GATE 国防軍 彼の地にて〝最高〟とともに戦えり 作:びよんど
地球に〝ゲート〟が出現しちゃったどうしよう!?って話です。
その日は、蒸し暑い日であったと記録されている。
気温は摂氏30℃を超え湿度も高く、ヒートアイランドの影響もあって町は灼熱の地獄と化していた。
……にも関わらず多くの人々が都心へと押し寄せ、買い物やウィンドウショッピングを楽しんでいた。
午前11時55分。
陽光は中天に差し掛かり、気温もいよいよ最高点に達しようとした頃。
T市2区に突如〝
中から溢れだしたのは、中世ヨーロッパの鎧に似た武装の騎士と歩兵。
そして―――ファンタジー物に登場するようなオークやゴブリン、トロルの見た目をした
彼らは、たまたまその場に居合わせただけの人々へと襲いかかった。
老若男女、人種や肌の色すら問われなかった。
それはあたかも、殺戮そのものが目的であるかのようだった。
買い物客が、親子連れが、そして市外からの観光客達が次々と馬蹄に踏み躙られ、槍を突き刺され、そして剣によって命を絶たれた。
累々たる屍が街を覆い尽くし、アスファルトは血の色で赤黒く舗装された。
その光景に敢えて名を付けるならば〝地獄〟
異世界の軍勢は、積み上げた屍の上に更なる屍を積み、そうして出来た肉の小山に漆黒の軍旗を掲げたのである。
『蛮族どもよ!よく聞くがよい!我が帝国は皇帝モルト・ソル・アウグスタスの名において、この地の征服と領有を宣言するッ!!』
そして彼らの言葉で、この地の征服と領有を宣言した。
それは聞く者のいない一方的な宣戦布告だった。
歴史に記録される異世界と我々の世界との接触は、後にこのように呼ばれることとなった。
余談となるが、
『本日はイベントのため大変混雑しております』
『ホームの中ほどまでお進みください』
「……よし、回る予定のサークルチェックOK。あそこの新刊完売してたら―――同人ショップに委託してくれてっかな?」
イタミヨウジ(33歳)はオタクである。
現在もオタクであり、将来もきっとオタクであり続けるだろうと自認するほどにはオタクである。
仕事と趣味、どちらかを選べと言われれば迷わず趣味を選ぶ程度には仕事への熱意に欠けるオタクである。
あまりの国防意識のなさに業を煮やした上司が、過酷な訓練で定評のある幹部レンジャー訓練に放り込み、紆余曲折ありながらもギリギリ合格する程度には凄い軍人にしてオタクである。
そんな彼は現在、駅のプラットフォームにてスマホ片手に期待を膨らませながら電車の到着を待ちわびていた。
目当ては勿論、この時期に行われる同人誌即売会だ。
「以前は入手できなかった
あまりの存在感のなさ故に何処で売られているのか全く分からないことで有名な深淵卿先生の出展場所。
気が付いた頃には既に売り切れになっており、何度イタミは涙を飲んだことか……。
「何あれ?なんで逃げてるの?」
「街中で火事?何が飛んでんの?」
……またしても泣く羽目になるとは思いもしなかった。
「嘘……もしかしてワイバーン!?」
「えっ、えっ……?」
「おいおい、マジかよ!?」
「ちょっと、誰かヒーロー協会に通報しなさいよ!」
まさかこの街で、怪人災害が勃発するなど思いもしなかったのだ。
だがそれよりも、イタミの頭を支配していたのは一つの〝嘆き〟
「くそっ!このままじゃ夏の同人誌即売会が中止になってしまう!!」
……ある意味ブレない男であった。
とはいえ、今いる場所に居続けるという選択肢はない。
もうすぐそこまで敵が迫っているのだ。
メチャクチャ慌てながらもイタミは、近くに貼られていた地図を見つけ近場の避難場所を確認していく。
そして見つけた。……が、思わず抵抗感が生まれる。
しかし、
イタミは腹を括った。
「お巡りさーん!……支部だ!ヒーロー協会の支部へ避難誘導してくれ!!」
国防軍とヒーロー協会の仲は良くない。
……最悪とまでは言わないが、互いに互いの利権や領分を狙って水面下で小競り合いを起こし続けており、明確なライバル関係にあると言っても過言ではなかった。
国防軍は、所詮は一民間人でしかない素人がヒーローを名乗って戦場に出しゃばるなと釘を差す。
ヒーロー協会は、役立たずなお前達に変わって平和を守ってやっているんだから黙っていろと嘲笑する。
……前言撤回、やはり両者の関係は
「だーかーらー!ヒーロー協会関連の建物はメタルナイトが頑丈に建築してるんだろぉ!!?
