Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~   作:えだのあ

60 / 60
第56話 準備

 キーボードに指を滑らせる凛の瞳には、いつもの鋭い光が戻っていた。

 

 先ほどまでの怯えはもう感じられない。もう、自らのテリトリーで敵をどう料理してやるかということしか頭にないようだ。

 

「やるからには、徹底的に叩き潰すわよ。もう言い訳なんて出来ないようにね」

 

 モニターに流れる悪意の書き込みを見つめ、凛は静かに告げた。

 

「でも、今はあえて隙を残す。反論も中途半端にね」

 

「中途半端に? 一気に事実を突きつけたほうがよくないか?」

 

「ダメよ。今の手札じゃ、アンティーク・アイの無実は主張できても。鮫島の悪事を証明する手段がない。『僕が間違ってました〜』なんてので逃がすつもりはないわ」

 

「そ、そうか……」

 

「それに、鮫島はどんな相手でも見下してる。自分が絶対的な強者だと思い込んでて、弱者をいたぶるのが大好き」

 

 凛はキーボードを叩きながら、ニヤリと笑った。

 

「だから、こっちの反撃が手ぬるければ『この程度か』と調子に乗って、さらに追い込みをかけてくる。絶対にね。……深く踏み込めば、逃げるのは難しくなる。そこを刈り取るの」

 

 かつて彼から虐げられていた凛だからこそ分かる、鮫島の歪んだ性格を逆手に取った罠。なるほど、理にかなっている。

 

「で、具体的にはどう動くんだ?」

 

「まずは、投げ売りされているウチの商品の回収からね」

 

 凛が開いたフリマサイトには、パニックになったユーザーたちがMaster_Eyeの武具を二束三文で出品している様子が並んでいた。

 

「呪いを怖がって手放す連中から、根こそぎ買い叩く。公式アカウントで『返品・買取に応じます』って宣言するの」

 

「買い戻してどうするんだ?」

 

「また売るのよ。後で呪いなんて嘘だったと分かれば、安く仕入れた商品を適正価格で売り直して大儲けできるじゃない」

 

「お前……たくましいな……」

 

 あまりの転びっぷりとがめつさに、俺は引きつった笑いを漏らすしかない。

 

「ついでに、返金要求をしてきた顧客はブラックリスト行きね。ネットの工作は私が引き受けるから、透くんたちは『証拠集め』と反撃用の『アイテムの準備』をお願い」

 

「アイテムの方は探してみるよ。けど、証拠集めって言っても……あてがなくないか?」

 

 俺が疑問を口にすると、凛はふふっと得意げに笑った。

 

「ギルドの東郷マスターを使えばいいのよ」

 

「東郷さんを?」

 

 今はギルドも炎上しているし、俺たちに手を貸す余裕は無いように思うが……

 

「ええ。今回の件、ギルド側も『テロリストとの癒着』を疑われてるし、セイラの顔にも泥を塗られた。一番怒り心頭なのはギルドよ。でも、直接的には動けない」

 

「なんでだよ」

 

「相手が知名度のあるSランクだからよ。ネットが鮫島を『正義の告発者』と持ち上げてる今、ギルドが処分を下せばどうなる?」

 

「どうって……」

 

「あ! 『ギルドが都合の悪い真実を隠蔽した』って、もっと炎上しちゃう! ……で、合ってる?」

 

 凛の問いに俺が詰まると、セイラが閃いたように手をポンと打ち答える。

 しかし、自信がなかったのか、すぐに首を傾げて凛に答えを聞いた。

 

「そう、正解よ。だから私たちが代わりに盤面をひっくり返す。その代わり、集めた証拠をよこせって交渉するの。スタンピードの本当の原因を隠してたギルドにも責任はあるんだから、こき使ってやればいいわ」

 

 凛の痛快なまでの割り切りに、俺は感心するしかなかった。

 あの東郷さんを「こき使う」と言い切るとは、頼もしすぎる。

 

「向こうも、現状を打破するのに足踏みしてるはずよ。……何なら、そろそろあっちから連絡が来るんじゃない?」

 

 凛がそう言って、デスクの上の専用端末に視線を向けた、まさにその時だった。

 ――ピリリリリリリッ!

 静かな地下要塞に、ギルドの直通回線を知らせる着信音が鳴り響いた。

 

「……」

 

「……」

 

 俺とセイラは顔を見合わせ、それから凛を見た。

 凛は「ほらね」と言わんばかりに、自信に満ちたドヤ顔を浮かべている。

 

「……マジか。お前の読み、ドンピシャじゃねえか」

 

 俺は苦笑しながら、通信ボタンを押した。

 

『……Master_Eye殿よ。今話せるかい?』

 

 スピーカーから聞こえてきたのは、いつもより数段低く、静かな怒りを孕んだ東郷さんの声だった。 

 

「はい。テレビ、見ましたよ」

 

『その声代理人のほうか、って今はそんな建前いらねえか』

 

「ええ、結構です」

 

「そうか……不甲斐ないところを見せて悪かったな。まさか、あそこまで堂々と、メディアを使ってデタラメを並べ立てるとは思わなかった』

 

 東郷さんの声からは、ギリギリと歯ぎしりをするような悔しさが伝わってきた。

 日本の平和を守る組織のトップとして、身内であるSランク探索者に後ろから泥を塗られたのだ。その心労と怒りは計り知れない。

 

『悪いが、急ぎでギルド本部の私の執務室まで来てくれねえか。……直接話してえ」

 

「分かりました。すぐに行きます」

 

 通信を切り、俺は立ち上がっていつものガスマスクに手を伸ばした。

 だが──

 

