Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~   作:えだのあ

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第62話 天秤

 ギルド本部を後にし、俺たちは誰にも見つからないよう慎重に裏口を抜け、地下要塞へと帰還した。

 

「ただいまーっ! 凛、お土産いっぱいあるよ!」

 

 ワークスペースの重い扉を開けるなり、セイラが元気に声を弾ませる。

 

 薄暗いモニターの光に照らされたメインデスクの奥で、カタカタとキーボードを叩き続けていた凛が、ふぅと息を吐いて振り返った。

 

「おかえりなさい。二人とも、無事で何よりよ。……お土産って何? 食べ物なら今はパス。糖分ならすでに致死量くらい摂取してるから」

 

 凛のデスクの周りには、空になった栄養ドリンクの瓶と、チョコレートの包み紙が散乱している。どうやら俺たちがダンジョンに潜っている間、一睡もせずに作業をしていたらしい。

 

「お疲れ、凛。無理させて悪いな」

 

「別に、無理でも何でもしないと、気が済まないのよ。やられたら、利子をつけて倍返し。それが私のやり方だから」

 

 凛は充血した目を細め、疲労を感じさせない不敵な笑みを浮かべた。

 

「そんなことより、透くん。言った通り、鮫島が調子に乗ってボロを出したわよ。あいつら、明日もテレビの生放送で会見を開いて、Eyeを徹底的に叩くつもりみたい。ネットでも散々煽ってるわ」

 

「そうか。綺麗にハマってくれたな。あ、そうだ、これ」

 

 俺はポケットから、ギルドマスターの東郷さんから預かってきた厳重なロックのかかったUSBメモリを取り出し、凛に渡した。

 

「ギルドの情報部が総力を挙げてまとめた、エデン・グループからのサイバー攻撃の痕跡と、鮫島周辺の不自然な金の流れのデータだ」

 

「東郷ギルドマスターから? ……さすがね。助かるわ」

 

 凛はUSBメモリを受け取ると、すぐさま手元のパソコンに接続し、自身が徹夜で収集していたデータとの照合と統合を始めた。

 画面上に無数の文字列とグラフが高速で流れていく。キーボードを叩く凛の表情が、次第に確信に満ちたものへと変わっていった。

 

 数十分後。

 

「……ビンゴよ!」

 

 ターンッ! と力強くエンターキーを叩き、凛が弾かれたように振り返った。

 その顔には、勝利を確信した痛快なまでのドヤ顔が浮かんでいる。

 

「私が独自にぶっこ抜いていた鮫島の不正な資金のやり取り、工作員への指示メール……ギルドの裏付けデータと完璧に符合したわ。これでもう、あいつらは絶対に言い逃れできない!」

 

「よくやった、凛。お前のおかげで、反撃のシナリオが完璧に整った」

 

 俺が労うと、凛はふふんと誇らしげに胸を張った。

 

「当然でしょ。私を誰だと思ってるの? ……で? 明日の生放送、どう料理してやるつもり?」

 

 凛と、横で頷いているセイラが期待の眼差しを向けてくる。

 俺はニヤリと笑い、宣言した。

 

「なら、明日のその生放送……『無名者の幻晶(ファントム・クリスタル)』で電波をジャックして、日本中に真実を見せてやろうぜ」

 

「最高ね。あいつらのドヤ顔が絶望に染まる瞬間を、全国ネットで晒し者にしてやるのよ!」

 

 凛がゾクゾクするような、悪女そのものの笑みを浮かべる。

 

「そのためにも、俺はこいつを直さなきゃいけない」

 

 俺は左手の『アイテムボックス』を展開し、未公開ダンジョンの最奥で強欲の竜王から奪ってきたガラクタ――泥と埃にまみれ、真っ二つに折れた『ひび割れた裁定者の天秤』を取り出し、作業台の上に置いた。

 

「なにこれ? ただの汚い天秤に見えるけど……透くんが持ち帰ってきたってことはきっと凄いものなのね」

 

「ああ。これが、鮫島の嘘を暴くための最強の切り札になるんだ。……ちょっと手荒な修理になるけどな」

 

 俺は作業服の袖を捲り上げ、アイテムボックスから同じくダンジョンで剥ぎ取ってきた『強欲の竜王の鱗』を数枚取り出した。

 そして、作業台の下の棚から、緑色のボトルをドンと置く。

 

「えっと……透くん。それって、もしかして……」

 

