GATE 国防軍 彼の地にて〝最高〟とともに戦えり 作:びよんど
帰ってきたよ!けど……って話です。
イタミの任務とは、この世界の住民について調査することである。
交流し、親交を深め、この世界についての知識を得るために必要な資料や情報を収集して来ることだ。
拡大解釈すれば、自らの意思で付いてきてくれる住民を得ることは、大成功ってことではないだろうか?
……そう考えたのである。
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「きっ、きっ、君は……ッ!!」
お役人的発想によれば、これはホントは大問題である。
彼らにとって、こういった拡大解釈をする人間は困ったちゃんとして、とても嫌われるのである。
「だっ、誰が連れて来ていいと言った!!?」
「あれ、連れて来ちゃまずかったんですか?」
ヒガキ三等陸佐は、自分が何をしたのかよく分かっていない部下を前に頭を抱えた。
深部情報偵察隊の幹部連中も蒼然として、窓の外で隊舎の前に停められた車に乗る避難民達が、周囲を珍しげに眺めているのを確認した。
「っ〜〜〜!!……装備を解いて待っていたまえ。陸将に報告してくる」
今更追い出すのも忍びない。
しばし逡巡した後にそう思い立ち、諸々の報告をするためヒガキ三佐は執務室を後にした。
「……えっ、マジで?」
「はい、申し訳ありませんが……」
「……まぁしょうがないよね」
お持ち帰りしてきた避難民達の今後を左右する上層部の決定を料理の支度をしながら待っていたけれど、俺達がいるこの場は今、異様な空気に覆われていた。
「炎龍との戦闘後、自己点検をして判明したことですが、感知機能のいくつかに不具合が生じており、加えて武装の一部が摩耗・欠損していました。今は何の問題もありませんが、放っておけばいざという時の動作に支障が出る可能性もあると判断し、セキンガル氏と相談の上、一時離脱を決めました。……何の相談もせずに勝手に決めてしまったこと、深くお詫びします」
「いやいや……俺に相談なんて一々する必要もないよぉ?っていうかこんなところでジャガイモを剥いてないで早く診てもらいなさいよ」
避難民向けに今日は肉じゃがを作ろうと思ってたけど、そんな不具合があるとあらかじめ分かってるなら、さっさと博士に直してもらったほうがいいって……。
「いえ、せめて彼らに美味しい料理を振る舞ってからでないと、帰るに帰れません」
「はぁ……」
もしかして、俺が避難民達に水しか配給してなかったことを気にしてるのかなぁ?
あの時、確かに食糧自体はあったよ?
でもそれを全員に配ろうと思ったら全然足りないし、だったらせめて水が無限に湧き出る魔法瓶を創って片っ端から配るしかやりようがなかったワケで。
……こう言うと恩着せがましいけど、よく面倒を見てやったほうだと思うよ?
「まぁまぁキングさん、ジェノスさんの好きにさせてあげましょうよ。……正直僕も、お腹ペコペコでして」
手持ちの食糧やお菓子を、車に乗せた子供達に余すことなく配ったおかげでランドセルや胃袋の中身を空にしていたイサム君。
……よくもまぁ我慢してたもんだよホント、き〜みは優し〜いヒーローさ〜♪(ア○パンマン風)
「……ま、そうだね。それじゃあジェノス、あくまで無理のない範囲で頼むよぉ?」
「はい!」
俺やジェノスは数日間何も食わなくてもへっちゃらだったけど、イサム君やほかの人達を
ちなみに、この行動に国防軍は一切関与していない。
強いて言えば、俺が俺に許可を下してイサム君や避難民達のためにヒーローチーム共用の〝魔法の荷物入れ〟から食材を取り出し、料理を作ってあげているのだ。
そして、俺の行動の責任は全てセキンガルさん一人が負うことになると。
……こうして文字にして起こすと酷えな俺。
ジェノスがジャガイモを剥いて刻んでいる間、俺は大鍋に刻んだ玉ねぎをドカッと入れて炒めていく。
肉じゃがの作り方は、ほらアレ、カレーの作り方と途中までは一緒なのよ。
同じ煮込み料理、カレーはカレールーを入れるけど、肉じゃがは醤油、みりん、酒、砂糖なんかを入れて落とし蓋をしとけば大体完成するの。
