GATE 国防軍 彼の地にて〝最高〟とともに戦えり 作:びよんど
特地にヒーローが向かうまでの過程の話です。
退屈にならないよう端的に纏めていきます。
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「
閣下と呼ばれた男ディレルは、カリカリに焼き上げたトーストにバターとジャムを重ねて塗ったものをサクッとかじると、優秀なスタッフが差し出した報告書を受け取った。
彼は表紙を含めて数枚ばかりめくる。
さっと目を通した程度で、呆れたようにテーブルの上にポンと放り出した。
「クリアロン補佐官。この報告によると、
「その通りです、閣下。……〝門〟の周囲はメタルナイトの機兵軍団が守りを固めており、近付くことも出来ない状況にあります。彼の保有する戦力は国防軍全軍に匹敵すると予想され、加えて従順さにも欠けます」
「ふむ……命令した程度では立ち退かないというワケだね?」
「はい、閣下。これはつまりヒーロー協会が一歩リードしていることを意味します」
コーヒーをズズッと口に含んだディレル。
その顔には不敵な笑みが張り付いていた。
「まぁ構わんさ。協会には何人か友人がいるし、私自身がスポンサーを務めているワケだからね。
「であれば、現段階としてはニホン国防軍とヒーロー協会双方の武器弾薬類調達を支援する程度で良いでしょう。肩入れのしすぎは禁物です」
「そうだな、火中の栗はあちらに拾わせるとしよう」
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「それでは、早速会議を始めたいと思う」
本日の会議の進行役を任された義眼の男性セキンガルは、重苦しい雰囲気を漂わせるほかの幹部連中のケツを叩くように口火を切った。
「……本日集まってもらったのはほかでもない、7日ほど前に起こったA市立高校の集団神隠し事件の捜査に、一定の進捗が見られたからだ」
「「「「 おお、本当か!? 」」」」
重苦しい、というより明らかに気落ちしていた幹部連中の表情がセキンガルの発言によって劇的に明るくなる。
T市で発生した〝門〟騒ぎと並行して、A市でも勃発していた怪事件のことである。
事件の発生時刻、ちょうどお昼休みの真っ只中に、2年☆組の教室から眩いばかりの白い光が発生。
さながら教室にいたクラスメイトを包み込むように白光は集束していき、やがて光が収まった頃には教室内は人っ子一人いないもぬけの殻と化していたそうだ。
それだけでも異常極まる大事件なのだが、事態はそれだけに留まらなかった。
地上最強の男にして、名実ともに〝最高〟のヒーロー。
人類社会を壊滅せしめる数多の脅威をことごとく打ち破り続け、そのたびに人類の明日を切り開いてきた正真正銘の大英雄にして世紀末の救世主である。
トレードマークとも言えるその特徴的なモヒカンは、見る者が見れば畏怖や敬意を抱いてやまない平和の象徴へと昇華されている。
……そんなトレードマークであるモヒカンを悠々と靡かせながら、問題児ガロウを担いでA市立高校に訪れてきたという多数の目撃情報が寄せられていたのだ。
そして、トドメと言わんばかりに届いた一本の電話。
『先程から師匠と全く連絡が取れない!協会のほうで何か把握しているか!?』
ヒーロージェノスからの連絡で、シッチをはじめとした幹部連中の脳裏に最悪の可能性がよぎってしまう。
『T市支部から応援要請!!……謎の〝門〟から大量の敵対勢力、怪人を確認しました!!』
絶望に呑まれる間もなく、T市で〝門〟騒ぎが起こったことで事態は更にややこしくなってしまった。
結果から言ってT市のほうは一旦は落ち着きを見せたが、お膝元のA市で起こった事件は依然解決への糸口を掴めずにいた。
そのA市での捜査に進捗が見られたとあらば、この場にいる誰もが食いつかないワケがない。
余談となるが、表向きはこの集団神隠しの真相究明に専念するためそれ以外の依頼を断っているという
失踪したと知られれば世間的な反響が大きすぎるため、ある意味当然の処置と言えよう。
「フブキ組に属するA級ヒーローメガネからの報告だ」
「フブキ組……?あのフブキ組からか?」
「メガネと言えば、最近テレパシー能力を発現したとうちに報告していなかったか?」
他者の心を読み取る超自然的な能力に目覚めたメガネ。
その彼が何故、この件に関わっているのか……?
「……フブキ組のリーダー地獄のフブキ曰く、メガネのテレパシー能力は物品や足跡に宿った残留思念を読み取れる極めて汎用性の高い代物とのことだ。事後承諾の形となったが、現場入りして判明したことがあるためここで報告させてもらう」
何故、フブキ組は特に縁もゆかりもないA市立高校へ現場入りしたのか?
