Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~   作:えだのあ

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第92話 蹴撃

 白亜の研究施設の中央。

 広々としたテストエリアに立ち、シャルルは優雅に上着を脱ぎ捨てた。体にフィットした美しいシャツ姿になり、軽く手首を回す。

 

「では、始めようか」

 

 シャルルが微笑みかけると、俺は小さく息を吐き、システムに合言葉を告げた。

 

「――『変身』」

 

《ロック解除コードを受理。古代魔導機装・アガートラーム、展開》

 

 シュイィィン! と清冽な青い光が全身を包み込み、流線型の漆黒と白金の装甲が瞬時に俺の身体に纏われる。バイザーに各種ステータスが表示され、身体能力が底上げされる全能感が再び全身を駆け巡った。

 

 そして俺は、背後にふよふよと浮かんでいたカリバーンを握り、スッと構えた。

 

「……おや? その剣を使うのかい? 今回は装甲のテストだと思っていたが」

 

 不思議そうに首を傾げるシャルルに、俺は装甲のヘルメット越しに苦笑して答えた。

 

「すみません。多分こいつ、アガートラームだけで戦うと死ぬほど拗ねるんで」

 

『主様ァッ! ワタシを自らの手で振るってくださるとは! このカリバーン、感激のあまり刀身が熱く融けそうです!! ああっ、その無骨な装甲すらも主様を引き立てる額縁に見えてきました!』

 

 俺の手の中で嬉しそうにブォンブォンと振動するカリバーン。自律戦闘もできるが、こうして俺が直接武器として振るうことも当然可能だ。

 というか、別の装備を使ったうえに自分が出番なしとなれば、後でどれだけ面倒くさい抗議を受けるか分かったものじゃない。

 

「フフッ、なるほど。武具にも心がある。それに応えるのもまた、美しき主の務めというわけだね」

 

 シャルルは納得したように微笑むと、スッと腰を落とし、独特な構えを取った。

 両手を軽く顔の前に添え、足幅を狭めた、洗練された立ち姿。

 フランス発祥の蹴り技を主体とした格闘技――『サバット』の構えだ。

 

 同時に、シャルルの全身から黄金色のオーラが爆発的に立ち上った。

 

「美の極致《ボーテ・シュプレーム》」

 

 彼が短くスキル名を紡ぐと、その細身の身体を包むオーラが極限まで高密度に圧縮され、攻防を飛躍的に高めるバフとなって定着した。

 空気がピリピリと震える。欧州全土の探索者を束ねるトップのプレッシャー。

 

「――行くよ」

 

 シャルルの姿が、ブレた。

 いや、完全に視界から消えた。

 

「なっ!?」

 

 目で追うことすら不可能な超速。

 だが、俺の思考が追いつく前に、アガートラームのオートサポートシステムが機能した。

 

《敵対的接近を検知。自動防御アシストを実行》

 

 ――ガキィィィィンッ!!!!

 

 俺の身体が勝手に動き、左腕の装甲を顔の横へと跳ね上げた瞬間。

 そこに、シャルルのしなやかで鋭いハイキックが、寸分の狂いもなく直撃していた。

 

 凄まじい衝撃波が円形に広がり、研究施設の大理石の床がメキメキとひび割れる。

 普通の探索者なら、防いだ腕ごと首を吹き飛ばされているであろう必殺の蹴撃。

 

 しかし。

 

「……ほう」

 

 シャルルが僅かに目を見開く。

 俺の左腕の装甲は、傷一つ、凹み一つ付いていなかった。

 それどころか、装甲内部の緩衝システムが衝撃を完全に殺し尽くし、俺自身の肉体には『ポンと叩かれた』程度の感覚しか伝わってきていない。

 

「凄い硬さだ……ッ!」

 

 俺自身が一番驚いていた。これが神話級の古代遺物、アガートラームの絶対装甲。

 

「素晴らしい硬度だね! だが、これでどうかな?」

 

 シャルルが空中で姿勢を捻り、流れるような連撃を放つ。

 鞭のようにしなるローキック、死角から顎を狙う鋭い右フック、そして装甲の隙間を的確に突く蹴りの乱舞。

 一切の無駄がなく、洗練され尽くした芸術的なまでの徒手空拳。

 

 俺はアガートラームのサポートに身を任せ、その連撃を腕や肩の装甲で次々と受け止める。

 ガンッ! ゴォンッ! と、まるで鐘を叩くような重低音が響き渡るが、漆黒と白金の装甲はシャルルの猛攻を完全に弾き返し続けていた。

 

「よし、今度はこっちの番だ!」

 

 俺はシャルルの蹴りを受け止めた反動を利用し、右手に握ったカリバーンを振り抜いた。

 漆黒と白銀のオーラが螺旋を描き、シャルルの胴体を薙ぎ払う。

 

「甘いよ」

 

 だが、シャルルはつま先で床を弾くようにして軽やかに後退し、カリバーンの斬撃をミリ単位で見切って躱した。

 さらに、避けながら放たれた美しい軌道のカウンターキックが、カリバーンの刀身の腹を的確に蹴り弾く。

 

『ヌウッ!? このワタシの斬撃を、素足で弾くというのですか!』

 

「私の『美の極致』は、肉体を神話級の武具と同等以上にまで引き上げる。君のその素晴らしい二色の刃といえど、容易くは斬らせないよ」

 

 シャルルは優雅に着地し、再びサバットの構えを取る。

 

「驚いたよ、トオル。君自身の戦闘経験は無に等しいはずだが、アガートラームのサポートと君の目が、見事に噛み合っている。君は今、紛れもなく私と同等の領域に立っている」

 

「それはどうも。けど、シャルルさんの速さと技には、俺一人じゃ絶対に追いつけないですね」

 

 俺はカリバーンを構え直し、息を吐いた。

 アガートラームの防御力とサポートがあってようやく攻撃を防げているが、シャルルの洗練された技術とスピードの前には、俺の素人の剣振りではかすりもしない。

 

「フフッ、それでも十分に『美しかった』よ。この鎧がただの鉄屑ではなく、君という最高のパートナーを得て本来の輝きを取り戻したことが、私自身の肌でよく分かった」

 

 シャルルは纏っていた黄金色のオーラをフッと霧散させ、戦いの構えを解いた。

 

「テストはここまでで十分だ。君たちの戦力は、私の期待を遥かに超えていたよ」

 

 俺もホッと息を吐き、アガートラームを待機状態へと戻した。

《スタンバイモードへ移行します》という音声と共に、装甲が解けてアイテムボックスへと収納されていく。

 

「お疲れ様、透! すっごくカッコよかったよ!」

 

「ええ。あんだけボコボコにされてノーダメージだなんて、最高の盾ね」

 

 見学していたセイラと凛が駆け寄ってくる。

 

「さあて、やることもやったし、今度こそ私の執務室で語り合おうじゃないか」

 

「はい、お願いします」

 

 シャルルは乱れたブロンドの髪を優雅に掻き上げ、扉のほうへと歩みを進めた。

 新たな力を得て自信を得た俺たちはその背中を追い、意気揚々と執務室へと歩みを進めた。

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