Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
重厚な扉を押し開けると、そこには外の純白の回廊とは対照的な、夜空のように暗く静謐なドーム状の空間が広がっていた。
壁と床はすべて磨き上げられた鏡面の水晶で構成され、天井には星々のような微小な魔力光が瞬いている。
その中央、水晶の祭壇の上には、吸い込まれるような漆黒の花弁を持つ薔薇が咲き乱れていた。
「……あれが、『深淵の薔薇』」
セイラが感嘆の声を漏らす。
だが、俺はすぐに右目の『真贋鑑定』を発動させ、眉をひそめた。
「待て。祭壇の上に咲いてる薔薇……ざっと百本はあるぞ。しかも、本物はその中の一つだけで、他は爆発する」
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【名称】幻影の睡薔薇
【状態】トラップ
【真価】本物を隠すためのダミー。触れた瞬間、爆発的な衝撃波を放ち、周囲のすべてを粉砕する。
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【名称】深淵の薔薇
【状態】完全開花
【真価】欧州ギルドの地下深くでのみ咲く魔力の結晶。極めて繊細であり、微かな物理的衝撃や、質の違う魔力が直接触れた瞬間、光の塵となって崩壊する。
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「本物は一つだけで、残りは全部爆弾……間違ったものを触れば、本物の薔薇も衝撃で消し飛ぶってわけね」
凛が青ざめた顔で祭壇を見つめる。
美しさの裏に隠された、あまりにも悪意に満ちたシャルルの罠。ただ腕っぷしが強いだけでは、絶対にクリアできない仕様になっている。
「でも、透の目ならどれが本物か一発で分かるんでしょ?」
「ああ。本物は中央の少し左、一番小ぶりなやつだ。ただ……問題はそれだけじゃないみたいだぞ」
俺が祭壇を指差した、その時だった。
キィィィン……!
澄んだ共鳴音が広間に響き渡り、祭壇を囲むように配置されていた四体の水晶の彫像が、ゆっくりと動き出した。
四本の腕を持ち、それぞれが鋭いクリスタルの刃を構えた『
「うわっ、また動いた! でも、あの程度の動きなら、私が一瞬で――」
セイラがエクスカリバーに手をかけ、飛び出そうとするのを、俺は慌てて制止した。
「待て、セイラ! あいつら、ただのゴーレムじゃない! 体内に極限まで圧縮された魔力が詰まってる。下手に力任せに破壊すれば、ガラスの破片と爆風が広間中に飛び散るぞ!」
「えっ……!?」
「そうなれば、祭壇のダミーの薔薇が誘爆して、本物の薔薇も一瞬で消滅する。シャルルさんの言っていた『美しい戦いの舞』ってのは、そういうことだ。力任せの破壊を禁じているんだ」
「セイラが強いことくらい、把握してるでしょうし、そう簡単にはいかないわね……」
凛が唇を噛む。
破壊すれば爆発し、薔薇が散る。かといって放置すれば、クリスタルの刃が俺たちを切り刻む。
『フフッ、主様。ここはやはり、ワタシが魔力だけを吸い尽くして――』
「いや、四体同時相手だとお前の魔力吸収の速度じゃ間に合わない」
カリバーンの提案を却下し、俺はセイラを見た。
「セイラ。賭けにはなるが……今のエクスカリバーの力なら、いけるかもしれない」
「え?」
「あらゆる概念と防御を無効化する『絶対切断』の力。なら、切り裂いた後に発生する衝撃波や爆発も、斬り伏せることができるんじゃないか? セイラの速さ有木にはなるが、やってみる価値はあると思わないか?」
俺の提案に、凛が目を丸くする。
だが、セイラは一瞬キョトンとした後、パァッと顔を輝かせた。
「……そっか! 全部斬っちゃえばいいんだね! うん、やってみる!」
セイラは『エクスカリバー・アヴァロン』を抜き放った。
刀身から溢れる神々しい黄金の粒子が、彼女のプラチナブロンドの髪をふわりと揺らす。
「ガァァァァッ!!」
四体のクリスタル・ガーディアンが、一斉に四方からセイラに襲い掛かる。
鋭い水晶の刃が彼女を捉えようとした瞬間――セイラの姿がブレた。
「――っ!」
音すら置き去りにする神速の斬撃。
エクスカリバーが水晶の巨体を深々と両断した。
ピキィィィンッ!
切断されたガーディアンの体内から、暴走した魔力が爆発的な衝撃波となって外へ溢れ出そうとする。ダミーの薔薇を誘爆させるに十分な威力の爆風。
だが、セイラは剣を振り抜いた体勢から、手首だけを返してもう一度、虚空を斬り裂いた。
ズバァァンッ!!
信じられない光景だった。
膨張しかけた『爆発の衝撃波』が、エクスカリバーの刃によって真っ二つに切断され、音もなく霧散してしまったのだ。
爆風はおろか、飛び散るはずだった水晶の破片すらも、切断の光に飲み込まれて空中で綺麗に消滅した。
「すご……本当に衝撃ごと斬っちゃったわよ、あの子……」
凛が信じられないものを見たように呟く。
「よしっ! この調子で行くよ!」
感覚を掴んだセイラは、そのまま流れるようなステップで残りの三体へと肉薄する。
斬る。そして、爆発の予兆ごと斬り伏せる。
舞を踊るような軽やかで美しい剣技。一切の騒音も、破片の飛散も許さない、究極に洗練された『絶対切断』のフルコース。
ものの十秒。
祭壇の薔薇の葉一枚すら揺らすことなく、四体の守護者は完全にこの空間から消し去られた。
「ふぅ……どう? 透。私、綺麗にできたでしょ!」
セイラがエクスカリバーを鞘に収め、振り向いてVサインを作る。
「ああ、完璧だ。シャルルさんが見てたら、スタンディングオベーションしてるだろうな」
俺が褒めると、セイラはえへへと嬉しそうに笑った。
さて、ガーディアンの排除が終わったなら、次は俺の仕事だ。
俺は祭壇の前に歩み寄り、右目の『真贋鑑定』で百本のダミーの中から、魔力の波長が完璧に調和している一本の『深淵の薔薇』を視界にロックした。
「普通に摘めば衝撃で崩れるが……空間ごと切り取っちまえは問題ない」
俺は左手の『
この指輪は、対象を空間ごと切り取って時間停止状態のまま亜空間へ保存する。つまり、直接薔薇に触れることも、外部の魔力を干渉させることもなく「摘み取る」ことができるのだ。
「収納」
シュンッ、という微かな音と共に、水晶の祭壇の上から、指定した一本の漆黒の薔薇だけがノーダメージでふわりと消え去り、俺のアイテムボックスの中へと収まった。
「……ちょっと風情はないけど、一番確実で安全な方法だろ?」
「透くんらしいわね。無駄を省いた最短ルート、嫌いじゃないわ」
「うんっ! これでシャルルさんの試練はクリアだね!」
目的の品を無事に回収した俺たちは、顔を見合わせて頷き合った。
欧州ギルドマスターの試練を突破した。あとは、あの上にいる気難しい美の探求者に、これと『極上の手土産』を渡し、エデン討伐の最強の盾となってもらうだけだ。
「よし、シャルルさんのところへ戻ろう」
俺たちは隠し階段へと踵を返し、転送陣のあるメインホールへと向かった。