GATE 国防軍 彼の地にて〝最高〟とともに戦えり   作:びよんど

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自立するには金が必要って話です。


第十四話 自立する意志

 

 

<<< ニホン国防軍 >>>

 

 

「しばらく見ないうちに更新が進んでる。おっ、これは後で保存せねば……」

 

「……オホン」

 

 

イタミは、朝っぱらから運用訓練幹部(中隊参謀みたいなもの)の斜め前の席に座り、彼の冷ややかな視線と咳払いを無視しながら携帯でお気に入りのサイトのネット小説を読んでいた。

 

〝門〟のこちら側で携帯が利用できるようになったのもつい先日のこと。

 

アンテナが設置されるまでは、休暇のたびにわざわざ門を越えてT市に出なければならなかったのだ。

 

それが携帯用の共同アンテナ(チャイルドエンペラー製作)が設置されたことで、門の向こう側と個人的なやりとりもしやすくなった。ありがたい話である。

 

 

「イタミ二尉」

 

「……うほん」

 

「Web小説はいつ消えるか分かんないからなー」

 

「あ―――二尉?」

 

 

イタミは、斜め後ろからかけられる声を聞き流そうと努力した。

 

通りの良い女声であるのだが、耳に入らない。

 

今は休憩中につき、仕事に関わることはあんまり耳にしたくないという意思表示のつもりだった。

 

ただでさえあのキングが関わるアレコレの後処理のせいで最近ロクに休みが取れなかったこともあり、精神的に疲弊し、ささくれ立っているのだ。

 

少しくらい休ませてくれよと願いながら携帯をポチポチと押すイタミであったが、そんな平穏が長く続くはずもなかった。

 

 

二尉!!

 

ゴッ「ぐおっ!?」

 

 

イタミの下腿(かたい)に激痛が発生する。

 

痛え痛えと思いつつ振り返ると、クリバヤシクロカワが胡乱な目でこちらを見つめていた。

 

 

「話を聞いて下さいませんか?」

 

 

ちなみに、イタミの下腿に激痛を発生させたのはクリバヤシの半長靴の爪先だった。

 

 

「クリ〜〜〜格闘徽章(きしょう)持ちの爪先は武器だぜ?」

 

 

無抵抗の人間相手に格闘徽章持ちの有段者が武器(つまさき)を振るうという悪逆非道を目撃したであろう自分の斜め前に座る運用訓練幹部に視線を送ると、彼は視線を窓の外に向けてくつろいでいた。

 

イタミの味方など、どこにもいなかったようだ。

 

 

「……で、何よ?」

 

テュカのことです」

 

 

クロカワの言葉に、イタミは携帯電話をパタンと畳んで机の引き出しに放り込むと椅子ごと振り返った。

 

気怠そうに俺なんかに相談してもしょうがなかろうに、などと呟く姿に今の彼の心情がとてもよく表れている。

 

そんなイタミに構うことなくクロカワが切り出したのは、第三偵察隊で保護している避難民の一人で、金髪碧眼のエルフ娘テュカ・ルナ・マルソーであった。

 

 

「彼女がどうかしたの?」

 

「……彼女の状態、いえ()()について。キングさんから心当たりがあると相談されたので、ご報告をしに馳せ参じました」

 

「えっ、あの人ってお医者さんだったっけ?」

 

 

プロヒーローとしての活躍は聞き及んでいるが、まさか医者としても活躍してるのか?

 

……いや、あれには人を治せる魔法みたいに凄い能力があるから、つまりはそういうことも出来るのかと勝手に納得していると、クロカワはおもむろに首を横に振った。

 

 

「いえ、あの方の医学的知見は凄まじいですが、本人が言うには無免許とのことです。だから、これから話すことはあくまでモグリの言葉だから診断書もないし、聞き流してくれても構わないと前置きしていました」

 

「(あんましそういうことは聞きたくないんだけど―――)テュカの病気?ってどんななの?」

 

 

直後、イタミは自らの軽はずみな言動を激しく後悔することとなる。

 

……自分がどれだけ事態を軽く見ていたのかを。

 

喉元過ぎれば熱さを忘れる。

 

過去に経験した苦い記憶を再び味わう羽目になることを。

 

 

「テュカの病名は……パーソナリティ障害。現実逃避傾向があると見られ、その病状は決して軽度ではないとのことです」

 

