Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~   作:えだのあ

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第58話 未公開ダンジョン

 転送機の眩い光が収まると、むせ返るような湿気と、獣と血の混じった生臭い匂いが鼻を突いた。

 

「……ここが、未公開ダンジョン」

 

 視界に広がっていたのは、薄暗く広大な地下洞窟だった。

 あちこちに発光する苔が生え、岩肌には無数の爪痕が残されている。一般的なダンジョンなら、探索者たちが歩きやすいようにルートが開拓されていたり、魔物の死骸が片付けられていたりするものだが、ここは違う。

 手付かずの自然、いや、魔物たちだけが弱肉強食の争いを繰り広げてきた野性的な空気が満ちていた。

 

「よし、到着だな。ほら、セイラ。こっちで預かってたお前の相棒だ」

 

「ありがとう、透!」

 

 俺が『アイテムボックス』を展開し、中から『聖剣エクスカリバー』と『アイギスの盾』を取り出して手渡すと、セイラは嬉しそうにそれらを受け取った。

 

 ギルド本部周辺はマスコミや暴徒でごった返していたため、いかにも剣聖ですみたいなエクスカリバーを持って歩くわけにはいかなかった。だから、俺のアイテムボックスの中に隠して持ち込んだというわけである。

 

 ダボっとしたロングコートを脱ぎ捨て、動きやすい服装になったセイラが、聖剣を腰に帯び、左腕に盾を構える。

 武装を整えた彼女の背中は、やはり頼もしい。

 

「透、私の後ろから離れないでね。ここは普通のダンジョンより、魔物の気配がずっと濃いよ」

 

「ああ、分かってる。頼りにしてるぞ」

 

 俺が頷いた、その直後。

 

 グルルルルルッ……!

 

 岩陰から、血走った目をした巨大な四足歩行の魔物が五体、ヨダレを垂らしながら姿を現した。

 Bランク魔物『ブラッドハウンド』の群れだ。探索者の手が入っていないせいか、普段ダンジョンで見かける個体よりも二回りは大きく、凶暴なオーラを放っている。

 

「グルァッ!」

 

 先頭の一体が、強靭な後ろ脚で岩を蹴り、俺の喉元めがけて一直線に飛びかかってきた。

 弱そうなほうから確実に仕留めようということだろう。

 

「――遅い」

 

 セイラの姿がフッとブレたかと思うと、空中で神聖な光の筋が閃いた。

 一切の抵抗を感じさせない静かな音と共に、飛びかかってきたブラッドハウンドの巨体が、一瞬で綺麗な二つの肉塊となって地面に叩きつけられる。

 残りの四体が怯む間も与えず、セイラは地を蹴った。

 

 エクスカリバーの刀身から溢れる浄化の光が、薄暗い洞窟を真昼のように照らし出す。

 流れるようなステップで群れの中に飛び込み、最小限の動きで魔物の急所を的確に斬り裂いていく。

 わずか数秒足らずで、巨大な猛犬たちはすべて光の粒子となって消滅した。

 

「よし、片付いた。行こ、透」

 

「……ああ。やっぱり、お前とエクスカリバーの組み合わせは反則だな」

 

 俺は魔石を拾い上げながら、改めて彼女の異常な強さに感心した。これなら、未公開ダンジョンでも全く問題なく探索できそうだ。

 

 セイラが魔物を倒して安全な道を切り拓き、俺がその後に続いて右目の『真贋鑑定』を光らせながら進む。

 

 東郷さんの言った通り、このダンジョンは素材の宝庫だった。魔物同士が縄張り争いで殺し合った痕跡が至る所にあり、ドロップしたまま誰にも回収されていない希少な素材が、そこかしこに転がっている。

 

「おっ、これは……」

 

 俺は、ひときわ争いの跡が激しい岩場で、玉虫色に鈍く光る大きな鱗と、透明に近い極細の糸の束を拾い上げた。

 

 ====================

【名称】幻影竜の逆鱗

【状態】未加工の最高級素材。周囲の光と魔力を大きく歪める性質を持つ。

 

 

【名称】蜃気楼の蜘蛛糸

【状態】未加工の特級素材。光の屈折率を自在に操る極細の魔力糸。

 ====================

 

(なるほど。この二つをギルドの工房に持ち込めばなんか隠れるものが作れそうじゃないか?)

 

 今回の騒動の後、エデン・グループと本格的に事を構えることになれば、裏で身を隠しながら動くためのアイテムが必ず必要になる。

 普通の職人では扱いきれない代物だろうが、東郷さんが用意してくれるギルド専属の超一流職人たちなら、最高の形で加工してくれるはずだ。

 俺はつい表情を緩めながら、それらの貴重な素材をアイテムボックスに放り込む。

 

 その後も、セイラが魔物を寄せ付けず、俺が目ぼしい素材を根こそぎ回収していくという連携で、俺たちは順調に未公開ダンジョンの奥深くへと進んでいった。

 そうして最奥にたどり着くと、洞窟の空気が急激に冷たく、そして重く張り詰めたものに変わった。

 

「透、止まって」

 

 セイラがピタリと足を止め、エクスカリバーを強く握り直す。

 俺たちの目の前には、これまでとは明らかに異質な、巨大な両開きの石の扉がそびえ立っていた。

 

 扉の表面には禍々しいレリーフが彫り込まれており、隙間からは、外のブラッドハウンドたちとは比べ物にならないほど濃密で、暴力的な魔力がジワジワと漏れ出している。

 

「ボス部屋か?」

 

「うん。中にいるの、たぶんすっごく強いよ。スタンピードの時のアビス・ヒドラより、強いと思う」

 

 セイラの表情に、いつもの無邪気さはない。

 剣聖としての本能が、扉の向こうにいる存在の格を感じ取っているのだろう。

 

「どうする、透? こいつを倒さないと、この先には進めないみたいだけど」

 

「倒すさ。東郷さんの話じゃ、手付かずのダンジョンのボスは、倒した他の魔物のドロップ品や希少な鉱石を自分の巣に貯め込む習性があるらしい。……俺たちが探してる『とびきりのアイテム』の素材も、きっとその中にあるはずだ」

 

 鮫島たちの嘘を暴き、世間の目を覚まさせるための最強の切り札。

 それが扉の向こうの宝物庫に眠っていると、俺の直感が告げていた。

 

「わかった。私が道を切り拓くから、透は後ろで隙を見てて」

 

「ああ、無理はするなよ。いざとなったらすぐに撤退だ」

 

「うん。もちろん」

 

 セイラがアイギスの盾を構え、重い石の扉に手をかけた。

 未公開ダンジョンの最深部。真実を暴くための欠片を手に入れるため、俺たちは未知のボスが待ち受ける部屋へと足を踏み入れた。

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