幻想とは何たるや   作:カピバラバラ

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語り部:暇人①

 

 

転生、という概念がある。

命あるものはその輪の中から決して脱せることは無く、リアリティーの中でイマジナリーなものを思考するしかない。

 

今、私は輪廻転生を“輪”と例えた。しかし輪廻転生が本当に輪の形をしているわけも無く、円環と循環をイメージしやすいから“輪”や“円”と口にする。

 

これが現実の中で虚無的なものを思考する、という事。

私たち人間は物事に共通点を見つけ、無理解を解きほぐす。思考の中にしか存在しなかったものでさえ、その地位をはく奪してきた。

 

例えを出す、一番身近で庶民的、“火”であればどうだろうか。

今や物理摩擦や高電圧、可燃ガスによって簡単にこの世界に形を表す“火”。

原始に遡り、自然界の現象ですら目にしたことが無い本当に無知な猿人類の頭の中に、この“火”は存在したのか。

 

いいや、存在しなかった。“火”ではなく、“身をやつざく痛みを与え、指先が壊死し、身体の中が壊されていく危機から身を守れる何か”を欲する意志そのものだった。

 

要は寒いからなんとかしないと、という生存本能への“答え”、しかしソレを与えてくれる対象は頭の中にしかいない。普通ならそこで悲劇的なバッドエンドを奏で眠る。

 

無慈悲なリアリティーの中、回答をイマジナリーに求めるだなんて……──滑稽とは言わない、その意思が、思考が、空想を破壊してこの世界に撃ち落としたのだから。

 

────だが、その過程には、グッドエンドへの道筋には…無茶が付き纏う。

むちゃぶりならぬ、無理ぶりをされる時がある。サイダー瓶を渡されて『中に入ってたもの、再現しといてー』と出社に遅刻した上司からアホ面で言われるのと同じ感じだ。

 

────輪廻転生してみたいから、誰でも輪廻転生できるようにしてよー。

こんな事を言われてみろ、おかしいと思うだろ、な、おかしいよな。

 

「貴方が出来るから聞いてるんじゃない」

 

……。

 

空想や幻想、虚構を現実にできるというのなら人間は全てを超越していく。しかしそうはならない、なれない。

 

頭の中で思い描いた光景、自分の手から魔法が飛び出てこないからこれが人間の限界だ!……って言ってるわけじゃない。時間が足りていないだけで、まぁいつかはどうにかなるさ。

 

本質的な問題はな、化け物女。

 

…………本当の意味で、空想虚構虚無幻想、イメージイマジナリーファンタジー、心や精神、魂達が元居た場所に、私らが辿り着けることは無いって事。

 

「またそれ~?分かったわよ、貴方が言う“神”っていうのは…」

 

分かってない、お前は下手に化け物だから、下手にそんな能力を持ってるから、下手に頭がいいから、理解できることは無い。

 

「…貴方の能力を知りたいのが、そんなに愚かな事なのかしら?」

 

上からものを言いたいわけじゃない、お前が傲慢すぎるから一周か百周回って回りまくって、私が上からものを言ってる風に聞こえるだけ。私の卑屈さとひねくれが私を誰かの上に置くことなんて許さないの。

 

「……傲慢」

 

そうだ傲慢なんだよお前は。自己評価に見合った自己愛と不釣り合いな他者への慈悲、屠畜場の前で肉を食いながら涙を流して説法を説き始める奴に傲慢以外の何がある。

 

口で無秩序に愛を語っていたとしても、性根では自分は全てを管理できると疑わない。現象全てを掌握できるからって“神”にまで手が届くと思ってる。

 

────身の程を知るべきなんだよ、八雲紫。

 

────身の程を尊ぶべきなんだ、化け物女。

 

形あるものとして、自分の形を愛するなんて、簡単な話だろうに。いつまで聞かないふりをしてるんだ。

 

 

「なら」

 

 

「貴方の、身の程は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皆、形が無いものが大好きだ。

 

やることなすこと成功する未来をイメージする、世界が思った方向に歩き続ける、そういった夢を本音で語って楽しくなさそうな奴はいなかった。

 