「ちょっと待って、透くん。まさかそれで行くつもり?」

 

 凛が呆れたような声で俺を止めた。

 

「外は絶賛大炎上中よ? ギルド本部の周りにはマスコミや野次馬、怒った探索者たちが殺到してるはず。そんな『テロリストのトレードマーク』みたいなガスマスクで歩いたら、一瞬で取り囲まれて袋叩きにされるわよ」

 

「あ……確かに」

 

「セイラもよ。その目立つプラチナブロンドじゃ、『洗脳された剣聖がいる!』って大騒ぎになるわ」

 

「うっ……どうしよう、透」

 

「……別の変装で行くしかないな。セイラにも変装してもらうか」

 

 俺はクローゼットの奥から、いくつか目立たない衣服と小物を引っ張り出してきた。

 

 ガスマスクの代わりに普通の白いサージカルマスクをつけ、目深に被れる黒のキャップと大きめの伊達メガネをかける。服装も作業着ではなく、地味なネイビーのパーカーとチノパンに着替えた。

 これなら、どこにでもいる少し怪しいだけの大学生かフリーターにしか見えないだろう。

 

 セイラには、『黒髪のショートウィッグ』を被せ、ダテ眼鏡をかけさせる。服装も、彼女の華やかさを隠すようなダボっとしたロングコートを貸し与えた。

 

「どうだ? これならパッと見じゃ分からないだろ」

 

「なんだか新鮮だね、透。……私の黒髪、変じゃない?」

 

「ああ、似合ってるよ。大人っぽくて良い感じだ。よし、これで大丈夫だな」

 

 俺は改めて凛に向き直った。

 

「凛、カリバーンを置いてくから、こっちの事は任せた。俺とセイラで、東郷さんのところに行ってくる」

 

「ええ、任せて。美味しい情報だけしっかり搾り取ってきなさいよね」

 

 キーボードに向き直った凛の頼もしい背中を見送り、変装を終えた俺とセイラは反撃の糸口を掴むため、ギルド本部へと急行した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

異世界転生したので本物のくっころが見たい! ~悪役を演じているのに、なぜか女騎士たちがみんな俺に落ちていた~(作者:砂乃一希)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

あるところにくっころガチ勢がいた。▼収入のほとんどをくっころの漫画や同人誌に使い込むほどの筋金入り。▼しかしひょんなことから早死にしてしまい異世界転生することになる。▼異世界での名はジェラルト=ドレイク。▼剣が主流のこの世界でジェラルトが思ったのは……▼「この世界でなら本物のくっころが見れる!」▼しかもジェラルトは誰かのおこぼれではなく自分が悪役を演じて女性…


総合評価:356/評価:7.5/連載:45話/更新日時:2026年04月03日(金) 07:05 小説情報

底辺Vtuber昔やり込んだロボゲーの続編でバズり散らかす(作者:オタリオン)(オリジナル現代/冒険・バトル)

底辺Vtuberの根黒万太郎。▼十年前にやり込んでいたロボゲーの続編やったら動きが変態過ぎて大バズり!▼闘争を求めてやって来る強き変態たちに万太郎は更なるバズりを求める。▼果たして、万太郎は底辺を卒業しトップVtuberとなれるのか?▼(☆):他者視点有りのマークです。▼※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。


総合評価:1288/評価:7.86/連載:62話/更新日時:2026年06月19日(金) 21:33 小説情報

ダンジョンから帰ったら五十年経ってたんだが。~え?昔の仲間が今や大手ギルドの代表?なにそれ知らん……こわ……~(作者:蝉時雨)(オリジナル現代/冒険・バトル)

 世界にダンジョンという、いくつもの『扉』が出現してから、早五十年。▼ ▼ 人類はこの未知の脅威に対し、慎重に対処をしようとしていた。しかし、その『扉』から現れた異形のモノたちが蹂躙をはじめる。▼ 現代の兵器は異形には届かず、為す術なしかに思われた。▼ だが、人類は諦めなかった。▼ 自ら『扉』に乗り込み、戦果を持ち帰るものが現れ始める。『扉』の先で得た素材で…


総合評価:1018/評価:7/連載:25話/更新日時:2026年06月21日(日) 00:00 小説情報

オラリオで娯楽革命を(作者:寝心地)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

オラリオでテレビゲームとか携帯ゲームとかカードゲームとか作って売っちゃう話。▼ダンまちにゲームキャラが転生とかゲームキャラで転生とかはあるけどゲームその物がオラリオにあるのって見ないなぁ〜と思って作りました。▼


総合評価:2986/評価:7.42/連載:103話/更新日時:2026年06月11日(木) 10:00 小説情報

☆1キャスターの俺、現代ダンジョン出現当日、F級ダンジョン60個を周回特化自爆スキルで焼き払ってたら低レア最強パーティが育っていた〜アーラ◯ュ系周回スキルで人類全員を育成し尽くします〜(作者:ちんこ良い肉)(オリジナル現代/冒険・バトル)

火賀灯真は、世界が終わる日を知っていた。▼正確には、世界が“サービス終了する”日を。▼午前十時。▼現代日本にダンジョンが出現し、人類の一部にレアリティとクラスとスキルが配られる。▼世間は混乱し、国家は対応に追われ、凡人は怯え、英雄願望のある者は浮かれる。▼そして俺は、ゲームの周回で猛威を振るった、自爆宝具…もとい戦闘不能と引き換えに繰り出す超火力広域攻撃スキ…


総合評価:5327/評価:7.97/連載:35話/更新日時:2026年06月21日(日) 23:26 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>