Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
翌日。
地下要塞のワークスペース。
俺は息を詰め、作業台の上に置かれた『神魔剣カリバーン』の残骸と向き合っていた。
ノアの圧倒的な暴力によって粉砕され、刀身には無数の亀裂が走り、光と闇のオーラは完全に失われている。
「待たせたな、カリバーン」
俺はアイテムボックスから、先日未公開ダンジョンで手に入れた『強欲の竜王の鱗』の余りを粉末状に加工したものを取り出し、それをホームセンターで買ってきた『超強力瞬間接着剤』と混ぜ合わせた。
竜王の鱗と、市販の接着剤を合わせた特製パテを、カリバーンの亀裂の一つ一つに、指先で丁寧に、そして執念を込めて塗り込んでいく。
「お前をこんなところで終わらせるつもりは毛頭ないぞ、相棒」
ペーストを塗り終えた後、俺は両手を刀身にかざし、自身のありったけの魔力を注ぎ込んだ。
頼む、直ってくれ……!
――トクン。
微かな鼓動。
塗り込んだ竜のパテが接着剤と魔力に反応して淡く発光し、亀裂をガッチリと縫い合わせていく。
失われていた漆黒の闇と、神聖な白銀の光が、刀身の奥底から爆発的な勢いで蘇った。
『ア、アアアァァァッ……! 主様ぁッ!!』
脳内に、鼓膜が破れそうなほど元気で情熱的な絶叫が響き渡った。
『そのねっとりとした特製パテが、ワタシの傷口の深くまで染み渡り……ああっ、主様の熱い魔力が……至福ゥッ! ワタシは、ワタシは今、最高に愛されておりますッ!!』
ピカピカに蘇ったカリバーンが、ふわりと宙に浮き上がり、俺の周囲を猛スピードでビュンビュンと飛び回り始めた。
「……相変わらず、うるさい奴だな。まあ、元気になったなら何よりだけど」
俺は額の汗を拭いながら、安堵の笑みをこぼした。
「透くん。カリバーン、直ったみたいね」
ワークスペースの入り口から、凛とセイラが顔を覗かせた。
凛の手には、分厚いファイルの束が抱えられている。
「ああ。これでうちの第一の剣も復活だ。あとは……エデンにしっかりお礼をしないとな」
俺は作業台の引き出しを開け、あらかじめ用意しておいた『ある物』を取り出した。
「なにそれ……?」
セイラが目を丸くする。
俺の手の中にあったのは、百円ショップで買ってきた、プラスチック製のチープな『ピコピコハンマー』だ。
特製のワックスを塗り込んでおいたため、無駄に輝いている。
「そして、これだ」
俺はもう一つ、一枚の重厚な和紙に印刷された『請求書』を取り出した。
凛が横からそれを覗き込み、思わず吹き出した。
「ちょっと透くん、何よこれ!」
「エデン・グループ会長、アダムス・ヒューズ宛てだ。ウチの地下要塞の修繕費、セイラへの精神的苦痛に対する慰謝料、諸々含めて、しめて『1000兆円』。一括払いでお願いする旨を書いておいた」
俺はピコピコハンマーの柄に、そのふざけた1000兆円の請求書をリボンでしっかりと結びつけた。
「……透」
セイラが、ポカンとした顔から一転、お腹を抱えてクスクスと笑い始めた。
「あはははっ! お父様、これ見たら絶対に怒って血管切れちゃうよ! あの人、こういうふざけたの大っ嫌いだもん!」
「それならそれで好都合だ。俺たちアンティーク・アイは、やられたら利子をつけて取り立てに行く。泣き寝入りはしない……その宣戦布告だ」
俺は左手の『アイテムボックス』に同期されている、『
セイラに聞いておいた、欧州のエデン・グループ本社、最上階の会長室の座標を正確に入力する。
アダムスがいるかは分からないが、そのうち本人にも伝わるだろう。
「じゃあ、行ってこい」
俺が念じると、シュンッ!という鋭い音と共に、1000兆円の請求書がついたピコピコハンマーが、空間の彼方へと消え去った。
◇ ◇ ◇
欧州、エデン・グループ本社ビル最上階。
冷ややかな月光が差し込む執務室で、エデングループ会長アダムス・ヒューズは実娘と同じ顔をした少女に上機嫌で話しかけていた。
「おかえり。どうだった? セイラは」
最高級のマホガニーデスクに肘を突き、アダムスはワイングラスを傾ける。
ノアと呼ばれた、感情の一切欠落したクローン少女は、淡々と事実だけを口にした。
「……オリジナルは、想定以上に強大でした。しかし、問題なく対処可能な範囲かと思われます」
「そうか、大変結構。お前もあの子に迫る成長を見せているということだ……あとは『Master_Eye』の技術とセイラの肉体が揃えば、私の理想とする新世界が――」
――シュンッ!
