GATE 国防軍 彼の地にて〝最高〟とともに戦えり   作:びよんど

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イタミさんとキングさん、初顔合わせをするって話です。


第四話 両雄相対す

 

 

<<< ウラ・ビアンカ(帝国皇城) >>>

 

 

皇帝モルトの皇城には、毎日数百人の諸侯・貴族が参勤する。

元老院議員、貴族や廷臣が集い、諸行事に参加するとともに、政治を雑事でもあるかのように行っていた。

 

会議では優雅に踊り、美食に耽り、賭け事や恋愛遊戯といった遊興を楽しみつつ、議場で少しばかり話し合う……という感じである。

 

だが、ここしばらく続いた敗戦は宮廷の諸侯、貴族たちを消沈させるに十分な出来事であった。

 

(きら)びやかな芸術品は色褪せて見え、華やかな音楽も空虚に聞こえる。

 

栄耀(えいよう)栄華を誇るモルト皇帝の御代を支えるものは、強大な軍事力と莫大な財力。

この両輪こそが、帝国を大陸の覇権国家たらしめていることは小児であっても理解している。

 

……それが今では、その片輪が失われている。

 

宮廷を彩った武官や貴族達も出征していただけに仲間内の犠牲者も少なくない。

 

宮廷は閑散とした日が続いていた。

 

 

「皇帝陛下、連合諸王国軍の被害は甚大なものとなりました。死者・行方不明者はおよそ六万人。負傷し軍役に再び就くことのできぬ者とを併せますと、損害は十万にも達する見込みです。敗残の連合諸王国軍は統率を失い、それぞれ散り散りとなって故郷への帰路についたようです」

 

 

オークやゴブリン、トロルといった怪異達はこの数に含まれていない。

亜人の中でも知能に劣る怪異達は軍馬と同じ扱いをされているのだ。

 

内務相のマルクス伯爵の報告に、皇帝は気怠そうに体を揺すった。

 

 

「ふむ、予定通りと言えよう。僅かばかりの損害に怯えておった元老院議員達も、これで安堵することじゃろう」

 

「しかし〝門〟より現れ()でました敵の動向が気になりますが……」

 

「そなたも(いささ)か神経質になっているようだな」

 

「この小心は生来のもののようでして、陛下のような度量は持つに至ることは出来ませんでした」

 

「良かろう。ならば股肱(ここう)の臣を安堵させてやることにしよう。なに、そう難しいことではない―――」

 

 

マルクス伯の謙遜に気を良くしたのか、はたまた以前から考えていたことなのか、さながら褒美を与えるような感覚でとんでもない作戦を提案する皇帝。

 

それは、帝国の広大な国土そのものを防塁として利用すると言うもの。

 

皇帝はさらに続ける。

 

敵が動き出したなら、アルヌスより帝都に至る全ての街と村落を焼き払い、井戸や水源には毒を投げ入れ、食糧は麦の一粒に至るまで全てを運び出すよう命ぜよ。

 

さすればいかなる軍と言えども補給が続かず焦土の中で立ち往生する。

そうなれば、どれほど強大な兵力を有していようと付け入る隙は現れるだろうと。

 

現地調達できなくなれば食糧は本国から運ぶしかなく、長距離の食糧輸送は馬匹(ばひつ)を用いたとしても重い負担だ。

 

これによって敵の作戦能力は、帝都に近付けば近付くほど低下していくこととなる。

それに対して帝国軍は、帝都に近付けば近付くほど有利になる。

 

各地に拠点を設置し、敵に出血を強いていけば、敵は勢いを失い自然と立ち枯れる。

それがこの世界における軍学上の常識であった。

 

敵を長駆させ、疲弊したところを討つというどこの世界においても見られる至極一般的で分かりやすい戦略であるが故に効果的でもある。

 

しかし自国を焦土とすることの影響は深刻かつ甚大であり回復は容易ではない。

人民の生活を全く考慮しない非情さゆえに、確実に民心を離反させる。

 

