GATE 国防軍 彼の地にて〝最高〟とともに戦えり   作:びよんど

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イタリカ攻防戦があじまるよって話です。


第十五話 イタリカ攻防戦 前編

 

 

イタリカの街は、200年ほど昔に当時の領主が居城を建設し、その周辺に商人を呼び集めて、城壁を巡らして作り上げた城塞都市である。

 

当時は政治上、そしてテッサリア街道とアッピア街道の交点という交通上の要衝として大きく発展したのだが、帝国が拡大して国境が遠のくにつれて政治的な重要性が薄れ、現在は中くらいの地方商市といった程度に落ち着いている。

 

これといった特産品などもないが、周辺で収穫された農産物、家畜類、あるいは織物等の手工業品を帝都へと送り出すための集積基地としての役割を担っている。

 

現在は、帝国貴族のフォルマル伯爵家の領地である。

 

現当主ミュイ―――御年11歳。

前当主コルト(故)の三人いる娘のうちの末子である。

 

当然と言うべきか、家督を継いだとはいえ、いまだ垢抜けない少女に家臣を纏め上げる求心力も経験もなく、彼女の後見人を巡って長女と次女が醜い罵り合いをし合うまでに事態は悪化の一途を辿っていった。

 

それでもイタリカの物流を途切れさせるまでに悪化しなかったのは、娘達のそれぞれの夫の頭にそれほど血が上っていなかったことが挙げられるだろう。

 

フォルマル伯家の遺臣と、ローウェン伯家とミズーナ伯家の兵によって領内の治安は厳正に保たれ、姉妹の争いは帝都の法廷へと移り、やがての皇帝の仲裁によってミュイの後見人が決まることで事態は沈静化するであろうと誰もが予想していた。

 

しかし、帝国による異世界出兵によって事態は更に悪化の一途を辿ることとなる。

 

ローウェン伯家とミズーナ伯家、それぞれの当主が揃って出征先で捕縛されてしまったのである。

 

これによって長女も次女もフォルマル伯爵領に関わっている余裕が全くなくなってしまった。

 

両家の兵も退いてしまい、後に残されたのはミュイとフォルマル伯爵家の遺臣ばかりである。

 

さきにも述べたが、いまだ幼いミュイに家臣を纏め上げる求心力などなく、領地の運営も惰性でなされるようになった。

 

当主と家に尽くす忠臣以上に、私欲で動く佞臣が多く蔓延ることで横領と汚職が横行するようになり、街は徐々に不正と無法で支配されていくこととなった。

 

民心は揺れ動き、治安は急激に悪化していく。

 

各地で盗賊化した落伍兵やならず者が、領内を旅する商人を度々襲うようになり、これによって交易は停止し、イタリカの物流は停滞してしまう。

 

更に盗賊やならず者達は徒党を組んで、大胆かつ大規模に村落を襲撃するようになった。

 

数人の盗賊が十数人の盗賊集団となり、現在では数百の規模となった。

 

そしていよいよ、イタリカの街そのものが盗賊達に襲撃されたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<<< 城塞都市イタリカ >>>

 

 

「くそっ……退け退けーッ!!」

 

「…………………………ふぅ」

 

 

街の城門上に陣取って弓弦を鳴らしていた皇女ピニャは、退却していく盗賊達の背に向けて数本の矢を放った後、大きな溜息をついて弓矢を下ろした。

 

周囲には傷付いた兵がのろのろと立ち上がり、あるいは倒れた兵が血を流して倒れている。

 

石壁には矢が突き刺さり、周囲では煙が立ち上っていた。

 

見渡すと、農具や棒を持った市民達も多い。

 

城門の外には、盗賊達の死体や馬などが倒れている。

 

 

ノーマ、ハミルトン!無事かッ!?

