Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
「なんだって?」
俺は作業台にクロスを置き、凛の持つスマートフォンの画面を覗き込んだ。
セイラも横から顔を出し、その文面を見た瞬間に息を呑んだ。
『久しぶりやね、凛ちゃん。元気しとる?
こっちも余裕ないから単刀直入に言うわ。神宮寺 琴音を捕らえた。
もし助けたかったら、今日の夕方までに指定の廃ダンジョンに、君と、Master_Eyeと、セイラちゃんの三人で揃って来い。
一人でも欠けたり、ギルドにチクったりしたら……お母さんの命はないと思え』
「お母、さん……!?」
セイラの顔から一気に血の気が引いていく。
彼女は震える手で口元を覆い、その場にへたり込みそうになった。
「セイラ、落ち着け! まだ本当に琴音さんが捕まったと決まったわけじゃない!」
俺は慌ててセイラの肩を支えながら、凛に向き直った。
「凛、鮫島は生放送の後、ギルドに拘束されてSランク権限も凍結されたはずだよな? なんでスマホなんて持ってるんだ。それに、琴音さんの療養施設はギルドの極秘施設だぞ」
「分からないわ。拘束された人間が外部と連絡を取るなんて、普通なら絶対に不可能よ。それに、いくら鮫島でもあの厳重な施設からお母様を誘拐するなんて……」
凛も混乱しているようだったが、すぐにギリッと奥歯を噛み締めた。
「でも、これは明らかに私たちをおびき出すための罠よ。三人まとめて指定の場所に呼び出すなんて、普通じゃないわ」
「ああ、間違いないだろうな」
俺は右目に意識を集中させ、凛のスマホの画面に表示されたメールの文面に向けて『真贋鑑定《しんがんかんてい》』を発動させた。
――ブォン。
視界が軽く歪み、電子データの文字列の上にシステムウィンドウが展開される。
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【対象】鮫島 恭司からの電子メール
【状態】ギルド特務部隊の人間を殺害し、奪取した専用端末からの暗号化通信。
【真意】
エデン・グループから得た『神宮寺琴音』の情報をダシにして、酒井凛、相馬透、神宮寺セイラの三人をまとめて誘い出し、分断・捕獲する意図がある。
神宮寺琴音本人は現在もギルドの施設におり、鮫島自身は琴音を確保していない完全なハッタリである。
「……チッ、そういうことか」
俺は激しく舌打ちをし、鑑定で得た情報を二人に共有した。
「エデンの連中から琴音さんの情報だけを得て、それをダシにしてるんだ。護送中のギルドの人間を殺して、暗号化通信ができる通信機を奪ってこのメールを送ってきやがる。完全に俺たちをおびき出して分断するための罠だ。琴音さんは今もギルドの施設にいるはずで、少なくとも鮫島の手には落ちていないハッタリだ」
「ハッタリ……? じゃあ、お母さんはまだ……!」
「ああ。だけど、あいつらが護送部隊を殺して逃げてるなら油断はできない。すぐに東郷さんに連絡して、施設の防衛状況を確認しよう」
俺はすぐさま専用の通信機を手に取り、ギルドマスターの直通回線を開いた。
しかし。
……ツーッ、ツーッ、ツーッ……
「繋がらない……」
何度かけ直しても、無機質な電子音が返ってくるだけだった。
東郷さんがこの緊急事態に連絡を絶つなんてあり得ない。嫌な予感が背筋を駆け上がる。
「透くん! テレビ、見て!」
凛が叫ぶと同時に、メインモニターの画面が緊急ニュース速報に切り替わった。
『――臨時ニュースをお伝えします。先ほど、新宿のギルド本部ビルの一部にて、大規模な爆発が発生しました!』
「なっ……!?」
画面に映し出されたのは、黒煙を上げるギルド本部ビルの姿だった。ヘリからの空撮映像がその被害の大きさを物語っている。
『爆発の原因は現在調査中ですが……未確認情報として、先日拘束された元Sランク探索者の鮫島恭司容疑者が、ギルドの特務部隊を殺害し、爆発に乗じて逃走したとの情報が入ってきています!』
「……最悪だ」
俺は通信機をテーブルに叩きつけるように置いた。
「自分たちの逃走のために、ギルド本部を爆破したっていうの!? いくらなんでも、イカれてるわ……!」
凛が顔面を蒼白にして震える声で言う。
ギルドの本部で白昼堂々爆発を起こし、厳重な護送部隊を全滅させて逃亡する。もう完全に後戻りできない犯罪者の凶行だ。この爆発の混乱のせいで、ギルドの中枢の通信網が麻痺しているのだろう。
「……お母さん」
セイラがぽつりと呟いた。
彼女の瞳には、恐怖と焦りが渦巻いている。ギルド本部がこの有様なのだ、通信が繋がらない以上、琴音さんのいる療養施設が本当に無事なのか、確証が持てない。
「透……私、行く。お母さんを助けに行かなきゃ」
セイラは腰の『聖剣エクスカリバー』を握りしめ、出口へと歩き出そうとした。
「罠だって分かってるだろ! 相手は俺たち三人を確実におびき出すために、万全の準備をして待ち構えてるに決まってる!」
「でも! このままじゃお母さんがどうなってるか分からない! ギルドだってあんなことになって、連絡も取れないなら、私たちが行くしかないじゃない!」
セイラが悲痛な叫びを上げる。
俺は彼女の肩をしっかりと掴み、真っ直ぐに目を見つめ返した。
「ああ、行くさ。罠だと分かっていても、確かめに行くしかない。万が一にも琴音さんに手出しさせるわけにはいかないからな。……ただ、絶対にお前一人じゃ行かせない。三人で呼ばれてるんだ、俺たちも一緒に行く」
「透……」
俺が振り返ると、凛はギュッと唇を噛み締め、俯いていた。
彼女の左腕で、プラチナの腕輪が微かに光を放っている。戦闘力のない自分たちがついていくことが、本当に正しいのか迷っているようだった。
「凛、お前はどうする? ここに残ってもいいんだぞ」
「……行くわ」
凛はゆっくりと顔を上げ、かつての怯えた寄生虫ではない、アンティーク・アイの専務としての強い眼差しを俺たちに向けた。
「鮫島が私たち三人を指名してるんでしょ? なら、逃げるわけにはいかないわ。私がここで留守番してても、どうせ奴らのことだから何か仕掛けてくるかもしれないし。現場でアンタたちをサポートして、あいつの顔を恐怖で歪ませてやるんだから」
「凛……ありがとう!」
セイラが凛に抱きつき、凛もそれをしっかりと抱きしめ返した。
「よし。そうと決まれば準備だ。ありったけのポーションと神話級の武器をアイテムボックスに詰め込むぞ」
俺は背後で静かに闘志を燃やすカリバーンを一瞥し、そして『不可視の外套』を手に取った。