Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
「……っ」
心臓が、嫌な音を立てて跳ねた。
バレた? なぜ? マスクも帽子も完璧なはずだ。声だって低く変えている。
俺は背中に冷や汗が流れるのを感じながら、必死にシラを切ろうとした。
「……何のことでしょうか。私はあくまで、マスター・アイ氏から配送を頼まれただけで――」
「
セイラは、濡れた髪をかき上げながら、つまらなそうに言った。
「君、この剣を私に渡すとき、剣そのものじゃなくて、剣の
「え?」
「鑑定スキル持ち特有の癖。物体じゃなくて、そのステータスウィンドウを見てる目つき。私の知り合いの鑑定士と同じ見方をしてた」
……マジかよ。
Sランク探索者ともなると、そんな細かい視線の動きまで観察しているのか。
俺は観念して、深く息を吐いた。これ以上嘘をついても、彼女の機嫌を損ねるだけだ。
「……はぁ。参りました。仰る通り、私が出品者本人です」
「ふふ、やっぱり! 素直でよろしい」
セイラは悪戯っぽく笑うと、ソファにドカッと腰を下ろした。
ショートパンツから伸びる健康的な太ももが眩しいが、視線の動きがでバレるとなればガン見するわけにもいかず、目を逸らす。
「で? なんで隠そうとしたの? こんな凄い技術を持ってるのに」
「……トラブルを避けたかったんです。私は戦闘力が皆無ですから。変に顔が売れて、危ない連中に狙われたらひとたまりもありません」
これは本心だ。
16億持ってるFランクなんて、歩く宝箱でしかない。
「なるほどね。確かに、君の魔力からは強さは感じない。一般人より少しマシな程度」
セイラは残酷な事実をさらりと言い放つと、ニヤリと笑った。
「でも、その目と技術は本物だよ。この国宝級の剣を、たった一日で実戦レベルまで直したんだもんね」
技術に関しては市販の洗剤とタワシだけどな……
そんなことを考えている俺をよそに、彼女はスマホを取り出し、俺に向ける。
「ねえ、連絡先交換しない? 『D・チャット』のアカウント、持ってるでしょ?」
「え、Sランクの貴女と、私がですか?」
「うん。今後もまた掘り出し物があったら優先的に売ってほしいから」
断る理由はなかった。
Sランク探索者とのコネクションは、最強の防具になる。それに、彼女は俺の「弱さ」を知った上で、鑑定スキルを評価してくれている。
「わかりました。光栄です」
俺は震える手でQRコードを表示させ、彼女とフレンド登録を交わした。
《
「よし、登録完了! あ、その剣の代金、ちゃんと確認してね? 後で足りないとか言われても困るから」
「はい、間違いなく16億円、着金しておりました」
「オッケー。それじゃあ気をつけて帰ってね、マスター・アイ。……いや──」
セイラは玄関まで見送りに来ると、俺の耳元で小さく囁いた。
「またね、
「ッ!?」
俺は今日一番の衝撃を受けて振り返った。
彼女の手には、俺が置き忘れていた『入館証』が握られていた。そこには、バッチリと俺の本名が書かれている。
「ちょっと脇が甘いんじゃないの、透さん? それじゃあね~」
彼女はクスクスと笑いながら、パタンと扉を閉めた。
◇
マンションを出た後、俺はどうやって帰ったのか覚えていない。
気づけば、いつものボロアパートの前まで戻ってきていた。
「はぁ、はぁ……」
膝が震えている。
Sランクの威圧感に当てられたせいか、それとも口座に入っている16億円という数字の重みのせいか。
俺はアパートの階段を上り、錆びついたドアを開けた。
カビ臭い畳の匂い。薄い壁。
数時間前と何も変わらない景色がそこにある。
だが、スマホの中の世界だけが、劇的に変わっていた。
俺は震える指で、SNSを開く。
トレンドワードの一位は、間違いなく『聖剣』と『15億』だった。
『【速報】謎の出品者Master_Eye、聖剣エクスカリバーを15億で売却』
『落札者はあの剣聖!? 明日のダンジョン攻略で使用か?』
『15億ってwww リーマンの生涯年収の何倍だよ』
『出品者の特定まだ? 税務署仕事しろ』
日本中が、俺の話題で持ちきりだ。
怖いくらいの注目度。
だが、不思議と悪い気分ではなかった。
昨日まで「無能」「役立たず」と罵られていた俺が、一夜にして世界を騒がせているのだから。
その時、ふと、ある投稿が目に止まった。
『ID: Brave_Leader』
『くそっ! 剣聖がちょっかい出してこなきゃ俺らが買えたのに!』
……剛田のアカウントだ。
俺を追放した元パーティのリーダー。
アイコンが彼の自撮りだから間違いない。
『ID: Brave_Healer』
『ほんとそれー。あーあ、どっかに15億落ちてないかなー。そしたら同じ装備買えるのに』
彼らは気づいていない。
その15億を手にしたのが、自分たちが「ゴミ」扱いして捨てた男だということに。
そして、その聖剣が落ちていた場所は、彼らが俺を置き去りにしたダンジョンのすぐ近くだったということに。
「……あはっ」
俺の口から、乾いた笑いが漏れた。
滑稽だ。
彼らは今頃、ボロボロの装備で明日のクエストの準備をしているのだろうか。
対して俺は、指先一つで最高級の装備を山ほど買える。
「ざまぁみろ、なんて言うつもりはないけどさ……あはは」
俺はスマホを閉じ、天井を見上げた。
雨漏りのシミがある天井。
隣の部屋からは、いつものようにテレビの音が漏れてくる。
「引っ越そう」
俺は決めた。
まずは衣食住だ。最高級のベッドで寝て、最高級の肉を食う。
そして、この『鑑定スキル』と『ネットオークション』を使って、もっと稼いでやる。
Sランクのセイラとも繋がった。
資金はある。
俺の反撃は、まだ始まったばかりだ。
――グゥゥゥゥ。
盛大な腹の音が、静かな部屋に響いた。
そういえば、丸一日何も食べていない。
「……とりあえず、今日は特上の寿司でも取るか」
俺は出前アプリを開き、震える指で『価格が高い順』に並び替えた。
今まで見たこともない『極上ウニ・トロ尽くし(5万円)』をカートに入れる。
注文ボタンを押す指は、まだ少しだけ震えていた。