……その真相は極めて単純明快で、しつこく勧誘し続けているガロウが、その高校に通学していることを把握していたからである。
その高校で神隠し事件が起こったと知ったフブキが考えたことはただ一つ。
……ガロウが巻き込まれているかもしれない、だ。
故に、それはもう入念に現場をメガネに調べさせた。
……三時間くらい調べて、まさか保健室で爆睡している姿を発見するとは思いもしなかったが。
セキンガルの口から告げられた報告は、
「結論から言って、生徒達とキングは〝トータス〟と呼ばれる異世界へと転移させられたそうだ」
「「「「 ……………………はぁ? 」」」」
あまりにも突拍子のない発言に、シッチ含めたその場にいる幹部全員が口をあんぐりと開ける。
が、しかし、すぐに全員が得心した。
T市にも異世界に繋がる〝門〟が出現しているではないかと、それならばT市以外にも異世界に繋がる別の〝門〟が現れて然るべきだと、珍しく物事を冷静に俯瞰した幹部連中は、セキンガルに目配せして報告の続きを催促した。
「……どういう世界に転移させられたかまでは判明した。が、そこで様々な壁にぶち当たってしまったのだ」
「む?異世界に転移したのだろう?当然〝門〟の先にある特地にいるのではないのかね?」
幹部の一人が、ある意味当然と言える疑問を投げかけた。
〝門〟の先にある特地に転移させられたのなら、プロヒーローの中から救出部隊を編成して〝門〟の先に向かわせればいい。
……まぁあのキングに助けがいるとは思えないが。
「……これは、つい先日メタルナイトが送りつけてきた特地に関する諸々のデータだ」
そう言ってセキンガルは義眼から映像を投射し、メタルナイトがよこしたという特地に関するデータを表示した。
そこには、精巧に作られた特地の地図をはじめ、その地を広範に支配する帝国の人民、種族、首都、軍事力、政体、皇族……などと言った事細かな情報が記されていた。
「〝門〟が発生してまだ7日しか経っていないというのにこりゃまた凄いな……」
「流石はメタルナイトと言ったところか」
「……ほぅ、これを見る限りだと、地球とほぼ遜色ないレベルの鉄鉱石や膨大な石油が手つかずのまま特地に眠っているようだな」
幹部の一人であるマッコイは、いやらしい笑みを浮かべながら視界いっぱいに映る特地という名の宝の山を真っ直ぐに見据えていた。
マッコイのそんな横顔を冷ややかに見ていたシッチであったが、表示されているデータを見てようやくあることに気が付いたようだ。
「見間違いか?……さっきから〝トータス〟なんて単語を全く見かけないぞ?」
「シッチ……残念だが見間違えてはいない」
映像が中断され、一瞬だけ暗闇に包まれる会議室。
セキンガルの言葉に、幹部連中は一様に言葉を失った。
「おいおい、まさか……!」
「キング達が転移させられた世界と、今もT市に鎮座する〝門〟の向こう側の世界は、別だ。よって特地を捜索したところで意味がない」
最悪だ―――ッ
これは考えうる限り最悪のケースではないかとシッチは本気で頭を抱えた。
誰もが当たり前のように信じていた希望が一瞬にして絶望にひっくり返される。
これは流石にないだろうと、幹部連中は救いのなさすぎるこの世を本気で呪った。
「(……宇宙船の一件以降、多少のゴタゴタはあったにせよキングは変わらず協会の最高戦力の一角として共に戦ってくれると誓ってくれた。そのキング抜きで予言の日を切り抜けることが出来るのだろうか……?)」
……この会議が終わった後、ブラストに電話をしよう。
生徒の子達も勿論だが、キングという特級戦力をいま失うワケにはいかないのだ。
ブラストには時空を操る能力がある。
彼なら、いや彼にしかこの状況を打破できる者はいない。
「(……メガネの報告にあったエヒトルジュエという名の神、もとい神のような力を持った元人間が、娯楽のためにこちらの世界の人間を誘拐していたという話、シッチ以外にはとてもじゃないが話せないな……)」
一方、セキンガルもまた思い悩んでいた。
それは、集団神隠し事件の黒幕が文字通り神の如き力を持った超越存在であったからにほかならない。
それだけでも最悪だというのに、それに輪をかけて最悪な情報がもたらされた時の衝撃ときたら……。
「(エヒトルジュエは、次にこの地球に狙いを定めて襲来してくる。……器となる肉体がない故か、いま身動きが取れないでいるのは不幸中の幸いだが……)」