そういう意欲や本音が無い奴や、不幸に向かって歩こうとする奴でも、頭の中でまだ存在しない未来を思い描いていた。

 

けれども皆、現実の中に居た。

絵画を見て涙を流しても、絵の中には飛び込んでいけないように。

 

「そーなのかー」

 

本当の意味で空想が現実に、幻想が真になることは無い。思考はそこで完結していて、どう足掻いてもイメージに似た現実が降りかかってくるだけ。

 

「そーなのか?」

 

ああ。

 

「ふうん」

 

なんか勝手に森の中に落とされて、化け物女と似た雰囲気の化け物少女の目の前で泣きそうになってるのも、考えてなかったかと聞かれれば────いや、想定できるわけないだろ。

 

「大丈夫、貴方おいしくなさそうだから。食べないよ」

 

……。

 

普通はな、人型を見た時においしいかおいしくないか、なんて思考にはならないと思うんだ。

妖怪だったか、想像してたものとは違うが、まぁいい。

 

研究にうってつけの場所と騒いで、結論が出てるモノに時間を費やさせようとして、そして私の口から出る言葉を全部納得しない馬鹿女のせいで余生を木々の下で栄養になることになったのも、まぁ、いい。

 

…よくないか、なぁ、ここ、どこ。

 

「あれ、知らないの?」

 

「ここは幻想郷、妖怪の楽園だよ」

 

────。

 

そうか。

 

「空からへんなのが落ちてきたから見に来たけど…お話はつまんないし、おいしくなさそうだし…」

 

お友達としては?

 

「うーん。寝床にしてる洞窟に住んでた蝙蝠ぐらい?」

 

耳障りでうっとうしいと。

邪険され続けて幾憶年、最早人外の存在に初対面から毛嫌いされるとなれば───この先、楽に生きていそうだ。

 

「この先…って言っても、貴方程度じゃ森の獣に食い殺されて終わりだと思うけど?どうかしら、森に迷い込んだ人間を私のお昼ご飯にしてくれるなら、一宿一飯の恩はあげられるよ?」

 

あー。そうだな。

 

お嬢ちゃんと話してるとな、隙間風寒い納屋でネズミに話しかけていた事を思い出す。珍しく私から離れていかない生き物だと思い、親しく接しようと風よけにしていた藁束の一部を巣にしてやった。

 

藁束をちぎれば、私の体は更に冷え込む。それでも、だとしても、唯のネズミにすら人肌のぬくもりを覚えた結果どうなったと思う?

 

「知らなーい」

 

寝起きな、やけに腕がピリピリしたんだよ。

 

なんでかってと、寝ていた私の事を死体だと思ったネズミが…必死に寒さと飢えから生き残ろうと、表皮をかじってたのさ。

 

「…………私と話すと、そのネズミの事…思い出したんだ」

 

「───きーめた。食べる為じゃなくて、虐める為に殺してあげる」

 

ネズミイコールお嬢ちゃんとは言ってないけど。……対談でどうにか妥協点見つけない?ダメそう?

あ、ほら!なんか最近気に入らない奴が現れたとかさ!愚痴があるなら聞くよ。言葉と会話を舐めちゃいけない、長年“言葉”ってのに絶望してる私からすると持ってる力ってのはやっぱ凄くて───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生命の根底にあるものは、多く語られている中では虚無ともされている。

 

本質、真実。虚無には是非が無くそして理が無い。けれども虚無を指すのは“中身”を抽象する言葉たちだらけだ。

 

水で薄めたクリームシチューのような味がするこの話題は、スプーンの上に乗った白色から牛乳とは何たるかを追求するような────とにかくうざったい話だ。

 

万物が在る事には理由があるだの、現象は究極的本質的真理的に虚無であるだの、リアリズムニヒリズム西洋のメリケンが考えた言葉は普及している。

 

賢者が何十年、短い人生の中…浪費を極め練りだした言葉も、ぶらんこをこぐ子供の口から語られる。

 

本が好きだ、同時に嫌いだ。言葉が好きだ、同時に嫌いだ。消費生産消費生産、物だけでとどまらない最悪の浪費者が人間だ。

 

「でも、人はその繰り返しで前に進む」

 

「暗闇が怖いのよ。前に進むためだけに、必死になるぐらい」

 

そうさその積み重ねだ、意味のない積み重ねさ。

鶏小屋から奪った卵、その中にある命の人生を考えるようなもの。問い埋めて問い詰めて、答えは──ああ美味しかった、で腹の中。

 

「人生の意義を問う事に否定的なのは良い事よ、それだけ必死に生きてる証拠…とも言えるわ。お客さん」

 

お客?

