Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
翌日の午後。
地下要塞のメインフロアに設置された巨大なマルチモニターには、民放キー局で大々的に放送されている緊急生特番の映像が映し出されていた。
『――というわけで、現場に残されていた禍々しい呪いの武器。そして、スタンピード発生のタイミング。これらは全て、Master_Eyeが仕組んだマッチポンプのテロ行為であると、我々「漆黒の牙」は断定しました』
スタジオの中央で、オーダーメイドの高級スーツを身に纏った鮫島恭司が、悲痛な面持ちを作ってカメラに向かって語りかけている。
その隣では、ベテランのアナウンサーやコメンテーターたちが、深刻そうに何度も頷いていた。
『にわかには信じがたい話ですが……しかし、実際にあの謎のフクロウのマークが現れた直後に、都合よく大量の武器が空から降ってきたのは事実です。鮫島さん、彼らの真の目的は何なのでしょうか?』
『恐怖による支配、そして莫大な富の独占でしょうな。現に、あの武器を手にした探索者たちは、Eyeの力に依存しつつあります。……これは、日本の防衛力を根本から乗っ取るための、極めて悪質な侵略行為やと、私は考えます!』
鮫島はカメラを真っ直ぐに見据え、正義感に溢れる英雄の顔で熱弁を振るう。
「……反吐が出るわね。よくもまあ、あんなスラスラと嘘八百が並べられること」
モニターを睨みつけながら、凛が忌々しげに爪を噛んだ。
彼女の手元のタブレットには、リアルタイムの視聴率と、SNSのトレンドワードが猛烈な勢いで流れている。
「視聴率、同時間帯の歴代最高記録を更新中よ。ネットのトレンドも『Eye逮捕』『ギルド解体』『テロリストを許すな』で完全に埋め尽くされてる。……鮫島の狙い通り、世間の怒りは今、間違いなく最高潮に達してるわ」
「そうか。なら、舞台の温まり具合としては最高だな」
俺は深く腰掛けていたソファからゆっくりと立ち上がった。
横に座っていたセイラも、ゴクリと生唾を飲み込んで画面を見つめている。俺の背後では、これから始まる反撃を察知したカリバーンが、武者震いをするようにブォンブォンと低く鳴動していた。
『皆さん、どうか騙されないでください! あの正体不明のマークの裏にいるのは、金と暴力で世界を支配しようとする悪魔です。我々Sランク探索者が、必ずや皆様を――』
「さて、そろそろ登場といくか」
俺は作業服のポケットから、漆黒の宇宙を閉じ込めたような水晶玉――神話級アーティファクト『
そして、右手には昨日修理を終えたばかりの黄金の天秤、『
凛がキーボードを叩く手を止め、不敵な笑みを浮かべた。
「ええ、やっちゃって。日本中の目を覚まさせてやりなさい、社長」
「透、がんばって!」
二人の声援を背に受け、俺はボイスチェンジャーを起動し、深く息を吸い込んだ。
そして、無名者の幻晶に、ありったけの魔力を一気に流し込む。
――ドクンッ!!
水晶玉が本物の心臓のように大きく脈打ち、星屑のような銀色の光が地下要塞の空間に弾けた。
神仏でさえ逆探知不可能な、概念レベルでの情報隠蔽と、全世界の通信網への強制介入。神話級の力が、日本の電波という電波を喰い破っていく。
◇
同じ頃。テレビ局の生放送スタジオ。
『我々「漆黒の牙」は、日本の平和を守る盾として、いかなるテロリストにも屈しま――』
鮫島が、カメラの向こうにいる数千万の視聴者に向けて、最高の決め台詞を放とうとした、まさにその瞬間だった。
ジジッ……ザザザザザッ!!
スタジオの巨大モニター、オンエア用のカメラ、そして出演者たちのイヤモニから、一斉に鼓膜を破るようなノイズが鳴り響いた。
「っ、なんや?」
鮫島が顔をしかめて耳を押さえる。
スタジオのスタッフたちがパニックになり、ディレクターが怒鳴り声を上げた。
「どうなってる!? 放送事故か! すぐにCMに切り替えろ!」
「ダ、ダメです! システムが全く反応しません! メインサーバーから末端のカメラまで、完全に外部から乗っ取られてます!」
技術スタッフの悲鳴がスタジオに響く。
異常事態は、テレビ局の中だけではなかった。
新宿のアルタ前ビジョン、渋谷のスクランブル交差点、電車内の液晶ディスプレイ、そして、日本中の人々が手にしていたスマートフォンの画面。
あらゆる通信機器の映像が強制的にブラックアウトし、一つのマークが浮かび上がった。
――片眼鏡をかけた、ミステリアスなフクロウの紋章。
新宿スタンピードの夜に現れた、あの『Master_Eye』のロゴマークだった。
「これは、これは……やってくれはるなぁ」
スタジオで立ち尽くす鮫島の顔から、余裕の笑みがスッと消え失せた。
静まり返る日本中。
その沈黙を破るように、ノイズ混じりの、機械的に変調された極めて冷静な声が、全国のスピーカーから同時に響き渡った。
『――随分と景気のいい作り話ですね、鮫島さん』
ビクッ、と鮫島の肩が大きく跳ねた。
カメラのレンズの奥、何千万という人々の視線が集中する中、絶対的な匿名性を誇る『神の目』が、悠然とテレビの電波に介入してきたのだ。
「君が噂のEye? 白昼堂々、電波ジャックとはええ度胸しとるね。けど、こんな事、テロリストやって、自分で証明しとるやん」
鮫島は一瞬の動揺を力技でねじ伏せ、逆にこの状況を利用しようとカメラに向かって声を荒げた。
『テロリスト、ですか。あなたが先ほどから並べ立てているその言葉、非常に耳障りですね。商売人に対する、これ以上ない侮辱だ』
機械音声は、怒るでも焦るでもなく、ただ淡々と、冷ややかな声音で言葉を紡ぐ。
「侮辱? おもろいこと言うなあ。現場に残されとったあの呪いの武器が、お前らの仕業やっちゅう何よりの証拠――」
『ならば、その証拠とやらが本物かどうか。そして、あなたの言葉にどれだけの真実が含まれているのか……全国の皆様の目の前で、直接量らせていただきましょうか』
俺の声と共に、真っ黒だった画面の中央に、一つの映像がフェードインしてきた。
それは、眩い黄金の光を放つ、美しくも荘厳な『天秤』の姿だった。
「天秤……?」
スタジオの鮫島が、そして画面を見つめる日本中の人々が、息を呑んでその映像を注視する。
『ええ。神々の法廷で使われたとされる、偽りなき裁定の道具。……さあ、鮫島恭司。日本中が見守るこの大舞台で、あなたの抱える『嘘の重さ』を量る、公開裁判を始めようじゃありませんか』