GATE 国防軍 彼の地にて〝最高〟とともに戦えり 作:びよんど
とりあえず逃げないと!って話です。
<<< 元・エルフの集落 >>>
「クロカワ二曹、どう?……あの娘の容態」
焼け落ちた集落の只中で、自分より上背のある女性隊員クロカワに問いかけたのは、同じく国防軍に所属する軍人のイタミ。
立場的にはイタミのほうが偉いものの、170cmあるかないかのイタミではどうしてもクロカワを見上げる形になってしまう。
当のクロカワは大して気にしておらず、穏やかながらも淡々と報告を行っていく。
「至って健康体です。井戸水に長時間浸かっていたと聞いて低体温症も危惧していましたが、それも含めてもう大丈夫ですわ」
「そりゃ良かった。キング様々だねぇ」
「本当に。……それと、これからどうしますか?いつまでもここに居るワケには参りませんし、せっかく救った命を見殺しにするのはあまりにも不人情な気がいたしますが」
ゆったりとしたお淑やかな口調でクロカワは語る。
……要は、ここに置いていくワケないよな?おぉどうなんじゃオドレ!?と言っているようなものだが。
「ここは全滅しちゃってるし、放っとくワケにもいかんでしょ。保護ということであの娘をお持ち帰りしましょ」
国民に愛されてこその国防軍であり、特地に住む現地人とも敵対ではなく友好をもって接するべきとイタミは考えていた。
イタミの考える〝友好〟には、人命救助やその後の生活支援も含まれている。
クロカワはニッコリと笑った。
「二尉ならばそうおっしゃってくださると思いましたわ」
「それって僕が人道的だからでしょ?」
「さぁどうでしょうか?二尉が特殊な趣味をお持ちだからとか、あの娘がエルフだからとか、色々と理由を申し上げては失礼になるかと」
「………(^o^;」
イタミは、大きな汗の粒が額から頬をつたって喉を経て襟に潜り込み、服の下へと落ちていくのを感じた。
「アルヌスの基地に戻る?……まぁそれが賢明だな」
ジェノスの言葉に、俺も含めその場にいたヒーローチームの面々が頷いた。
……あ、ごめんねぇ、挨拶が遅れちゃった。
オイラはキング!……趣味と実益を兼ねた職業ヒーローなんだ、皆よろしくねぇ。
「えぇはい、保護した娘をあっちこっちに連れ回すのは流石にアレなので、一旦本拠地に戻らさせていただくということで、ヒーローの皆さんには申し訳ありませんが……そこんところよろしくお願いできればと」
説明のために来たのはイタミさん。
……そんなに頭をペコペコ下げなくてもいいのに。
「ここに長居しないのは良い選択だと思うよ。……僕達が調べた限りじゃ、この集落を壊滅に追い込んだのはドラゴンだからね」
「………え"っ、ドラゴン!!?」
イサム君、もといチャイルドエンペラーの衝撃発言にさしものイタミさんも度肝を抜かれたようだ。
「……イタミ、ヒトの味を覚えた猛獣は何度でもヒトを襲って食らう。ドラゴンのことをすぐにでも本部に報告し、通りがかった近隣の集落に周知すべきだ」
「そ、そうッスね、ほんじゃあ失礼しまっす……」
真剣な表情で忠告するセキンガルさんに気圧されつつも、それは確かにそうだと言わんばかりにその場をそそくさと後にするイタミさんを見送り、俺達は顔を見合わせた。
「どうするキング?」
「……〝
「こちらから見つけ出して始末するというのはどうでしょう?」
「いや、いまだ不明なことだらけな現時点で積極的に動くのは性急すぎるな。……向こうが攻撃してきたからこっちは仕方なく反撃した、そういう建前は欲しい」
「その心は?キングさん」
「ドラゴンをペットにしている超越存在がいるのかもしれないし、ドラゴンを信仰の対象に据えている宗教があるかもしれない。……あくまで仮定の話だけどね」
「であれば、次現れるのを待つしかないが……」
「たぶんすぐ現れると思いますよ。セキンガルさん」
「何?」
こういうのはあんまり好きじゃないけど、炎龍とかいう不安要素を確実に取り除くためだ。