余計に肉じゃがを作っとけば、後日カレールーをぶち込むだけでカレーになるからお手軽お手軽ぅ〜♪
「……ジェノスの後任、どうするのかなぁ?」
「そう、ですよね……」
こればっかしは、気になってしょうがない。
思わず玉ねぎを炒める手が止まり、真剣に悩んでしまう俺とイサム君。
そもそもの話、こういう大事なプロジェクトで後にも先にも悔いが残らないよう前もって入念に議論をしておくのが俺にとっての普通なんだけど、協会の上層部の人達にとっての普通ではなかったみたいで、俺が元の世界に帰還したその日に急遽決まった急造チームがセキンガルさん含めたこの四人なのだ。
我ながら思う。
……よく今日まで破綻しなかったな、と。
むしろこの少人数で、かつ、比較的仲良しチームだったことが功を奏したのかもしれない。
だからって四人はねぇだろうと思うワケで、チームワークが抜群に優れていても、個々人のマンパワーに頼り切った少数精鋭なんてものは、個人の許容量を超える大規模事態が勃発すればあっという間に崩壊するか機能しなくなる。
炎龍が襲ってきた時、それを痛感したね。
断言してもいい。
もしジェノスがいなかったら、絶対避難民から犠牲者が出ていたと。
「っ、本当に、すみません……」
「いやいやいや、これは明らかに協会の不手際でしかないでしょ。ジェノスに非なんて全くないよぉ」
「そうですよジェノスさん。……とはいえ、ジェノスさんの抜ける穴は大きすぎるんだよな。そこんところセキンガルさんがどう協会を説得するかに懸かってるよなぁ……」
「……案外、
「「 ………あり得ますね 」」
「そこは否定しようよ二人ともぉ……!」
今更ながら緊張してきたよ俺(震え)
こんなしょーもない話で一喜一憂するなんてさぁ、心臓がいくつあっても足りないよぉ……。
「そんなことはないぞ、キング」
あー!その声はー!!
「セキンガルさん。……まさかもう?」
「そのまさかだチャイルドエンペラー。今さっき協会本部と連絡を取り、軽く協議した結果、大幅な増員が為されることとなった」
「ほー、それは凄い」
「……どのプロヒーローを派遣するんだ?」
気になる気になる。
半端な奴を寄越してきたらスト起こしてやるからね!?
「キングとチャイルドエンペラーならば心当たりがあるだろう?……何せ君達が押し出した連中だからな」
「「 え?…………………あっまさか!? 」」
うおっマジで?
そこで
「「 ……『刑務サポーター』 」」
「
「となると〝臭蓋獄〟の囚人達を起用すると言うことですね。……まさか最前線に立たせると?」
いくら戦闘能力が高くても、ぷりぷりプリズナーが押さえ込める程度の連中じゃ、いざって時に戦闘で役に立つか分からないなぁ。
肉の盾にするってんなら大反対なんだけど?
「上層部の思惑はそうだろうが、私個人の考えは違う。彼らは本心から更生を願ってこのような未知の危険地帯に飛び込む決意をした。その意志は汲むべきであると考えるし、
「……そうですね。ドラゴンみたいな脅威は俺達S級が相手をしたほうがいい。彼らにはその後ろで逃げ遅れた民間人の避難誘導なんかをしてもらったほうがサポーターらしくていいかもしれません」
あ、国防軍とのそこら辺の交渉はどうなってんだろ?
更生する意思があるとはいえ、元犯罪者の囚人なワケだから受け入れがたいんじゃないのかなぁ。
あと、マスコミとかも五月蝿くしそうだし。
「既に国防軍からも了承を得ている。……それもこれも全てシッチの根回しのおかげでな」
「シッチさんが?……それなら納得だね」
「ああ。色んな意味で問題のある連中だが、監督役としてぷりぷりプリズナーも付いてきてくれる。暴動や脱走の心配はほぼないだろう」
うげぇ……分かっちゃいたけどさぁ、やっぱり来るんだなぷりぷりプリズナー。
……入れ替わりに俺が帰ろうかなぁ?
「そこにもう一人、S級を追加で派遣することになっている。……キング、君の
「……まさか、でしょう?」
弟子が突然生えるものでないなら、俺の弟子はジェノスと
……マジでヒーローになったんだ。
俺は天を仰いだ。
ついでに玉ねぎも焦がしちゃった。アチチ!