強いヒーローが到着するまで立てこもるんだッ!!」
「し、しかし、私の一存では……」
「民間人を匿って応援が来るまで待ちゃいーの!!」
目の前にいる全く使えない協会職員の男を無理矢理(自分が国防軍所属の人間であることを明かした上で)説得することで何とか民間人を協会支部内にねじ込むことに成功したイタミ。
ヒーロー協会に〝貸し〟を作ってしまうが、それはもはや致し方のない話であった。
そこからの籠城戦は苛烈を極めた。
たまたま民間人を避難誘導していた警官や避難してきた民間人、そして協会職員の協力を得たイタミは支部の出入り口を急造のバリケードで塞ぎ、迫りくる異世界の侵略者達相手に徹底防戦を貫いた。
幸い支部には豊富な銃器類が常備されており、銃の扱いに精通しているイタミの簡単なレクチャーもあって何とか敵を寄せ付けずに二時間以上もやり過ごすことが出来た。
「……緊急事態との連絡を受けて駆け付けたが、敵はこれだけか?」
そして……140分にわたる攻防の末、ようやく強いヒーローが現着した。
オークやゴブリン、トロルといった怪人はことごとく首を刎ね飛ばされ、武装した
S級13位 閃光のフラッシュ
閃光の神業を、イタミは目で追うことが出来なかった。
これがS級の力、こっちのほうがよっぽどファンタジーじゃねーかと乾いた笑いを浮かべるほかなかった。
耳を澄ませば、街のいたるところからこの世ならざる異音が響いていることに気が付くイタミ達。
しかしそれは、先程の敵の軍勢が鳴らしていた音とはまた違う、何というかそれ以上の
「この程度なら俺一人で十分だったな。……協会の連中も臆病が過ぎる」
どうやら、この街に複数のS級ヒーローが集結しているようだと理解したイタミ。
悲鳴を上げながら
この後、ヒーロー協会が派遣した数名のS級ヒーローの活躍によってT市2区事件はたったの
「閃光のフラッシュをはじめ、ぷりぷりプリズナーや駆動騎士、ゾンビマン、金属バット、豚神、戦慄のタツマキまで来たってマジかよ。……ちょっとした世界大戦じゃん」
「マジだ。……どっかの誰かのせいでな(#^ω^)」
「あっヒガキ三佐、もしかして聞こえちゃいました?」
「バカ丸出しの独り言が聞こえたもんでな。……はぁ、ついてきたまえ、イタミ二等陸尉」
後に『T市支部の防衛戦』と呼ばれるそれは、数千人に及ぶ民間人の命を救ったイタミの功績として誰もが認めるものとなり、なし崩し的に現・唯一国家元首から賞詞を賜った上で二等陸尉へと昇進することとなった。
……なってしまった、と言うべきか。
ちなみに〝門〟の向こうの特別地域(特地)派遣部隊の一員として異世界の人馬や怪人の死骸で埋め尽くされた大地を見ていたイタミ。
逆に〝門〟を奪い取ったこちら側の陣営めがけて三度にわたる攻撃を仕掛けてきた敵の末路がこれだ。
ざっと数えて十二万もの犠牲(怪人は含めないものとする)を払った敵側に思わず同情したのは記憶に新しい。
……勘違いのないように言っておくが、十二万もの敵を屠り去ったのは国防軍などではなく、ある一人のヒーローの戦力、もとい
S級7位 メタルナイト
高火力の兵器で
軍事不介入を掲げるヒーロー協会の方針など当然のように無視し、国防軍が管理していた〝門〟を通じて特地へ堂々と侵入を果たしたメタルナイトは、いまだ整備されていなかったその地に勝手に基地を建てたばかりか〝門〟を奪い返そうとする敵対勢力を圧倒的兵力で軽々捻じ伏せた後、何を思ったのかヒーロー協会宛てにこのような文面を送りつけてきやがったのだ。