守ってもらえなかった。

それどころか食べ物も飲み水も奪われたという恨みつらみは永久に語り継がれていくことになるだろう。

 

そうした影響を考えれば、容易にそれをするワケにはいかないのが政治であるはずだった。

が、しかし―――

 

 

「……焦土作戦でございますか。……しばし税収が低下しそうですな」

 

「致し方あるまい、園遊会をいくつか取りやめ、離宮の建設を延期すればよかろう」

 

 

マルクス伯は、ちょっと差し障りがある程度の言い方で民衆の被害を囁くのみであった。

 

皇帝も似たような反応で返すあたり、強大な帝国においては民衆の被害や民心などその程度のものなのである。

 

 

カーゼル侯あたりがうるさいかと存じますが……」

 

「なぜ余がカーゼル侯にまで気を配らねばならぬのか?」

 

「はっ…怖れ多きことながら、陛下罷免のための非常事態勧告を発動させようとする動きが見られます」

 

 

元老院最終勧告は帝国の最高意思決定とされている。

これが元老院によって宣言されれば、いかに皇帝であろうと罷免される。

 

歴史的にも元老院最終勧告によって地位を追われた皇帝は少なくないのだ。

 

 

「ふむ、面白い。元老院はしばし好きにさせておけ。枢密院によきにはからえとな」

 

「っ、はっ……」

 

 

マルクス伯は一瞬驚いたが、ただちに(うやうや)しく一礼した。

 

元老院の最終勧告に対抗する皇帝側の武器が国家反逆罪である。

 

こうして枢密院に証拠固めという名の証拠捏造が命じられた。

 

 

「元老院議員として与えられた恩恵を権利と勘違いしている者が多い。些か鬱陶しいのでこのあたりで整理をせねばな」

 

 

皇帝はそう呟くとマルクス伯の退出を命じようとした。

 

恭しく頭を下げるマルクス伯。

 

 

陛下ッ!!

 

 

……が、静謐な空気を破り、凛と響き渡る鈴を鳴らしたような声が宮廷の広間に鳴り響いた。

 

ツカツカと皇帝の前に進み出たのは皇女。

……即ち、皇帝の娘の一人であった。

 

片膝をついて、これ以上はないというほど見事な儀礼を示した娘は、炎のような朱色の髪と白磁の肌を白絹の衣装で包んでいる。

 

 

ピニャ・コ・ラーダ、どうしたのか?」

 

「陛下は我が国が危機的状況にある今、何を為されているのか?耄碌なされたかッ!?

 

 

優美な(かんばせ)から、棘のある辛辣な台詞(セリフ)が出てくる。

 

ここにも恩恵を権利と勘違いしている者がいると気付いて微苦笑する皇帝。

彼女、ピニャ・コ・ラーダの舌鋒が鋭いのはいつものことである。

 

 

「で、殿下!いったい何を―――」

 

「無論アルヌスの丘のことだ!」

 

 

皇帝の三女ピニャ・コ・ラーダは、腰掛けて微笑んでさえいれば比類のない芸術品と称されるほどの容姿を持っている。

……が、好きに喋らせると気の弱い男ならその場で卒倒しかねないほどの毒舌を吐くことで知られていた。

 

 

「マルクス、そなた陛下にありのままを申しあげたか?」

 

「も、勿論ですとも!……敵は諸王国軍の猛撃で丘より一歩も外には―――」

 

「この佞臣め!それは丘がいまだ敵の手にあるということではないかッ!!何が防衛に成功したか?真実は、累々たる屍で丘を埋め尽くしただけであろう!?」

 

「た、確かに、損害は出ましたな……」

 

「ならばこの後はどうする?」

 

 

マルクス伯は、(とぼ)けたように兵の徴募から始まり、訓練と編成に至るまでの一連の作業を説明した。

 

軍に関わる者なら誰でも知る新兵の徴募と訓練、編成の過程を告げられてピニャは舌打ちした。

 