 

「ハァ…ハァ……」スッ…

 

「ゼェ…ゼェ……生きて…ま〜す…ハァ…ハァ…」

 

「姫様、小官は心配してもらえんのですか?」

 

グレイ、貴様が無事なのは分かりきってる」

 

「それは喜ばしいことやら悲しきことやら……」

 

 

ノーマは剣を杖代わりにすることで何とか体を支え、ハミルトンに至っては完全に座り込んでいたが、息も絶え絶えにどうにかピニャに無事を伝える。

 

……見るからに老兵でありながら息一つ切らしていないグレイ・アルド騎士補の歴戦ぶりが伺える。

 

 

「姫様ぁ。なんで私達こんなところで、盗賊を相手にしてるんですか?」

 

 

ハミルトンは責めるような口調で苦情を言い放った。

 

(いささ)か無礼ではあるが、言わずにいられない気分だった。

 

 

「……仕方ないだろう。異世界の軍がイタリカ侵略を企んでると思ったんだから!!

 

 

アルヌス周辺の調査を終えて、いよいよアルヌスの丘そのものに乗り込もうとしたところ、ピニャらの耳に一つの噂話が入ってきた。

 

それは、フォルマル伯爵領に大規模な武装集団がいる。そしてイタリカが襲われそうだ。と言うものだった。

 

それを聞いたピニャは、アルヌスを占領する異世界の軍がいよいよ侵攻を開始したと考えたのである。

 

 

「……まさか連合諸王国軍の敗残兵崩れの盗賊団だったとは……!」

 

 

ピニャとしても、地味な偵察行ではなく華々しい野戦で初陣を飾ろうと殆どの騎士団にイタリカへの移動を命じつつ、自分達はいち早く先行していたのである。

 

敵戦力を見極めた上で、その数が少なければイタリカを守備しつつ、その後背を騎士団に突かせて挟撃することが出来るとも考えていた。

 

……が、蓋を開けてみれば街を襲っていたのは大規模な盗賊集団であったのだ。

 

それも()連合諸王国軍の敗残兵が構成員の過半数を占める盗賊団であり、その統率力は中々に侮れない。

 

これに対して、イタリカを守るべきフォルマル伯爵家の現当主はミュイ(11歳)、つまり子供だ。

 

彼女に戦闘の指揮がとれるはずもなく、兵達の士気は最低を極めていた。

かなりの人数が脱走し、残存兵力もごく僅かであった。

 

 

休むのは後だ!盗賊どもはまた来るぞ!三日持ちこたえれば妾の騎士団が到着する!死体を片付け柵を補強しろ!急げ急げ急げ!!

 

 

実際は、もう少しかかるかもしれないとは言えない。

 

今はとにかく老人にも奮闘してもらわなければならない正念場ゆえ、心を鬼にして民兵達に檄を飛ばしていく。

 

 

「グレイ、門の具合は?」

 

「ダメですなぁ。いっそのこと木材で塞いで敵が来たら火をかけますか」

 

「……悪くない。そうしてくれ」

 

 

グレイの提案になるほどと頷く。

 

燃え盛る炎ほど強固な防壁はないかもしれないと理解したのだ。

 

ピニャは振り返ると、城壁の上へと顔を上げた。

 

 

「ノーマ!!敵影はないな!?」

 

「今のところ敵影なしです!」

 

 

その時ふと、空腹感を刺激する食事の匂いが漂ってきた。

 

 

「……交代で食事と休息を取らせろ!」

 

「はっ!」

 

 

匂いのするほうに顔を向けると、そこには大鍋を載せた荷車を運ぶ伯爵家のメイド達の姿があった。

 

 

「皆さーん、食事を用意して参りましたよー!」

 

 

出てきたのは大麦を牛乳で煮詰めたドロッとした粥と黒パンである。

 

どちらもあまり美味いものではないのだが、空腹は最高の調味料とも言う。

 

ピニャも食事の匂いに空腹感が刺激された。

 

空きっ腹を抱えたまま突貫工事を続けても効率が落ちるばかりと考え、交替で食事をとりつつ作業を続けるよう命じる。

 

 

「グレイ、妾は館で食事を摂ってくる。後は頼むぞ」

 

「はっ」

 

 

そうして自分も食事をとるべく、空腹と疲労で重くなった体を引きずるようにして、フォルマル伯爵家の館へと向かったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

警備の兵士などの男手は、殆どが城壁守備に出向いているため、伯爵家の城館は門から玄関に至るまで人の姿はなかった。

 

