Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
「よし、準備だ。……と言いたいところだが」
地下要塞の保管庫を前にして、俺は小さく息を吐いた。
左手の『亜空間の指輪アイテムボックス』を展開し、現在のストックを確認するが、中身は予想以上に心許なかった。
それもそのはず。昨日の今日で買いなおした商品も帰ってきていなければ、この前持ち帰ったガラクタも直せていない。
「手元に残ってるのは、いくつかの上級ポーションと、一回使い切りの結界石が二つ。あとは俺たちの個人的な専用装備くらいだな。まさかこんな、持ち出しの総力戦をやることになるとは思わなかった」
「仕方ないわよ。そもそも即転送なんてできるの私たちぐらいだし」
凛が少しだけ悔しそうに言う。
圧倒的な物量で安全を確保するという手が使えない以上、限られたリソースと少数精鋭でこの窮地を乗り切るしかない。
『主様! ご案じ不要! 武器が足りずとも、この第一の剣カリバーンがおります! あの下劣な男など、ワタシの刃で一刀両断にしてご覧に入れましょう!』
背後でカリバーンが、怒りに呼応するように禍々しい闇と神聖な光をバチバチと交錯させながら唸っている。
セイラもすでに『聖剣エクスカリバー』と『アイギスの盾』を装備し、いつでも戦える態勢を整えていた。
「ああ、頼りにしてるよ。アイテムが少ない分、立ち回りでカバーする。行くぞ」
俺たちは地下要塞のガレージから車を出し、鮫島の指定した都内郊外の廃ダンジョンへと急行した。
◇
車内には、重苦しい沈黙が漂っていた。
助手席に座るセイラは、膝の上で両手を強く握り締め、窓の外を流れる景色をただ無言で見つめている。
今、襲われているかもしれない母親の身を案じているのだろう。
「……セイラ。大丈夫だ、琴音さんは絶対に無事だ」
俺が運転席から声をかけると、セイラはビクッと肩を震わせ、力なく頷いた。
「うん……わかってる。透が鑑定で視てくれたんだもんね。……でも、もしお母さんに何かあったら……私……」
普段の天真爛漫な彼女からは想像もつかないほど、その声は弱々しく震えていた。
圧倒的な力を持つSランク探索者であっても、家族の命を天秤にかけられれば、ただの不安に怯えるばかりのようだ。
その時、後部座席から伸びてきた手が、セイラの震える手を優しく包み込んだ。
「セイラ。一人で背負い込むのはナシ」
「凛……」
凛が、真剣な眼差しでセイラを見つめていた。
彼女の左腕にはめられたプラチナの腕輪が、持ち主の決意に呼応するように、淡く温かな光を放っている。
「鮫島は、人の心の弱みにつけ込んでコントロールする天才よ。今回も、琴音さんの情報をエデンから手に入れて、揺さぶりをかけてきたの。あなたがそうやって不安になって、平常心を失うことこそが、あいつの狙いなのよ」
「……あいつの、狙い」
「ええ。だから、絶対に弱みを見せちゃダメ。私たちは三人でチームなんだから。透くんが罠を見抜いて、私がサポートして、あなたがぶっ飛ばす。……いつも通り、それでいいのよ」
凛が力強く言う。その言葉には、かつて自分が鮫島に支配されていた恐怖を乗り越え、自らを奮い立たせる意味も込められているのだろう。
自分自身も鮫島に会うのが怖いはずなのに、セイラを励ますためにあえて力強い言葉を選んでいる。
その凛の優しさと覚悟が伝わったのか、セイラの瞳に少しずつ、いつもの剣聖としての強い光が戻ってきた。
「うん。そうだよね。私がしっかりしなきゃ、お母さんも、二人も守れない。……ありがとう、凛」
セイラが凛の手を握り返す。
俺はバックミラー越しにその様子を見て、小さく口角を上げた。
「その意気だ。罠だと分かってるなら、真正面から潰してやればいい。追い詰められてるのは奴らのほうなんだ……見えたぞ、あそこだ」
俺がハンドルを切った先。
鬱蒼と生い茂る森の奥に、かつて魔力枯渇によって閉鎖されたという、巨大な洞窟型の廃ダンジョンの入り口がポッカリと口を開けていた。