何の前触れもなく。
世界最高峰の魔力障壁と物理防壁で何重にも守護されているはずのエデン・グループ本社、その最深部である会長室に、安っぽいプラスチック製のピコピコハンマーが現れた。
「お父様……!」
「なっ!?」
アダムスが目を見開き、ノアがすかさずアダムスを守るように戦闘態勢を取る。
しかし、アダムスたちに走った緊張とは裏腹に、執務室に響いたのは、ピコッという間抜けな音だった。
「ノア、確認しろ」
アダムスの冷徹な声に、ノアは一切の感情を交えずに頷いた。
世界最高峰の魔力探知を張り巡らせながら、その安っぽいピコピコハンマーに触れる。
「……爆発物、および呪詛の類は一切検知されません。材質は極めて強度の低い合成樹脂。ただし、持ち手部分に日本語で執筆された書面が括り付けられています」
「書面だと? 翻訳して読み上げろ」
ノアは和紙の請求書を広げ、淡々と、事務的にその内容を読み上げた。
「『請求書。当方地下要塞の修繕費、および神宮寺セイラに対する精神的苦痛の慰謝料として――金、1000兆円也。一括払いにて請求する。株式会社アンティーク・アイ代表、Master_Eye』……以上です」
「Master_Eye……!」
アダムス・ヒューズの顔から、微かな余裕すらも完全に消え失せた。
1000兆円という常軌を逸したふざけた請求額。だが、アダムスの明晰な頭脳は、そのふざけた数字の裏にある『真の脅威』を瞬時に理解し、戦慄していた。
(私が何重にも張り巡らせた絶対不可侵の魔力障壁を……この紙切れとオモチャは、一切の抵抗も許さずに『透過』してきたというのか)
空間転移。それも、既存の魔導科学を何世紀も飛び越えた、神の領域の座標指定転送。
もしこのハンマーが、核弾頭や致死性の魔毒であったなら。ノアはともかく、アダムスは、無事では済まなかっただろう。
「面白いことをするじゃないか」
◇ ◇ ◇
同時刻。
日本の地下要塞、メインフロア。
「ふふっ。今頃、アダムスの奴、ピコピコハンマー見て青ざめてるでしょうね」
凛がタブレットを抱えながら、悪戯っぽく笑った。
「これで奴らは、いつ頭上に爆弾が落ちてくるか分からない恐怖で、防衛にリソースを割かざるを得なくなる。……気持ちにも、積極的に手出しするのは難しくなったはずだ」
俺は左手の『アイテムボックス』を撫でながら、ふぅと息を吐いた。
「だが、牽制はあくまで牽制だ。いずれは、対策を練ってくる。その前に、俺たちが欧州に乗り込んで本陣を叩き潰す必要がある」
「うん……絶対に避けては通れないよね」
セイラが、腰の聖剣エクスカリバーの柄をギュッと握りしめる。
「ああ。だが、丸腰で敵のど真ん中に突っ込むほど俺も馬鹿じゃない。あっちにはあのノアってクローンもいるし、どんな化け物兵器が隠されているか分からないからな」
俺はメインモニターに、欧州のダンジョンマップと経済指標、そしてギルドのネットワーク図を表示させた。
「向こうに乗り込む前に、日本で徹底的に準備を整える。まずは、弾薬……つまり、最高ランクのアイテムの大量仕入れだ」
「あとは、移動手段も必要ね。普通に飛行機で行くわけにいかないし、
「そうだな……そこは東郷さんに頼んでみよう。アテがあるか分からないけど、俺たちだけで足踏みするよりはマシだろ」
「賛成。ギルドの太いパイプ、こういう時に使わない手はないもの。今回恩も売れたしね」
「ああ。東郷さんには、明日にでも打診してくれ。爆破されたりで忙しいだろうけど、何かしらは手を貸してくれるだろう」
俺の言葉に、セイラも力強く頷いた。
「うん。お父様の本陣に乗り込むんだもん。私たちも、日本にいる間にできる限りの準備をしよう」
「ええ。資金ならタップリあるわ。D・マーケットで世界中のジャンク品を買い漁って、透くんに全部神話級のアーティファクトに作り変えてもらうわよ」
凛が笑みを浮かべるのを横目に、俺はアイテムボックスの奥に眠る『服従の種』の存在を静かに意識した。
セイラの母、琴音さんにかけられた呪いを解くための唯一の希望。アダムスを無力化し、全てを終わらせるための切り札だ。
「待ってろよ、アダムス」
迫るエデングループとの戦いに各々、思いをはせながら、それに向けた準備を株式会社アンティーク・アイの総力を挙げて進めるのだった。
――第二部 完――