 

「今から始めて何年かかると思っているのか?その間にアルヌスの敵が何もせずじっとしているとでも?」

 

「皇女殿下。そのようなことは私めも存じております。しかし現に兵を失った上には、地道にでも徴兵を進め、訓練を施し、軍を再建するしか手はありません。兵を失ったことでは諸国も同じ。もう一度、連合諸王国軍を集めるにしても、軍の再建にかかる時間は国力に比例いたします。諸国の軍再建は我が国より遅くなっても、早くなることはありますまい」

 

 

この言いようには、ピニャも鼻白む。

 

 

「そのような悠長なことでは敵の侵攻を―――」

 

「ピニャよ、もうよい」

 

 

皇帝は溜息とともに、手を僅かに上げて二人の舌戦を止めた。

 

彼の察するところ、ピニャには騒動屋の傾向がある。

責任を負うことのない者がよくする物言いで、批判ばかりで建設的な意見は何もないのだ。

 

例え言ったとしても夢物語みたいで、伝統と格式を重んじる者なら到底首を縦に振れないことばかり。

 

それでいて何かあれば、さあ困ったどうするどうすると責め立て実務者を〝じゃあどうすればいいんだ!〟…と泣きわめくまで追い込んでしまうのである。

 

今回の事態からすれば、マルクス伯が言うように地道に軍を再建するしかないのである。

そのために時間を稼ぐことが、政治であり外交と言える。

 

皇帝としてはそのための連合諸王国軍の招集であり、その壊滅をもって目論見は成功したのだ。

 

流石に辟易としてきた皇帝は、娘に向かって話しかけた。

 

 

「なるほど、悠長に構えてはおれん。……丁度よい、そなたの()()()、あれらとともに丘に(たむろ)する敵を見てきてくれぬか?」

 

「妾がですか?」

 

「左様。帝国軍は再建中でな、今は偵察兵にも事欠く有様じゃ。国内各所に配した兵を引き抜くワケにもいかぬ。新規に徴募してもマルクス伯の申した通り、実際に使えるようになるまで時間がかかる。いま一定以上の練度を有し、それでいて手が空いているのは、思いを巡らしてみればそなたの()()()くらいであった。……そなたのしていることが兵隊ごっこでなければ、な」

 

「っ……」

 

 

皇帝の試すような視線に正対して、ピニャは唇を噛んだ。

 

アルヌスの丘への旅程は、騎馬で片道十日だ。

 

そこは危険な最前線、万を超える軍が壊滅してしまった地であり、皇帝(実父)はそんなところへ自分と自分の騎士団だけで赴けと言うのだ。

 

しかも、華々しい会戦と違って地道な偵察行。

日頃から兵隊ごっこと揶揄されてきた自分の騎士団にとって、任務が与えられたことは光栄と思わなければならないのだろうが、内容が不満である。

 

加えて、彼女の騎士団は実戦経験が皆無であった。

 

自分や自分の部下達は危険な任務をやり遂げることが出来るのだろうか?

 

皇帝の視線は、嫌なら口を挟むなと告げている。

 

 

「よいか?」

 

 

やがて、決心したように顔を上げたピニャ。

 

 

「……確かに承りました。では、行って参ります。……父上」

 

「うむ、成果を期待しておるぞ」

 

 

皇帝に対して儀礼に則って礼をとったピニャ。

 

そして彼女は、玉座に背を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<<< ()ニホン国防軍基地 >>>

 

 

「いや〜空が蒼いねぇ。さっすが異世界」

 

 

オリーブドラブに塗装された三台の軍用車両の近くでイタミが呟いた。

 

青空に、大きな雲がぽっかりと浮かんでいる。

ちょうど真後ろに鎮座する()()()()()()()()基地を除けば、電柱とか電線とかもない、前から後ろまで、上半分は完全に空であった。

 

 

「こんなの地元にだってあるッスよ」

 

 