心を鬼にして提案しよう。
「あなたの先程言った言葉を借りるなら、ヒトの味を覚えた猛獣は何度でもヒトを襲って食らう。……
<<< コダ村 >>>
コダ村の人々は、何だお前らまた来たのか、という感じでイタミ達を歓迎するでなく、といって嫌悪するワケでもなく、なんとなく迎え入れた。
イタミはキングの通訳を交えて村長に話しかけ、教えてもらった通り森の中に集落はあったが、そこは既にドラゴンに襲われて焼き払われていた、といった説明をした。
「なんと、全滅してしまったのか!!?……痛ましいことじゃ」
「……焼け落ちた集落を調べて分かったことですが、そこを襲ったのは
紙に描かれた精巧なイラスト(キング作)とキングの言葉を見聞きした村長は血相を変えた。
「そ、それは古代龍じゃ。しかも炎龍じゃよ」
「エルフの集落は、この娘一人を残してほぼ壊滅しました」
「……そうか。悲しきことじゃが、よく知らせてくれた。すぐに近隣の村にも使いをよこさねばならん」
近くにいた若い男にあれこれ指示を出す村長。
慌てふためきながらも無駄なく行動する村人達の様子に関心しつつ、キングは何処かへ行こうとする村長を呼び止めて本題の一つを切り出した。
「この娘を村で保護してもらいたいのですが……」
「種族が違うので習慣が異なる。エルフはエルフの集落で保護を求めるのが良い。それに儂らは逃げねばならん」
「……村を捨てると?」
「そうじゃ。エルフとヒトの味を覚えた炎龍は、また村や町を襲って来るんじゃよ」
コダ村の中心から少しばかり離れた森の中に、小さな小さな家が一軒立っている。
天を覆う樹冠からの木漏れ日で周囲は柔らかに明るいため、中々に素敵な雰囲気を醸し出す家であった。
その家の前には馬車が停められており、荷台には木箱やら袋やら紐で結わえられた本やらが山の如く積み上げられていた。
傍らで草を
……それほどまでの荷物量だった。
その山のような荷物を前にして、更に一抱えもあるような本の束をどうやって載せようかと苦心する者が一人。
年の頃は14〜15歳といった感じで、貫頭衣を身に纏ったプラチナブロンドの髪色の少女であった。
「師匠、これ以上積み込むのは無理」
「レレイ、どうにもならんか?」
窓から顔を出した白い髭に白い髪の老人は、まいったのぅと眉を寄せた。
「コアムの実とロクデ梨の種は置いていくのが合理的」
レレイと呼ばれた少女が不要なものと必要なものとを仕分ける簡単な作業に入り、白髪の老人は思わず肩を落としながら愚痴をこぼした。
「だいたい炎龍の活動期は50年も先だったはずじゃ。それがなんで今頃……」ブツブツ…
エルフの集落が炎竜に襲われて壊滅したという知らせは、瞬く間に村中に走った。
普通なら着の身着のまま逃げ出さなければならないところだったが、今回に関しては通報が早かったため、荷物を纏めるだけの猶予はあった。
そのために村全体で、夜逃げ同然の引っ越し騒ぎが起きていたのである。
老人に指示して不要な荷物を片付けさせている間、レレイはロバを引いて荷馬車と繋いだ。
「師匠も早く乗ってほしい」
「あ?儂はお前に乗っかるような少女趣味はないわい!どうせ乗るならお前の姉のようなボンッ、キュッ、ボーンの……」
「………(゜-゜)」
レレイは冷たい視線を老人に向けたまま、おもむろに空気を固めると投げつけた。
空気の塊とは言ってもゴム毬みたいなものだが、次々にぶつけられるとそれなりに痛い。
「これっ、やめんかっ!魔法とは神聖なものじゃ。乱用するものではないのじゃぞ!……って、や、やめんか!」
……空気の塊をひとしきり投げ終わり、溜飲が下がったのかようやく落ち着いたレレイ。
「余裕があると言っても、いつまでもゆっくりしていられるワケではない。早く出発したほうが良い」
「分かった分かった、そう急かすな。……ホントに冗談が通じん娘じゃのう」
「冗談は、性的な内容の場合互いの人間関係を破壊する恐れがある。大人なら弁えていて当然」
