Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
空間が砕け散る音の余韻が残る中、セイラは静かに、だが確かな殺意を纏って鮫島へ歩み寄る。
「な、なんでや……! 極大空間隔離結界やぞ!? 術者が死ぬか魔力が尽きるまで、絶対に出られへんはずやろが!!」
「へえ、殺せば出られたんだ。じゃあそうすればよかった」
セイラの声には、怒りすら通り越した絶対零度の冷酷さが宿っていた。
プラチナブロンドの髪が魔力の余波で揺れ、一歩踏み出すごとに、地下空間の床がピキピキとひび割れていく。
「クソがぁッ! 舐めるなやァァァッ!!」
恐怖をごまかすように、鮫島が絶叫と共に巨体を躍らせる。
残された全魔力を右腕に込め、セイラを粉砕すべく凶拳を振り下ろした。
だが、セイラにとって、満身創痍の鮫島の動きは遅すぎた。
「うるさい」
セイラが腰の鞘から白銀の聖剣『エクスカリバー』を抜いた瞬間、広間を眩い閃光が包み込んだ。
ズバァァァァンッ!!!
「……あ?」
鮫島の右腕が、肩口から綺麗に消失していた。
目にもとまらぬ速さでセイラに切断されたのだ。
「ギャ、アァァァァァァァッ!!?」
一拍遅れて襲い来る激痛に、鮫島が悲鳴を上げる。
慌てて傷口からドス黒い肉芽を蠢かせ、再生しようと試みるが――何も起こらない。
「な、なんでや!? 再生せぇ! まだ薬が切れるわけ……ッ!」
「おや、お気づきではありませんでしたか?」
涼やかな声が響き、白銀と漆黒の双剣を構えたカリバーンが、ふわりとセイラの隣に舞い降りる。
「ワタシの闇が、既にキサマの生命力を底まで啜り尽くしたのです。その粗悪な薬の効力も、とうに尽きていますよ」
カリバーンの宣告が、鮫島に決定的な絶望を突きつけた。
エデンから与えられた無尽蔵の再生能力。それこそが、この状況を打破しうる、唯一の拠り所だったのだから。
「嘘や……嘘や嘘や嘘やッ!!」
パニックに陥り、残った足で逃げ出そうと背を向ける鮫島。
しかし、セイラの追撃は無慈悲だった。
閃光が二度、三度と走る。
「ギビャァァッ!?」
両足が膝から下を失い、鮫島の巨体が無様に床へ転がる。
さらに残っていた左腕も肘から先を切り飛ばされ、彼は完全に四肢の自由を奪われた。
「あ、あぁぁ……」
血と泥の海の中で、芋虫のように這いずり回るかつてのSランク探索者。
その姿には、もはや威厳の欠片も残っていなかった。
「あ……あ……」
死の恐怖に直面した鮫島の濁った瞳が、必死に助けを求めて彷徨う。
そして、行き着いた先。
俺に抱き抱えられながら、静かに行く末を見つめる凛の姿を捉えた。
「り、凛ちゃん……ッ!」
鮫島は、顔をぐしゃぐしゃに歪め、涙と鼻水を撒き散らしながら凛の足元へと這い寄っていく。
その顔にあるのは、醜悪なまでの命への執着と、かつて見下していた相手への無様な命乞いだった。
「助けて……助けてや、凛ちゃん! 僕が間違っとった! 昔のよしみやろ!? 君を拾ってやったんは僕やんか! お願いや、あの女を止めてくれぇッ!」
すがりつこうと、切り株のような腕を必死に伸ばす。
俺が前に出ようとするのを手で制し、凛は自らの足でしっかりと立ち上がった。
かつてなら、鮫島の声を聞いただけで震え上がり、顔を合わせることすらできなかっただろう。
彼女にとって絶対的な支配者であり、恐怖の象徴だった男。
しかし今、凛の瞳に映っているのは、ただの惨めで滑稽な肉塊でしかなかった。
「……」
凛は一歩も引かず、怯えることもなく、ただ汚物を見下ろすような極寒の目を向ける。
「み、見捨てんといて……! 凛ちゃぁぁん……ッ!」
「惨めね」
静かな、だが広間全体に響き渡る凛の声。
その冷ややかな響きに、鮫島の喚き声がピタリと止まる。
「誰かにすがりつかないと、生きられないなんて」
「り、ん……?」
「他人の魔力を奪い、エデンの薬に頼り、最後はかつて見下していた私に命乞い。……教えてあげるわ、鮫島」
凛は、明確な決別と哀れみを込めて、冷酷に言い放った。
「今のアンタは、私が知る中で一番惨めなダニよ」
――ブツン。
鮫島の中で、最後に残っていた細い糸が切れる音がした。
絶対的弱者であったはずの凛から突きつけられた、完全なる見下しと精神的敗北。
しかし、もはやプライドすら木端微塵に砕け散った彼に残されていたのは、どこまでも醜悪な『生への執着』だけだった。
「あ、あぁぁ……待て、待てや! 殺さんといてくれ! エデンや! エデン・グループの情報を全部教えたる!」
血と泥に塗れた顔を上げ、鮫島は必死に絶叫する。
「あいつらの目的も、ボスの居場所も、この薬の秘密も全部や! 僕を殺したら、エデンを潰す手がかりがなくなるで!? せやから、取引や! 僕の命と引き換えに! 頼む!!」
「……」
凛は冷ややかな視線を向けたまま、俺を振り返る。
俺は静かに頷いた。確かに、今の奴は全てを失った。だからこそ、命惜しさに持っている最大のカードを必ず切る。引き出せる情報は多い。
「いいだろう。洗いざらい吐け。お前の命の処遇は、その情報にどれだけの価値があるかで――」
俺が鮫島を拘束し、情報を聞き出そうと一歩踏み出した。
――その、直後だった。
地下空間の温度が、セイラの怒気とは全く質の違う、異様な殺気に包まれた。