『〝門〟を破壊し、この世界と特地を行き来する手段を絶つことが最も効率的な解決方法である。既に〝門〟の破壊工作は済ませており、後はそちらの意志次第』
当然と言うべきか、ヒーロー協会をはじめ政府でもメタルナイトの提案は満場一致で却下された。
言い方は悪いが、天才
つまり、人質がいると分かった上で見殺しにしようと提案してきたのだあのハゲは(某天才少年の言)
……それに、人質を抜きに考えても特地はあまりにも魅力に満ちあふれていた。
手つかずの資源、圧倒的技術格差から生ずる経済的な優位、汚染されていない自然……。
特地は、今のこの世界になくてはならない希望にあふれた
既に影で様々な勢力が特地の利権を独占しようと動き始めており、人質を救出するにせよ特地の利益を享受するにせよ、迅速な対応が要求されていた。
閑話休題。
「……は?調査ですか?ヒガキ三佐。……それがいいかもしれませんねぇ」
「それがいいかもじゃない!君が行くんだッ!」
「……まさか一人で行けと?」
「そんなこと言うワケないだろう。とりあえず深部情報偵察隊を六個編成する。君の任務はその内一個の指揮だ。可能ならば今後の活動に協力が得られるよう住民と友好的な関係を結んできたまえ!」
「はぁ……ま、そういうことなら……」
「よろしい!……イタミヨウジ二等陸尉、第三偵察隊の指揮を命ずる!!」
こうしてイタミは後頭部をポリポリと掻きながら、第三偵察隊の隊長となったのである。
「ヒガキ三佐、ハザマ陸将からです」
「代わってくれたまえ。……ヒガキです。一体どのようなご用件で―――っ、本当ですか!!?」
直属の上司のあまりの驚きように、イタミ含めその場にいた一同が思わずギョっとする。
「……はい、はい、それでは偵察隊のほうは暫く待機させるということで―――えっ、すぐにでも来る?ヒーロー協会とは既に話は済んでいると?……はい、はい、それではそのように……」
話はどうやら済んだようで、厳かに受話器を置いたヒガキ三等陸佐は、それはもう物凄い溜息をついて目の前にいるイタミを見据えた。
その眼差しに先程までの恨めしさはない。
……強いて挙げるとすれば、それは〝憐れみ〟と言ったところか。
〝お前苦労するね、まぁ頑張れ〟…とでも言いたげなその眼差しに、イタミは物凄く嫌な予感を覚えていた。
聞きたくない、でも聞いておかないと……。
イタミは、地獄の釜の蓋を開けるように問いかけた。
「えっと……ヒガキ三佐?さっきのお電話は……?」
「……………………………喜べイタミ、朗報だ」
これだけはハッキリと言える。
絶ッッッ対朗報じゃねえ―――
「ヒーロー協会と連携してこの事案の対処に当たるという決定は聞き及んでいるな?……早速お前の指揮する第三偵察隊に、地上最強の男と呼び声高いヒーローキングが同行するんだそうだ。非公式だが、彼には異世界で人命を救助した実績が
思わずその場に膝から崩れ落ち、天を仰いで泣き叫んだ。
今さっき出来上がったって何だよもぉぉぉ!!
A市立高校で起こった神隠し事件から9日ほどが経過し、キングが金髪の美女を連れてヒーロー協会本部に訪れた日の出来事である。
地球は地球でもヤベーほうの地球とつながった特地の明日はどっちだ!!?(すっとぼけ)
少しだけネタバレすると、唯一国家の防衛を担う国防軍は、ほぼ政府のお偉方の私兵と化しており、満足に民間人を守ることが出来ていない状況にあります。
そこら辺も追々書いていきたいです。