「はぁ……疲れる年は取りたくないのう……」
「大丈夫、師匠はゴ○ブリよりしぶとい」
「無礼なことを言う弟子じゃのう……」
「これは、お師匠から受けた教育の賜物」
身も蓋もないことを告げ、レレイはロバに鞭をひと当てした。
ロバはそれに従って前に進もうとする。
ところが、荷台のあまりの重さから馬車はピクリとも動かなかった。
「………」
「……オホン、どうやら荷物が多すぎたようじゃのう」
「かまわず積めと言ったのは師匠」
「し、心配するでない!我らは魔導師じゃ!〝ただ人〟の如く行く必要はない!」
「……魔法は神聖なものじゃ、乱用するものではないのじゃぞ……」
「………………………あぁー」
レレイの温度を感じさせない視線が突き刺さる。
教育者としての矜持だとか、様々な思いが葛藤となって老人の中を駆け巡る。
……だが、そんな思考すらも今となっては時間の無駄でしかないと悟った老人は大人しく降参することにした。
「……す、すまんかった」
「いい、師匠がそういう人だと知ってる」
師匠の非を認めさせた弟子は、荷馬車の重量を軽くすべく魔法をかける準備を行う。
レレイとは、そういう娘であった。
村の中心部に向かう中、あちこちの家でレレイ達同様、馬車に荷物を積み込む者の姿が見られた。
農作業の馬車や荷車、あるいは馬の背中に直接荷物をくくりつけている者までいる。
レレイはそんな村人たちの様子を、観察するかのようにじっと見つめていた。
師匠が語りかける。
「賢しい娘よ。誰も彼も、お前の目には愚かに見えるじゃろうなぁ」
「命のために一刻も早く炎龍から逃げなくてはならない。けど持てるだけの生活物資を持って行きたいのは人として当然」
「人として当然ということは、結局愚かしいということじゃろう?」
「………」
レレイは、師匠の言葉を否定できなかった。
本当に命を大切に思うのならば、与えられた時間を使って少しでも遠くに逃げたほうが賢明ではないかと考えるからだ。
なまじ時間的余裕があるばかりに荷物を纏めるのに時間がかかり、結果出発時間が遅れてしまう。
加えて、重い荷物は移動速度の低下を招く。
炎龍に追いつかれてから荷物を捨てては手遅れなのだ。
そもそも、人は何故生き続けたいと願うのか。
人はいずれ死ぬ。
結局は遅いか、早いかの違いでしかない。
ならば、僅かばかりの生を引き延ばす行為にどんな意味があると言うのだろうか。
レレイはそんなふうに、物事を理屈で割り切った考え方をしてしまう。
そして、そんなレレイを老人はどのような言葉をもって諭せばよいのかと悩むのである。
村の中心部に差し掛かると、道は馬車の列で渋滞が出来ていた。
「一体どうしたのじゃ?」
いつまでも動かない馬車の列に苛立ってか、師匠は進行方向から来た村人に声をかけた。
「これはカトー先生。レレイも。今回は大変なことになっちまって。……この先で荷の積みすぎで車軸を折った馬車が道を塞いじまって。大急ぎで片付けてるんですが、しばらく時間がかかりますよありゃあ……」
引き返して別の道を選ぼうにも、既に後続の馬車が塞いでいて行くも戻るも出来なくなってしまった。
『避難の支援も仕事の内だろ!とにかく事故を起こした荷車をどけよう!』
「……?」
カトーと呼ばれた師匠と村人が話している中、レレイは後続から見慣れない姿の男達が、これまで聞いたこともない言葉で騒ぎながらやって来ることに興味を引かれていた。
『イタミ隊長は村長から救援要請を引き出してください!』
『分かった。おやっさん』
『トヅは後続に事故を知らせて迂回させろ!』
『えー!どうやって!?言葉が―――』
『身振り手振りでなんとかしろ!ガッツで話せ!クロカワは事故現場で怪我人がいないか確認してくれ!』
『了解』
見ると緑色―――緑や濃い緑、そして茶色の混ざった斑模様の服装をした男達だった。
……いや、女性らしき姿もある。
兜らしいものを被っているところを見ると、どこかの兵士だろうか?