「失礼しましたぁ」
上司連中からの説教や嫌味を、とぼけた表情で馬耳東風と聞き流すこと小一時間。
査問会にも似た会議はそれでもどうにか〝連れて来てしまったものはどうしようもない〟という言葉で幕引きが為された。
国には、避難民の中で自活しての生活が難しい老人・女子供を保護したと報告することになる。
色々と言われるかもしれないが、人道的な配慮の一言で強行突破するしかないと、苦々しい表情をしつつも認めるしかなかったのだ。
「……で、俺が面倒を見ろってか。糧食班に
「よぉ、イタミ」
これから先に待ち受けているであろう膨大な書類との戦いに思わず辟易していると、ふと、暗がりに置かれたベンチに座る男に声をかけられたイタミ。
天井近くまで立ち上るタバコの煙。
陰影の向こう側で口元だけを歪めた陰湿そうな笑み。
ヤナギダ二尉であった。
「お前さん、わざとだろ?」
「何がです?」
年齢的にはヤナギダ二尉のほうが若いが、昇進したばかりのイタミからすればヤナギダのほうが先任だ。
階級が同じ場合、先任者が上位になる。
加えて、イタミはヤナギダがあまり好きではなかった。
好きでない相手とは出来るだけ関わり合いにならないようにすることがイタミの処世術である。
礼儀正しくするのも、余計な摩擦を生まず作らず、相手の記憶からフェイドアウトしたいからだ。
「とぼけるなって。みんな分かってんだよ。それまでは定時連絡だけは欠かさなかったお前が、ドラゴン撃退後に突然通信不良で連絡できなくなってましたって誰が信じる。大方避難民をどっかに放り出せって言われると思ったんだろ?」
「いやぁそんなことは……こっちはホラ、異世界だしぃ。電離層とか磁気嵐の都合とか、思うようにならんもんですなぁ。この世界の太陽黒点ってどーなってるのかなぁ?」
「ふん、
何とも苦しい言い訳をしながら愛想笑いを浮かべるイタミに、溜息代わりの煙を吐き出すヤナギダ。
「ま、遅かれ早かれ地元民との交流は深めなきゃならんかったからな。スケジュールが早まっただけで問題にもならん。……上の連中はそう考えているが、裏方のコッチとしちゃあ堪らんぜ。段取りが狂っちまったんだからよ」
「(どうしてもこっちの負い目につけ込みたいワケね、この人は―――)いずれ精神的にお返ししますよ」
「足りないな。大いに足りない」
「アンタせこいですなぁ。恩を着せて俺に何をさせようと?」
「……ちょっと
タバコを煙缶に押し付けてグリグリと捻って火を消したヤナギダは、そのまま立ち上がるとある場所を目指して歩を進めた。
陽はゆっくりと傾き、日の沈む方角であるがゆえに西と位置づけられた空がゆっくりと紅く染まりだす。
そんな空を見渡せる、西2号(仮)隊舎の物干場に二人の男が相対していた。
ヤナギダはフェンスにもたれつつ、タバコに火を付ける。
そして話を始めた。
「いいかイタミ、この世界―――特地は宝の山だ。我々の世界に住む人類とも姿形が非常に近似していて、早い話が交配もできる可能性がある。そして何より俺達は、この世界の大地に立ち、息を吸って生存することが出来ている。食い物についても……あそこで腕を振るっているヒーロー達の出す料理を連中が食べて健康被害がなければ、逆にこの世界の食い物を俺達が食べてみようという話もいずれ出てくるだろう」
フェンスの向こう側を見やると、確かにキング達がテントを張って炊事をしている様子が見て取れる。
遠くから嗅いでも分かるくらい、美味しそうな匂いだ。
現に避難民達は、しがみつくように炊事の様子を見つめていた。
「この世界には公害や環境汚染もない。土地も広く、植物相も多彩で豊かだ。そして何よりも我々の世界で稀金属・希土類とされている地下資源もかなりの量が埋蔵されているとヒーロー協会の開示した情報で判明している。文明格差は中世と現代並、蟻と巨象ほどの格差があって、こっちが圧倒的に有利だ。そんな世界との唯一の接点が偶然にもニホン国防軍管轄のT市に開かれた。これは幸運だとも言えるし災厄とも言える。……が、
「……え?」
事ここに及んで、話の流れがおかしくなり始めていることに嫌な予感を覚えたイタミ。
そんなイタミに構うことなくヤナギダは続ける。
「……話は変わるが数ヶ月前、A市に巨大な宇宙船が襲来したことは流石に知ってるな?」
「えぇ、まあ……」
ヒーロー協会本部がある街に大胆にも攻め込んできた宇宙人相手に、被害や犠牲を一切出すことなく完全勝利を収めたヒーローの話題はいまだ民間人達の記憶に新しい。