 

「迷い人かと思ったけれど、貴方は明確な意思を持ってここに来たのだから、ね」

 

明確な意思……そう言われると首を振りたくなるが、こんな場所来たくて来れる訳じゃないからお嬢さんの言葉が正しいよ。

 

綺麗な桜、綺麗な桜、綺麗な桜、綺麗な桜。雑木林を眺めるのも退屈だけど、美術品のような美しさを持つ桜がこうも咲き誇ってしまうと同じく味気ないな。壮観というべきかもしれない、でも私は退屈だ。

 

「そんな貴方に送りたい言葉があるの」

 

なんだいお嬢さん。何故か実家の匂いがするご令嬢。

 

「生を歩む中で得る幸せは多々あれど、ならば死すれば芥となるのか」

 

「───いいえ、死してなお、愉しく」

 

────。

 

良い言葉だ、普通死後なんてものが存在せず、幽霊なんてものも居ない世界であれば戯言だったんだろうけれど。

 

良い言葉だ、ぐうの音も出ない程に。

 

私のような人間と、どうしてか傍で話をしてくれる変人から出た言葉とは思えないな。察するに…こんな死臭に満ちた場所で、謳歌できる趣味があると見た。

 

「趣味…と言えるほどではないけれど、私、食べるのは大好きよ」

 

それはそれは───良い趣味だ。

もしよければ、明日の朝餉にも困っている貧乏人に趣味の共有なんてのは如何?

 

「勿論良いわ、って言いたいのだけれど妖忌がお使いに言っちゃった所なのよ~」

 

本当に誘いに乗ってくれるとは、人生何があるか分からないものだ。おいしくて暖かい味噌汁が飲みたいな~。

白飯漬物お味噌汁、食卓の三種の神器。

 

「私はそこにサバも付けたいわ、丁度脂が良く乗ったものが卸される時期なの。五十匹ほど焼いてもらおうかしら?」

 

……。

 

それは……その、凄い…な。こんな場所で食事を趣味にするだけはある。

 

「お客さん、こんな場所と言うけれど…」

 

「私にとってはここで食べる粒の立ったご飯が、何よりの楽しみなの」

 

────。

 

………。

 

……。

 

時たま、貴方のような人が世界にポツリと生まれてしまう。

 

残酷で無常で虚無で虚しい、こんな世界に生まれて、そんな笑顔が出来る人が。

 

そんな貴方自身がその孤独を友愛を以て抱擁できるのなら、私は口から無言しか吐き出せないことだろう。

 

だから。

 

だから少しだけ、寂しさが勝るのかな。ご令嬢。

 

ああ。

 

そうだろうとも、化け物女によく似ているくせに上手く皮肉が働かない筈だ。

 

ああ───身の程を愛すべきなのさ、私らは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心というものが、本当にあるのかどうか。

 

人間の脳みそは神秘と宇宙を内包している。一度機能を停止すれば再起動せず、心、魂と言われるものは帰ってこない。冥界やら地獄やら魂やらがある幻想郷でも、一度死んだ肉体を完全に修復しても、元の形には戻らない。

 

さて、心は存在するだろうか?

 

とある寓話がある、お気に入りの寓話だ。洞窟に囚われた人間たちの物語だ。現実、真実だと思っていた全ては炎が作る影にしか過ぎなかったというものだ。

 

小さいころ、その寓話を手に取り、茶器から漂う湯気と共に飲み込んだ。

 

舌の上に残ったのは───物足りなさだ。

 

確かに啓蒙を深めるのには良いのかもしれない、というか本題がソレだ、比喩であって語るべき主題は洞窟の中でもっと別の事ができたかどうかじゃない。主観の罠を指摘しただけ。

 

「………」

 

