SAO/Black Rounds   作:NT@K

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第五話「ビーター」

 遂に決戦の朝が来た。

 朝になって急に作戦変更の旨が伝えられた。

 本来であれば、ボスのコボルドロードのタゲを交互に取りつつ、防御に徹する壁部隊にA・B隊。取り巻き殲滅にC・D隊、高機動高火力でコボルトロードと取り巻きを臨機応変に攻撃するE隊。ボス・取り巻き両者の攻撃を阻害する長物装備の支援サポート部隊に、ボス担当のF隊に2グループ・取り巻き担当のG隊に2グループ。そしてあぶれ組の4人はF隊の取りこぼしを潰すというサポートを行う編成だった。

 サポート部隊のサポートという時点で、もはやセンチネルの経験値すら貰えるかどうかという酷い閑職だったが、昨夜の親睦会でキリトとアルトリウスの日課であった決闘を見ていた観客達の何人かの進言と、セタンタの斥候としてのボス部屋発見の功績により、C・D隊の取りまとめとして正式に組み込まれる事になった。

 ずっと不満を言っていたセタンタも「つまりはさっさと俺らでセンチネルを殲滅してボス攻略に挑めるって事だろ」と燃えていた。

 キリトも正直、見世物と化していた朝の模擬戦がこのような結果に結びつくとはと驚き、わらしべ長者やバタフライエフェクトに大いに感謝した。

 

「セタンタの言う通り、センチネルを早急に殲滅出来れば私達もボスに向かうことが出来ます。つまりこれは、センチネルの経験値とボスの経験値の両方を手に入れるチャンスです。皆さんの働きに大いに期待します」

 

 おおっ、と湧き上がるC・D隊。

 セタンタの一件もあり、もっと揉める事も予想できだが、グループ編成でも引く手数多だったアルトリウスが陣頭指揮を執る事で、C・D隊の士気は急激に上がっていた。彼女自身、人を率いる才能があったのだろう。取り巻きを相手にするだけと落胆していたC・D隊の戦意を、これでもかと引き上げてくれた。

 

「すごいわね、彼女」

 

「ああ。一緒に旅をした俺もびっくりだ」

 

 そういうキリトはC・D隊の後ろを再びフードを被ったアスナととぼとぼと歩く。

 キリトは気になって聞いた。

 

「なんでアンタはまたフードなんか被ってるんだ」

 

「……彼女の人気を見たらちょっと顔を出しづらくなっちゃって」

 

 なるほど、とキリトは納得する。

 恐らく最初からフードを被っていたのは、珍しい女性プレイヤーだからと言って近づいてくる男連中に嫌気を差しての恰好だったのだろう。言えばアスナは否定するだろうが、アルトリウスと別種の美少女だ。それは人気も出るだろう。

 

「まあ、いいじゃねーか。その分、俺らがアスナの可愛さを一人占めできるんだからよ」

 

 セタンタがC・D隊から出てきて、アスナに絡む。騒動を起こしたセタンタだったが、その痛快な性格からかC・D隊の面々とも打ち解けていた。

 絡むセタンタに、アスナが露骨に嫌そうな顔をする。……いや、顔はフードで見えないが。

 

「セタンタさん。真面目にやってください」

 

 軟派男に憮然と返すアスナ。

 だが、軟派男には暖簾に腕押し、糠に釘。

 

「おう。ボス部屋に着いたらな」

 

「今からです!」

 

 また始まったとキリトは遠い目で2人を見る。朝の決闘後のアルトリウスとのやり取りは知らぬ存ぜぬ、棚上げである。

 と、程なくしてセタンタが斥候としてマッピングしてくれたボス部屋に漸くたどり着いた。

 リーダーのディアベルがボス部屋の前に立ち、振り返る。

 

「みんな! 最後に俺から言える事は一つだ。勝とうぜ!」

 

 その力強い言葉に皆頷く。

 それ以上の言葉は要らない。後はディアベルの言う通り、勝つだけだ。

 ディアベルが皆の面持ちに満足して、振り返り、ボス部屋に触れる。すると、扉は一人でに音を立てて開いていく。

 王宮の玉座の間、その開けた部屋の奥で暗がりの中、怪しげに光る双眸が見える。

 

