Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
「さあて、どうしよっか。Master_Eye君」
静まり返った地下空間に、鮫島のねっとりとした声が響く。
彼は凛の背後に立ち、彼女の細い首筋にドス黒い魔力の刃をピタリと押し当てていた。少しでも動けば、その刃は容易に彼女の命を刈り取るだろう。
「まずは……せやな。そこにひざまずいて、土下座でもしてもらおっか。君の正体ごと、全部バラされたくなかったら、大人しく言うこと聞きや?」
鮫島は完全に勝利を確信した、下劣な笑みを浮かべていた。
「くっ……!」
俺はギリッと奥歯を噛み締める。
動けば凛が殺される。もちろん鮫島は躊躇などしないだろう。
「アハハハッ! さっきまで僕をコケにしてくれたあの生意気な余裕はどこ行ったんや? あ?」
鮫島が刃をわずかに押し込む。
凛の白い首筋から、再び一筋の血がツーッと流れ落ちた。
「痛ッ……」
「ごめんなあ、凛ちゃん。お前は昔から、ホンマにええわ。何にもできへん、誰かに寄生せな生きていけへんダニやからな。お前がおるだけで、どんな強い奴でも簡単に足を引っ張れる」
鮫島の言葉が、凛の心を過去のトラウマへと引きずり込んでいく。
彼女の身体は小刻みに震え、瞳には絶望の涙が浮かんでいた。
(……ごめんなさい、透くん。セイラ……)
凛は心の中で、自分を責め続けていた。
結局、自分は何も変わっていない。いざという時に足がすくみ、他人に守られなければ何もできない。彼らの足を引っ張るだけの、みすぼらしい寄生虫だ。
(乗り越えたって思ってたのに……結局何にも変わってなかった。こんな、私なんて……いっそ死んだほうが)
諦めて目を閉じかけた、その時だった。
『お前の打算的なところも、金にがめついところも、全部ひっくるめて有能なビジネスパートナーとして雇ったんだ』
『凛は私の大事な友達だもん!』
不意に、脳裏に透とセイラの言葉が鮮明に蘇った。
打算で近づいた自分を、彼らは不器用なほど真っ直ぐに受け入れてくれた。
あの温かい地下要塞の空気。三人で飲んだコーヒーの匂い。
(……嫌、だ。この場所を失うのだけは、絶対に!)
凛の震えが、ピタリと止まった。
こんなところで、過去の亡霊に怯えて終わるわけにはいかない。
私はもう、誰かに見下されなければ生きられないような、無力な寄生虫じゃない。
私は、世界を揺るがす大商会『株式会社アンティーク・アイ』の専務取締役、酒井凛だ!
「……ほら、はよ土下座せえや。カウントダウンすんで? 三、二――」
「――黙りなさいよ、三流探索者」
「……は?」
「アンタごときに、ウチの社長が頭下げるわけないでしょ」
凛の口から放たれた、氷のように冷たく、力強い声。
鮫島が間抜けな声を漏らし、俺も思わず目を丸くした。
凛はゆっくりと目を開き、首筋に当てられた魔力の刃を恐れることなく、真っ直ぐに前を見据えた。
その瞬間、左腕にはめられた『聖女の光盾と慈愛の腕輪』が、ドクンッと強烈な魔力の鼓動を鳴らし、光り輝く。まるで彼女の決して屈しないという強い意志に呼応しているようだ。
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【名称】聖女の反逆盾《イージス・リフレクト》
【ランク】神話級(進化)
【状態】持ち主の『過去を断ち切る勇気』に呼応し、真の力を解放した。
【真価】防護障壁の展開、回復魔法の強化に加え、所有者向けられた悪意や物理的・魔力的攻撃を『倍化』して術者へと跳ね返す【反転反射《カウンター》】の能力を獲得。
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(アイテムが進化した!?
