Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~   作:えだのあ

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第53話 時間切れ

 Side:鮫島 恭司

 

 都内の一等地にある、一泊数十万は下らない最高級ホテルのスイートルーム。

 眼下に広がる東京の夜景ってのは、いつ見てもいいもんや。

 無数の光の粒が、全部自分の手の内にあるような錯覚をさせてくれる。僕は高級な革張りのソファに深く腰掛けながら、グラスの氷をカラカラと揺らして、その宝石箱みたいな景色を見下ろした。

 

「はいはーい、鮫島さん。6時回りましたよー」

 

 部屋の隅で、退屈そうにスマートフォンをいじっていた女――うちのパーティの魔法使いが、間延びした声で時間を告げる。

 

「……そうか。エデンさんへの連絡は入ってへん、と。タイムリミットやね」

 

 僕はグラスに残っていた琥珀色の液体を最後の一滴まで飲み干し、小さく息を吐いた。

 エデン・グループからの依頼は、あの『Master_Eye』と接触し、彼らを交渉のテーブルに引きずり出すこと。やけど、指定した時刻を過ぎても、彼らからのコンタクトは一切なかった。

 どうやら、完全に無視を決め込むつもりのようや。……お利口さんな対応やけど、僕相手にそれは一番の悪手やということに、気づいてへんらしい。ま、しゃあないけど。

 

「どうする? いい加減、力ずくでやるか?」

 

 腕組みをして壁にもたれかかっていた大柄な男――うちの前衛が、苛立たしげに舌打ちをした。

 

「君、馬鹿なん? あちらさんの顔も、拠点の居場所も分からんのやろ。それとも、あのセイラちゃん相手に正面から喧嘩売るって言ってるん?」

 

「酒井がいただろ。アイツを攫って吐かせればいいだろうが」

 

 男のあまりに短絡的な提案に、僕は思わず鼻で笑ってしもた。

 

「本気で言ってるん? こないだ見たやろ。あの子ら、だいぶ仲良さそうやったで。寄生虫一匹攫うために、『剣聖』を本気で怒らせて何か得あるん? いくら金もらっても、大赤字やろ」

 

「ちっ……」

 

「はぁ、仁一朗さんが情報おろしてくれれば楽なんやけど……徹底的に隠蔽されとるし、そもそも嫌われてるからなあ、僕ら」

 

 Sランクとしてギルドに所属してはいるが、東郷仁一朗のジジイが僕らのやり口を嫌っとるんは百も承知。今回ばかりは、ギルドのネットワークは使えへん。

 

「じゃあどうするんです? このままじゃ、あたしらの取り分減っちゃいますよー」

 

 女が不満そうに唇を尖らせる。

 力ずくは最下策。ギルドの力も借りられへん。相手の居場所も分からん。

 けど、盤面をひっくり返す方法なんて、世の中にはいくらでもあるんや。

 

「そうやなあ……せや、久々にテレビ出よか?」

 

「……テレビ?」

 

 僕の唐突な提案に、二人はきょとんとした顔を見合わせた。

 

「僕らは、日本の平和を守るトップ探索者。世間から見れば立派な英雄やん? そんで、僕らは親切やから、最近世間を騒がせてる怪しい武具について、お茶の間に向けて優しく『警告』してあげるんや」

 

 僕は立ち上がり、窓の外に広がる街を指差した。

 

「例えば、『こないだの新宿のスタンピードはMaster_Eyeの仕業でした。あそこの武器は呪われてるから気いつけや』……ってな感じでなぁ」

 

「なっ……! それこそ、向こうには神宮寺セイラが付いている。彼女が否定すれば終わりだ。人気も発言力も、俺たちじゃ勝ち目はないだろう」

 

 男が噛み付くように反論してくる。

 ほんま、こいつの頭の中には筋肉しか詰まってへんらしい。

 

「あのなぁ。こういうのは、早いもん勝ち、言ったもん勝ちやねん。僕らが『正義の味方』として先に情報を流して世間を扇動した後やと、あちらさんの身内のセイラちゃんの発言なんて、ただの身内贔屓か、共犯者の言い訳にしか聞こえんようになって信憑性も薄くなる」

 

「……だとしても、調べられたらボロが出るぞ。何の根拠もないんだからな」

 

「はぁ……うるさいなあ、君」

 

 僕はひんやりとしたグラスをテーブルに置き、心底呆れたようにため息をついた。

 

「アホなんやから変に頭回さないで、こっちに任せとったらええのに。……ちょっと、黙っててくれる?」

 

「なんだと……っ! 俺だってSランクの――」

 

「僕な、最近君らの名前、思い出せへんの。そろそろ入れ替え時かなぁ?」

 

「はぁ!? あ、あたしも!? ふざけないでよ!!」

 

 僕の言葉に、男は顔を真っ赤にして怒り、女は金切り声を上げた。

 Sランクパーティのメンバーであるという彼らのちっぽけなプライドが傷ついたみたいや。

 僕が呆れて溜息を吐くと、男が威嚇するように一歩踏み出してくる。

 

「覚えてもらいたいなら、もっと頑張らな。僕が覚えるんは、僕より強い人と、僕が不幸にした子だけやからね」

 

「お前! そこまで俺たちを軽んじるなら、こちらも……っ!?」

 

「──黙れ、言うてんねんで、僕」

 

 僕は笑みを消し、ほんの一握りの『殺気』と『魔力』を男の首元へと放った。

 

「ヒッ……!?」

 

 男の動きが完全に停止した。

 まるで目に見えない巨大な刃を喉元に突きつけられたかのように、顔面から血の気が引き、脂汗が滝のように流れ落ちる。女の方も、あまりのプレッシャーに腰を抜かし、床にへたり込んでガタガタと震え出した。

 ほんま、格付けっちゅうのは一瞬で終わるもんや。

 

「はい、ええ子や。よくできました」

 

 僕は再び人当たりの良い笑みを浮かべ、男の強張った頬をパンパンと軽く叩いてやった。

 

「で、でもでもっ! ど、どうするんです? しょ、証拠がないのは事実だし……あ、あたし鮫島様のお話が聞きたいですぅ」

 

 完全に怯えきった女が、媚びるような声で必死に取り繕ってくる。

 

「証拠なんてテキトーでええねん。一人でも信じるやつがおれば、そっから火種になって、ネットの馬鹿どもが勝手に燃やしてくれるもんやから」

 

 大衆とはそういう生き物と相場は決まっとる。

 正体不明の『Eye』という存在を崇め奉りながらも、心のどこかでは、その偶像が地に墜ちる瞬間をエンターテインメントとして楽しみにしてるはずや。

 

「そもそも、スタンピードの原因もハッキリしてへんしな。皆さん知りたがってるとこやろ?」

 

 僕はスーツのポケットから、黒いベルベットの小箱を取り出した。

 中に入っているのは、以前Master_Eyeがオークションに流していた短剣に、エデン・グループが独自の技術で『呪い』を上書きした、禍々しい魔力を放つ呪いの短剣や。

 Eyeの刻印が刻まれた本物に、エデン・グループが手を加えた特級の『証拠品』。

 

「ま、せーっかく、上客からお借りしてる『サンプル』もあることやし。お茶の間に向けて、これがEyeの武器や言うて、派手に実演でもしたろ」

 

 窓ガラスに映る僕の顔は、これ以上ないほどに親切で、善良な英雄の笑みを浮かべていたことだろう。

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