Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~   作:えだのあ

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第76話 ダニ

 空間が砕け散る音の余韻が残る中、セイラは静かに、だが確かな殺意を纏って鮫島へ歩み寄る。

 

「な、なんでや……! 極大空間隔離結界やぞ!? 術者が死ぬか魔力が尽きるまで、絶対に出られへんはずやろが!!」

 

「へえ、殺せば出られたんだ。じゃあそうすればよかった」

 

 セイラの声には、怒りすら通り越した絶対零度の冷酷さが宿っていた。

 プラチナブロンドの髪が魔力の余波で揺れ、一歩踏み出すごとに、地下空間の床がピキピキとひび割れていく。

 

「クソがぁッ! 舐めるなやァァァッ!!」

 

 恐怖をごまかすように、鮫島が絶叫と共に巨体を躍らせる。

 残された全魔力を右腕に込め、セイラを粉砕すべく凶拳を振り下ろした。

 

 だが、セイラにとって、満身創痍の鮫島の動きは遅すぎた。

 

「うるさい」

 

 セイラが腰の鞘から白銀の聖剣『エクスカリバー』を抜いた瞬間、広間を眩い閃光が包み込んだ。

 

 ズバァァァァンッ!!!

 

「……あ?」

 

 鮫島の右腕が、肩口から綺麗に消失していた。

 目にもとまらぬ速さでセイラに切断されたのだ。

 

「ギャ、アァァァァァァァッ!!?」

 

 一拍遅れて襲い来る激痛に、鮫島が悲鳴を上げる。

 慌てて傷口からドス黒い肉芽を蠢かせ、再生しようと試みるが――何も起こらない。

 

「な、なんでや!? 再生せぇ! まだ薬が切れるわけ……ッ!」

 

「おや、お気づきではありませんでしたか?」

 

 涼やかな声が響き、白銀と漆黒の双剣を構えたカリバーンが、ふわりとセイラの隣に舞い降りる。

 

「ワタシの闇が、既にキサマの生命力を底まで啜り尽くしたのです。その粗悪な薬の効力も、とうに尽きていますよ」

 

 カリバーンの宣告が、鮫島に決定的な絶望を突きつけた。

 エデンから与えられた無尽蔵の再生能力。それこそが、この状況を打破しうる、唯一の拠り所だったのだから。

 

「嘘や……嘘や嘘や嘘やッ!!」

 

 パニックに陥り、残った足で逃げ出そうと背を向ける鮫島。

 しかし、セイラの追撃は無慈悲だった。

 

 閃光が二度、三度と走る。

 

「ギビャァァッ!?」

 

 両足が膝から下を失い、鮫島の巨体が無様に床へ転がる。

 さらに残っていた左腕も肘から先を切り飛ばされ、彼は完全に四肢の自由を奪われた。

 

「あ、あぁぁ……」

 

 血と泥の海の中で、芋虫のように這いずり回るかつてのSランク探索者。

 その姿には、もはや威厳の欠片も残っていなかった。

 

「あ……あ……」

 

 死の恐怖に直面した鮫島の濁った瞳が、必死に助けを求めて彷徨う。

 そして、行き着いた先。

 俺に抱き抱えられながら、静かに行く末を見つめる凛の姿を捉えた。

 

「り、凛ちゃん……ッ!」

 

 鮫島は、顔をぐしゃぐしゃに歪め、涙と鼻水を撒き散らしながら凛の足元へと這い寄っていく。

 その顔にあるのは、醜悪なまでの命への執着と、かつて見下していた相手への無様な命乞いだった。

 

「助けて……助けてや、凛ちゃん! 僕が間違っとった! 昔のよしみやろ!? 君を拾ってやったんは僕やんか! お願いや、あの女を止めてくれぇッ!」

 

 すがりつこうと、切り株のような腕を必死に伸ばす。

 俺が前に出ようとするのを手で制し、凛は自らの足でしっかりと立ち上がった。

 

 かつてなら、鮫島の声を聞いただけで震え上がり、顔を合わせることすらできなかっただろう。

 彼女にとって絶対的な支配者であり、恐怖の象徴だった男。

 

 しかし今、凛の瞳に映っているのは、ただの惨めで滑稽な肉塊でしかなかった。

 

「……」

 

 凛は一歩も引かず、怯えることもなく、ただ汚物を見下ろすような極寒の目を向ける。

 

「み、見捨てんといて……! 凛ちゃぁぁん……ッ!」

 

「惨めね」

 

 静かな、だが広間全体に響き渡る凛の声。

 その冷ややかな響きに、鮫島の喚き声がピタリと止まる。

 

「誰かにすがりつかないと、生きられないなんて」

 

「り、ん……?」

 

「他人の魔力を奪い、エデンの薬に頼り、最後はかつて見下していた私に命乞い。……教えてあげるわ、鮫島」

 

 凛は、明確な決別と哀れみを込めて、冷酷に言い放った。

 

「今のアンタは、私が知る中で一番惨めなダニよ」

 

 ――ブツン。

 

 鮫島の中で、最後に残っていた細い糸が切れる音がした。

 絶対的弱者であったはずの凛から突きつけられた、完全なる見下しと精神的敗北。

 しかし、もはやプライドすら木端微塵に砕け散った彼に残されていたのは、どこまでも醜悪な『生への執着』だけだった。

 

「あ、あぁぁ……待て、待てや! 殺さんといてくれ! エデンや! エデン・グループの情報を全部教えたる!」

 

 血と泥に塗れた顔を上げ、鮫島は必死に絶叫する。

 

「あいつらの目的も、ボスの居場所も、この薬の秘密も全部や! 僕を殺したら、エデンを潰す手がかりがなくなるで!? せやから、取引や! 僕の命と引き換えに! 頼む!!」

 

「……」

 

 凛は冷ややかな視線を向けたまま、俺を振り返る。

 俺は静かに頷いた。確かに、今の奴は全てを失った。だからこそ、命惜しさに持っている最大のカードを必ず切る。引き出せる情報は多い。

 

「いいだろう。洗いざらい吐け。お前の命の処遇は、その情報にどれだけの価値があるかで――」

 

 俺が鮫島を拘束し、情報を聞き出そうと一歩踏み出した。

 

 ――その、直後だった。

 

 地下空間の温度が、セイラの怒気とは全く質の違う、異様な殺気に包まれた。

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