 

兆候自体はあった。

 

食事も、支給される衣服も、居室すらも、必ず二人分を要求し、衣服は片方は男物を選んでいる。

 

最初はそういう文化かと思ったが、どうもそうではないようだった。

 

 

「食事の二人分と言うのは、二人分の量を一人で食べているワケではなくって、つまり食器を二セットの二人分を要求するということなんです」

 

「隠れて飼っているペットにやってるとかは?」

 

「一セット分は、手をつけずに必ず廃棄してます。さながら大切な人の帰りを待っているかのように」

 

「服は片方は男物だって言ってたよな?……もしかして、脳内彼氏を飼っているとか?」

 

 

イタミは茶化すように言った。

……だが、クロカワやクリバヤシは彼が期待するような反応は示さなかった。

 

 

「キングさん曰く、父親の死が発症の引き金となり、その現実を受け入れきれないあまり、頭からその現実を切り離してしまったと考察できる。その彼女にしてみれば今も父親は健在であり、無事私達に保護されていると信じることで、どうにか精神の均衡が保たれていると。……とても健全な精神状態とは言えません」

 

「………ッ」

 

 

思わずチクッと頭が痛むイタミ。

 

深いところに沈めたはずの記憶が呼び起こされそうになっていた。

 

 

「医官には相談したか?」

 

「精神科医はこちらに来ておりません。それに、キングさんも自分の診断が絶対に正しいワケではないともおっしゃっていました。そういう一種の葬送の可能性も否定できないと」

 

「その点も踏まえて、精神科医の招集とメンタルヘルスの実施を嘆願書付きでお願いされました。勿論キングさんの直筆です」

 

 

クリバヤシにサッとお出しされた嘆願書に軽く目を通し、ここまでされては黙っているワケにもいかないだろうと、イタミは溜息混じりに嘆願書を受け取った。

 

 

「しょうがないわなぁ。これは前向きに検討するとして、テュカとはよく話してみるしかないだろうな」

 

「勿論そういたします。けど、あまり打ち解けてくれなくて……」

 

 

これにはイタミも首を傾げた。

 

第三偵の凸凹WAC。

……その中でもクロカワは避難民の子供達には絶大な人気を誇っていた。

 

勝手な振る舞いで周りを困らせるロゥリィレレイ曰く、年上、年上の年上、もっと年上らしい)ですら、クロカワの言葉には割と素直に従うのだ。

 

 

「それは困ったな。クリは拳で語り合うタイプだしなー」

 

「にゃ!?」

 

「……まぁ分かった。後で俺も話してみるわ。つったって俺だってキングさんの翻訳なしに上手く意思疎通できる自信はないけどさ」

 

「最近は子供達のほうが共通語を覚えてきています。きっと、私達がこちらの言葉を覚えるよりも早く習得すると思いますわ」

 

「そりゃ結構。……あっそうだ、ちょいと聞きたいことがあるんだけどさ―――」

 

「隊長、そろそろ出発時間です。クロカワ、クリバヤシ、お前らも早く来い」

 

 

ここ最近キングさんからキング流気功術を伝授してもらったらしいけど、その後の進捗状況とかどうよ?

 

……さりげなくそんなことを聞こうとしたイタミであったが、その言葉は廊下から現れたクワバラ曹長の声によって掻き消された。

 

 

「え、もう?(……まぁ今から偵察ついでに鱗を売りに行く彼女達を連れて街まで行くことだし、そもそもあまり急ぐ必要はないからな―――)ほんじゃあ、行きますか!」

 

 

未来の自分に丸投げすることにしたイタミは、椅子から立ち上がるとちゃっちゃとクワバラに指示を出してその場を後にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<<< 難民キャンプ >>>

 

 

「……とまぁそういうワケで、ヒーローチームで同行するのは俺とユエの二人だけになるよ。よろしくねぇ」

 

「……短い間だけど、よろしく」

 

「心強い限り。同行感謝する」

 

 

チッスチッス、俺は〝最高〟のヒーローキングだお!

 

いやぁ、両手に花どころか俺とカトーさん以外可愛らしい女の子しかいないねぇ!

 

……なぁんて言ってると、アレーティアに睨まれるなぁ。

お口にチャックしとかないと……。

 

 

「気になることがある」

 

「ん、どうしたのレレイちゃん?」

 

「あの荷車……あなた達が乗っていた黒い車が見当たらない。後から来る?」

 

 

……あぁ、俺達が乗っていたあの高機動車のことかな?