運転席で暇そうにしていたクラタ三等陸曹が応えた。

 

 

「俺は巨木(トレント)が歩いていたり、災害レベルじゃないほうの(ドラゴン)がいたり、妖精とかが飛びかっているトコを想像してるんスけどね。……いつになったらヒーローの人達来るんですか?」

 

 

クラタは一般陸曹候補学生課程を修了したばかりの21歳だ。

イタミが上下関係に鷹揚であることを知ると、気軽に話しかけてくるようになったのだ。

 

そのクラタから投げられた質問に、イタミはバツが悪そうに頬をポリポリと掻きながら答える。

 

 

「……いやさ、これ、あくまで噂程度の話なんだけど」

 

「……?」

 

「どのヒーローを派遣するかって話、どうやら昨日議論が始まったらしいんよ」

 

「えぇええぇえええぇぇえええぇぇえ!!?」

 

「なんだなんだ?」

 

「クラタの叫び声か?」

 

「どしたん?」

 

 

七三式小型トラック、軽装甲機動車(LAV)、そして、クラタの乗る高機動車(HMV)から続々と隊員達が降車し、騒ぎの渦中にいるイタミのもとまで集まってきた。

 

 

「どうしましたかイタミ二尉。何か問題でも?」

 

 

そう尋ねるのはクワバラ曹長。

二等陸士からの叩き上げで今年で50歳となるベテランであり、新人隊員達の教育係も務める(鬼)教官である。

 

新人隊員達からは〝おやっさん〟と呼ばれて恐れられており、クラタも新人隊員時代、とある駐屯地でクワバラ曹長の指導を受けて前期教育を終えたそうだ。

 

 

「あー……これオフレコでって思ったけど、こんなに集まられたんじゃ隠しようがないねコレ……」

 

「どういうことッスかイタミ二尉!なんでヒーローの派遣の議論がよりにもよって昨日始まったんスかァ!!?」

 

「「「「「 ………………はぁ!!? 」」」」」

 

「いやぁハハハ……」

 

 

その場にいたイタミを除く全隊員が、信じられないものを見るような目でイタミを凝視する。

 

隊員達が驚愕するのも無理はない。

 

特地、というか未知の異世界には、どんな敵や脅威が待ち受けているか分かったものではない。

 

無論、国防軍としても未知に対する取りうる限りの対策・準備をした上で覚悟をもって臨む所存だ。

 

しかし、この世には〝絶対〟いう言葉は存在しない。

 

どれだけ対策を重ね、準備をしたとしても予想外の事態は起こるもの。

それこそクラタが言ったように、物凄く強いドラゴンが襲撃を仕掛けてくるかもしれない。

 

だからこその保険、それが()()プロヒーローの存在だ。

 

隊員達の総意?

……そんなの決まってる。

 

 

そんな大事なこと、前もって話し合ってないんですか!!?……信じられない!!

 

 

集団の中でも一際小柄な女性隊員クリバヤシは、イタミに噛み付かんばかりに詰め寄る。

 

150cmあるかないかの低身長と侮るなかれ。

これでも格闘徽章(きしょう)を有する猛者であり、自分より階級が上のイタミを生物的な意味で圧倒できる女傑なのだ。

 

そんな彼女に詰め寄られたとなれば、流石のイタミも恐怖を抱かずにはいられない。

 

普段のおちゃらけた態度もそこそこに、観念したかのように事情を話しだした。

……そういう大事なことは前もって言っとけよと内心毒づかれながら。

 

 

「え〜と、ホラ、此処って、ついこの間までメタルナイトが滞在してた前線基地で、今はうちが間借りさせてもらってるじゃない?」

 

「……えぇ、そうでしたわね」

 

 

イタミの言葉に反応したのは、クリバヤシのほかにもう一人いる女性隊員クロカワ

階級もクリバヤシと同じ二等陸曹なのだが、そのクリバヤシと対を成す190cmもの高身長を誇っている。

 