けれども、思うだろ。目をつぶった暗闇如きに夢想を重ねられる人間が、炎に照らされない暗闇になにも見ない筈が無いと。

 

ああ、心はあるのさ。目玉のお嬢さん。

 

「………」

 

知覚できる全てを知ろうとも、その実私たちは知覚できないものに生かされている。

肉体があって初めて知覚を行える癖に、肉体の先に魂がある。

卵が先か鶏が先か、私らの存在は親子丼なの。

 

「………───あの」

 

「どなたでしょうか」

 

────。

 

うっす、まぁ、そうですよね。私も初めましてですし。

どこですかここ。

 

「地底です」

 

地底ですか。

 

「そしてここは旧地獄の地霊殿」

 

へぇ、地獄。口は禍の元とはこのことか。禍を転じて福となすともいうが口の悪さだけで地獄行きは───泣こうかな。というか地獄に旧とか付けちゃっていいんだ、相変わらずよく分からない世界だわ。

 

それで、どうかな。不埒な奴を即座に追い出さなかったという事は、閻魔様には見えなさそうな君はまだ少し、私に掛ける慈悲がある、と。

 

「いえ別に。そもそも私は閻魔ではありません、地霊殿の主であり───心を読むさとり妖怪ですよ」

 

………。

 

君、よく性格が悪いと言われないかい?満足げに“心”を語る奴の前で、中々に残酷な事を言うじゃないか。

 

そうだな…今の気分を例えると、初心ながら子供の為にケーキを自作している途中、プロのパティシエが我が子へ先に特上ケーキをプレゼントした気分だ。我が子は舌が肥え、そのケーキ以外を食べる事が出来なくなってしまった。

 

「それは貴方の躾の問題でしょう。遠く離れたものへならともかく、ソレは貴方の内にある。手の届く範囲にあって御せれないのなら、貴方の責任です」

 

「………それと、最初の疑問に答えてくれませんか?」

 

私自身よくわかってない、名前も最初期に捨てちゃった。

ふむ。心を読む、つまりは記憶を読める、ならば過去が分かる、つまるところその人がどう形作られ、どんな存在なのかもわかる。君、その力は種族的なものかい?で、あるのならば、それはそれは…。

 

────ああ。

 

答えなくていい、私もアンタらの心が読めるんだ……冗談、そんなに怖い顔をするなよ。閻魔様よりおっかないぞ。

 

「貴方に聞きたい事は三つ、貴方が何処の誰なのか、どうやって誰にも気づかれずここへ侵入できたのか、そして───」

 

どうして心が読めないのか。

 

「…」

 

人の心を読める妖怪が安易に質問を口に出しちゃいけない、優雅に構え、インチキ占い師のような穏やかな笑みを浮かべ、目を伏せる。

 

皆が口々に言う心ってのは、顔色見れば誰でも察せられる。けど“心”は誰にも触れられない。さて、触れられないのなら観測できない、観測できないなら干渉できない、干渉できないなら実在しない。

 

本当なら指先でプチっと、ぷにゅっと潰されるだけの私と君の関係は……奇しくも、互いに触れ合う事が出来ないロミオとジュリエットだ。殺したくとも潰したくとも、さとり妖怪である君は不可解を無視できなかった。

 

「………」

 

今のところ分かってる限りで答えよう。

 

一つ目、八雲紫という陰湿アホ馬鹿間抜け女に誘拐され幻想郷を楽しむことになった被害者A。

 

二つ目、能力が関係している。侵入したんじゃなくていつの間にかここに居た。

 

三つ目、お互いの相性さ。

 

あまりうまくは答えられなかったけれど、これぐらいで赦して欲しい。

 

「………────」

 

悪意はないよ、君。悪意があったとして私が何を起こせる?猫とのじゃれ合いで負けるような奴にさ。

ここの連中は揃いもそろって化け物ばっかだ。歯医者を前に震える子供のように私は無力なんだよ。

 

怖い怖い歯医者さんの、痛い痛い施術に怯え、その後のご褒美が無いとやっていけないくらいに。

 

さて、君。心の存在を信じるかい?