かと言って誰もいないワケではない。

 

屋敷の中庭では大鍋がいくつも置かれ、大麦の粥が煮立てられ、黒パンが焼かれていた。

 

炊き出しのために城館のメイド達は全員駆り出されて、忙しく立ち働いているのだ。

 

 

「「 お帰りなさいませ。皇女殿下 」」

 

 

どうにかピニャを出迎えたのは、伯爵家の老執事とメイド頭の老女だけである。

 

 

「ああ。すまんが食べ物と、何か飲み物を……」

 

「かしこまりました」

 

 

老メイドにそう伝えて、ピニャは自分の屋敷であるかのようにソファーにどっかり座り込んだ。

 

傍らに立つ老執事が、ピニャに葡萄酒の入った銀のコップを差し出した。

 

 

「皇女殿下。どうやら守り切ることが出来たようですな」

 

「まだだ。奴らまたすぐに襲ってくるぞ」

 

「連中とは話し合いでどうにか出来ないでしょうか?」

 

「簡単だ。城門を開け放てばよい」

 

「では―――」

 

 

争い事を避けたい一心の老執事は、ピニャの言葉に一筋の光明を見出したのか、ホッとしたような表情をする。

 

 

「その代わり全てを奪われるぞ。女は凌辱され、男は殺される。妾も五十人百人と正気を保つ自信はない。……ミュイ伯爵令嬢はどうかな?」

 

「ヒッ…」

 

「ミ、ミュイ様はまだ11歳ですぞ!」

 

「そういう幼女趣味の変態がおらんとも限らん。奪われたくないなら、戦うしかあるまい?平和を求めて相手の言いなりになるのも一つの手だが、それは結局のところ滅びの道だ。戦は忌むべきものだが、それを避けることのみを考えると最終的に全てを失うのだ。であれば、歯を食いしばって戦うほかない」

 

 

ピニャは差し出されたワインを一気に飲み干した。

 

ふぅ…と、それでひと心地ついたのか口元を拭って大きな溜息をつく。

 

そして、老メイドが運んできた大麦粥とパンに手をつけたが、一口で眉を寄せた。

 

 

「……物足りん。肉はないのか」

 

 

老メイドは、毅然として首を横に振った。

 

 

「いけません。疲労の強い時は胃も疲れているものです。味の濃いもので腹を満たしては、かえって健康を損ねます」

 

 

ピニャは、老メイドの言葉に理があることを素直に認めた。

 

考えてみれば、城館のメイド達はこの事態に至っても動揺が少なく、黙々と炊き出しなどの作業に従事している。

 

そもそも彼女は炊き出しなどの作業を命じた覚えもない。

 

とすれば誰の指図か?

 

老執事は、さきの話しぶりから見ても分かるように、恐れおののいているばかりで何も出来ない臆病者だ。

 

となれば、この老メイドではないか?

 

そう考えてピニャは老メイドに尋ねた。

 

 

「お前、攻囲戦の経験があるのか?」

 

「……三十年ほど前、()()帝国領になっておりますロサの街で」

 

「……そうか」

 

 

どうやらこの老メイドは、実戦証明済みの存在だった。

 

伯爵家の当主が幼く、全く頼りにならないという状況下で、メイド達に動揺がないのも、この老メイドが彼女達の上に君臨しているからであろう。

 

ピニャは老メイドの言を受け容れ、食事を腹八分目で止めることにして、布巾(ふきん)で口元を拭った。

 

 

「では客間で休ませてもらう。火急の伝令はそのまま通せ」

 

 

そう老メイドに伝えて、ふと湧き上がった悪戯心から次のように尋ねた。

 

 

「……もし、妾が起きなかったらなんとする?」

 

「水を頭からぶっかけて、叩き起こして差し上げますとも!」

 

 

凄みのある笑顔とともにそんなことを口にした老メイドに、ピニャはコロコロと笑った。

 

そして、ベッドで水浴びしないで済むようにしようと言いながら、客室へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<<< ニホン国防軍基地 >>>

 

 