「いくぞ!」

 

 その掛け声とともにぞろぞろと攻略隊が部屋に入っていく。

 そして、全員が入った所で部屋の電気がつくように視界が明るくなった。開戦の合図だ。同時に、玉座に座ったカンガルーを獰猛にしたかのような獣人が武器を装備して飛び上がって着地した。《イルファング・ザ・コボルトロード》だ。そしてそれと同時にポップする古プレートをまとった矮躯のモンスター。あれが《ルイン・コボルト・センチネル》だ。手には片手棍が握られており、盾は持っていない。

 コボルトロードが咆哮と同時に、センチネル達を引き連れて突っ込んできた。

 それに対し、ディアベルも「攻撃開始!」と指示をだし、攻略隊が押し寄せる。

 

 遂に戦いの火ぶたが切って落とされた。

 

 

 キリト達の役目はセンチネルの殲滅だ。コボルトロードのタゲを取りながら立ち回ってくれるA・B隊と、それを抜けた際のF隊の働きで、センチネルを相手取るC・D隊に流れてくる事はない。

 目の前のセンチネルが片手棍を振りかぶり、突っ込んでくる。

 それに合わせてキリトは袈裟切りのソードスキル《スラント》で、その体躯に似合わぬ重たい攻撃を弾く。

 

「スイッチ!」

 

 相手の体勢を崩した隙にノックバックを受けて動けないキリトの横をアスナが駆けていく。

 この戦いでは陣頭指揮を執るアルトリウスと、フィールドを縦横無地に走り抜け、遊撃するセタンタ、そしてキリトとアスナがコンビを組んでセンチネルと対峙していた。

 細剣のソードスキル《リニアー》、細かい連続突きで相手を捉え、最後の一突きがセンチネルの弱点である首に命中する。

 瞬間、センチネルが硝子となって消滅する。

 

「ナイス!」

 

 アスナが振るうソードスキルは凄まじい剣速だった。システムアシストを超えた剣速と膂力はアルトリウスも凄いが、アスナは迅く正確だ。先ほどからセンチネルの弱点である部分に100%の命中率を誇っている。……これで2人とも初心者というのだから末恐ろしいものである。

 と、流れてきた別のセンチネルの攻撃を弾いて、再びスイッチ。アスナの《リニアー》が再びセンチネルの首を突き崩し、消滅させた。

 このスイッチの動きも昨晩一緒の部屋に泊まったアルトリウスに習ったばかりだというのだから驚きである。使用武器も相まってか、まだ敵の攻撃を弾く事は出来ないが、それにしてもとも思う。

 

「センチネル殲滅を確認! リポップする前にコボルトロードを叩きます!」

 

 アルトリウスの強い声が響く。

 それに続いて、歓声と共にC・D隊がコボルトロードに向かっていく。

 と、前線のE隊が遂にコボルトロードのHPバーの最後の段を赤く染めた。情報通り、コボルトロードは斧とバックラーを投げ捨て、後ろ腰に着けた柄を握る。

 

「みんな下がれ! 俺が前に出る!」

 

 ディアベルは急に陣形を崩して、コボルトロードに対峙する。セオリーで言えば包囲殲滅だろう。だが、ディアベルはソードスキルの発動体勢を整え、相手の動きに合わせて放とうと、今か今かと待ち構える。

 コボルトロードが後ろ腰から柄を引き抜いてその姿が露わになる。

 その瞬間、キリトは戦慄した。

 曲刀にしては細く、直刀にしては片刃しかないそれは湾刀”タルワール”ではない。

 キリトは喉が潰れんばかりの声で叫んだ。

 

「そいつは違う! 全力で後ろに跳べ!」

 

 何事かと、疑問に思う間もなく、コボルトロードはさながら居合抜きのように刀にライトエフェクトを迸らせて、跳躍した。

 曲刀の対応をしようとしていたディアベルは驚き、身体を硬直させる。それが命取りだった。

 コボルトロードは壁や柱を足場に何段も跳躍し、重力に任せて刀を振り下ろした。カタナのソードスキル《旋車》。ディアベルの身体を斜めに切り裂き、その身を宙に飛ばした。そこから更に追撃で、突進からの切り上げのソードスキル《浮舟》により、宙を浮くディアベルを切り飛ばした。