看護師資格を有しており、救出活動における主幹人員でもある彼女は、イタミの言い訳がましい事情説明の続きを視線だけで催促した。

 

 

「それにさ、ここら一帯にある()()()も、まぁ間違いなくメタルナイトが殺っちゃったワケじゃない?」

 

「……その、イタミ二尉、そろそろ本題のほうを」

 

 

中々進まないイタミの話に業を煮やし、クワバラが本題を話せと直接催促する。

 

隊員達の視線の圧に耐えきれなくなったイタミ。

いよいよ観念したように両手を上げ、ポツリとこう呟く。

 

 

「……まさかいきなり撤収するなんて思いもしなかったんだってさ。笑えるよねハハ―――」

 

「「「「 笑えるかァ!!(`Д´#)  」」」」

 

「……すんません」

 

 

こればかりはイタミだけを責められないものの、流石に現場を軽視しすぎだろうと憤慨する隊員達。

 

こっちは命を懸けて異世界に来たというのに、あまりにもヒーロー協会側の対応が杜撰に過ぎる。

 

 

「で、でもね。一応フォローしとくと、ヒーロー自体はちゃんと来るんだよ。良かったね!」

 

「……何人?」

 

「よ、四人。……内一人は現場責任者ね」

 

「「「「「 ……はぁ、マジか 」」」」」

 

 

つまり、戦力外一名を連れたプロヒーロー三名が来ると。

……足りない、圧倒的に人数が足りない。

 

 

「一応、聞いておきますね。……どんなヒーローが来るんですか?」

 

「あーっと、それはね―――お、来た来た」

 

 

そう言ってイタミが指差すほうを見た一同。

 

そこには、こちらに近付く一台の軍用車両の姿が。

 

ちょうどクラタの乗る高機動車に似ており、最大の違いとしてこちらがオリーブドラブに塗装されているのに対し、あちらは全面が高級感あふれる漆黒に塗り潰されている点にある。

 

車体の黒が日の光を反射し、隊員達の目を眩ませる。

 

半径5mのところまで来た時点で黒の高機動車はゆっくりと停止しだし、あと2mという絶妙な距離で完全に停止した。

 

 

「イタミ二尉、あの中にヒーロー達が……?」

 

「そ、おやっさん。ここまで来られたら口で説明するより見てもらったほうが早いっしょ。……つーワケで、こんなところまでご足労いただきありがとうございまーす!」

 

 

左腕をブンブンに振って歓迎ムードを演出するイタミ。

 

対する隊員達の反応は、お世辞にも良いものとは言えなかった。

 

 

「(昨日の今日で決まった急造のチームってことでしょ?そんなのに命を預けるって……)」

 

「(とてもじゃないですが彼らヒーローにまで回す余力はありませんわね。ここは何とか説得してお引き取り願うのが賢明でしょう……)」

 

「(適当なヒーローを寄越してくるに決まっとる。何せ()()ヒーロー協会だぞ?どうせ使い物にならん……)」

 

「(ここは力ずくにでも()()()()()に持ち込んで、ギッタンギッタンのボッコボコにするしかないわね……)」

 

「(はぁ、先が思いやられるな―――)……ッ!?」

 

 

ちょうど運転席のドアが開かれ、中に乗っていた人物が露わとなる。

最初に姿を現したのは―――

 

 

「セ、セキンガル一尉ッ!!?」

 

「……一尉はよしてください、おやっさん。今は現場責任者として来てますから」

 

 

……ヒーロー協会の裏方として、周囲からの評価が非常に高い将来有望な出世株。

若くしてシッチをはじめとした幹部相手にも対等に接することを許された元・国防軍所属の協会職員。

 

義眼の偉丈夫セキンガルの登場に、ベテランのクワバラが目を剥いて驚きを露わにした。

 

 

「あ、あぁ、いや、急に軍を辞めて、それっきり連絡が取れなかったものですから……」

 