「(……いや、楽観視など出来ようはずもない。もしかしたら器となる肉体に目星をつけたのかもしれないし、既に手に入れているのかもしれない。その時の気分次第で一ヶ月後にも、明日にも、今日にも襲来してくるかもしれない。こんな最悪続きな状況下で私に出来ることは……)」
……セキンガルは、罪なき善良な民間人の平和を守るために、胸の内で燃え盛る正義感に従って国防軍に入隊した経歴を持つ。
いわゆるノンキャリアであり、様々な苦労を味わったものの、年若く一等陸尉にまで登りつめた叩き上げのベテランであったのだ。
「(……フッ、そういえば奴、イタミはまだ国防軍に在籍していたんだったな。こういう時こそ、ああいうバカに頼ってみるのもアリかもしれな―――)」
「いやはや、こうもキッパリと断言されてはぐうの音も出ませんなぁ。……セキンガル氏?」
セキンガルの苦悩をバッサリと斬り捨てるような、些か無遠慮で不躾な言葉が会議室内に静かに響く。
声の主は、マッコイであった。
「マッコイ氏……不安ばかり煽り立てて申し訳ないが、どうしても伝えなければならないことだったため報告させてもらった。どうか受け入れてもらいたい」
「構わんさ。確かにキングが抜けた穴は計り知れないほどに大きく、被った損害を埋め合わせるには多くの時間と労力を必要とするだろう。キングと……生徒の子達を
「……勿論そのつもりだ」
マッコイの言葉に同意したセキンガル。
……マッコイの言葉の裏に隠された真意を見抜いていたがために、不快げに眉をひそめていたが。
「……私からは以上だ。ほかに何かあるか?」
「国防軍との交渉役を全権委託された件について、その後の進捗状況を報告したい」
マッコイの口から飛び出した言葉に、その場にいた全員が耳を傾けた。
「まず、特地で将来的に獲得するであろう領土の配分についてだが……唯一国政府も交えて話し合った結果、4:6の割合で合意することが出来た。喜びたまえ、全体の4割は協会のものだ。このように確約書もある」ペラペラ
「なんと!!?それは凄い……!」
「流石ですなマッコイ氏……」
たかが一民営組織が国そのものを相手取って獲得した領土の40%の割譲を確約させるなど前代未聞である。
殆どの幹部はマッコイの言葉を鵜呑みにしているが、シッチをはじめとした一部の幹部はこの時点でキナ臭さを感じ始めていた。
「もっとも、協会側も
「……ヒーロー達を戦争に参加させるつもりか?」
プロヒーローとは、弱くも善良な民間人の生命と財産、平和を守るために在るのであって、血みどろな戦争に参加させるために在るのではない。
……個人の信条のみに留まらず、それは協会設立時にハッキリと明記された訓戒でもあるのだ。
セキンガルは鋭い視線を向けながら追及を行う。
「……まさか!いくら私でも当初の目的を見失ったりはしないさ。特地に攫われた人質の奪還、これこそが最も優先すべき事項であり、そのための人選も厳正に行っている真っ最中だ」
でもまさか、メタルナイトが最初に〝門〟をくぐるとは思いもしなかったがね、とマッコイはケラケラと笑った。
「メタルナイトが無断で〝門〟を占拠したことで、国防軍はおいそれと門に近付くことが出来ず、特地の調査もままならない状況と聞く。……さぞ気分が良いことだろう」
「さぁ?何のことだか?」
セキンガルの遠回しな嫌味などどこ吹く風と言わんばかりに受け流す。
メタルナイトの行動には一切関与していない故に、こればかりは本当に予想外であったと思い返すが、結果的に自分の都合のいいように転がったので問題はなかった。
「……この内容だと、国防軍側があまりにも不利益を被るんじゃないのか?戦力は提供しない癖に自分達が苦労して掴んだ土地の40%を接収していくなど……」
「シッチ氏、その点についても抜かりはないさ。何せ我々は国防軍に対する圧倒的な
マッコイの言葉に思わず冷や汗を流すシッチ。
……マッコイの傲岸な態度に冷や汗を流したワケでは断じてなく、マッコイがこれから切り出すであろう
頼むから幹部ビームなんて繰り出してくれるなよ、と必死になってセキンガルに目配せするが、セキンガルが見据えていたのはマッコイただ一人であった。
「さて、言われるまでもなく全員知っているだろうが、T市2区事件が発生していた、まさにその最中にT市支部でとある不祥事、失敬、事案が発生していた―――」
