Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
ギルド本部の周辺は、想像を絶するほどの喧騒に包まれていた。
「テロリストを匿うな!」「東郷辞任!」と書かれたプラカードを掲げる抗議デモの集団に、カメラを構えてギルド職員に群がるマスコミの波。
鮫島のテレビ出演から半日も経っていないというのに、完全に暴徒と化した野次馬たちが正面ゲートを埋め尽くしていた。
「うわぁ……すごい人。みんな、怒ってる……」
少し離れた路地裏からその様子を窺い、黒髪のウィッグを被ったセイラが不安そうに身を縮める。
俺はキャップのツバを深く下げながら、彼女の肩をポンと叩いた。
「気にするな。あいつらはエデンと鮫島に踊らされてるだけだ。行くぞ、東郷さんから指定された裏口はこっちだ」
俺たちは暴徒の目を掻い潜り、ギルド本部の地下駐車場へと通じる搬入口から内部へと潜入した。
事前に東郷さんが手配してくれていた信頼できる職員の案内で、誰にも見つかることなく最上階のギルドマスター執務室へと通される。
「よく来てくれたな。外は酷い有様だっただろう」
執務室の重厚なデスクの奥で、東郷さんが深くため息をついた。
普段は鋭い眼光を放つ歴戦の探索者である彼も、今日ばかりは疲労の色が濃い。デスクの上には、抗議の電話や各機関からの問い合わせの書類が山のように積まれていた。
「ええ。変装してきて正解でしたよ」
「なるほど、じゃあそっちはセイラか。琴音の奴が起きたのかと思ったぜ」
「もう、仁さん!」
東郷さんは苦笑し、俺たちにソファへ座るよう促した。
「単刀直入に聞く。……君たちは、どう動くつもりだ?」
「やり返します。このまま泣き寝入りは御免なので」
俺がはっきりと告げると、東郷さんの目がわずかに見開かれ、やがて獰猛な光を取り戻した。
「頼もしいもんだな。あんなデタラメを並べられて、ワシとて黙って殴られ続ける気はねえ。だが、今の状況じゃあギルドが表立って奴らを処分するのは難しくてな」
「分かってます。世間は鮫島を『正義の告発者』だと思い込んでますからね。今ギルドが動けば、隠蔽工作だと言われて火に油を注ぐだけ。……ってのが、ウチの専務の受け売りです」
「ほお? なかなかの切れ者を雇ってるじゃねえか」
「ええ、そこで提案です。鮫島たちの相手は俺たちがします。その代わり、ギルドのサーバーが受けたサイバー攻撃の痕跡や、情報統制の裏データ……使える証拠は全部、ウチに回してください」
「なるほどな。問題ねえ、ワシの管理できる範囲にゃなるが、情報部の全権限を一時的にアンティーク・アイへ譲渡する。好きに使え」
東郷さんは即答した。
これで、凛のネット工作と証拠集めは完璧に機能するはずだ。
「それで、お前さん自身はどう動く? 鮫島たちの鼻を明かし、Master_Eyeの無実を証明するには、それなりの労力がいるぞ」
「ええ、そのつもりです。そのために、これからダンジョンに潜って使えそうなガラクタを拾いに行こうかと」
「やめといたほうがいい」
俺がそう言うと、東郷さんは腕を組み、難しい顔で唸った。
「気持ちは分かるが、今のタイミングでお前らが動くのは危険すぎる。新宿ダンジョンはもちろん、都内の主要なダンジョンはどこもマスコミと探索者でごった返している。人目があるところでは、まともに探索も素材集めもできんだろう」
「うっ……確かに」
ダンジョン内で人目を気にしながらガラクタを拾い集めるのは至難の業だ。最悪の場合、正体がバレてダンジョン内で囲まれる危険すらある。
「……だが、手がないわけじゃねえ」
東郷さんはデスクの引き出しを開け、一枚の分厚いファイルを取り出して俺の前に置いた。
「最近、都内の郊外で掘り起こされたばかりの『未公開ダンジョン』だ。調査隊が入り口を固めただけで、まだ一般の探索者は一切足を踏み入れていない」
「未公開ダンジョン……? でも、誰も探索してないなら、目ぼしいものなんて無いんじゃないですか? 一から探している時間は無いですよ」
俺の疑問に、東郷さんはニヤリと笑った。
「ダンジョンの生態系を舐めちゃいかんぜ。魔物ってのは、縄張り争いや共食いで日常的に殺し合っている。探索者の手が入っていない手付かずのダンジョンほど、魔物同士の争いによってドロップした『未回収のアイテム』や『高品質な魔石』が、そのままゴロゴロと散乱しているもんだ」
「なるほど……! それは穴場ですね」
「ああ。それに、もしアイテムの形を成していない『未知の素材』の状態で手に入ったとしても問題ねえ」
東郷さんは力強く頷き、俺の肩を叩いた。
「持ち帰った素材の加工は、ギルドの専属工房が最優先で請け負おう。もちろん、費用は全額ギルド持ちだ。お前さんの『見つける力』と、ギルドの『加工技術』を合わせれば、鮫島たちが用意したちっぽけな呪いの武器ごとき、一瞬で霞むようなアーティファクトが作れるはずだ」
未公開ダンジョンでの自由な探索と、ギルド工房による加工の全面バックアップ。
これ以上ないほどの破格の好条件だ。今の俺たちに足りないピースが、すべてカチリとハマった気がした。
「……ありがとうございます、東郷さん。その条件、乗らせてもらいます」
「フッ、いい顔になったな。……セイラ、護衛を頼んだぞ。心配しちゃいねえが、未公開ゆえに、何が出るかはワシも分からん」
東郷さんに話を振られ、セイラはキリッとした表情で頷いた。
「はい! 透のことは、私が絶対に守ります。そして……あんな嘘つきたち、絶対にギャフンと言わせてやります!」
その言葉には、かつてないほどの強い闘志が籠もっていた。
セイラも鮫島たちの噓ににいいように使われて、相当頭に来ていたからな。
「よし。そうと決まれば、善は急げだ。奥の部屋に直通の転送機を用意してあるからそれで向かえ」
「座標はすでに設定してある。終わったら、そこにある通信機で連絡しろ。すぐに帰還用のゲートを開いてやる」
「至れり尽くせりですね。ありがとうございます」
「気にしなさんな、こちらも打算ありきだからよ。期待してるぜ、Master_Eye」
東郷さんの見送りを背に受けながら、俺とセイラは眩い光に包まれ、フワリとした浮遊感に身を任せた。