Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
隠し階段を降りた先は、およそ地下ダンジョンとは思えないほど幻想的な空間だった。
床と壁は磨き上げられた純白の大理石で覆われ、柔らかな魔力の光が回廊全体を仄かに照らしている。そして何より目を引くのは、至る所に咲き乱れる氷細工のように透き通った『白い薔薇』だ。
「うわぁ……本当に綺麗な場所。シャルルさんって、趣味いいんだね」
「油断しないで、セイラ。これ、全部魔力でできてるわ。甘い匂いも……なんだか頭がクラクラしそう」
凛が鼻元をハンカチで覆いながら周囲を警戒する。
俺は右目の『真贋鑑定』を発動させ、回廊を覆い尽くす白い薔薇を見つめた。
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【名称】白水晶の睡薔薇
【状態】開花状態
【真価】シャルルの魔力によって構築されたダンジョン・ギミック。花粉には強烈な幻覚作用と睡眠効果があり、吸い込めば美しい夢を見たまま二度と目覚めることはない。
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「凛の言う通りだ。あの薔薇の花粉、強力な睡眠毒になってる。不用意に近づいたり、傷つけて花粉を散らしたりしないように進もう」
「綺麗な顔して、えげつない罠を作るわね……」
毒薔薇の群生地を慎重に避けながら、俺たちは迷宮の奥へと進んでいった。
道中、何度か魔物との遭遇もあった。
ステンドグラスで構成された美しい死神や、大理石の彫刻がそのまま動き出したようなガーゴイル。どれもシャルルの『美』への執着を体現したような、芸術的な見た目の魔物ばかりだ。
――ガシャンッ!!
「ふふっ、脆いね!」
だが、いくら美しく着飾ろうとも、創世級へと至った『聖剣エクスカリバー・アヴァロン』を振るうセイラの前では、ただのガラス細工に過ぎない。
セイラが軽く剣を振るうだけで、美しい魔物たちは文字通り粉々に砕け散り、光の粒子となって消え去っていった。
「……ちょっと待って。確かにセイラは強いけど、これっていいの?」
粉々になったガーゴイルの残骸を見て、凛が少し顔をしかめた。
「シャルルさん、『美しい戦いの舞を披露しろ』って言ってたわよね。力任せに粉砕して瓦礫の山を作るだけの戦い方じゃ、『野蛮だ』とか『美しさがない』って難癖つけられそうじゃない?」
「うっ……確かに」
セイラが図星を突かれたように身を縮める。
相手が格下である以上、セイラのごり押しが最も有効だが、シャルルの極端な美意識を考えれば、ただ敵を倒すだけでは試練を突破したと見なされない可能性は十分にあった。
『主様! いかがですか! ワタシの出番ではありませんか!』
俺の背後で、出番を今か今かと待ちわびていたカリバーンが、ブンブンと空気を震わせて猛烈にアピールしてきた。
『ワタシならば! この洗練された闇と光のアンサンブルで、あの成金ギルマスの度肝を抜く、究極に芸術的な塵に変えてご覧に入れます!』
「……そうだな。ちょうどいい機会かもしれない」
俺は歩みを止め、背後に浮かぶカリバーンを手に取った。
日本で鮫島と戦った際、俺が全魔力を注ぎ込んだことで、人の姿になった。
だが、それが偶然の産物だったのか、任意でいつでも引き出せる力なのか、まだテストしていなかったのだ。
「おい、カリバーン。お前、あの時の人の姿に、いつでもなれるのか?」
『ッ……!? も、もちろんです! ただ、あの姿を維持するには主様からの魔力供給が不可欠でありまして……! 主様の熱い魔力で満たしていただけるのなら、いつでも、何度でも!』
「……じゃあ、やってみるか」
そんなことを話しながら、俺たちが巨大な吹き抜けの広間へと足を踏み入れた、その時だった。
――ガコン、ガコン。
広間の中央に鎮座していた巨大な純白の石像が、重々しい音を立てて動き出した。
手には巨大なランスを持ち、全身を緻密な彫刻で覆われた『白亜の騎士』。間違いなく、この階層の門番となる強敵だ。
「よし、カリバーン。試運転も兼ねて、シャルルさんにお前の『美しさ』を見せつけてやれ」
俺はカリバーンの柄を両手で握りしめ、自身の魔力を一気に注ぎ込んだ。
日々の手入れで完全に同調している魔力回路が、俺の意思に応えて爆発的に脈を打つ。
――トクンッ!
『来ます、主様の、極上の魔力がァァァッ!!』
眩い光と漆黒の闇が螺旋を描いて広間を包み込んだ。
光が収まると、そこには白銀と漆黒のツインテールを揺らし、豪奢なフリルのゴシックドレスを身に纏った少女が、ふわりと大理石の床に降り立っていた。
「フハハハッ! 主様の熱い魔力に応じて! 主様の第一の剣、カリバーン、ここに推参いたしました!」
両手に白銀の聖剣と漆黒の魔剣を構え、少女――カリバーンが自信満々に胸を張る。
「おおっ、本当にまた女の子になった!」
「見た目はドールみたいに完璧なのに、言動が玉に瑕ね……」
セイラと凛が感嘆と呆れの入り混じった声を漏らす。
「カリバーン、相手はあの石像だ。ただ壊すなよ? 多分シャルルさんがどこかで見てるからな、芸術点高めで頼む」
「お任せを。ワタシの華麗なる舞、とくとご覧あれ!」
ズォンッ! と重低音を響かせ、白亜の薔薇騎士が巨大なランスを構えて突進してくる。
だが、カリバーンは優雅にドレスの裾を摘み、まるで舞踏会でステップを踏むかのように軽やかにその一撃を躱した。
「まずは、漆黒のロンドから」
左手の魔剣が滑るように石像の装甲を撫でる。
傷をつけるのではなく、石像に宿る原動力――魔力のみを正確に吸い取っていく。力を奪われた騎士の動きが、目に見えて鈍くなった。
「そして、白銀のワルツ」
反転し、右手の聖剣が弧を描く。
浄化の光が石像の関節部のみをピンポイントで貫き、無駄な破壊を一切伴わずに、その巨体を芸術的なまでに綺麗な形へと切り分けていく。
光と闇の軌跡が、広間の中で一輪の巨大な薔薇を描き出すかのような、まさに『双剣の舞』。
最後は交差させた双剣で、騎士の胸のコアだけを正確に貫き、石像は音もなく崩れ落ちた。
瓦礫の山ではなく、まるで最初からそうであったかのように、美しく解体された大理石のオブジェがそこには残されていた。
「フフッ、いかがでしたか主様。ワタシの洗練された戦いぶりは」
カリバーンが双剣を収め、スカートの裾をつまんで淑女のようにカーテシーをして見せる。こうやって取り繕えるのなら普段からそうして欲しいものだ。
「ああ、見事だ。任意での擬人化も問題なくできることが分かったし、これで戦術の幅も広がるな」
俺が褒めると、カリバーンは頬を染めてモジモジと身悶えし始めた。
やっぱり反応が面倒くさい。
俺は魔力供給を止め、彼女を元の剣の姿へと戻した。
「あんまり基準は分からないけど、これで『美しい戦い』は出来たんじゃないかしら。さあ、この先が最深部ね」
凛が広間の奥にある重厚な扉を指差す。
シャルルの課した試練、『深淵の薔薇』はもう目の前だ。
俺たちは気を取り直し、迷宮の最深部へと足を踏み入れた。