Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~   作:えだのあ

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第61話 ピース

 眩い転送陣の光が収まると、むせ返るようなダンジョンの空気は消え去り、空調の効いた快適な室温が俺たちを包み込んだ。

 視界が晴れると、そこは出発前と同じ、ギルド本部の最上階にあるギルドマスター執務室だった。

 

「お帰り。随分と早かったが、怪我はねえようだな」

 

 重厚なデスクの奥から、東郷さんが立ち上がって出迎えてくれた。

 

「ええ、セイラがほとんどの魔物を一掃してくれたので」

 

「当然!」

 

 黒髪のウィッグを揺らしながら胸を張るセイラを見て、東郷さんは「こりゃ頼もしい」と苦笑した。

 

「それで、収穫の方はどうだった?」

 

「バッチリです。まずは、ギルドの工房に加工をお願いしたい素材から」

 

 俺は『アイテムボックス』を展開し、ダンジョンの道中で回収してきた二つの未加工素材をデスクの上に並べた。

 玉虫色に鈍く光る大きな鱗と、透明に近い極細の糸の束だ。

 

「こいつは……『幻影竜の逆鱗』に、『蜃気楼の蜘蛛糸』か。どちらも市場じゃ滅多にお目にかかれねえ特級品じゃねえか。さすがは手付かずのダンジョンといったところか」

 

 歴戦の探索者である東郷さんは、一目見ただけでその素材の希少性を理解したらしい。目を丸くして身を乗り出してきた。

 

「ええ。この二つを使って、周囲の光と魔力を歪め、完全に気配と姿を隠せる『隠密用の外套』を作ってほしいんです」

 

 エデン・グループとの本格的な情報戦や裏工作が始まれば、いざという時に身を隠せる強力なアーティファクトは、今後の戦いにおいて必須の装備になるはずだ。

 

「なるほど、光学迷彩と魔力隠蔽を兼ね備えた外套か。……あの素材なら間違いなく作れるだろうが、ウチの腕利きを総動員しても、少しばかり時間がかかるぞ」

 

「構いませんよ、今回の作戦で使うものではないので。急ぎませんが、最高の品質でお願いします」

 

「承知した。ギルドの威信にかけて、お前さんが納得する最高の一品に仕上げてやろう」

 

 東郷さんは素材を丁寧にケースに収めると、代わりにデスクの引き出しから、厳重にロックがかけられた一つのUSBメモリを取り出した。

 

「こっちはワシからの手土産だ。ウチの情報部が総力を挙げてまとめた、エデン・グループからのサイバー攻撃の痕跡と、鮫島周辺の不自然な金の流れのデータが入っている」

 

「おお……! ありがとうございます」

 

「正直、これ単体じゃあ鮫島たちを完全に追い詰めるには少し弱いが……お前さんのとこの切れ者ならうまく使えるだろ。そっちはそっちで証拠を集めてるらしいしな」

 

 俺はUSBメモリを受け取り、しっかりとポケットにしまった。

 凛の集めているだろう情報と、ギルドの公式な裏付けデータ。この二つが揃えば、奴らが用意した嘘のシナリオを根底から粉砕できるはずだ。

 

「さて、それじゃあ俺たちも拠点に戻ります。……鮫島を叩き潰すための『本命のアイテム』を直さないといけないので」

 

「ほう。わざわざ自分たちで直すのか? 必要なら手を貸すが」

 

 東郷さんが面白そうに眉を上げる。

 

「いえ。修理には、ウチのトイレにある『酸性洗剤』で事足りるもので」

 

「……は?」

 

 東郷さんが間抜けな声を漏らし、セイラが横でクスクスと笑い声を上げた。

 

「何かの隠語か? まぁ、お前さんらにとっちゃあ根っこの技術だしな。簡単に明かすわけはねえか」

 

「えっ……ああ、はい」

 

 呆れたように肩をすくめた後、東郷さんはふっと笑う。……参ったな。特に何も考えてなかったんだけどな。

 そんなことを考えていると、東郷さんはすぐに真剣な表情に戻り、俺を真っ直ぐに見据えた。

 

「頼んだぞ、Master_Eye。情けねえ話だが、ギルドの事もお前らに任せることになっちまう」

 

「任せてください。期待以上に叩き潰してやりますよ」

 

 俺は不敵に笑い返し、東郷さんの執務室を後にした。

 

 証拠のデータと、嘘を暴くためのガラクタ。

 必要な反撃のピースは、すべて揃った。あとは地下要塞に帰り、俺の職人としての腕で、あの『天秤』を最強のアーティファクトとして蘇らせるだけだ。

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