「おやっさんおやっさん、積もる話は後にしてもらっていーかな?……後がつっかえてるもんで」

 

「あ……申し訳ありません。イタミ二尉……」

 

 

イタミに諭される形で話を遮られたクワバラは、色んな感情を飲み込んで今は引くことを決めた。

 

気の所為か、セキンガルのクワバラを見つめる視線に申し訳なさが込められていた気がしたが、そんなもん知ったことかとイタミは簡単な紹介を行う。

 

 

「えー、知ってる人も中にはいるかもしれないけど、今はヒーロー協会側に立って、ヒーロー達の現場指揮をするために来ているセキンガルさんです。どうぞー」

 

「……微力ではありますが、共に来てくれた彼らプロヒーローの指揮を全うできるよう、粉骨砕身働かせていただきます。どうぞよろしく」

 

「拍手はなしでよろしくー。次どうぞー」

 

 

よほど時間的に余裕がないのだろう。

あのイタミにしては随分と淡白な対応に、その場にいた隊員達は気持ちを切り替え、次に現れるであろうヒーローの登場を待った。

 

次いで、助手席のドアが開かれる。

 

 

「子供……?」

 

「……いえ、この子は……!」

 

 

セキンガルと比べてあまりにも小柄なその()()は、ペロペロキャンディーを口いっぱいに頬張りながら()()()()()()()()()()乱暴にドアを閉める。

 

……セキンガルと同じく裏方として働きながらも、時には最前線で凶悪な怪人と対峙し、そのたびに勝利を収めてきた若すぎる天才。

 

発案・開発した画期的なアイテムは数知れず、そのランドセルのどこに敷き詰めているのかと突っ込みたくなるレベルの大量の兵器を効果的に運用するその頭脳は、かの天才博士ボフォイに勝るとも劣らない。

 

 

S級5位 チャイルドエンペラー

 

 

見た目は子供、頭脳は超天才な少年ヒーローの登場に、隊員達は少なからず衝撃を受ける。

 

 

「イ、イタミ二尉、この子はS級の……?」

 

「そ、まだ子供だけど、こん中じゃ二、三番目に強いんじゃないかな?……まぁそれはそうと、チャイルドエンペラーさんはチームのサブリーダー兼ブレインとして作戦立案を担当するよ。どうぞー」

 

「……どうも、まだ()()ですが、頑張らせていただきます」

 

「「「「( か、感じ()りー…… )」」」」

 

 

何に対して不機嫌なのか、チャイルドエンペラーは言葉数少なく挨拶を打ち切ってしまった。

 

そしてそれを気にするイタミでもなく、次どうぞーと高機動車の中にいるであろう残りのヒーロー達を呼んだ。

 

バックドアが開かれ、中から一人が降りてきた。

 

 

「……うっそ、マジで?」

 

「サイボーグ来たァァァァァァ!!」

 

 

隊員の一人が歓喜の声を上げる。

 

金髪を靡かせながら登場した彼は、その全身を機械に置き換え、強力極まる数々の兵器で武装したサイボーグヒーロー。

 

ここ数ヶ月のうちに頭角を現した彼の活躍ぶりは凄まじく、()()()()()()の弟子(公式)として鍛え上げられたその強さは、Z市に落下しかけた巨大隕石を一撃のもとに消し去るほどに隔絶している。

 

期待の超大型ルーキーとして、今後の成長と活躍が期待される鬼神の如き機人は、隊員達の前に立つと軽く一礼して挨拶を始めた。

 

 

S級14位 ジェノス

 

 

「S級のジェノスだ。俺の主な役割は索敵と威力偵察、後は炊事と言ったところだ。()()()お前達の邪魔にならないよう最大限努力する。以上」

 

「あ、言われちった。……まぁいいや、次どうぞー」

 

 

サインください、なんて言う間もなく話がトントン拍子に進んでいく。

 

それでも先程までと違い、隊員達の放つ雰囲気は心なしか和らいでいるように思われた。

……否、その胸中は興奮で渦巻いていた。

 

