Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
突如降り出した雨の中、地上へ遊びに行っていた凛とセイラが帰ってきた。
「ただいまっ!」
「おかえり。楽しかったか……って、やっぱ少し濡れてるな。大丈夫か?」
「急に降られちゃって。でも大丈夫、セイラがほとんど弾き飛ばしてくれたから」
「頑張りました!」
セイラが胸を張り、それを横目にタオルで髪を拭きながら、凛が呆れながらも穏やかに笑う。
楽しそうな彼女たちを見て、俺は少しホッと息を吐いた。良い気分転換になったのなら何よりだ。
「なら良かった。ああそうだ……ほら、凛。これ」
俺は作業着のポケットから、先ほど磨き上げたばかりの『聖女の光盾と慈愛の腕輪』を取り出し、凛に軽く放り投げた。
「危なっ! もう、いきなり投げないでよ……何よこれ。プラチナの腕輪?」
「ダンジョンでの仕入れのついでに拾ったガラクタを直したんだ。お前、回復魔法が使えるだろ? それを付けていれば、いざって時に強力な防護障壁も張れるし、回復魔法の威力も上がる。お守り代わりに持っておけ」
「……っ」
凛は純白の輝きを放つ腕輪を、信じられないものを見るような目で見つめた。
てっきり『これ売ったらいくらになるかしら!?』と円マークの目を浮かべるかと思ったのだが、彼女は何かを堪えるようにギュッと唇を噛み締めると、静かに自分の左腕にそれをはめた。
「……ありがとう、透くん。肌身離さず持っておくわ」
「ああ。まあ、要塞にいる限りは安全だけど、念のためにな」
少しだけ声が震えていたような気もしたが、まあ、彼女が喜んでくれたなら拾って直した甲斐があったというものだ。
そんなことを考えていると、凛は腕輪を撫でていた手を止め、スッと真剣な表情に切り替わった。
「……透くん。実は、街で少し厄介なことがあったの。耳に入れておきたいんだけど」
「厄介なこと?」
「ええ。買い物の帰り道で、ある探索者パーティに絡まれたの。日本のSランクパーティ『漆黒の牙』……リーダーの、鮫島っていう男よ」
Sランクパーティ。セイラと同じ、日本の頂点に立つ探索者か。
もっとも、単騎でそこに名を連ねるセイラとはまた話が違ってくるんだろうけど。
だが、問題はそこではない。凛の口から出た次の言葉に、俺は眉をひそめた。
「彼ら、海外のお金持ちからの仕事で、セイラと話しに来たって言ってたわ。詳しい目的は分からないけど……気にならない?」
「海外のお金持ち……エデン・グループか?」
「十中八九、そうだと思う。私たちとセイラの繋がりも、完全に把握されていたわ」
俺は小さく舌打ちをした。タイミング的に無関係とは考えられない。
だが、隠匿回線へのメッセージが今朝のこと。それから半日も経たずに、日本のSランクパーティを金で雇って接触させてくるとは。
相手はただの金持ち企業じゃない。情報の早さも、手駒の動かし方も、ギルドの東郷さんが警戒する通りだ。
「ごめんね、透。あいつら、すごく嫌な奴らで……私がその場でぶっ飛ばしておけばよかったんだけど」
セイラが申し訳なさそうに肩を落とす。
「いや、街中で騒ぎを起こさなかったのは正解だ。相手の目的が『調査』なら、無闇に手札を見せる必要はないよ」
俺は腕を組み、思考を巡らせた。
エデン・グループの目的が何であれ、彼らが力ずくで何かを奪いに来る可能性がある以上、俺たちも腹を括らなければならない。
「しかし、エデンの動きが予想以上に早い。こっちも備えを固めなきゃだ。防衛プログラムの強化と、いざという時の避難ルートの確認を急ごう。カリバーンの実戦配備も間に合って良かった」
『お任せを、主様! その漆黒の牙とやら、ワタシがまとめてへし折って差し上げます』
背後でカリバーンが頼もしく空を切る。
凛も、左腕のプラチナの腕輪をギュッと握りしめ、力強く頷いた。
ピロリンッ。
緊迫した空気を破るように、セイラのスマートフォンが間の抜けた通知音を鳴らした。
「あ、ごめん。……あれ? お母さんからだ」
「お母さん?」
「うん。私のお母さん、病気というか……ちょっと体が弱くて、ギルドが用意してくれた郊外の療養施設にずっと入院してるの。今、メッセージが来てね。『最近顔を見せに来ないけど、ちゃんとご飯食べてるの? たまには元気な姿を見せなさい』だって」
「そうか。まあ、スタンピードからのドタバタで、ここかダンジョンに詰めっぱなしだったし、心配してるんだろうな」
「うん……」
セイラはスマートフォンを両手で握りしめ、少しの間、何かを迷うように俯いていた。
エデン・グループの刺客と接触したばかりだ。彼女の中で、何か不安が膨らんでいるのかもしれない。
やがて、セイラは顔を上げ、俺と凛を交互に見つめた。
「……あのさ。もし良かったらなんだけど」
「ん?」
「透と凛にも、一緒にお見舞いに来てほしいな……なんて。大切な友達だって、お母さんに紹介したくて」
セイラの上目遣いのお願いに、俺は凛と顔を見合わせた。
凛は小さく微笑んで、頷いている。
「もちろん構わないよ。俺もセイラには色々助けられてるし、一度ちゃんと挨拶しておきたい」
「本当!? やったぁ! お母さん、絶対に喜ぶと思う!」
パッと顔を輝かせるセイラを見て、俺も自然と笑みがこぼれた。
だが気を緩めるわけにはいかない。エデン・グループの狙いの一つは、文面から見ても間違いなくセイラだ。そんな連中が嗅ぎ回っている時に、セイラのお母さんの警備体制が今のままで大丈夫か、一度直接確認しておいた方がいいだろう。
「よし。じゃあ、明日は三人で療養施設に行くか。凛、手土産にいいお菓子を見繕っておいてくれ」
「ええ、任せて。最高級のフルーツでも用意しておくわ」
こうして、俺たちは翌日、セイラの母親が入院している極秘の療養施設へと向かうことになった。