Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
第81話 整頓
我らアンティークアイが誇る極秘の地下要塞。その広大なスペースのど真ん中で、凛はこめかみを押さえながら天を仰いでいた。
「……ねえ、透くん。これは何の冗談かしら?」
彼女の視線の先にあるのは、見渡す限りのガラクタと神話級アイテムが入り乱れた山だった。
赤茶けたサビだらけの剣、柄の折れた杖、用途不明の金属片、果ては泥にまみれたただの石っころ。その中に、鮫島が起こした炎上騒動の際に買い戻したアイテムが混じっている。
「じょ、冗談じゃないさ。凛にお願いして、『D・マーケット』から目ぼしい武具を買い集めてもらっただろ? その成果だよ」
「透くん……あなた、アイテムを買い戻してたこと忘れたでしょ。それで一緒に届いた段ボールをまとめて開けてこのザマ……違う?」
「ぐっ……!」
図星を突かれ、俺は言葉に詰まった。
世界中の裏オークションサイト『D・マーケット』で、面白そうな「呪われた武具」やら「用途不明のジャンク品」をポチポチと落札していたら、いつの間にかこんな量になっていたのだ。それに加えて、以前の炎上騒ぎで手放したアイテムの買い戻し分も一気に届いたものだから、収集がつかなくなっている。
「アイテムボックスに頼りきりで整理整頓ができなくなったんじゃない?」
「それだ! いったん全部、アイテムボックスに突っ込んで、そのあと仕分ければいいじゃないか」
名案だと言わんばかりにドヤ顔を決めた俺に、凛は冷ややかな視線を突き刺してきた。
「先送りにしないの」
「うっ」
「今すぐ、ここで、全て仕分けなさい。欧州のエデン・グループ本陣に乗り込むんでしょ? できることは早めに済ませないと。使えるものと使えないものをハッキリさせなさい。その間に私は、移動手段の件でギルドの方にアポを取るから」
凛のド正論に、俺は肩をすくめてガラクタの山に向き直った。
まあ、これだけあるとテンションは上がる。俺は気を取り直して、深呼吸と共にスキルを発動した。
「……『真贋鑑定』」
瞬間、視界がチカチカと明滅し、ガラクタの山から無数の情報タグが浮かび上がる。
その大半はただのゴミだが、中にはD・マーケットの出品者が気づかなかった「原石」が紛れ込んでいる。
「おっ、これは当たりだな」
俺が手に取ったのは、刀身が赤錆で覆い尽くされ、ボロボロになった長剣だった。オークションでの商品説明は『かっこいい鉄クズ』。落札価格はたったの三千円だ。
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【名称】防呪の聖十字
【ランク】伝説級
【状態】魔力回路の深刻な破損、刀身腐食99%
【真価】所有者に向けられた呪いを防ぐ十字架。
【修復可否】可能(※市販のサビ取り剤によるサビの除去。)
「うわぁ、さびさび……」
傍らで見ていたセイラが、金糸の髪を揺らしながら覗き込んでくる。
彼女の後ろでカリバーンも、呆れたような声を上げる。
『フン……主様、相変わらず悪趣味なですこと。そんな死に体の鉄クズなど放っておいて、早くこの、最高傑作たるこのワタシを研磨なさい!!』
「散々磨いてやってるだろうが……まあ、見てろ」
俺は作業台に剣を置き、傍らに常備しているサビ取りの容器を取り出した。
サビ取りをカップに注ぎ、その中に鉄くずを沈めて、数分放置する。
シュワシュワと化学反応の音がした後、サビ取りの中から引き上げ、ウエスで一気に拭き取る。
そして、仕上げに俺の掌から魔力をほんの少し流し込む。
バチバチと音を立てて断線していた魔力回路が再構築されていく。
そして数秒後、俺の手の中には、澄み切った金色の輝きを放つ、十字架が握られていた。
「ふぅ……一丁上がり。つぎつぎ」
一つ終えてしまえば、もうここからは流れ作業で出来る。仕分けというより、工場のライン作業だ。
ゴミの山がみるみるうちに減っていき、代わりに俺の背後には、国宝指定されてもおかしくないアーティファクトが山のように築き上げられていった。
俺が黒い塊の修復と調整に没頭し、作業も終盤に差し掛かってきた頃、カツカツというヒールの音が地下要塞に響いた。
「ただいま。東郷ギルドマスターと会う約束、ねじ込んできたわよ」
凛が戻ってきたのだ。
彼女は手元のタブレットから顔を上げ、絶句した。
「……透くん」
「ん? ああ、おかえり。どうだ、凄いだろ?」
「ええ。モノは凄い。それは分かるんだけど、結局散らかってるじゃない」
凛の呆れたような声と視線を真正面から浴びて、俺は思わず視線を泳がせた。
「いや、これはその……手土産の候補というか、意図のある配置で」
「言い訳はいいから。とっとと整理してアイテムボックスにしまってちょうだい。足の踏み場もないわ」
凛が呆れたように深い溜息をつく。傍らでセイラとカリバーンまでもがクスクスと笑っていた。
「はいはい、分かったよ」
俺は苦笑交じりに頷き、山と積まれた国宝級のアーティファクトたちを大人しくアイテムボックスへと収納し、使えそうな物とそうでない物の改めて仕分けをやり直していく。
「まったく……で、話を戻すけど、東郷ギルドマスターとの面会は明日の午後よ」
「了解。手土産の選定もそれまでに終わらせておくよ」
国宝が散乱した地下室で、俺たちは海を渡るための準備を、いつも通りの慌ただしくも心地よいペースで進めていった。