「ああ。毎度おなじみサンポール様だ」

 

 凛とセイラが「えぇ……」と顔を引き攣らせる中、俺は耐酸性のボウルに竜の鱗を入れ、ドボドボと容赦なくサンポールを注ぎ込んだ。

 シュワァァァァッ! という激しい音と共に、刺激臭と白煙が立ち上る。強固な竜の鱗が酸に溶け出し、ドロドロのペースト状になっていく。

 

 その時だった。

 

『アッ、主様! そのような下品で刺激的な液体を、神話級の遺物にぶっかけるおつもりですか!? 同じ神話級として、我慢ならないのですが!?』

 

 帰ってきてから俺の背後で定位置をキープしていた魔剣カリバーンが、ブルブルと刀身を震わせて抗議の声を上げた。

 

「下品とはなんだ。エクスカリバーもアイギスの盾も、お前だって最初はこいつの仲間みたいな洗剤で磨いてやったんだぞ」

 

『そ、それは存じておりますが……しかし! 主様の手つき……ああ、あの無慈悲でありながらも的確に汚れを落とす手つきが、他のガラクタに向けられていると思うと……ワタシの刃が嫉妬で錆びつきそうです!』

 

 カリバーンが空中でジタバタと身悶えする。

 相変わらず情緒不安定でツンデレなのかドMなのか分からない剣だが、俺は苦笑しながらカリバーンの柄を軽く撫でてやった。

 

「安心しろ。お前は俺の第一の剣だ。こいつの修理が終わったら、また最高級のオイルでピカピカに磨いてやるから、ちょっと待ってろ」

 

『さ、最高級オイル……ッ! 主様がそこまで仰るなら、このカリバーン、大人しくお待ちしております! ああっ、主様の優しさが刃の髄まで……ッ!』

 

 カリバーンは分かりやすく機嫌を直し、俺の背後で大人しくフワフワと浮遊を始めた。

 

「よし、じゃあ始めるか」

 

 サンポールで完全に溶かした竜の鱗のペーストに、特殊な研磨剤を混ぜ合わせる。

 それを、真っ二つに折れた『裁定者の天秤』の接合部にたっぷりと塗りたくり、魔力を込めながら慎重に繋ぎ合わせた。

 

「繋がれ……!」

 

 ペーストが淡い黄金色の光を放ちながら硬化していく。

 接着が完了したのを確認し、今度は表面にこびりついた数百年前の泥と埃を、丁寧に拭き上げていく。

 キュッ、キュッ、と布で磨き込むたびに、錆び付いていた金属の表面から、神々しい黄金の輝きが顔を覗かせていった。

 

「……よし。完成だ」

 

 およそ三十分ほど磨き続けてから、俺が布を置くと、作業台の上には、先ほどまでの汚いガラクタとは似ても似つかない、眩い光を放つ美しい黄金の天秤が鎮座していた。

 右目の『真贋鑑定』が、完全な修復を告げる。

 

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【名称】裁定者の天秤(ジャッジ・スケール)

【ランク】神話級

【状態】完全修復。竜王の鱗と強酸による錬金的接着により、神話時代の魔力回路が完全に開通した。

【真価】かつて神々の法廷で使われた真実の天秤。容姿、名称、現在地を把握している対象が隠している『悪質な嘘』と『その裏の真実』を強制的に引きずり出し、視覚化する力を持つ。

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「おお……綺麗。これが、鮫島の嘘を暴くアイテムなの?」

 

 セイラが目を輝かせて天秤を覗き込む。

 

「ああ。こいつは『真実の天秤』だ。相手のついた嘘の重さを量り、その裏にある真実を強制的に暴き出すことができる。凛の集めた証拠データとこいつを組み合わせれば、鮫島は生放送のカメラの前で、自分の口から出た嘘に押し潰されることになる」

 

 俺がそう言うと、凛は疲労も忘れたように目をギラギラと輝かせた。

 

「最高ね……。あいつがどんな無様な顔で弁明するのか、今から楽しみで仕方ないわ」

 

「明日は忙しくなるぞ。今のうちに少しでも寝ておけ、凛」

 

 俺は黄金の天秤をアイテムボックスに収納し、明日の決戦に向けて静かに闘志を燃やした。

 

 鮫島恭司。

 お前らが仕掛けた姑息な盤面ごと、全国ネットの生放送で完全にひっくり返してやる。

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