だが、それにしては鎧を纏っていない。
レレイの知識にない集団のようだ。
何を言っているのかよく分からないが、初老の男に指示された男女が凄い速度で走っていく。
その様子を見ると、ハッキリとした指揮系統らしきものがあるようだった。
禍々しいほどの暴力を、規律という名の鞘に仕舞い込んだ軍事組織の気配がある。
「師匠、様子を見てくる」
レレイの興味は尽きない。
師であるカトーに断りを入れたレレイは、馬車を降りて前方に駆け出した。
馬車15台ほど先に、事故を起こした馬車があった。
車軸が折れて馬車が横転している。
驚いた馬が走り回って暴れたらしい。
撒き散らされた荷物と、倒れている男性、そして母子の姿があった。
馬も倒れて泡を吹いているが、まだ起き上がろうとして無闇に四肢を振り身を捩っている。
そのために、村人達が助けに近付こうにも近付けなかったのだ。
『君!危ないから下がって!』
緑色の服の人達。
何を言っているのかよく分からないが、手振りからしてレレイに下がるように言っていることは理解できた。
しかし、レレイは倒れている母子も怪我をしていることに気が付くと、制止を振り切って駆け寄った。
傍らで馬が暴れているが気にしない。
「まだ生きてる」
レレイよりもちょっと年下、おそらく10歳ぐらいの子供を診ると、頭を打ったようで顔や手足から血の気が失せてぐったりとしている。
その上、まるで栓を開けたように汗が流れ、どんどんと体温が下がってきている。
母親は、見たところ気を失っているようだが大したことはなさそうだ。
むしろ子供のほうが一番危険な状態にある。
「レレイ!何をしておる!?何があった!!?」
呼び声に振り返ると、そこには村長がいた。
やはり緑の服の人と一緒だ。
事故の知らせを聞いて駆け付けたのだろう。
「村長、事故。たぶん荷物の積みすぎと荷馬車の老朽化。子供が危険。母親と父親は大丈夫だと思われる。馬はもう助からない」
「カトー先生は近くにおられるのかね?」
「後ろの馬車で焦れてる。私は様子を見に来た」
『イタミ二尉、脳震盪か骨折の恐れも。ここはキングさんに頼ったほうが……』
『マジ?……仕方ないねぇ』
ふと見ると、緑の服を纏った長身の女性がレレイと同じように子供の様子を診て、おそらくは上官にあたるであろう男性に伝えていた。
その手際の確かさは体系的に医学を学んだ者の気配があった。
長身の女性の言葉を受けた三十代くらいの男性は、全体への指示を出している。
「キャアァァァ!!」
「危ないッ!!」
突然、悲鳴が上がる。
次いで、気が付いた時にはレレイを覆うように巨大な影が迫り―――
……その瞬間を目撃できたのは、ある意味奇跡であった。
レレイの十人分の重量はありそうな暴れ馬が彼女に覆い被さろうと倒れ込む―――すんでのところで、その馬以上に巨大な影が背後に回り込み、レレイの頭より一回り以上も大きなその拳を水平に薙いで、馬の頸を砕き割ってしまったのだ。
勢いそのままに馬は数mも吹っ飛ばされ人家の壁に激突。
苦しむ間もなく永遠に沈黙することとなった。
「大丈夫か?」
レレイは最初、自分に向けて
それほどまでにレレイ史上、鮮烈かつ衝撃的な出来事は過去になかったからだ。
ただ一つ分かったのは、どうやら自分が助けられたということだけだった。
余談となるが、怪我をして危険な状態にあった子供とその両親は、
奇跡と評しても過言はない、まさに神懸かった光景を間近で見てしまったレレイが、彼に対して強い興味・関心を抱くのはある意味当たり前の話であった。
近接戦が異常に強い代わりに遠距離戦が異常に強く、フィジカルが異次元レベルに高い代わりにとんでもなく狡猾で、卑怯卑劣に躊躇がない。
デバフを撒ける代わりにバフも施せ、自分や味方はいつでも瞬間移動で戦線離脱できる代わりに敵を閉じ込める結界をいつでも展開できる。
……代わりって、なんでしょうね。
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