Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
俺がアイテムボックスから取り出したのは、日本から持参した日用品のストック――パソコンのキーボード掃除などに使うスプレー缶型の『強力エアダスター』。
そして、ホームセンターで数百円で買えるお馴染みの『接点復活スプレー』だ。
「トオル? それは……単なるスプレー缶のように見えるが……何かの魔導具なのかい?」
「あー……えっと、まあ、そんなところです」
俺は言葉を濁しながら、アガートラームの背中側にある、魔力炉心へと繋がるメンテナンスハッチをカパッと開けた。
「さーて、長年のホコリを……あ、そうだ。めちゃくちゃ埃舞うんで、これ付けといてください。ほら、凛とセイラも」
俺はアイテムボックスから市販の不織布マスクを取り出し、三人に手渡した。
「マスク……? これまた何の変哲もないマスクに見えるが……」
「早くそれ付けて離れたほうがいいですよ。弊社の社長、作業中は周りのこと気にしませんから」
凛が手慣れた様子でマスクを着けながら、シャルルを数歩後ろへと追いやる。セイラも素直にマスクを着けて見守る態勢に入った。
「よし、じゃあいくぞ」
俺はエアダスターの細いノズルを、複雑に入り組んだ魔力回路の奥深くに差し込み、一気にトリガーを引いた。
――プシュゥゥゥゥゥッ!!
圧縮空気の暴力的な一撃が、数千年単位で回路の隙間にこびりついていた微細な金属ダストを、猛烈な勢いで外へと吹き飛ばす。
マスク越しでも咳き込むほど、白亜の部屋が一時的に真っ白な粉塵に包まれた。
『ゲホッ、ゲホッ! 主様! ワタシにはマスクがないのですが!? 刀身が! 刀身が汚れてしまいますゥゥッ!』
「お前も離れてれば……というか息してないだろ。後で綺麗にしてやるからちょっと我慢しろ」
『であればよし!!』
カリバーンとじゃれながら、俺はダスターの角度を変え、徹底的に内部のゴミを吹き飛ばしていく。
所詮は誇り。空気の圧力の前には無力だ。
「よし、ゴミは全部飛んだな。仕上げはこいつだ」
粉塵が落ち着いてきたところで、俺は接点復活スプレーを手に取った。
金属端子の接触部分に、シュッ、シュッと丁寧に吹き付けていく。このスプレーの特殊な油膜成分が接点の通電性を蘇らせ、魔力の流れをスムーズにし、再び埃が付着するのを防いでくれる。
「……よし、作業完了だ」
ものの15分程度。
俺はメンテナンスハッチをカチャンと閉じ、スプレー缶をアイテムボックスへと片付けた。
「えっ……お、終わりかい? 今のは一体何の儀式……というか、まさかあんな単純なことで、アレがどうにかなるはずが……」
シャルルがマスクを外し、半信半疑の表情で装甲服を見つめる。
トップクラスの魔導士たちが何日もかけて解明できなかった問題を、二種類のスプレー缶を吹き付けただけで解決したと言われても、信じられないのは当然だ。
「なら、試してみましょう。俺がテストパイロットをやりますよ」
「なっ、待つんだトオル! 万が一また暴走すれば、命に関わるぞ! ここは私が──」
シャルルが血相を変えて制止しようとするが、俺は構わずアガートラームの前に立ち、その胸部のコアにそっと手を触れた。
そして、俺自身の魔力を微かに流し込む。
――ギュイィィィンッ……!
重厚な起動音。
先ほどまで暴走の兆候として赤黒く点滅していたという装甲の各部ラインが、今度は澄み切った清冽な青色の光を放ち始めた。
暴走の気配は微塵もない。淀みなく、完璧に魔力が循環している。
カシャッ、シュイィィン……。
装甲が自動的に展開し、俺の身体を迎え入れるように開いた。
俺がその中に背中から足を踏み入れると、各部のパーツが滑らかにスライドし、俺の体型に合わせて完璧にフィットしていく。
最後に、鋭い流線型のヘルメットが装着され、バイザーの奥でシステムが起動した。
《システム・オールグリーン。魔力回路、正常。……生体認証を完了。古代魔導機装・アガートラーム、展開》
「最高だな、コレ」
着た瞬間、自分の身体が羽毛のように軽く、それでいて鋼のような力強さに満たされているのを感じていた。
軽く拳を握り込むだけで、凄まじいエネルギーが手のひらに集束していくのが分かる。
「……! ブラヴォー! ブラヴォー!」
その光景を見ていたシャルルが、感極まったように両手を高く掲げ、顔を紅潮させて叫んだ。
「完璧だ! なんという無駄のない挙動、なんという美しい魔力の光! トオル、君は本当に、奇跡の芸術家
シャルルからの手放しの称賛を浴びながら、俺はヘルメットのバイザーを解除し、素顔を晒してニヤリと笑った。
「言ったでしょう、俺のやり方で直すって」
俺がそう言って装甲の感触を確かめていると、ヘルメットの内部スピーカーから無機質なシステム音声が鳴り響いた。
《緊急時の自動展開システムを有効化します。ロック解除のための音声コードを登録してください》
「うおっ!? なんか変なとこ押しちゃったか?」
「どうしたの?」
「いや……なんか合言葉で自動展開するらしい。まあ……至れり尽くせりなのか?」
「へえ。合言葉って、何にするの?」
セイラが興味津々といった様子で覗き込んでくる。凛も呆れつつ耳を傾けていた。
「そりゃあ、こういうスーツを着る時の定番といえば一つしかないだろ」
俺はコホンと一つ咳払いをし、システムに向かってハッキリと発声した。
「――『変身』」
《ロック解除コード『変身』を受理。音声自動展開モードをアクティブにします》
「おおっ! うんうん! やっぱりそうだよね!」
「……はぁ」
セイラが嬉しそうにはしゃぐのと対照的に、凛はこめかみを押さえながら深い溜息を吐いた。
「……本気? この神話級の古代遺物で、特撮ヒーローごっこをやるつもりなの?」
「かっこいいじゃん! こういうのはロマンだよ! 私もやってみたい!」
「変身、か。短い発音の中に、己の魂を次の次元へと昇華させるような、力強い響きを感じるよ。私は美しいと思うよ」
「……シャルルさん、そんな深い意味はないわ。絶対に」
凛が冷ややかな目を向けてくるが、シャルルのポジティブな解釈に助けられ、俺は満足げに装甲を解除して元のパーカー姿に戻った。
アガートラームは元の待機状態に戻り、アイテムボックスへと収納される。これで、いつでも「変身」の一言で呼び出せるはずだ。
「なんにせよ素晴らしい結果だ。これで、君たちの戦力はさらに完璧なものに近づいた」
シャルルは興奮冷めやらぬ様子で手を叩いた後、ふと悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「だが、真の魔導機装は飾っておくだけでは完成しない。実戦で躍動する姿こそが最も美しいはずだ」
「……つまり?」
「トオル。その『アガートラーム』の実力……戦闘経験のない君をどこまでサポートできるのか、私自身が相手になってテストしてあげようじゃないか」
欧州ギルドマスター自らの手合わせの申し出。
俺がどこまでSランク級の相手に通用するかを確かめるには、これ以上ない機会だ。
「いいんですか? 私としては願ってもない申し出ですが」
「もちろん。この場でよければ、相手になろう。君の『変身』とやらが魅せる美しき舞、私の肌で直接味わわせてもらうよ」