Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
翌日の午後。
俺と凛、そしてセイラの三人は、新宿のダンジョンギルド本部の最上階、東郷ギルドマスターの執務室を訪れていた。
「――なるほどな。エデンの親玉の懐に直接飛び込むってわけか」
分厚いマホガニーのデスク越しに、東郷さんは深く葉巻の煙を吐き出しながら、低く唸った。
俺たちは昨日、琴音さんから聞いたエデン・グループの目的と、セイラの父親であるアダムスを直接叩くという決意を彼に伝えていた。
「ええ。向こうはすでに俺たちの拠点を嗅ぎつけて、鮫島みたいな刺客まで送ってきました。このまま日本で防戦一方を続けていれば、いずれジリ貧になります」
俺が真っ直ぐに答えると、東郷さんは腕を組み、鋭い鷹のような目で俺たちを順番に見渡した。
「だが、相手は腐っても世界を裏で牛耳る巨大企業だぞ? セイラの武力と、お前さんのアイテム、そしてそこの嬢ちゃんの頭。どれもこれも優秀なのは認めるが、敵の本陣に乗り込むのは自殺行為に等しいぜ」
「分かってます。ですが、やらなきゃやられるだけです。……ただ、問題がありまして……」
俺が言葉を切ると、隣で凛がスッと一歩前に出た。
「エデン・グループの情報網はギルドにも劣りません。私たちが正規のルートでパスポートを使って出国しようとすれば、空港に着いた瞬間に迎撃部隊を差し向けられるか、入国を拒否されるのがオチです。東郷マスター、ギルドの裏ルートで、欧州までこっそり移動できるような手段に心当たりはありませんか?」
「……こっそり移動、ね」
東郷さんは机の上で指を組み、渋い顔をした。
「密航船やら裏の運び屋なんかも、特定されちまうだろうな。だが……一つだけ、悟られずに海を渡る絶対確実な方法があるにはある」
「本当!?」
セイラが身を乗り出す。東郷さんは短く息を吐き出した。
「ギルドが管理する『国家間転送陣』だ」
「国家間転送陣?」
「国連に所属しているギルド間を移動する極秘施設さ。本来はギルドマスター以外の利用は認められてねぇんだが……スタンピードといい、鮫島の件といい、お前さんたち大恩がある。その見返りとして特例で便宜を図る大義名分は十分にある。手配してやることは可能だ」
「ありがとう、仁さん!」
セイラがパッと顔を輝かせる。
だが、東郷さんの表情は晴れないままだった。
「喜ぶのは早いぜ、セイラ。転送陣を繋ぐのはいいが、問題は『降り立った先』だ」
「降り立った先、ですか?」
「ああ。転送先は、フランスのパリにある『欧州ギルド本部』になる。当然、そこで向こうのギルドマスターの入国審査を受けることになるんだが……こいつが、相当な曲者でな」
東郷さんが忌々しそうに舌打ちをした。
日本のギルドマスターにここまで露骨に嫌な顔をさせる相手とは、一体どんな人物なのだろうか。
「曲者って……賄賂でも要求してくるような、がめついタイプですか?」
凛が少しだけ警戒したように尋ねる。金の交渉事なら彼女の得意分野だが、東郷さんは首を横に振った。
「金で動くならまだ話は早い。向こうのギルドマスター。シャルルってんだが、あいつは金にも権力にも興味がねえ。ひたすらに『美』とやらを至上とする、度が過ぎた変わり者なんだよ」
「美、ですか?」
「ああ。基準はよく分からねえが、『美しいものは正義、醜いものは悪』。あいつの行動原理はすべてそれだ。もしあいつがお前らを『美しい』と判断すれば、欧州全土のギルドを動かしてでもお前らの最強の盾になってくれるだろう」
東郷さんは葉巻の灰を落とし、俺の目をジッと見つめた。
「だが、逆に『醜い』『つまらない』と判断されれば、その場で叩き出されるか、最悪の場合、欧州全土のギルドがエデンよりも先にお前らの敵に回ることになる。……そういう、極端で面倒くさい男なんだ」
美しさで国家間の対応が決まる。
確かに、金や力で交渉できない分、これほど厄介な相手はいない。
「まあ、兎に角。ワシの方で、転送陣の準備と向こうとの交渉は進めておく。数日はかかるだろうから、その間にせいぜい、『美の結晶』を見繕っておくことだな」
「分かりました。何から何まで、本当にありがとうございます」
俺たちが深く頭を下げると、東郷さんは「気にするな」と手をヒラヒラと振った。
「打算ありきさ。お前さんらがエデンをぶっ潰してくれりゃあ、日本のギルドとしてもデカい顔ができる。……死ぬんじゃねえぞ、若造」
「……はい!」
その言葉に背中を押され、俺たちは東郷さんの執務室を後にした。
◇
ギルド本部を出て、地下要塞へと向かう帰りの車内。
「美の探求者、ねえ。面倒な相手っぽいけど、あっちじゃ有数の権力者。味方にできれば心強いわね」
助手席で、凛がタブレットを弾きながら欧州のギルド情報を検索している。
「ああ。あっちの本陣で暴れるなら、欧州ギルドのバックアップは絶対に必要だ。なんとしてもそのシャルルさんを落とさないとな」
『フハハハッ! 主様、案ずることはありません!』
後部座席でセイラの隣に浮かんでいたカリバーンが、突然自信満々に声を張り上げた。
『美しさで勝負というのであれば、このワタシの出番ではありませんか! 白銀と漆黒が織りなすこの完璧なプロポーション! ワタシをその者の前に提示すれば、あまりの美しさに平伏すること間違いなしです!』
「お前を渡したら俺の護衛がいなくなるだろ。それに、お前は口を開いたら三秒でボロが出るから絶対にダメだ」
『なっ!? ひ、酷い! 主様はワタシの美しさを独り占めしたいのですね!? ああ、なんという愛の深さ……! しかしながら! 譲渡しなくとも、見せつけるだけでも──』
俺の言葉のポジティブな部分だけを受け取って騒ぐカリバーンに、セイラがクスクスと笑い声を上げる。
(極上の手土産か……昨日直したやつに、いくつか見栄えのしそうなものがあったな。アイテムボックスの中身をもう一度しっかり鑑定して、最高の一品を用意しよう)