「……分かりました。ではそのように手配します。カノウ大臣」

 

 

ガチャッと音を立てて受話器を戻すと、何とも言えない様々な感情の籠もった溜息を零した初老の男性。

 

彼こそはハザマ陸将。

……特地に駐屯するニホン国防軍の最高指揮官にして、一般兵である二等陸士から昇進を重ね続けた生粋の叩き上げである。

 

T市2区事件での対応が原因で、あわや職を追われかけたイタミの命脈を繋ぎ、地上最強の男としてその勇名を轟かせるキングの特地出動をヒーロー協会に要請し続けていた影の立役者でもある。

 

 

「失礼しますハザマ陸将。滑走路の施設状況を―――どうしました?」

 

 

そこには報告のために馳せ参じたヤナギダ二尉。

 

誰の目から見ても不機嫌そうなハザマ陸将の様子に、流石のヤナギダも不思議に思って声をかける。

 

……返ってきた言葉は耳を疑うものであった。

 

 

「民間人に被害が出た時の状況について参考人招致だそうだ」

 

「(被害?何のことだ―――)誰をですか?」

 

「イタミ二尉と現地人被災者、後はキングだ」

 

「キングを?……あれはヒーロージェノスが『ドラゴン』を討伐し、死亡者はゼロに抑え、怪我人はほぼ全員がキングの手によって快癒したと―――」

 

「報告したよ。……だが先生の中には疑ってる方々がいるそうだ。ニホン国防軍(われわれ)とヒーロー協会は、失態を()()()()()()()()ないかとね

 

 

これにはさしものヤナギダも眉を寄せる。

 

あまりにもあんまりな言いがかりだが、よくよく考えてみれば、キングの底の見えない実力を知っていようが知っていまいが、そこにいちゃもんをつける者が現れてもしょうがないかと内心苦笑する。

 

 

「一番の問題は、キングの特地滞在が打ち切られてしまう可能性が生じてしまったことだ」

 

「(それは確かに看過できないな。せっかく打ち込んだ色んな楔が全部無駄になっちまう―――)早急に手を打ちましょう。せめてキングの参考人招致だけは取り下げてもらわねばなりません」

 

「……いや、いっそこのまま、流れに任せるのも有りかもしれんな」

 

「キングの証言に、全てを委ねると?」

 

 

すると、先程まで不機嫌そうだったハザマ陸将の顔つきが初めて機嫌良さそうに崩れる。

 

 

「ヒーローという名の免罪符(ライセンス)を振りかざす輩は好かんが、ああいう義理人情に厚い、弱者の正しさを守ろうとする漢は嫌いじゃないんだ。……あ、これはオフレコで頼む」

 

 

要はさっきの発言忘れてね?とお願いする上司に、やれやれと少し嫌味っぽく首を振って了承したヤナギダ。

 

 

「……で、イタミ二尉とキングはイタリカか?」

 

「はい。今向かっているはずです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<<< 城塞都市イタリカ >>>

 

 

何者か!?敵でないなら姿を見せろッ!!

 

 

……どうやら俺達は、来る場所と時期を間違えちゃったらしいねぇ(震え)

 

三階建てビル並に高い城壁の上から守備の兵士の人達がズラリと並び、あらゆる飛び道具の照準をこちらに定めて威嚇しておられる。

 

 

「……大歓迎ですね」

 

「どう見ても戦闘か何かがあった後ッスよ。熱湯かけられるのだけは勘弁してほしいんですけど……」

 

 

運転席にいるクラタさんに外から笑えないジョークを飛ばした俺はキング。

皆から〝最高〟のヒーローと言われている男でござんす。

 

っていうか、俺だってイヤだよ熱湯なんてぇ!!

 

火傷メチャクチャ治しにくいんだからねぇ!?

 

 

「熱湯……やだなぁ。火傷してまで生き残るなんて最悪だぜ?なぁレレイ、お呼びでないみたいだからほかの街にしない?取り込み中のようだし、巻き込まれたら君達も危ないし、安全安心路線で……」

 

 

ホラ、イタミさんもこう言っているんだし、ここは別の街にしませんかレレイちゃ〜ん……。

 

 

「その提案は却下する」

 

 

あぁぁぁぁもぉぉぉぉぉおお!!

