Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
廃ダンジョンの周辺は、不気味なほど静まり返っていた。
野生の動物の鳴き声すら聞こえない。明らかに、人為的に魔力が操作され、何らかの結界や罠が張られている気配がプンプンと漂っている。
「……嫌な空気ね。鮫島の奴、どれだけ準備してるのかしら」
車を降りた凛が、周囲を警戒しながら眉をひそめる。
「まあ、真正面から乗り込む必要はない。せっかくだし、これで姿を隠して奇襲するぞ」
俺はアイテムボックスから、漆黒の布の塊――神話級アーティファクト『不可視の外套《ミラージュ・クローク》』を取り出した。
「これ、俺が羽織るから、二人は俺に密着して内側に入ってくれ。この外套の範囲内にいる限り、姿も気配も完全に隠蔽される。ただし、攻撃を防ぐ機能はないから注意してくれ」
「えっ……三人も入れるの?」
「かなり密着することになるけどな。背に腹は代えられないだろ」
俺がバサッと外套を羽織り、両腕を広げると、セイラと凛は少しだけ顔を見合わせた後、左右から俺の腕の中に飛び込んできた。
「うわっ……本当にピッタリ密着ね。透くん、変なことしたらぶっ飛ばすからね」
「しないよ。ほら、セイラももっと寄って」
「う、うん……」
美人二人に密着されて役得と言いたいところだが、今はそれどころではない。
俺は外套をしっかりと三人ごと包み込むように閉じ、視界と気配を完全に世界から遮断した。
「よし、これで外からは俺たちは一切見えないはずだ。足音も消してくれるから、普通に歩いていい。離れないようにだけ気を付けてくれ。じゃあ、行くぞ」
俺たちは、三人三脚のような状態で、ゆっくりと廃ダンジョンの入り口へと足を踏み入れた。
洞窟の内部は薄暗く、じめじめとした湿気が肌にまとわりつく。
だが、俺の右目『真贋鑑定』は、闇の中でも周囲の構造と、仕掛けられた罠の魔力反応を正確に捉えていた。
(……あちこちに魔力感知のセンサーが仕掛けられてるな。不可視の外套《ミラージュ・クローク》があって助かった)
鮫島が用意したであろう警報網を完全に素通りし、俺たちはダンジョンの奥深くへと進んでいく。
やがて、洞窟が大きく開けた広大な地下空間へと出た。
そこには、松明の火が焚かれ、中央にぽつんと置かれた古びた玉座のような石の椅子に、ふんぞり返って座る男の姿があった。
「――遅いなぁ。そろそろ来る頃やと思うんやけど」
鮫島恭司。
日本中の怒りを買い、逃亡犯となったはずの男は、余裕の笑みを浮かべて暗闇を見つめていた。
その背後には、彼に付き従う『漆黒の牙』の前衛男と後衛の魔法使いの女が、禍々しいオーラを放つ武器を構えて控えている。
取り巻きの二人が持っている武器は、俺がオークションに出品した神話級の武器だ。それに、二人の瞳孔はガンギマリに開き、息が異様に荒い。何らかの薬物で強化されているのは明白だった。
「……透くん、あいつよ」
「ああ。そのまま静かに近づくぞ」
俺たちが広間の中心へと歩みを進めた、その時だった。
玉座に座る鮫島が、ふっと薄気味悪い笑みを深めた。
「……センサーには引っ掛からへん。足音も気配もない。んじゃ、しゃあないか。予定通りいこか」
鮫島がパチン、と指を鳴らす。
「やれ」
ゾッとするような悪寒が背筋を走った。
同時に、鮫島の背後にいた魔法使いの女が、両手を高く掲げた。彼女の持つ神話級の杖が、暴走した魔力を吸い上げて赤黒く発光する。
「はあぁぁぁっ!!」
女の絶叫と共に、広間全体を覆い尽くすほどの超広範囲の火炎魔法が放たれた。
狙いなどない。部屋の隅々までを焼き尽くす、回避不能の無差別攻撃だ。
「しまっ――!」
不可視の外套には物理的・魔力的な防御機能はない。このままでは丸焼けだ。
「透くん!」
「透!」
目前まで迫る紅蓮の業火。
その圧倒的な熱量が俺たちを飲み込もうとした、まさにその瞬間だった。
「――展開してッ!!」
俺の腕の中にいた凛が、咄嗟に左腕を前へと突き出した。
彼女の腕にはめられた純白のプラチナが、持ち主の強い防衛本能と魔力に呼応し、眩い光を放つ。
『聖女の光盾と慈愛の腕輪』。
俺が昨日磨き上げ、彼女に渡した神話級のアーティファクトだ。
カァァァァァァンッ!!!
光の粒子が瞬時に収束し、俺たち三人をすっぽりと覆う半球状の巨大な防護障壁(シールド)が展開された。
直後、大津波のような炎が障壁に激突し、広間全体を飲み込む大爆発を引き起こす。
「くっ……!」
シールドの向こう側で荒れ狂う数千度の熱波。
神話級の盾はその熱を完全に遮断していたが、俺たちが纏っていた『不可視の外套』は、結界の外にわずかにはみ出た裾から引火し、防ぎきれなかった周囲の魔法の余波でボロボロと灰になって崩れ落ちてしまった。
「はぁっ、はぁっ……」
炎の嵐が過ぎ去り、広間に立ち込めた濃密な煙がゆっくりと晴れていく。
焼け焦げた外套の残骸を踏み越え、俺たちは完全にその姿を現していた。
息を切らし、左腕を突き出したままの凛。聖剣の柄に手をかけ、鋭い視線を放つセイラ。そして、二人を庇うように立つ俺。
静まり返った広間に、響き渡る乾いた拍手の音。
「初めましてMaster_Eye君。お粗末な手品ご苦労さん。……あんだけ色々持っとるんや。そら、こっちだって隠れる手段ぐらい持っとる前提で準備するわ」