Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
全国の電波をジャックした画面の中央。
まばゆい黄金の光を放つ『
だが、数秒後。
鮫島はフッと鼻で笑い、大げさに肩をすくめてみせた。
「天秤? 公開裁判? ははっ、なんの手品か知らんけど、笑わせるなぁ。電波ジャックしてまで、そんなオモチャ見せびらかしに来たんか? 日までうらやましい限りや」
鮫島はカメラに向かって余裕の笑みを浮かべ、あえて呆れたような態度をとる。
テレビの前の視聴者に「相手はただの頭のおかしい愉快犯だ」と印象付けるための、計算し尽くされたパフォーマンスだ。
『オモチャかどうかは、今からあなたの身をもって証明していただきましょう。……この天秤は、神話時代に作られた真実を量るアーティファクト。対象が隠している「悪質な嘘」の重さを量り、可視化する力を持ちます』
「嘘を量るやと? ホンマ、ファンタジー映画の観すぎちゃうか? そんなもん、いくらでもCGで操作できるやろ」
『ええ、そう言うと思いましたよ。だからこそ、全国民の目の前で、そして何より……
機械音声が、冷たく響く。
地下要塞でモニターを睨む俺は、天秤に魔力を流し込みながら、カメラ越しの鮫島を真っ直ぐに見据えた。
『では、最初の質問です。鮫島恭司さん。……あなたが先ほど見せた「呪われた短剣」。あれは本当に、私がスタンピードを引き起こすためにダンジョンにばら撒いたものですか?』
「当然やろ。現場で回収されたモンやからな」
鮫島が言葉を発した瞬間。
画面中央に映し出された黄金の天秤が、ギシィッ……と不気味な音を立てて傾いた。
鮫島の名前が刻まれた右側の皿に、どこからともなくドス黒い靄が湧き出し、ズシリと重い泥のような塊となって蓄積されたのだ。
もちろんこれだけで、何かが覆るわけではないが、演出は派手な方がこれからの話に説得力が出る。
「ぷっ……はは、あははっ。なんやそれ、おもろい演出やなあ。で? それがどうしたん? そんな黒いモヤモヤ出されたところで、僕が嘘ついてる証明にはならんよ」
鮫島はわざとらしく腹を抱えて笑い、スタジオのコメンテーターたちにも同意を求めるように視線を向けた。
だが、彼らは誰も笑っていなかった。得体の知れない電波ジャックと、モニター越しに伝わってくる異様なプレッシャーに、スタジオの空気はすでに完全に冷え切っていたのだ。
『ええ、おっしゃる通りです。これだけでは、ただの手品だと言われても仕方ありませんね。しかし、天秤の真価はここからです。言ったでしょう? 「悪質な嘘」の重さを量り、可視化する力を持つと』
俺の言葉と同時だった。
天秤の右皿に蓄積された、ドス黒い泥のような靄が、ドクンッと心臓のように脈打った。
その靄がカメラのレンズを覆うように画面いっぱいに広がり、やがてノイズ混じりの空間が、一つの鮮明な映像と音声を結像させた。
それは、夜景が広がる最高級ホテルのスイートルームの映像だった。
画面の中央には、高級なソファに深く腰掛け、グラスを揺らす鮫島恭司本人の姿がはっきりと映し出されていた。
『証拠なんてテキトーでええねん。一人でも信じるやつがおれば、そっから火種になって、ネットの馬鹿どもが勝手に燃やしてくれるもんやから』
全国ネットの電波に乗って、鮫島の口から放たれた信じられない暴言が響き渡る。
スタジオの空気が凍りつくのが、画面越しでも分かった。だが、映像はさらに致命的な真実を暴き出していく。
『そもそも、スタンピードの原因もハッキリしてへんしな。皆さん知りたがってるとこやろ?』
映像の中の鮫島が、スーツのポケットから黒いベルベットの小箱を取り出す。
中に入っていたのは、今まさに彼がスタジオで見せびらかしていた『呪われた短剣』だった。
『ま、せーっかく、上客からお借りしてる『サンプル』もあることやし。お茶の間に向けて、これがEyeの武器や言うて、派手に実演でもしたろ』
