SAO/Black Rounds   作:NT@K

8 / 9
気分が乗ったので久々に投稿。

本編書かずに幕間の話で申し訳ございません。
厳密には幕間でもないと言う……。
幕前? 寿司屋の名前「幕前寿司」と書くと美味しそう(小並感)。


幕間2「SAO/Black Rounds -ZERO-」

 これは剣の乙女と黒の剣士が出会うより前の話。

 幕間以前の、何も始まっていない、そんな日常の一幕の話である。

 

 

***

 

「《ソードアート・オンライン》とは何ですか。シロウ」

 

 聞き馴染みのない単語に首を傾げる。

 「ああ」と答える青年。白髪に浅黒の肌。鍛え抜かれた精悍な体格も相まって東洋の外人にも見えるが、実際は純日本人である。そんな風体のシロウと呼ばれた少年――衛宮士郎は米を運んでいた箸を止め、頷く。

 

「ネットゲームの名前だ。慎二から誘われてな。25歳になってまでゲームなんてどうかと思ったんだが、βテストと言うんだったか。試運転の段階で出来がよかったらしく、暫く日本に滞在するなら一緒にどうだと強く言われてな」

 

「なるほど。しかし、誘われたのはシロウでは?」

 

「そうだな。だが、初期生産分の抽選に外れたらしく結局話は一旦終わりになったんだが、一緒に応募していたオレの方が当たってしまってな」

 

 「普段はこういう抽選系は滅法当たらないのだがな」と憮然そうに語る。そういえば先日町内会の福引でティッシュが当たって残念そうだったのを思い出した。確かにこの士郎という青年は運がいい方とは言えない。

 

「慎二に譲ると言ったんだが、逆に怒られた。プライドが許さなかったらしい」

 

 嘆息しながら「相変わらず困ったヤツだ」と口ごちる

 シンジと呼ばれた青年は金髪の少女――アルトリアも知っている。2年ほど前からシロウの家にホームステイをしているが、言葉を交わした事は正直少なくはない。アルトリアの目からも自尊心の塊のような青年だったという印象だ。猫型ロボットが出てくる某国民的ジャパニーズコミックで見た子供が成長して漫画から出てきたような青年だ。本人からするとヘタレな眼鏡の主人公ポジションの士郎に施しを掛けられるのが嫌だったのだろうと容易く想像できる。

 

「話は分かりました。しかし分からないのは、それでなぜ私にそのような貴重なゲームを」

 

「ゲームに興味のないオレだけやっても慎二に悪いしな。かと言って貴重なゲームだ。売るのも勿体ない。それにこういうの、アルトリアが好きだと思ってな」

 

 ソフトのパッケージを指さし、アルトリアに差し出す。そこに書いてあったのはありふれたキャッチフレーズだ。『剣一本でどこまでも行ける』。あまりゲームに詳しくない私でも捻りのない謳い文句だと思う。だが、自然と、そのフレーズから目が逸らせない。

 それに満足したのかシロウはお構いなしに話を続ける。

 

「しかもこのゲームは普通のTVゲームと違う所があってな。TVゲームと違ってコントローラーでプレイヤーを操作するゲームじゃない」

 

 と言って、足元に置かれていた紙袋から大きな箱を取り出す。几帳面な彼の性格が滲み出るような丁寧な手つきで開けられたその箱の中から出てきたのは見慣れないヘルメット状の機械だった。

 

「これを被って脳に電気信号を送る事によって恰も自分が物語の人間のような疑似体験が出来る。つまりは剣を振るおうと思えば自然と手が動き、何かを言おうとすれば口が自然と開く。まるでそのプレイヤーに自分が乗り移ったようにゲームが出来るというわけだ」

 

 その言葉に自然と情景が浮かぶ。どこまでも広がる草原と、そこに剣を携えて立つ自分の姿。かつて祖父の厳しい鍛錬で培われた剣の凡てがモンスターという手加減の必要のない相手に振るわれる。それはとても幻想的で、とても魅力的だった。

 

「折角青春を費やして鍛え上げた剣術だ。大会などには興味のないのは知っているが、日の目を見ないのもそれはそれで勿体ない。遊びだからこそ本気になれるものもある。どうだ。興味があるならネットゲームについても教えるが……。フッ」

 

 最後に言いかけて小馬鹿にしたような皮肉っぽい含み笑いが聞こえて、アルトリアは思わず顔を上げて目の前の青年を睨む。

 

「何が可笑しいのですか」

 

 憮然と返したつもりだったが、彼にはそれも愉快だったようで隠す気のない皮肉っぽい笑いを止めようとしない。

 

「いや、何。その顔を見れば返事を聞くまでもないと思ってね」

 

 言い返したくなってムッと返そうと思ったが、彼に舌戦で勝てた試しがない。同年代ならばいざ知らず、まだ中学生の自分と違って彼は歴とした社会人だ。経験値も含めた貫禄でこちらの言葉をすぐに受け流される。