 

「(マジで?マジのマジで?さっきからS級ヒーローの連チャンじゃん!これって最後ももしかして……!)」

 

「(S級ヒーローを二人も!?……流れ的に最後のお一人もS級ということになりますわね。手を抜いてるなんてとんでもない、最小の人員で最高の成果を上げようとしている……!)」

 

「(セキンガルが現場指揮に抜擢されるとは。……いや、奴の能力を考えればある意味当然か。それにしても最後の一人が気になるな……!)」

 

「(……ちょっと待って、さっき()()って。もしかしてもしかしてもしかしてもしかしてもしかしてもしかしてもしかして……!!)」

 

「(ここでA級以下ってのは勘弁願い―――)……えっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドッドッドッドッドッドッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

開かれたバックドアから、最後の一人が降りてきた。

 

 

「……イタミ二尉、国防軍はどのくらい、ヒーロー協会に積んだんですか?」

 

「マジ…………………半端ねぇ」プルプル…

 

「そんな、まさか、彼が……?(泣)」

 

「本物だァ……本物だァァァァァァキャァァァァァァァァァァ!!!」

 

「……国相手に勝ちに行くと?」

 

 

隊員達は、内に孕んでいた興奮を一気にぶち撒ける。

 

ある者はどれほどの大金をヒーロー協会に積んだのかイタミに尋ね、ある者はヒーローショーのヒーローを観る子供に還り、ある者は〝癒やしの手〟とも呼ばれる彼の姿を直視したあまりに感涙し、ある者は()()()を間近に見たショックでテンションが壊れ、ある者は帝国相手に勝ちに行くのかと唖然とする……などといった阿鼻叫喚が広がってしまった。

 

しかし、それぞれの反応も無理からぬ話である。

 

特徴的なモヒカンを靡かせながら登場した彼は、2mを優に超える巨躯を唯一絶対の武器として振るう、ヒーロー協会が把握している中で最も頂点に近い実力を携えた最強の知的友好生命体。

 

全戦無敗。

常勝を唯一の友とし、闘争を希求することはなく、衝動を淘汰し、弱者の平穏を守護(まも)らん。

 

……上述した生き様を己に課すことを当然の義務とし、またそれを他者に強要する真似はしない。

 

その戦闘スタイルは今なお不明な点が多いが、人民からの支持は高まり続けており、人気は上昇することはあっても降下する兆しはない。

 

最たる例としてA市に襲来した宇宙船騒動が挙げられる。

 

最終局面で彼が放った極太の白熱線は宇宙船を抉り貫き、勢いそのままに月を蒸発させるに至ってしまった。

……が、その直後に放った黒き熱線によって見事月は()()され、地球は完全に救済されたのだ。

 

破壊と創造、これら相反する二つの理をその手に握る彼はもはや人類の枠組みを超えた超越存在であり、協会が彼個人と友好関係を結ぶのはごく自然な流れであった。

 

 

ドッドッドッドッドッドッ

 

 

高らかに勝利の凱旋を鳴り響かせながら登場した彼こそが地上最強の男にして〝最高〟のヒーロー。

 

その名も―――

 

 

S級6位 キング

 

 

「……初めまして、S級のキングと申します。チームのリーダーとして、慣れないながらも精一杯頑張らせていただきます。どうかよろしくお願いします」

 

「生キングの声最高……♡…………きゅぅ」バタンッ

 

「「「「「 ク、クリバヤシィィィィィィ!!? 」」」」」

 

 

あまりの感動ゆえに、後ろから倒れ込むように卒倒してしまったクリバヤシ。

 

その死に顔(※死んでいません)は、あまりにも幸せに包まれていた。

……何とも締まりのない自己紹介となったが。

 

 




……嘘は言ってないデスヨ?(タイトル詐欺)

イタミさんとの絡みは次回以降ということで……。

後、イサム君が不機嫌な理由も次回以降に……。
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