Eyeの刻印が刻まれた本物の武器に『呪い』を上書きした、捏造された証拠品。
それを手にした鮫島の顔が、窓ガラスに反射する。
そこには、今スタジオで見せているような正義感に溢れた顔ではない、他人の不幸を嘲笑うような、底意地の悪い下劣な笑みが浮かんでいた。
――プツン。
そこで映像が途切れ、再び黄金の天秤の姿が画面に戻る。
テレビ局のスタジオは、完全に水を打ったような静寂に包まれていた。
司会者も、コメンテーターたちも、ただ口をパクパクと開閉させるだけで言葉が出ない。
自分たちを支持してくれた大衆を『ネットの馬鹿ども』と嘲笑い、自らの口で捏造を白状する映像。これ以上ないほどの特大の爆弾だ。
「……チッ」
だが。鮫島は一瞬だけ顔を引き攣らせたものの、すぐに舌打ちをし、パンパンッと大げさに手を叩いて笑い出した。
「はっ、はははは! ようできたディープフェイクやなぁ。今の時代、AI使えば音声も映像も、いくらでも捏造できるっちゅうねん。僕も有名人やからね。データもぎょうさんあるやろ」
鮫島はカメラに向かって指を突きつけ、血走った目で叫んだ。
「皆さぁん、騙されたらあきませんよー。これがテロリストのやり口です。自分たちに都合のええ捏造映像を電波ジャックで流して、正義の味方である僕を陥れようとしとるんや。こんなオモチャの映像、法廷でも何の証拠にもならへんわ。頭のいい皆さんなら理解できると思います」
鮫島の声には、焦りを強引な覇気でねじ伏せようとする凄まじい気迫があった。
Sランク探索者としてのカリスマ性と、強者のオーラ。
彼のその堂々たる態度に、スタジオのコメンテーターたちが「た、確かに、今の時代はAIの捏造動画も巧妙ですからね……」と、再び彼に同調しそうに揺れ動き始める。
『ええ、もちろん。映像だけなら、そう言い逃れするだろうと思っていましたよ』
鮫島の必死の弁明を、機械音声は冷酷なまでに淡々と切り捨てる。
『ですから、あなたが絶対に反論できない「物理的な重さ」を用意しておきました。……凛、頼む』
地下要塞のメインデスク。
俺の合図で凛はギラギラとした笑みを浮かべながら、キーボードを弾くように叩き、最後に力強くエンターキーを押し込んだ。
彼女がかつて怯え、自分をゴミのように扱った男。
その男の傲慢な顔を、今、自分の手で引きずり下ろす。その快感と高揚感が、凛の指先から全国のネットワークへと放たれた。
――ピピピッ!
テレビ画面の映像が再び切り替わる。
今度は『裁定者の天秤』の隣に、無数のデジタルデータや書類のスキャン画像が次々とポップアップし始めた。
『これは……!』
スタジオの司会者が目を丸くする。
『まずは、あなた方「漆黒の牙」のダミー口座と、実態のないペーパーカンパニーとの間に交わされた、莫大な資金の送金記録です。スタンピードの翌日、そして今回の生放送出演の直前に、不自然なほど巨額の金が振り込まれていますね』
画面に表示された銀行のトランザクション記録。
隠蔽されていたはずの金の流れが、赤線を引かれて明確に示されている。
「けっ……んなもん、ハッキングで作った偽造データやろ? さっきのと何にも変わらんわ」
鮫島の顔から一瞬だけ血の気が引くが、彼はまだ余裕の笑みを張り付けて抵抗するつ折りらしい。
『そうですか。では、さらに申し上げましょう』
機械音声が、鮫島の弁明を冷たく遮る。
『これらのデータは、私のような「正体不明のハッカー」が単独で用意したものではありません。……画面の右下をご覧ください』
画面に表示されたすべての資料の右下に、重厚な電子透かしが浮かび上がった。
それは、日本ダンジョンギルドの『公式認証印』だった。
『このデータはすべて、日本ダンジョンギルド情報部が総力を挙げて収集し、公式に裏付けが取れた真正な証拠です。ギルドはすでに、あなたのSランク権限の一時凍結と、資産の差し押さえの手続きに入っています』