 

「ディアベル!」

 

 キリトがディアベルに駆け寄る。

 ライフボトルを飲ませようとして出した手をディアベルは首を振りながら止めた。

 

「……罰が当たったんだな。ラストアタックボーナス。お前ならわかるだろ」

 

「ッ。ディアベル、お前――」

 

 ディアベルはβテスターだった。彼は知っていたのだ。フロアボスのラストアタックにより、レアアイテムが入手出来ることを。だからこそ包囲殲滅のセオリーを無視して、一人で前に出たのだ。

 

「……頼む、ボスを倒してくれ。みんなの、ために――」

 

 キリトの腕の中、それを伝え、ディアベルは消滅した。先ほど倒したセンチネルのように、光の硝子となって消えていった。

 リーダーのディアベルを失った事で攻略隊が士気を失う。そこに容赦なくコボルトロードが斬りかかった。茫然とした彼らは防御の姿勢も出来ずにその攻撃を受け――なかった。

 走り込んできた大剣の剣士アルトリウスが、コボルトロードの刀に合わせて剣を真っ向から受け止める。その膂力を殺しきれずに苦悶の表情を浮かべる。

 

「狼狽えるな――ッ!」

 

 アルトリウスは大剣を支えながら叫んだ。

 

「A・B隊は前へ、E隊は後退! C・D・F隊はセンチネルのリポップに備えてください!」

 

 指示を出しながら、僅かに力を抜き、その間に刀の振り下ろしを、身体を入れ替える事で交わす。だが、交わしきれずにアルトリウスのHPバーが大きく削られる。

 だが、アルトリウスは怯まずに次の指示を出す。

 

「――ッ。セタンタはC・D・F隊を指揮してください! そしてキリト!」

 

 

「!」

 

 ディアベルにかけ寄り、最期の言葉を聞いていたキリトははっとする。

 アルトリウスの強い瞳。そのメッセージを確かに受け取った。

 

「……頼みます」

 

「任された!」

 

 A・B隊を刀の旋回によって吹き飛ばし、再び跳躍するコボルトロード。ディアベルを切り飛ばしたソードスキルだ。見た事のないソードスキルのパターンに攻略隊は対応できない。――だが、キリトなら出来る。彼は知っている。ここより上層の敵が使った武器とそのソードスキルを知っている彼なら。

 

「届けぇ―――ッ!」

 

 片手剣ソードスキル《ソニック・リープ》。上空に向かっての斜め切りを、コボルトロードと上空ですれ違いざまに打ち込む。背中から攻撃を受けたコボルトロードはそのまま攻撃態勢を崩して、地面に激突する。

 キリトは着地し、コボルトロードに走り込む。

 と、その隣にはフードを被ったアスナが走り込んでいた。

 

「私は貴方と組まされた。だから最後も――」

 

「ああ! 手順はセンチネルと同じだ!」

 

 コボルトロードが腰を沈め、居合抜きの構えを取る。瞬間、高速でこちらに飛び込んできた。だが、それはキリトが知っている。それに合わせて、こちらもソードスキルを放ち、相殺する。

 

「スイッチ!」

 

 走り込むアスナの《リニアー》がコボルトロードの首を狙う。

 しかし、それより先にコボルトロードのノックバックが解けた。すぐさま体勢を立て直し、攻撃をしてきた。

 あの位置ではアスナは交わしきれない。

 そこへ――

 

「らあっ!」

 

 セタンタの槍のソードスキル《フェイタル・スラスト》による薙ぎ払いでそれを弾いた。

 その隙にアスナは止まらずに突きを繰り出す。

 

「セタンタさん! センチネルはどうしたんですか!?」

 

「ああ。C・D・F隊の奴らがこっちは大丈夫だって言うから抜けてきた。そら、次来るぞ!」

 

 セタンタが怒鳴り、コボルトロードの攻撃を受け流す。

 キリトはそこに走り込み、《スラスト》をコボルトロードの刀に当て、体勢を崩す。

 