 

 

「今日来るのはイタミさん達の三台だけだよ。これから来るその車にレレイちゃん達と翼竜の鱗や牙を詰めた袋を乗せる手筈になっているんだ」

 

「?……そこにあなた達も乗る?」

 

「?……ユエはともかく俺じゃあ体が大きすぎて乗り切れないと思うよぉ?」

 

「………………………もしかして、足で走る?」

 

「うん。俺はそのつもりだよぉ」

 

 

この前みたいな大規模な偵察隊を組むワケではなく、今回はあくまで偵察は()()()でしかない。

 

レレイちゃん達をイタリカという街まで無事送り届けるのが優先すべき任務なのだ。

 

だからイサム君とぷりぷりプリズナーセキンガルさん、『刑務サポーター』にはお留守番をお願いし、不測の事態でもつつがなく動ける俺とアレーティアが行くことになったのだ。

 

イタミさん達も既に承知していることである。

 

 

「イタリカの街。テッサリア街道を西、ロマリア山麓。少し遠い」

 

「大丈夫大丈夫。体力には自信があるからさぁ」

 

「もはや何でもあり。逆に出来ないことを知りたい」

 

「教えるワケないでしょ。……って、ロゥリィちゃんどうしたの?そんな隅っこに隠れて……」

 

 

あらあら、テュカちゃんの背中に隠れて可愛らしい。

 

俺に声をかけられてハルバードごとピクッとするその様子から、首根っこ引っ掴まれた野良猫を連想してしまう。

 

 

「あ、あなたもぉ……ついてくるのぉ……?」

 

「同じ車には乗らないから安心してちょーだいよ」

 

「うぅ……こんなことになるんだったらぁ……」

 

「どうしちゃったのかしら?……ここ最近のロゥリィって気分が落ち込みがちなのよね」

 

「気にしないであげてテュカちゃん。……たぶんスランプに陥っているだけだから」

 

「「 ()()()()? 」」

 

「不調続きってこと。……おっ来たな」

 

 

三台の軍用車両が視界に飛び込んでくる。

 

車窓の奥からクラタさんの姿がチラリと見えたゾイ。

 

 

「どうもキングさん。今日からまたお世話になります」

 

「いえいえイタミさん。こちらこそお世話になります」

 

 

遠い昔のニホン人的な挨拶を車から出てきたイタミさんと交わしつつ、軍用車両に大袋を二個積み込む難民の男の子を横目に見やる。

 

それと入れ替わるように積み下ろされたのは、飲料水、食材、医薬品、戦闘糧食、日用品等、様々だ。

 

あくまで必要最低限の物資ではあるけども、国防軍の庇護下に収まっている間は飢える心配はないだろうから俺としても一安心だねぇ。

 

 

「キングさんキングさん!」

 

「んぉ、なんじゃらホイ?」

 

 

軍用車両に大袋を積み込んでいた男の子が声をかけてきてくれた。

 

この子は確か……グラムって言ってたな。

キャンプにいる子供達の中で、特に俺に憧れの眼差しを向けていた気がするお。

 

 

「レレイお姉ちゃん達のこと、よろしくね!」

 

「……任されたよグラム少年。彼女達は必ず連れて帰ってくる。約束だ」

 

「うん、いってらっしゃーい!」

 

 

今回、俺含めた17人という人数でイタリカを目指して出発することとなる。

 

色々な意味で準備が足りていなかった前回と違い、今回は〝商売〟を明確な目的に据えて臨むことになる。

 

ぶっちゃけこの人数でも十分戦力過多ではあるのだけど、何が起こるのか分からないのが人生というものだ。

 

とりわけ俺は、存在そのものが〝保険〟と言えるだろう。

 

……足を引っ張らないように気張らないとなぁ。

 

そんなことを考えながら、イタミさん達の乗る軍用車両と並ぶように走る俺とアレーティアであった。

 

 

「え"っ、アレーティア!!?」

 

「……何?」

 

「何って君……君まで走ってどうすんの!」

 

「……何かおかしい?」

 

「すぐバテちゃうって!ホラ早く乗せてもらいな!」

 

「……すぐ疲れるような生半可な鍛え方はしてない」

 

「…………………そう言えばそうだったね」

 