……無論、そのヒーローが一時行動を共にしていたキングであることも承知している。
「キングが実は怪人だったと判明した時の衝撃は今も覚えている。……が、それは今はどうでもいいことだ。問題はキングに、月を創り出すほどの膨大なエネルギーと能力が備わっていることが
「……へ、創り出す?」
嫌な予感とは、当たってほしくない時に限って的中するものだ。
頭をポリポリと掻きながら、どうにか逃げ出すタイミングが無いものかと機を伺うイタミ。
「政府のお偉方……アメリカを初め、チュウカだとかロシア等といった色んな派閥がこぞってキングとキングの所属するヒーロー協会に探りを入れた。……結果、月を創造する以上の衝撃の事実が判明したのさ」
「(聞きたくないけど―――)なんです?」
「掻い摘んで言えば、キングは宇宙船を構成していた鉱物や技術諸々を〝煉獄無双爆熱波動砲〟で消し去る傍ら、自らの体の一部として取り込み、エネルギーを消費するだけでそっくりそのまま複製することが出来るらしい。信じられるか?石油や電気を半永久的に生成する鉱物や収納した物品のサイズや重量を縮減させる鉱物、巨大な物体を浮遊飛行させる鉱物、毒気のない飲水を無限に湧かせる鉱物、金銀銅鉄などと言った鉱物を生成する鉱物……これら全てを、たった一個人がエネルギー切れを起こさない限りは際限なく生み出せるってワケだ。言ってしまえば無限に宝を生み出す金の龍だ。これの意味するところが分かるか?」
「……世界経済壊れちゃうってこと?」
「そうだ。キングがもしその気になって金をアホみたいに生み出して大量放出してみろ。それだけで金の価値は暴落し、ただの石ころにも劣る
「見た感じ、失敗してるようですけど」
「キングはな、無能揃いなヒーロー協会上層部に明確な〝気付き〟を与えちまったんだよ。……自分達は既に、物を持つ側に立っていたのだと。分かるだろ?世界では持っている者が勝者だ。狙ってやったかは知らんが、キングはその強さを示したことで協会内で盤石な地位を手に入れちまったのさ。それこそ、国相手にも強気に振る舞えるだけの自信を与えた上でな」
凄いことだとは思う。
……思うが、そこまで話が壮大になってくると、もはや自分の許容量を完全に超えてしまっている。
そもそもの話、目の前にいる陰険メガネことヤナギダは、自分に何を期待してこんな話をしているのだろうかと思わず怪訝な表情になってしまう。
嫌な笑みを浮かべながらヤナギダは話を続けた。
「なぁイタミ。政府の、ニホン派閥の連中にとって〝門〟の出現は予想外の事態ではあった。が、
「は?そりゃ一体……」
「加えて、自国民を誘拐されたという事実が何よりも大きな後押しになった。
「おいおいおい、もしかして……!」
イタミはようやく、ヤナギダが何を言わんとしているのかを理解した。
……と同時に、逃げ出すタイミングを逸したことを悟る。
「これはニホン派閥の総意であり確信だ。例え全世界から縁を切られようと、キング一人を抱き込んでおけば問題なくやっていけるほどの利益を得られるというな」
「お、お、俺に、キングさんを寝返らせろと、そう言ってんのかアンタ!?」
無茶苦茶すぎんだろ。
……思わず敬語を忘れ、素で驚きを露わにするイタミ。
「……ま、安心しろよ。俺達は結果を急いじゃいない。あんたには近日中に大幅な自由行動が許されるが、その間、現地民とのコミュニケーションもそこそこにキングの動向をそれとなく気にしてくれればいい。
「まさかとは思うけど、キングさんの力を当てにして特地にニホン国を再建するなんて言わないよな……?」
「………………そうなったら〝最高〟だな」
「たまらんね全く。ヤナギダさん、アンタせこいよ」
「ふんっ、何とでも言え。T市2区事件の後、いつクビにされてもおかしくなかったお前に賞詞までくれてやったのはこの時のためだ。今まで税金でのんびりした分しっかり働けよ」
にしたって最悪だわボケェ!!
……そんなイタミの心の叫びは、タバコをポイ捨てして立ち去るヤナギダの耳に入ることはなかった。
再三にわたってキングの派遣を要請する国防軍と、いない者はいないと素直に認められないヒーロー協会の間で何とも珍妙で滑稽なやり取りが繰り広げられていたのだが、それはあくまで余談である。
キングさん >>>>> 超えられない壁 >>>>> 特地
まぁ仕方ないですよね。
地球側なのに明らかにファンタジーな男なんですもの。
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