Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
薄暗く、カビ臭い地下の廃倉庫。
ここはかつて、僕ら『漆黒の牙』が非合法な品を捌くために使っていた隠れ家の一つや。まさか、日本中から追われる身となって、こんなネズミの巣みたいな場所に逃げ込むことになるとは思わんかった。
ここに来るまでに、ギルドの連中を結構殺してしまったし、もう後戻りはできない。
「クソッ……クソッ! どうなってんだよ鮫島! ギルドの口座は凍結されてるし、表の通りは警察とギルドの連中がウロウロしてやがる!」
イライラと足音を響かせながら、大柄な前衛の男が壁を殴りつけた。
部屋の隅では、魔法使いの女がスマホを握りしめ、ガタガタと震えている。
「あ、あたしらもネットで晒されてる……! Sランクの特権も全部パーじゃないですか! どうしてくれるんですか、鮫島さん!」
「うるさいなあ。ちょっと黙っててくれる?」
僕は冷たく言い放ち、手元のグラスをテーブルにコツンと置いた。
そのわずかな音と、僕から漏れた微かな殺気に当てられ、二人はビクッと肩を跳ねさせて押し黙る。ホンマ、頭の悪い連中や。自分たちの置かれた状況を嘆く暇があったら、次にどうやって盤面をひっくり返すか考えればええのに。
「ピーピー喚いたところで、ギルドの凍結が解除されるわけやない。それに、日本でのSランクの肩書きなんて、もう何の価値もあらへんよ」
「な……じゃあ、俺たちはどうすりゃいいんだよ! このままじゃジリ貧だぞ!」
「せやから、言ってるやん。日本がダメなったなら、日本を捨てればええって」
僕はニヤリと笑い、薄暗い倉庫の奥に置いてあったジュラルミンケースをテーブルの上に引き寄せた。
「エデン・グループ。世界を裏で牛耳る超巨大企業や。あいつらが今、一番欲しがってるのが『Master_Eye』と、『剣聖』神宮寺セイラや」
カチャリ、とロックを外し、ケースを開く。
中から現れたのは、息を呑むほど美しい輝きを放つ、見覚えのない武具たちだった。炎を纏う戦斧と、冷気を漂わせる魔法の杖。
「こ、これは……」
「エデンが、こないだの『オープン・オークション』でダミー会社経由で買い占めた、Master_Eye謹製の神話級アーティファクトや。前金代わりにと、裏ルートで僕らに譲ってくれたもんやで。どうや、凄まじい魔力やろ?」
「す、すげえ……! 持っただけで力が無限に湧いてくるみたいだ!」
前衛の男が戦斧を手に取り、興奮で顔を紅潮させる。
「こっちの杖も……あたしの魔力が何倍にも膨れ上がってる……!」
魔法使いの女も、冷気を放つ杖を握りしめてうっとりとした声を上げた。
「そいつがあれば、ギルドの追手くらい軽く蹴散らせるやろ」
僕は鼻で笑いながら、さらにケースの底から小さな銀色のアタッシュケースを取り出した。
「けど、本番はあの神宮寺セイラや。いくら武器が良くても、まともにぶつかったら僕らでもキツイ。せやから、エデンさんからもう一つ、とっておきの『お土産』をもろてるんや」
アタッシュケースを開けると、中には怪しく緑色に発光する液体が詰まった注射器が三本、綺麗に並べられていた。
「なんだ、この注射は?」
「エデンの研究部門が開発した、特製の『細胞活性剤』や。一時的に肉体のリミッターを外して、超回復力と無尽蔵のスタミナを与えてくれるらしい。これと神話級の武器を合わせれば、僕らは実質、無敵や」
僕は注射器を手に取り、二人に差し出した。
本当のところ、この薬が『アンデッドの魔物由来の細胞』を使って作られた、まだ未公表の危険な実験薬やってことは、エデンの担当者からこっそり聞かされとった。
痛覚を麻痺させ、体がボロボロになっても戦い続けるバケモノにする薬。副作用でどうなるか分からんけど、こいつらがどうなろうと僕の知ったこっちゃない。最悪、こいつらを捨て駒にして僕だけ逃げ切ればええんやから。
「こ、これを打てば無敵に……?」
魔法使いの女が、注射器の緑色の液体をまじまじと見つめる。
「せや。エデンが何兆円もかけて開発した秘薬や。僕らみたいな選ばれたSランクが使えば、まさに鬼に金棒やで」
僕は優しい笑顔を作って二人に頷いてみせた。
二人は少しの躊躇いを見せたが、手にした神話級武器の魔力に完全に当てられていたせいか、すんなりと注射器をポケットにしまった。
単純な連中で助かるわ。
「で、具体的な作戦やけど」
僕が切り出すと、前衛の男が戦斧を肩に担ぎながら鼻息を荒くした。
「セイラとEyeをどうやって捕まえるんだ? あいつらの拠点の場所すら、俺たちはまだ掴んでねえぞ?」
「正面から探す必要なんかあらへん。向こうからノコノコ出てくるように仕向けたらええねん」
僕は薄暗い倉庫の壁に寄りかかり、腕を組んだ。
「あいつらのチームには、決定的な弱点がおる。……原宿で会うたやろ? 君らは知らんと思うけど、僕が昔飼うとった寄生虫、酒井凛や」
「酒井か……俺の案だな」
「そうや。セイラちゃんは、あの寄生虫にえらく懐いとった。おそらく、Eyeもあの女をそこそこ重用しとるんやろ。せやから、あの女を人質に取れば、セイラちゃんもEyeも、簡単に首輪をつけられる」
僕は口の端を吊り上げた。
「まずは、あいつらをある場所におびき出す。そして、セイラちゃんをあの二人から『分断』するんや」
「分断?」
「その杖を使えば、特定の人間だけを隔離する結界罠くらい簡単に張れる。セイラちゃんを分断したら、君ら二人で足止めしてほしい」
僕は二人の顔を交互に見つめ、わざとらしく期待を込めた眼差しを向けた。
「このMaster_Eye謹製の武器と、エデンの秘薬があれば、あの剣聖相手でも十分やれるはずや。……頼めるか?」
「へっ、任せておけ。今の俺なら、セイラだろうがなんだろうがぶっ潰せるぜ!」
「あたしも! この杖があれば、Sランク単独トップの座も奪えるわ!」
男は戦斧を振るい、女は杖を掲げて高笑いする。
完全に力に酔いしれとるな。これで立派な捨て駒の完成や。
「頼もしいなぁ。君らがセイラちゃんの相手をしてる隙に、僕が凛を捕まえて、Eyeの正体もろとも全部エデンに献上したる。そしたら僕らは、日本のSランクなんてケチな肩書きやのうて、世界を裏で操るエデンの最高幹部や。……ええ話やろ?」
「ああ! ギルドの連中も、ネットの馬鹿どもも見返してやる!」
士気の上がった二人を見つめながら、僕は一人、内心で冷たく嗤った。
(せいぜい、僕が逃げ切るまでの時間稼ぎのために、ボロ雑巾になるまで戦って死んでや。……さて、寄生虫にはどんな招待状を送ったろか)
僕はスマートフォンを取り出し、裏ルートで手に入れた凛の連絡先へと、極上の罠を仕掛けたメッセージを打ち込み始めた。