「なんやねんお前。急に生意気な口利いて……そんなに死にたいなら、すぐにでも殺したるわ」
想定外の凛の反抗に、鮫島は苛立ち、彼女の首を切り裂こうと魔力の刃を無造作に振り抜いた。
彼にとっては、ただの脅しではなく、本当に殺すつもりで放った明確な殺意。
だが。
――ガキィィィィィィィンッ!!!!
凛の左腕から爆発的に広がった純白の光盾が、鮫島の魔力刃を真正面から受け止めた。
いや、受け止めただけではない。
「なっ――!?」
光盾の表面が鏡のように波打ったかと思うと、鮫島が込めた悪意と魔力が、全く同じ軌道で、かつ二倍の威力となって彼自身へと逆流したのだ。
「ガァァァッ!?」
凄まじい衝撃音と、鮫島の絶叫。
鮫島が凛を拘束していた右腕が、肩から先ごと根元から綺麗に吹き飛び、宙を舞って血飛沫を撒き散らした。
「が、あ、ああああっ!? ぼ、僕の腕があっ!?」
鮫島は吹き飛んだ右腕の断面を押さえ、無様に地面を転げ回った。
血だまりの中で苦悶するかつての支配者を、凛は冷ややかに、ただの路傍の石を見るような目で見下ろしていた。
「惨めね、鮫島。ダニを見上げるのはどんな気分?」
「~~っ! お前! ダニの、分際でぇぇぇっ!!」
『よくやりました小娘! 見直しましたよ!』
鮫島が血走った目で喚き散らす中、ずっと手出しできずに鬱憤を溜め込んでいたカリバーンが、嬉々として空を切り裂いた。
漆黒と白銀のオーラが螺旋を描き、無防備な鮫島の胸元へと容赦なく突き刺さる。
「ガハッ……!?」
カリバーンの一撃が、鮫島の身体を深々と貫き、彼を壁際まで吹き飛ばして縫い留めた。
致命傷だ。Sランク探索者といえど、心臓近くを貫かれては生きてはいられないだろう。
「……終わったな」
俺は大きく息を吐き出し、へたり込みそうになった凛の元へ駆け寄り、彼女の肩を支えた。
「大丈夫か、凛!」
「透、くん……私、やったわ。あいつに……!」
「ああ。最高にカッコよかったぞ」
俺が笑いかけると、凛の目からポロポロと安堵の涙がこぼれ落ちた。
これで、厄介な鮫島は片付いた。あとはセイラが結界から戻るのを待つだけだ。
そう思った、その時だった。
「か、はは、しゃあないなぁ……これだけは、使いたくなったんやけどな……」
壁に縫い留められた鮫島が、口から大量の血を吐きながら、不気味な笑い声を漏らした。
彼は残った左手で、懐から『緑色に発光する液体』の入った注射器を取り出した。
「っ……! カリバーン! 注射器を──」
「こんな、ダニどもに……負けるくらいなら、やったるわァッ!!」
俺がカリバーンに指示を出すより一歩早く、鮫島は狂気に満ちた目で、その注射器を自らの首筋に力任せに突き立て、液体を一気に注入した。
ドクンッ!!
広間全体の空気が、一瞬で重く、禍々しいものへと変貌する。
「アァァァァァァァァァッ!!」
鮫島が獣のような絶叫を上げる。
彼の傷口から、ドス黒いヘドロのような肉芽が異常な速度で膨れ上がり始めた。カリバーンに貫かれた胸の傷が瞬時に塞がり、さらには先ほど吹き飛んだはずの右腕が、異形の黒い肉塊となって再生していく。
『なっ……!? ワタシが仕留めそこなった!?』
カリバーンが弾き飛ばされ、俺の背後へと戻ってくる。
「力が……力が湧いてくるでェ。第2ラウンドやァ」
人間の形を保ちながらも、完全に理性を失ったバケモノのオーラを放ち、鮫島がゆっくりと立ち上がる。
その口から垂れる涎が、石の床をジュウジュウと溶かしていた。