「……それに」

 

「それに?」

 

「……お日様を浴びながら走るのは、気持ちがいい」

 

「…………………そうだねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いま走っているのがテッサリア街道」

 

「ここがイタリカか」

 

「(凄く精密な地図。どうやって書いているのだろう?)アッピア街道、ロマ川、デュマ山脈」

 

 

おやっさんと呼ばれたクワバラ曹長が航空写真から起こした地図に更なる書き込みをする様を観察するように見つめるレレイ。

 

 

「(この装置で向かってる方向が分かる……?)」

 

「あぁ、これは方位磁石(コンパス)。この針を北に合わせて地図を置いて……そういえばここの北極と磁北極のズレはどうなのかな?」

 

 

緻密かつ正確に書き込まれ完成に近付いていく地図に強い興味を示すそんなレレイに、我が娘を見つめるような眼差しで磁石の取り扱い方などを教えていた。

 

 

「あーあー、鬼軍曹と呼ばれてたクワバラ曹長(おやっさん)が孫娘見るような目でさぁ。こっちは陸曹候補生の課程で散々ハイポート走をさせられたってのに……」

 

 

バックミラーに映るクワバラの姿をチラッと見て、クラタはボソッと呟いた。

 

一般陸曹候補学生の前期課程で、散々クワバラにキツい訓練を課された恨みつらみがクラタの心中に積もっていたが、孫娘を愛でるお爺ちゃんのような姿を見せられてはなんとも霧散してしまうのだ。

 

 

「♪……っ……☆……どうなの?」

 

「そんな……!……もぅ……そんなんじゃ……」

 

 

ロゥリィは、テュカと何やら話をしていた。

 

だが現地語で、しかも早口だからイタミ達ではその内容の半分も理解できない。

 

ただ、なんとなくテュカがロゥリィに揶揄(からか)われているのは理解できた。

 

 

「クラタ、あの二人何を話してると思う?(/////////)」

 

「なんか色っぽい話みたいな感じッスね……(/////////)」

 

 

悪戯っぽい笑みを浮かべるロゥリィがクロカワに視線を移し、声をかけようとして耳まで真っ赤にしたテュカに止められるという一連の流れが何回か続いており、何なんだろねー?と思いながらも和やかな空気が漂っていた。

 

 

「イタミ隊長、右前方で煙が上がってます」

 

 

……が、そんな平和な時間も唐突に終わりを告げる。

 

運転しているクラタが、右前を指差した。

 

ほぼ同様の報告が無線を通じて、先頭を走る車両からも入ってくる。

 

イタミは、双眼鏡で煙の発生源あたりを観察してみるが、まだ距離があって確認するのが難しい状態だった。

 

車列とキング達を停めさせてクラタに尋ねる。

 

 

「クラタ。この道、煙の発生源の近くを通るかな?」

 

「というより煙の発生源に向かってないッスか?」

 

「嫌だよぉ。前方に立ち上る煙って、これで二回目だろ?どうにも悪い予感がするんだよねぇ」

 

 

次いで、イタミはクワバラに意見を求めた。

 

クワバラは地形図を参照して、煙の発生源あたりにカタカナでイタリカと記入された街が存在していることを示した。

 

テッサリア街道を進む車列は、当然のことながらイタリカへ向かっている。

 

次に、イタミはレレイに双眼鏡を渡して意見を求めた。

 

レレイは、双眼鏡を前後逆さまに構えてしまい眉を(ひそ)めたが、すぐに間違いに気付き双眼鏡を正しく構えると前方へ向けた。

 

 

「あれは、煙」

 

「煙の理由は?」

 

「畑焼く煙ではない。季節違う。人のした何か。……鍵?でも大きすぎ」

 

「〝鍵〟じゃなくて〝火事〟ね。……全軍、周辺と対空警戒。慎重に接近するぞ。……って、何?」

 

 

各隊に警戒を促したイタミと運転しているクラタの間に身を乗り出してきたロゥリィは、何とも言えない妖艶な笑みを浮かべながら一言こう呟いた。

 

 

「……血の臭い」クスッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……後に〝イタリカ攻防戦〟と呼ばれるこの戦いを通して、本格的に地球側は帝国との関係を持ち始めていくことになるのだが、それはまだ少し先の未来である。

 




次回からイタリカ攻防戦が始まります。

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