった。

 ビリビリ、という情けない音と共に、白銀の刀身が露わになる。

 

 その瞬間。

 部屋の空気が変わった。

 

「……っ!」

 

 セイラの表情が一変する。

 探索者の顔。

 彼女は流れるような動作で剣を構え、軽く空を薙いだ。

 

 ヒュンッ!!

 

 鋭い風切り音が響き、衝撃波で部屋の観葉植物が揺れる。

 ただ振っただけだ。魔力すら込めていないのに、この威力。

 

「すっごい」

 

 セイラはうっとりとした表情で、刀身を撫でた。

 

「写真で見た時も驚いたけど、実物はそれ以上。歪み一つない重心バランス。それに、この魔力伝導率……今の日本で作れる職人がいるなんて信じられない」

 

 彼女は興奮した様子で、俺に詰め寄った。

 風呂上がりの良い匂いがして、俺は思わず後ずさる。

 

「ねえ、これ本当に君がメンテナンスしたの? この『封印解除』の術式、どうやったの? 古代語魔法?」

 

「え、あ、いや……」

 

 まさか『台所用洗剤で洗いました』とは言えない。

 俺は必死に言葉を濁す。

 

「き、企業秘密です」

 

「むぅ、ケチ。でも、いい仕事なのは認めないとね」

 

 彼女は満足そうに頷くと、スマホを取り出した。

 

「約束通り、落札額15億+配送料1億、計16億円。今送るね」

 

 ピッ。

 俺のポケットの中で、スマホが震えた。

 通知を確認するまでもない。

 だが、確認せずにはいられない。

 

====================

【入金通知】

振込人:ジングウジ セイラ

金額:¥1,600,000,000

【残高】:¥1,600,000,632

 

(じゅ、16億……!)

 

 ゼロの数が多すぎて、一瞬スパムメールかと思った。

 だが、これは現実だ。

 俺は今日、今この瞬間、億万長者になったのだ。

 

「か、確認しました。確かに」

 

「うん、いい取引だったよ。ありがとう」

 

 セイラはニッコリと笑い、そして――急に真剣な眼差しで俺を見つめた。

 

「ところで、さっきの代理って話、()だよね。どうして嘘ついたの?」

 

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