 

そう来ると思ったよチクショォォォォォォォォォ!!

 

 

「でもさ、現実的に見てもこの城門の有様じゃ、俺達中に入れないんだけど」

 

「入り口ならばほかにも存在する。イタリカの街は平地の城市。東西南北の全てに城門があり、ほかが健在なら出入りは可能となる」

 

 

……まぁ確かにね、城門が一つだけとは限らないよね。

 

でもなぁ、以前は炎龍っていう〝怪人〟が相手だったから容赦なく討伐できたワケだけど、今回の相手は〝人間〟なんだぜぇ……?

 

守るべき人間から攻撃されるってだけなら、逃げればそれで済む話だけど、万が一反撃に転じて殺傷しようものならとんでもない大スキャンダルになるワケなんでぇ……。

 

ただでさえ危うい立ち位置にいる自覚はあるからさぁ、どうにもそこんところに抵抗感があるんだよなぁ……。

 

 

「イタミ達は待っていてほしい。私が話をつける」

 

 

……えっ、マジで言ってんのレレイちゃん!?

 

 

「ちょっと待ってレレイ!……なんでこの街にこだわるの?私達を助けてくれてるこの人達を私達の都合に巻き込んでいいの?」

 

 

……テュカちゃんの言うことはもっともだ。

 

俺達と違って臆病風に吹かれているワケじゃなさそうだけど、それでも明らかに戦時下の街中に入れば、街の人達に協力を要請される可能性は極めて高い。

 

それはつまるところ、プロヒーローが戦争に介入したという覆しがたい事実が発生することを意味する。

 

 

「だからこそ行く。私達は敵ではないと伝える。恩を受けているキングやイタミ達の評判を落とさないために」

 

「キングやイタミ達のため?」

 

「そう。この特徴的な乗り物の主はイタミ達を置いてほかはない。……キングやユエみたいなヒーローが、誇り高い英雄であると分かってもらいたい」

 

 

……ふぅやれやれ、まぁそうだよね。

こっちは戦いに来たワケじゃないんだもんねぇ……。

 

テュカちゃんも、流石に頷かざるを得ないみたいだし。

 

 

「大丈夫。商用で来たことを告げて、事情を確認するだけだから問題ない」

 

「……分かったわ。なら私も行く。ちょっと待って、いま矢避けの加護を―――」

 

「その矢避けの加護、余裕があるなら俺にもかけてくれ」

 

 

窓の外からこんにちわ♪(ニュル…)

 

 

「わっ!?……キ、キング!?」

 

「キング。あなたも来てくれる?」

 

「君らを傷付けさせるワケにはいかないからねぇ。なに、もし攻撃されたなら逃げる時間くらいは稼いでみせるからさぁ」

 

「ありがとう。とても心強い」

 

 

レレイちゃんが感謝を述べてる間に、テュカちゃんの魔法によるものか俺の体に風が纏わりついた気がするぉ。

 

……ほーん、これがエルフの力、かぁ……。

 

 

「わ、私もぉ……」

 

「ん?何だってロゥリィちゃん?」

 

私もぉ!行くわよぉ!!

 

 

ギャァァァ!?耳元で、耳元で叫ばんといてぇぇぇ!!

 

 

「こう見えて私ぃ、顔は結構知れ渡ってるって自負してるのよぉ?私の顔を見れば、即座に攻撃しようなんて馬鹿な真似はしないはずよぉ!」

 

 

もし恨みを買っている奴がいたらどうすんの?

