Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~   作:えだのあ

94 / 105
第89話 合格

 隠し階段を上り、俺たちが再び豪華絢爛なメインホールへと戻ると、そこにはシャンデリアの光を浴びて優雅に拍手をするシャルルの姿があった。

 

「――ブラヴォー。見事な帰還だ、極東の客人たちよ」

 

 大理石の階段をゆっくりと降りながら、シャルルはサファイアブルーの瞳を細めて微笑んだ。

 

「君たちの戦いぶり、しっかりと見届させてもらったよ。……実に見事だった。特にあの剣士のレディー、現象そのものを断ち切る至高の剣技、まさに究極の芸術と言えよう。そして……」

 

 シャルルが俺の方へと視線を向ける。

 俺は無言で、左手の『アイテムボックス』から空間ごと切り取った『深淵の薔薇』を取り出し、ふわりと宙に浮かせて提示した。

 

 漆黒の花弁は一枚たりとも傷つくことなく、完璧な美しさを保っている。

 

「傷一つなく、魔力の波長も全く乱れていない。空間ごと保存するその鮮やかな手並み……無駄を削ぎ落としたある種の『機能美』すら感じるね。合格だ。君たちは間違いなく、私の試練を美しく乗り越えた」

 

「じゃあ、エデン・グループとの戦い、協力してくれるってことでいいんですね?」

 

 凛が自信ありげに一歩前に出る。

 だが、シャルルは口元に優雅な笑みを残したまま、こちらをじっと見つめてくる。

 

「ああ、君たちの実力が本物であることは十分に理解できた。協力はする、が……」

 

 シャルルは俺たちを真っ直ぐに見据えた。

 

「エデン・グループという巨大な醜悪を相手に全面戦争を起こすには、私のパッションを完全に燃え上がらせるだけの『圧倒的な美』が、あと一押し足りない。君たちは優秀な戦士であり、機能的だ。しかし、いつ冷めるか分からないよ」

 

「……」

 

 やはり、ただ試練をこなすだけではこの気難しい美の探求者は首を縦に振らないらしい。

 だが、これは想定内だ。むしろ、ここからが俺たちの本番である。

 

「戦いだけが、俺たちの価値じゃないですよ」

 

 俺は一歩前に出ると、シャルルに向かってニヤリと笑った。

 

「シャルルさん。あなたが真の美を解するギルドマスターだというなら、これを見て評価してくれませんか?」

 

 俺はアイテムボックスから、黒いベルベットの専用ケースを取り出した。

 シャルルの前で、パカッと静かにその蓋を開ける。

 

 中に鎮座しているのは、日本の地下要塞で完璧に修復し、磨き上げた国宝級の宝飾品――『天上の涙《セレスティアル・ティア》』だ。

 

「ッ……!!」

 

 それを見た瞬間。シャルルのサファイアブルーの瞳が限界まで見開かれ、優雅な立ち振る舞いがピタリと凍りついた。

 彼は震える両手を伸ばし、まるで神聖なものに触れるかのように、そっとそのブローチを手に取った。

 

「こ、これは……まさか、幻の『天上の涙《セレスティアル・ティア》』!? な、なぜ、これほど完璧な状態で……!」

 

 シャルルの声が、先ほどまでの余裕を失い、純粋な驚愕と歓喜に上ずっていた。

 

「信じられない……。数百年前の動乱で失われ、魔力回路も完全に砕け散ったと文献に記されていたはずだ。それが、寸分の狂いもなく再構築されている。傷一つないサファイア、歴史の重みを感じさせつつも新品のようなこの圧倒的な輝き……まさに美の極致!」

 

 シャルルはブローチを光に透かし、その内部に宿る『万華の輝き』に見惚れて言葉を失っていた。

 やがて彼は、ハッと我に返ったように俺を見た。

 

「一体、どの国の国宝級の錬金術師がこれを!? これほどの芸術品を蘇らせるなど、神の御業に等しい!」

 

「俺が直したんですよ。出立前に、サクッと」

 

「き、君が!?」

 

 シャルルは、地味なパーカー姿の俺を、穴が開くほどまじまじと見つめ直した。

 そして、数秒の沈黙の後――彼は突然、大輪の薔薇が咲くようにパァッと顔を輝かせた。

 

「……ファンタスティックッ!!」

 

 シャルルは俺の手をガシッと両手で握りしめ、目をキラキラと輝かせて興奮をまくしたてた。

 

「そうか、そういうことだったのか! 君のその無骨で機能性のみを追求した姿すらも、究極の美を生み出すための『余白』に過ぎなかったということか! 自身の装飾を捨て、ただ作品の美しさのみを極限まで高める……すまない、私の目は節穴だった!」

 

「えっ、いや、単に着飾るのが面倒なだけで……」

 

「謙遜は美徳だが、君の生み出したこの奇跡の前では野暮というものさ! Master_Eye、君こそが真の芸術家《アルティザン》だ!」

 

 完全に都合の良いポジティブ解釈で、シャルルのテンションが最高潮に達している。

 背後で凛が「……ちょろいわね、この王子様」と小さく呟くのが聞こえた。

 

「シャルルさん。じゃあ、私たちに協力してくれるの?」

 

 セイラが念を押すように尋ねると、シャルルはブローチを胸に抱き、力強く、そして芝居がかった動作で大げさに頷いた。

 

「もちろんだとも。このような至高の美を私にもたらしてくれた君たちは、私の最上の友人だ! エデン・グループのような無機質な醜悪など、この欧州ギルドマスターたる私が、君たちと共に華麗に叩き潰してあげようとも」

 

 見事なまでの手のひら返し。

 だが、これで欧州全土のギルドのバックアップという、これ以上ない強力な盾を手に入れた。

 

「よろしく頼みますよ、シャルルさん」

 

「ああ、任せてくれたまえ。さあ、私の執務室へ行こう。楽園を美しく攻略するための、完璧なシナリオを練ろうじゃないか」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。