「一気に行くぞ!」

 

「ええ!」

 

「おう!」

 

 アスナの突き、セタンタの薙ぎ払い、キリトの袈裟斬り。コンビネーションによる連撃が、コボルトロードの最後の赤いバーを削っていく。そして最後、セタンタが刀を弾いたタイミングで渾身の一撃を持ってキリトが片手剣を振り抜き、返す振り上げでVの字を描くように切り上げる。片手剣ソードスキル《ヴァーチカル・アーク》。コボルトロードの胴体を両断するかのように振り抜き、遂にコボルトロードが硝子のように霧散した。

 暫しの静寂、そして全員の上空にコメントが映し出される。

 

『Congratulations!!』

 

 叫びにも似た歓声の中、第一層は遂にクリアされたのだった。

 

 

 各々が喜びを称え合う中、アルトリウスが歩み寄ってくる。

 

「アルト! 大丈夫か!?」

 

「ええ。既に回復は済ませました。問題はありません」

 

 いつも通りのアルトリウスにキリトはほっと胸を撫で下ろした。と、安堵するも束の間、キリト達の周りに開放隊の皆が駆け寄ってきた。ディアベルを失った解放隊の陣形を立て直したのはアルトリウスだ。更に人気が増したらしく、皆に感謝をされている。

 かく言うキリトも《ソニック・リープ》で相手のソードスキルを擦り抜けて斬った事やラストアタックなど、揉みくちゃにされていた。

 その中、アルトリウスは僅かな隙間から拳を伸ばす。

 キリトは照れ臭そうに、隙間から手を突き出し、コツンと拳を合わせた。

 

「――なんでや!」

 

 それを打ち破ったのはキバオウの叫びだった。

 

「なんでディアベルはんを見殺しにしたんや! 自分、敵の使うを知っとったやないか! なんでそれを先に皆に教えんかったんや!」

 

「――ッ」

 

 キバオウの言い分は尤もだ。

 だが、キリトはβテスト時でもコボルトロードの武器はタルワールと認識していた。仕様が変わっているとは思ってもみなかったのだ。

 

「自分もβテスターやったんやろ! だったらボスの戦闘パターンを全部知ってて隠してたんとちゃうんか!?」

 

「それは……」

 

 答えを窮するキリトに周囲がざわつく。

 と、そこにセタンタが前に出た。

 

「おい。忘れてもらっちゃ困るが、俺もβテスターだ。俺の記憶じゃコボルトロードの戦闘方法はガイドブックに載ってた通りだった。仕様が本サービスで変わっただけだろ」

 

「それでも、敵の武器の情報や攻撃パターンをガイドブックでも作って、コイツが情報を流してたらディアベルはんは死なんかったやないか!」

 

「……いい加減にしとけよ、テメェ。そんなに戦争してぇのか。ここに止めるディアベルはいねーぞ」

 

 セタンタが槍を抜き、殺気立つ。

 周囲がざわつき、キバオウの決死の覚悟で剣と盾を装備した。

 まずい。このままでは本当に殺し合いが起きる。キバオウはともかく、セタンタはやるといったらやる性格だ。そうなったら彼の言う通り、本当に戦争になる。βテスターの立場も今よりずっと悪くなるだろう。

 それでは駄目だ。ディアベルは皆のために戦って命を落とした。それが無駄になる。

 不意に、目の前に出たラストアタックボーナスのレアアイテム取得のメッセージが目に入る。

 

「ほう。やる気になったか。そら、βテスターに不満のあるヤツはまとめて掛かってこいよ。俺が――」

 

「――ハハッ」

 

 殺気立っていたセタンタは急に聞こえてきた笑い声に言葉を止める。

 ざわめいていたプレイヤー達も静かになった。

 

「ハハハハッ、βテスター? どこの次元で話してるんだよ。あんな素人連中と俺を一緒にしないでくれるか」

 

「な、なんやと!?」

 

 立ち上がり、セタンタの横を通り過ぎる。ちっと舌打ちが消え、槍を仕舞った。彼は今からキリトがやろうとしている事を察してくれたらしい。喧嘩っ早い癖に、この男はこういう所は鋭いのだ。彼という人間の評価に苦しむ。