……それを指摘しないであげる俺は、多分メチャクチャ甘いんだと思う。

 

 

「イタミ達は待ってて」

 

「ユエはその場で待機しててくれ」

 

「……ん」

 

 

そうして俺、レレイちゃん、テュカちゃん、の後ろに隠れているロゥリィちゃんの四人で友好アピールをしに行くこととなった。

 

 

「ま、待ってくれ!俺も行く!」

 

 

……しばらく歩いていると、後ろからイタミさん一人が追いかけてきて、結局合流することとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、水を頭からぶっかけられて目を覚まさせられた皇女ピニャは、バリケードの隙間から見える光景にひたすら唖然としていた。

 

最初は、リンドン派の正魔導師と扇情的な装いをした金髪のエルフ、身の丈2mを超す()()()()大男が姿を現したことに警戒し、気づかれる前に弩銃で仕留めようかとも考えていたが、金髪のエルフの背後からチラリと見えたハルバードと見覚えのある黒髪を認めたことで一体誰が来てしまったのかを悟ってしまう。

 

 

「あ、あれはロゥリィ……マーキュリー」

 

 

それは死と断罪と狂気、そして戦いの神エムロイに仕える使徒であった。

 

皇帝は国家最高神祀官を兼ねるため、国事祭典に使徒を招聘して会談を持つこともなる。

 

従ってエムロイの使徒と謁見する機会もあった。

 

だからピニャは、彼女を見知っていたのだ。

 

 

「あれが噂の死神ロゥリィですか?……ここのミュイ様と変わりませんなぁ」

 

「あれで齢九百を超える化け物だぞ!!」

 

 

帝国などこの世に影も形もなかった時から延々と生き続ける不老不死の〝亜神〟……それが使徒である。

 

これでもロゥリィは、十二使徒の中でも二番目に若い。

 

使徒、魔導師、エルフの精霊使い……この四人の組み合わせがもし本当に敵ならば、ピニャはさっさと抵抗を諦めて、逃げ出す方法を考えようと思ってしまった。

 

 

「エムロイの使徒が盗賊なんぞに加わりますかな?」

 

「あの方達ならやりかねんのだ……!」

 

「は?」

 

「亜神たる使徒を含め、神という存在はヒトには理解できんのだ。どんな偉い神官であろうともな。神の行いはただの気まぐれと言う者さえおる。……結局のところ、人々は神官どもが言う信仰という名の詐欺に引っかかっておるのかもしれん」

 

「し、小官は何も聞きませんでした」

 

 

グレイの現実逃避気味な反応を笑う余裕などなく、ピニャは決断を強いられていた。

 

確固たる判断材料がないままに、どうするべきかを決めなければならないのだ。

 

それは賭博的要素の強い決断であった。

 

武器を構える兵士達は、皆ピニャの下す決断を待っている。

 

弓を引き絞る弓兵の手が小刻みに震えている。

 

農夫がフォークシャベルを抱えて待っている。

 

剣を手にした兵士、街の住民達、その全ての運命がピニャの判断にかかっているのだ。

 

 

「(ロゥリィ達は盗賊に与しているのか。……否、それならば既に街は陥ちているはずだ)」

 

 

ピニャにはもはや、士気を上げる術はなかった。

 

このままでは盗賊に負ける。

……だがもしロゥリィ達が盗賊に与していなかった場合、ここで迎え入れれば力強い味方になる。

 

城門小脇の通用口の戸が外から叩かれた。

 

もはや議論の時間はとうに過ぎてしまった。

 

ピニャは、事ここに至ってバカになることを決意する。

 

 

「姫!?」

 

「(彼女達が何用で来たかは知らぬが、こうなったら巻き込む。巻き込んでしまえ!!)」

 

 

三本ある閂を全て引き抜き、通用口を力強く、勢いよく、大きく開いた。

 

 

よくぞ来てくれたッ!!バァン!!

 

ゴスッ「ぐっ、はっ……!」

 

 

……鈍い音と妙な手応えに、ふと我に返って見る。

 

するとロゥリィも、エルフの娘と大男も、魔導師の少女も、通用口の前で仰向けに倒れている男へと視線を注いでいた。

 

男は、白目を剥いて意識を失っているようだ。

 

やがて三人の女達からの、やや冷めた視線がゆっくりとピニャへと注がれる。

……大男からの視線は若干生暖かったが。

 

 

「…………………もしかして、妾が?」

 

「「「「 ……… 」」」」コクコク…

 

 

四人は揃って頷いた。

 




キングさん「俺、エルフじゃないんだけどなぁ……」
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