「ギ、ギルドが……!? 東郷、裏で……ッ!」
鮫島はついに顔を歪め、放送中であることも忘れて悪態を吐き捨てた。
その瞬間、スタジオにいたコメンテーターやスタッフたちが、一斉に彼からサッと距離を置いた。
『AIによる捏造だと言い張るのなら、どうぞギルドの調査部と警察を相手に法廷で争ってください。……もっとも、あなたの言う「ネットの馬鹿ども」が、それを許してくれるかは分かりませんが』
次々と差し出される証拠の前に、鮫島は完全に言葉を失っていた。これらの証拠が本物だと証明する手段はないが心証は地の底に落とせたはずだ。
鮫島の額からは脂汗が滝のように流れ落ち、焦点の定まらない目が宙を泳いでいる。カメラの向こう側から、数千万人の怒りと軽蔑の視線が突き刺さっているのを、肌で感じ取っているのだろう。
「ふ、ふざけんな……! 僕はSランクやぞ! こんな出所不明のデタラメ、誰が信じるかっ! 全部Eyeと東郷の陰謀や!」
鮫島はカメラに向かって叫びながら、周囲のスタッフを怒鳴り散らした。
「おい、はよ放送切れや! いつまで撮っとんねん!!」
だが、スタッフたちは誰も動かない。いや、動けないのだ。
神話級アーティファクト『無名者の幻晶』による電波ジャックは、スタジオの物理的な電源を落とさない限り、決して解除されない。
地下要塞のモニター越しに、俺は静かに告げた。
『真実の天秤は、確たる物理的証拠と共に、あなたの罪の重さを量り終えました。……さあ、鮫島恭司さん。あなたの正義のメッキは、これで完全に剥がれ落ちた』
画面の中央で、黄金の天秤がガシャンッ! と音を立てて傾ききり、鮫島の名前が刻まれた皿が完全に底をついた。
『他人の心を壊し、利用し、不要になれば切り捨てる。あなたがこれまで弱者に対して行ってきたその傲慢な振る舞いが、今度はあなた自身を社会の底へと引きずり下ろす。……因果応報というやつですね』
「や、やめろ……俺は、俺は……っ!」
『これにて公開裁判は閉廷です。せいぜい、ご自分の放った嘘の代償を味わってください』
プツン。
俺が幻晶への魔力供給を断つと、全国の電波ジャックは一斉に解除され、テレビ画面は通常のスタジオの映像へと戻った。
だが、そこにはもう「正義の味方」の姿はなかった。
冷たい視線に囲まれ、一人スタジオに取り残された、滑稽で哀れな道化師の姿だけが、全国のお茶の間に晒され続けていた。
◇
「……っしゃあーーーーッ!! 大勝利ぃぃぃぃッ!!」
地下要塞のメインフロア。
通信を切り、幻晶への魔力供給を止めた瞬間、凛が椅子から跳ね起きて両手を高く突き上げた。
「完璧! 完璧すぎるわ透くん! あの鮫島の顔! 生放送で社会的に完全抹殺! これ以上ないくらい最高の気分よ!」
凛は興奮のあまり、俺の首に抱きついてブンブンと揺さぶってきた。
よほど過去のトラウマを植え付けた相手を叩き潰せたのが嬉しかったのだろう。
「お、おい凛、苦しいって……」
「やったね透、凛! すっごくカッコよかったよ!」
セイラも嬉しそうに飛び跳ね、俺と凛をまとめてギュッと抱きしめてきた。
Sランクの腕力も加わり、俺は文字通り窒息しそうになったが、二人の歓喜に満ちた笑顔を見て、俺も自然と笑みがこぼれた。
『フハハハハッ! 見ましたか主様、あの愚物の顔を! 主様の天秤と、ワタシの放つ威圧感の前に、平伏しておりましたね!』
「お前映ってないだろ……」
背後でカリバーンまでが意味不明な勝利宣言をしながらブンブンと飛び回っている。
「ああ。お前たちのおかげだ。これで、俺たちの悪評は完全に引っくり返ったはずだ」
俺は息を整えながら、凛のデスクのモニターに目を向けた。
そこには、先ほどまでの怒りの声が嘘のように、全く別の熱狂で埋め尽くされているSNSの画面が映し出されていた。