 負けを悟ったアルトリアは嘆息して「少しだけです」と負け惜しみ気味に返した。最後のプライドというヤツである。

 

「分かったよ。とはいえ先刻も言った通り、オレもネットゲームには詳しくない。オレが教えるのは真面目な話。ネットでのマナー、所謂『ネチケット』だ」

 

 インターネット内のエチケットを略して「ネチケット」と言う。SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)は今や社会では連絡手段で使われたり人と触れ合う場として使われたり現実とインターネットの境界線が曖昧になりつつある。顔が見えないからこそのマナーもあれば、それとは別にネットリテラシー――インターネットを理解し正しく運用できる能力も必要となる。

 

「今の情報社会、自分の発信した情報がどのような形で、且つどれ程の範囲で広がるかなんて分かったものじゃない。だからこそ個人情報だったり大事な情報だったりを明かす事はメリットの数百倍のデメリットを生む。それを踏まえれば自分の現実の情報は極力秘するべきだろう」

 

「人の口には戸が立てられない、ですか」

 

「そうだ。それを理解する事で初めてネット社会では一人前だ。インターネットは上手く使えば多大な情報を得られたり、顔も知らぬ人とつながる事が出来たりメリットも大きい。それを理解しているのとしていないのでは天と地の差だ」

 

 気軽に利用できるものだからこそ気を付けなければいけない事があると青年は語る。

 

「という事はこちらも相手の現実の情報は極力得ようとしない方が良いわけですね」

 

「そうだ。だが、それは現実でも同じ事だろう。留意しなくてはならないのは現実の顔が見えない事によりその当たり前が出来なくなるケースがある事だ。人との関係に恐れ過ぎれば人と深くは繋がれないし、踏み込み過ぎれば相手の心が離れてしまう。ネットでもそれを意識する必要はあるだろうな」

 

 なるほど、とアルトリアは納得する。

 

「それを理解すれば後は個人の趣味だ。そのままのアルトリアでもいいし、偽りの自分を演じてもいい。楽しみ方は人それぞれだ」

 

「偽りの自分ですか。あまりピンとは来ないですね」

 

「そうでもない。仮想の人格をロールプレイをする者もいれば性別を偽る者も居る。それぞれの都合があり、嗜好がある。現実ではないからこその楽しみ方という事だ。例えばこのパッケージの世界観だからこそ西洋騎士になり切って男性としてプレイしても面白いんじゃないか?」

 

 確かにアーサー王伝説のファンであるアルトリアとしても女騎士よりも男性の騎士の方が想像しやすい。自分がアーサー王になったと仮定して西洋騎士ならではの立ち振る舞いをして、西洋騎士ごっこをするのも楽しいかもしれない。

 そこは要検討としておこう。

 

「ありがとうございます。実際インターネットも利用しますが、改めてネットで人と繋がるという事への認識を新たに出来ました」

 

「大した事じゃない。それでも人ともっと仲良くなりたいと思うなら信用出来る人間を探す事だ。ネットな分難しいとは思うが、ネットがなければ知り合えなかったであろう者との繋がりは得難い。それはイギリスから渡ってきたお前には釈迦に説法というものだろうが」

 

 アルトリアは頷く。実際イギリスで祖父と修行をしていた頃は本当に狭い世界だったが、国も文化も違うこの日本という地で得た士郎を始めとした衛宮家の方々。士郎の友人達。彼らに知り合えたのはアルトリアにとっても最高の幸運だったと言わざるを得ない。

 だからこそネットという厳しい中でこそ、もし縁が繋がり、信頼出来る者と共に戦場を駆けられるのであればと夢想し、未だ見ぬ世界に思いを馳せる。

 

「分かりました。私、このゲームやってみたいと思います。本当にお借りしても良いでしょうか」

 

「借りじゃなくそれは既にアルトリアの物だ。お返しと言っては何だがプレイした感想なんかを教えてもらえると助かる。慎二とも本稼働が始まればプレイしてみたいからな」

 

 笑い会う二人。日常の食卓。

 

 だが、結局彼のその言葉にアルトリアは感想を返す事も出来ず、逆に青年は絶望する。自分の薦めたゲームに隠された真実に。

 《ソードアート・オンライン》。初のフルダイブマシンを用いた大規模なVRMMORPG。少女はこの話の数日後、そのゲームの虜囚となる。

 先に語った通り、これは幕間以前の物語。

 

 ――始まりに至るZEROの物語。

 




リリィ寄りの性格で再構成したいなぁと思う今日この頃。
アスナとキャラ被りしたら嫌だし、まあこのままでいいかという感じもしますが。
どちらにせよどこかのタイミングで二章は再構成したいですなぁ。
全然プログレ読んでなかった時に書いたものですし。

それは、まあ、また来世だったり遠い未来の話になりそうですが(苦笑)。
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