Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
「じゃあ、さっそく始めるぞ」
俺は作業台の上に神聖な布を敷き、その中央に『聖剣エクスカリバー』を慎重に寝かせた。
思えば、あの雨の降るゴミ捨て場でこいつを拾った時は、ただの赤茶けた不燃ゴミにしか見えなかった。
それをボロアパートの流し台で、市販のサビ落としと金たわしを使ってゴシゴシと洗ったのがすべての始まりだ。
「よし。じゃあ、まずは現状を正確に把握する」
俺は右目の『真贋鑑定』を限界まで研ぎ澄まし、エクスカリバーの刀身を凝視した。
視界が切り替わり、ただの美しい白銀の刃の奥底に、黒い茨のような魔力の鎖が幾重にも絡みついているのが視えた。
「なるほど……15%しか解除できてなかったのも納得だ。表面の物理的なサビや汚れは落ちてたけど、コアに食い込んでる呪いがまだゴッソリ残ってる」
「呪い……それって、どうやって落とすの? だって、透が落とせなかったやつでしょ? 方法がないんじゃ……」
セイラが心配そうに身を乗り出してくる。
「いや、それは当時の俺が未熟だっただけだな。まあ、基本は変わらない。上手く洗うだけだ」
俺は話しながら、袋から『強力サビ落としクリーナー』と『中性洗剤』、そして『金たわし』取り出す。
「え……透、それって……」
「ああ。あの日、俺がこいつを拾って最初に洗った時のセットだ。原点回帰ってやつさ。呪いの根本にこびりついてる頑固なのには、案外こういう初心に帰ったアプローチが効くと思うんだよ」
「……いくら原点回帰って言っても、金たわしって……はぁ、もう突っ込むのも面倒だわ」
「気持ちの問題だよ。凛の腕輪だって、カリバーンが進化したのだってそうだろ? 今回は思い出の力を頼ろうってことさ」
後ろで腕を組んでいた凛が、心底呆れたようなため息を漏らしたので、俺は軽く反論しながら、ゴム手袋をはめた。
「さて、セイラ。お前の魔力が必要だ。俺がこのサビ落としと金たわしで呪いの結び目を削り落としていくから、それに合わせて刀身にありったけの魔力を流し込んでくれ。内と外からの挟み撃ちで、呪いを完全に弾き飛ばす」
「わかった! 任せて!」
セイラがエクスカリバーの柄を両手でしっかりと握りしめる。
彼女の碧眼がスッと細められ、『剣聖』としての膨大な魔力が白銀の刀身へと注ぎ込まれ始めた。
ブゥンッ……!!
刀身が共鳴音を鳴らし、眩い光を放ち始める。
だが、その光を抑え込もうとするかのように、黒い茨の呪いが表面にジワッと浮き出してきた。
「そこだッ!」
俺はサビ落としクリーナーをたっぷりと吹き付けた金たわしを、浮き出た呪いの結び目めがけて力強く押し当てた。
そして、一気に磨き上げる!
ジュワァァァァァァァッ!!!
激しい化学反応と魔力の衝突音がワークスペースに響き渡る。
クリーナーの成分と金たわしの物理的な研磨力が、セイラの魔力と反発して暴れる呪いを容赦なく削り取っていく。
《封印解除率:30%……45%……》
脳内にシステム音が鳴り響き、俺の視界に表示された解除率のパーセンテージがみるみるうちに跳ね上がっていく。
「そのまま押し込め、セイラ! 一気に100%まで持っていくぞ!」
「了解!! はぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
セイラが気合いの声を上げ、さらに一段階上の魔力を解放した。
俺も全身の力を込め、刀身の先端から根元まで、最後の呪いの残滓を拭い去るように金たわしを滑らせる。
《封印解除率:80%……95%……》
そして。
《封印解除率:100%》
《『聖剣エクスカリバー』の真の姿が解放されました》
――カァァァァァァァンッ!!!!
まるで天から祝福の鐘が鳴り響いたかのような、清冽で圧倒的な光の奔流が、地下要塞全体を白一色に染め上げた。
俺は思わず目を細め、光が収まるのを待った。
「……すげえ」
光の余韻が晴れた作業台の上。
そこにあったのは、以前の白銀の剣とは全く次元の違う『何か』だった。
刀身は透き通るような輝きを放ち、周囲の空間すらも微かに歪ませている。柄に埋め込まれた宝石は星の瞬きのように明滅し、刀身の中心には、神代の文字で刻まれた黄金のルーンが脈を打つように発光していた。
俺の『真贋鑑定』が、震えるような速度で新たなステータスを弾き出す。
====================
【名称】聖剣エクスカリバー・アヴァロン
【ランク】創世級
【状態】完全
【真価】あらゆる概念・防御を無効化する絶対切断能力。
所有者『神宮寺セイラ』の魂と完全同調。所有者の全ステータスを限界以上に引き上げ、ダメージと魔力を光の息吹によって常時超回復させる。
====================
「神話級のさらに上……創世級だと!?」
「これ、が……エクスカリバーの、本当の姿……」
セイラが震える手を伸ばし、新しく生まれ変わった柄にそっと触れる。
その瞬間だった。
フワァッ……と。
剣から溢れ出した黄金の光の粒子が、セイラの身体を優しく包み込んだ。
彼女のプラチナブロンドの髪が魔力によってふわりと舞い上がり、碧眼の奥に、かつてないほどに深く、澄み切った『剣聖』のオーラが宿る。
「……っ!」
セイラが軽く剣を振るった。
ただ手首を返しただけの、無造作な一振り。
だが、それだけでワークスペースの空気が『ピシッ』と音を立てて真っ二つに裂けたような錯覚に陥った。刃が空気を切る音すら置き去りにするほどの、絶対的な神速。
「……信じられない。私、今なら……どんなものでも斬れる気がする」
セイラが自身の両手を見つめ、驚きと歓喜の入り混じった声を漏らす。
以前の彼女でも十分に規格外だったが、今の彼女が放つプレッシャーは、あの空間隔離結界の中で暴れていた時とは比べ物にならない。
まさに『無敵』という言葉が相応しい佇まいだった。
「ノアが相手でも、絶対に負けないよ。お父様の野望も、私がこの剣で全部断ち切ってみせる!」
「ああ。最高に頼もしいぜ、セイラ」
俺がサムズアップを向けると、セイラは花が咲いたような満面の笑みで頷いた。
「ちょっと、透くん」
背後から、凛がツンツンと俺の肩を突っついてきた。
振り返ると、彼女は呆れ顔の中に、どこか興奮したような円マークの瞳を隠しきれずにいた。
「あれ、もし今オークションに出したらいくらになるかしら……。15億の15%が100%になったってことは、単純計算で……ううん、『創世級』の付加価値を考えれば……」
「売らないからな。あれはセイラの相棒だ」
「分かってるわよ! 専務としての職業病みたいなものよ!」
凛が頬を膨らませてそっぽを向く。
『グ、グヌヌヌヌッ……! あのような派手なだけの成金趣味の剣に、主様が目を奪われるなど……! ワタシも! ワタシも限界突破して創世級に至ればあるいは……!』
「楽しみにしてる。是非ともなったくれ」
俺の後ろの定位置でカリバーンが一人でライバル心を燃やして震えているが、ひとまずこれで、俺たちの最大火力は完全に整ったと言っていい。
「さて、あとは……手土産をケースに詰めて、出発の準備をしつつ、東郷さんの連絡を待つだけだな」
俺は凛とセイラを見渡し、決意を込めて頷き合った。