<<< ヒーロー協会本部 更衣室 >>>
……予定されていた全ての議題が終わり、会議はそのままお開きとなった。
殆どの幹部はマッコイの挙げた功績を褒め称えたが、中にはそれに納得のいかない者もいた。
やるせない気持ち、湧き上がる苛立ちを自分のロッカーに叩き付けたセキンガルがその一人である。
「クソッ……マッコイの奴……!!」
さきの会議でのマッコイの発言を思い出し、彼への憤りとかつての古巣の仲間達への申し訳なさで頭の中がグチャグチャになりかけていた。
『イタミヨウジ二等陸尉。国防軍に所属する男なのだが、その勤務態度はお世辞にも良好とは言い難く、国防意識に欠如し、任された仕事も常にサボりがちとの話を聞く。少々言い回しはキツくなるが……軍人以前に、社会人として明らかに不適な人間であると言わざるを得ない』
……イタミとはかつて同じ国防軍に所属していた先輩後輩の間柄であり、当然その人となりについても、あの場にいた誰よりも深く理解していた。
故に、マッコイのイタミ評に間違いがないことも認めていたが、同時に正確でもないと知っていたのだ。
『問題はその彼が、自らの身分をちらつかせ、協会職員を
自らの身分をちらつかせたのは紛れもなく本当。
……そうでもしてリーダーシップを発揮しなければならないほど、当時の協会職員がヘッポコだったために。
保管されていた銃器類を提供させたのも本当。
……無理矢理ではなかったが、あまりにも協会職員が無理解であったため思わず怒鳴り散らしてしまった。
民間人を巻き込んだというのも、まぁ本当。
……女子供は出来るだけ安全な場所に隔離し、男手のみで敵を寄せ付けないよう防衛戦をしていたのだ。
敵を殺傷したというのも本当。
……そうでもしなければ自分達が殺されていたため、致し方のないことだった。
それでもイタミは、民間人に人殺しをさせないため足を狙って攻撃するよう可能な限り指導はしていた。
……さきのマッコイの発言、嘘こそ言ってないがその実、欺瞞に満ちあふれた悪意あるものだったと言えよう。
『国防軍には何人か友人がいてね、イタミという男がうちの支部であれこれ好き勝手やっていると親切心で忠告してあげたら、
唐突だが、過去の愚かな戦争と、それが原因で起きた大災害の影響で絶滅の危機に瀕した人類は、人種を問わず一つに纏まってこの超大陸に移住したと言われている。
昔風に言うとニホン人やアメリカ人、チュウカ人、ロシア人、イギリス人、フランス人、ドイツ人等、様々だ。
問題なのは、肌の色も違えば考え方や文化も異なる人々を一つの国に一纏めにしていることであった。
現在の唯一国政府には、かつてのニホン人をはじめ様々な人種の政治家が軒を連ねている。
見る人が見れば〝国連〟を連想するかもしれない。
……そして、その実態も非常に似たり寄ったりである。
規模感が狭まっただけで、派閥という名の国同士の諍いは現在に至るまで続いているのだ。
……国防軍も決して一枚岩ではない。
表向きは治安維持を謳っているが、その実態は各派閥の私設部隊と言っても過言ではなく、実際に民間人のために働いている者など全体のごく一握りもいなかった。
「(……現在の国家元首はニホン人だ。
集団神隠しの解決を任された以上、キチンと職責は全うするつもりでいる。
だがそれでも、マッコイに国防軍との交渉役を任せるべきではなかったと、セキンガルはひたすら己の間の悪さを呪った。
「(……イタミ、お前は間違いなく正しいことを成し遂げたんだ。私は、
国防軍の実態に失望し、かつての仲間達に別れを告げて久しいが、それでも同じ釜の飯を食らい、ともにバカをやりあった仲だ。
それだけでセキンガルが動く理由としては十分。
おもむろに懐からスマホを取り出し、ある人物へ電話をかけた。
「もしもし、あぁ私だ。君に折り入って相談があるのだが、時間は大丈夫かな?」
針の穴を通すよりも困難で、藁よりも細い奇跡に縋るようなものだが、ここで動かなければ男ではなくなる。
セキンガルは、真っ直ぐにある場所へと向かっていった。
まだ続くよ!
今作オリジナル設定として、唯一国政府には〝拒否権〟というものがあります。
現実同様、5名の代表議員の賛成がなければ、ほかがどれだけ賛成していようと議案は可決されません。
まぁ殆ど空気みたいな設定なので忘れても大丈夫です。