Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
ピンポーン。
ボロアパートのチャイムが鳴ったのは、注文からわずか三十分後だった。
さすがは高級寿司店。デリバリーの速度まで高級らしい。
「はーい」
俺は努めて冷静な声を出し、ドアを開けた。
そこには、高級そうな制服を着た配達員が立っていた。彼は手元の伝票と、俺のアパートの表札を何度も見比べている。
「あー、えっと……こちら、
無理もない。
築45年、家賃2万5千円の『ひまわり荘』に、5万円の寿司桶が届くなんてバグ以外の何物でもないからだ。なにせ家賃の倍だしなぁ。
「はい、間違いありません」
「し、失礼しました。こちら『極上ウニ・トロ尽くし』と、『伊勢海老の味噌汁』になります」
配達員は恭しく寿司桶を渡すと、逃げるように去っていった。
おそらく事件性のある何かだと勘違いされたに違いない。
俺は寿司桶を抱え、六畳一間に戻った。
ちゃぶ台の上に、それを置く。
パカッ。
蓋を開けた瞬間、黄金の光が漏れ出した――ような気がした。
「す、すげぇ……」
そこには、宝石箱のような光景が広がっていた。
溢れんばかりのウニ、霜降りの大トロ、透き通るようなイカ。
スーパーの半額シールが貼られたパック寿司しか知らない俺にとって、これはもはや芸術品だ。
「い、いただきます」
震える手で割り箸を割り、まずはウニを口に運ぶ。
醤油はほんの少しだけ。
パクッ。
「――――ッ!!」
言葉が出なかった。
濃厚な磯の香りと、クリーミーな甘みが口の中で爆発する。
噛む必要すらない。舌の上で溶けて消えてしまった。
「うまい……うまい……ッ」
気づけば、俺の目から涙がこぼれていた。
昨日の夜は、空腹で眠れなかった。
一昨日は、パーティを追い出されて絶望していた。
それが今、俺は日本で一番うまい寿司を食っている。
「稼ぐって、こういうことか」
大トロを頬張りながら、俺はスマホを見た。
銀行アプリの残高は、寿司代を引いても微動だにしていない。
【残高:1,599,950,632円】
減った気がしない。
この安心感。
金は、ただの数字じゃない。精神安定剤だ。
「……よし」
最後の一貫、大トロの炙りを飲み込み、俺は決意した。
「明日にでも不動産屋へ行こう。セキュリティのしっかりしたマンションに引っ越すんだ」
セイラに住所がバレたとはいえ、彼女はまだいい。少し話しただけだが、信用に値するとは思う。
問題は、このアパートのセキュリティだ。鍵なんてピッキングツール一本で開くし、壁は蹴れば破れそうだ。
16億という資産を守るには、ひまわり荘はあまりにも脆弱すぎる。
「それに、鑑定スキルの検証もしたいしな」
俺は空になった寿司桶を見つめながら、ニヤリと笑った。
進化した『真贋鑑定《しんがんかんてい》』でどこまでの事が出来るのか……エクスカリバーの一件だけでは判断しかねる。
それを試すには、防音設備の整った広い作業場が必要だ。
俺の成り上がりライフは、まだ始まったばかりだ。
◇
~一方その頃~
ダンジョン近くの大衆居酒屋『赤提灯』にて。
「くそっ! なんだよあの落札額は!」
ドン! とテーブルを叩く音が響いた。
周囲の客が驚いて振り返るが、男は気にする様子もない。
先日、透を追放した元パーティ『ブレイブ・ソード』のリーダー、
彼は安酒を煽りながら、スマホの画面を睨みつけていた。
「15億だぞ!? 15億! たかが剣一本に!」
「まぁまぁ、剛田さん。落ち着いてくださいよぉ」
なだめているのは、魔法使いの
彼もまた、羨望の眼差しでスマホを覗き込んでいる。
「でも、すごいですよね。出品者の『Master_Eye』って人。聖剣なんてどっから見つけてきたんでしょう」
「フンッ! どうせマグレだろ。運だけの野郎だ」
剛田は鼻を鳴らすと、自身の腰にある剣を撫でた。
Bランク級の魔剣。彼が借金をしてまで手に入れた自慢の武器だ。
「……あ?」
剛田の眉がピクリと動く。
剣の柄に、小さなヒビが入っていたからだ。
「おい、なんだこれ。メンテしたばっかりだぞ?」
「あー、そういえば私の杖も」
隣にいたヒーラーの
先端の魔石が、少しだけ曇っている。
「なんか最近、魔力の通りが悪いんだよねー。透くんがいた時はこんなことなかったのに」
「……チッ。あいつの名前を出すな」
剛田が不機嫌そうに吐き捨てる。
「あいつはただの荷物持ちだ。メンテなんて関係ねぇ。たまたま寿命が来ただけだろ」
「でもぉ、透くんって暇さえあれば私たちの装備、布で拭いてたじゃん? あれが良かったのかなー。真面目には働いてたよね?」
酒井の言う通りである。
透の仕事は決して派手ではないが、とにかく丁寧だっだ。外注業者が放置するような。目立たない細かな傷や魔力詰まりを直していたのだ。
だが、彼らはそれを「ただ布で拭いているだけ」だと思い込み、感謝するどころか雑用として見下し、こき使っていた。
「新しいのを買えばいいだろ。どうせ来月にはBランク昇格だ。報酬も増える」
剛田は強気な発言をしたが、その声には焦りが混じっていた。
新しい装備を買う金など、今の彼らにはない。
前回の遠征も赤字だった。ポーションの消費量が、予想以上に多かったからだ。
「……おい、この『Master_Eye』って奴」
剛田は話題を変えるように、スマホ画面を指差した。
「こいつ、今後も出品するつもりらしいな。プロフィールに『次回出品予定あり』って書いてある」
「へぇ、また凄いのが出るんですかね?」
「……もし、こいつから安く武器を仕入れられたら、俺たちの戦力も底上げできるんじゃねぇか?」
剛田の目が、下卑た光を帯びる。
「顔も名前も出してねぇビビリだ。俺たち『ブレイブ・ソード』の名を使えば、裏取引で安く譲らせることもできるかもしれん」
「さすが剛田さん! 頭いい!」
彼らは笑い合った。
その『Master_Eye』こそが、自分たちが追放した「無能」であるとも知らずに。