 

「βテスターって呼ばれている1000人の奴らの殆どはレべリングも知らない素人ばかりだったよ。だが、俺は違う。俺はβテストで当時誰もが昇った事ない階層まで登った。ボスの攻撃パターンを知っていたのはここよりずっと上層のカタナを持った敵と散々戦ったからだ。情報屋なんて目じゃないくらい知っているのさ」

 

 それを聞き、皆が一様に「ズルじゃねーか!」や「チートだろそんなの!」と騒ぎ出す。その中で一つ面白いのがあったのでキリトはそれを『忌み名』に使う事にした。

 

「ベーターでチーター、略してビーターか。面白いな。そうだ、俺は『ビーター』だ!」

 

 キリトはアイテムメニューを開き、先ほど入手したレアアイテム《コート・オブ・ミッドナイト》を装備する。漆黒のコートに身を包んだその姿は、嫌われ者の姿に相応しい。ふっと自嘲の笑みを浮かべ、コートを翻す。

 

「もうβテスターごときと一緒にしないでくれよ」

 

 嘲笑い、茫然とする解放隊の中を歩いていく。

 これでいい。これでβテスターはこれ以上糾弾される事なく、忌避の目は全て自分に向く。自分が嫌われるだけだ。

 ただ、それだけの事――。

 

「キリト!」

 

 アルトリウスが駆け寄る。

 彼女はキリトがこんな茶番をした意味を理解しているだろう。

 だからこそ、

 

「来るな!」

 

 キリトは叫んだ。

 振り向かずに、彼女の顔を見る事もなく。

 

「アルト。君は人望も厚い。これからは君が主軸となってボス攻略が進むだろう。お前ならどんな巨大ギルドだって率いてみせる。そんな才能があるんだ。これ以上、俺と関わるべきじゃない」

 

 アルトリウスは彼女が望んだ通り、王の気質を持っている。軍団を率いるカリスマ性、それを指揮しうる統率力、状況判断能力。どれを取ってもこのアインクラッドを攻略するのに必要不可欠な存在だ。

 だが、キリトは違う。自分が居なくなった所で何が変わるでもない。

 きっと真面目なアルトリウスは怒るだろう。悲しむだろう。

 それでもこの道は引き返せない。

 

「――分かっています」

 

「え?」

 

 キリトは思わず振り返りそうになり、止める。

 

「キリトのしたかった事、今からキリトが臨もうとする道。全て分かっています。止める気はありません」

 

 アルトリウスは理解しているのだ。

 あれ以外止める方法がなかった事も、これからキリトはソロで行くしかないという事も全部理解して、ここに立っていた。

 

「私はギルドを作ります。このデスゲームを一刻も早く終わらせるために。ただ、キリト。貴方もそのメンバーです」

 

「何を言って……」

 

「この一件のほとぼりが冷めるまでにギルドの形を作っておきます。そして、それが出来た時、また貴方をパーティーに誘います。私にそれまで我慢をさせるのです。その時は嫌とは言わせませんよキリト」

 

 今の彼女の表情は振り返らなくても分かる。

 背後に立つ少女は自分が知っているよりもずっと強い。

 負けず嫌いで、すぐに根に持つ、美しい剣王だ。自分が何を言おうと、何を思おうと、その強い瞳と剣で、どこまでも自分を遠くまで連れて行ってくれるだろう。

 キリトは、それを心から見たいと思った。

 

「……ああ。待ってる」

 

 思わず、そう呟いていた。

 そして、その呟きに彼女はこう返すのだろう。

 

「――はい。待っていてくださいキリト」

 

 

 第一層のクリアはその日に全プレイヤーの知る事となった。

 はじまりの街で燻っていたプレイヤーや、ボス攻略に間に合わなかったプレイヤー達に希望を灯す。

 ディアベルが為そうとした事は叶い、その日から攻略隊の勢力は更に増大していった。

 これが本当のスタートだ。

 はじまりの街のチュートリアルは終わっていなかったのだ。

 

 ――この一層攻略の日こそが、本当のソードアート・オンラインの始まりなのだ。

 

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