 

「今の所は、信じています」

 

良い返事だ。主観に囚われる愚かさを説く時は、常に主観でしか捉えてあげられないものの事も考えてあげてね。

 

それでー、その、もしかしたらなんだけど、今から私ってぐちゃみそにされる感じ?物凄い殺気がこの部屋目掛けて走って……飛んできてる気がします。

 

「生き残れるかは私次第でしょうね」

 

今更媚びうるのもアレなんで、聞きたいことがあります。

 

「なんでしょう」

 

──お勧めの勤め先とかあります?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昔話をしようか。

 

構えなくていい、いつもみたいにダラダラくだらない事を話すわけじゃない。いや、やっぱつまんないかも。

 

それでもまぁ、静粛に聞いてくれるのなら語ろう。人生ほど、愉悦に浸って語れる物語は少ない。

 

話を聞いてもらう上で、君に問いたいことがある。

 

 

 

 

──幻想とは何たるや。

 

 

 

 

 

目を閉じた時、映る闇の中で点滅した光を見る。

小さい頃の話だ、本を読むために目を疲労させていた。本の虫と言えるほどではないけれど、あふれんばかりの時間の何割かは読者になる為に使った。

 

そして、私はその光が好きだった。好きな本を読んで目が疲れたら、その好きな光を見つめる時間が訪れる。いつの間にか目的と手段が逆転する程に私はその光を見つめ続けた。

 

いや、目をつぶっているのだから見つめた訳では───まぁいい。

 

「………」

 

ユーモアセンスが無い私の、くすりと一人で笑ってしまいそうな“ユーモア”はどうでもいい。

ともかく、読書とその光が好きだという事が伝わればそれでいい。一文で終わるこの“好き”を伝えるために五、六行ほど使った気がするが、それもどうでもいい。

 

自己紹介代わりだ、これだけで私がどんな人間なのかも凡そ分かった事だろう。

 

「ふふっ」

 

続きだ。

 

読書が好きな理由は大体の人間が思いつく。知恵、理性、形あるものへの解釈、それらを磨き先細させる以外に無い。だが一方で目をつぶった時の謎の点滅が好き、の“好き”は大体の人間が思いつかない。

 

思いついても、個々人の理由に分割されて“好き”が統合することは無い。

 

「なら、貴方の“好き”は?」

 

それを聞いてどうする。何の意味も無いちり芥が返ってきて、不愉快な鼻息と共に散らすだけだろ。

 

「あら…心外です。私に真摯に問いを答える殿方を嘲笑する趣味がある、と思われていたとは」

 

────。

 

ひねくれものは吐く息までひねくれてることを知らない方が悪い。

 

私は知っている、だからどこの誰だか知らないお前が何を言ってもひねくれてるのが分かってる。

それでも私がどうして、“幻想とは何たるや”かを答えようとしているかを教えてやる。話が最初に戻ってきたな。

 

「賢者である私に、今になってご鞭撻を取って下さる方が居る──…嬉しい限りです」

 

──幻想イコール点滅した光、だからだ。

 

「………?」

 

幻想なんて言葉の意味は辞書引いたらそこらのガキでもわかる、でも──“何を対象に”幻想と呼ぶかはそんなガキ一人からでも読み取れない。

 

光の点滅も身体科学以上の意味は孕んでない。けれどお前、私の“好き”を聞いたな?私はあの光の“無意味さ”が好きだ以上。ほらこれで幻想とは何たるやって質問も答えた。

 

「……理解の範疇を超えたものを愛おしく、そしてあくまでも無理解を貫く。なら私達は、この世界で最も珍しい“好き”の同志…という事でよろしくて?」

 

は?いや無理だ、気持ち悪い。

 

「うふふ、沢山の本の読者になっても…貴方の罵倒のレパートリーを増やしてくれるモノには出会えなかったようね」

 

……。

 

私はその無意味さに“神”を見た。光にじゃない、意味の中にだ。

分かりづらく言ってやるよ化け物女、お前が決して私と同じ“好き”な訳が無いって理解できるように。

 

無限なる方向に拡散していく無秩序、思考の垣根を越えて最早意味すら読み取れない程に肥大する解釈。数学論者も苔の生えた文学気取り屋も辿り着く“神”の居場所。

 

無限の持ち主、光の住人、心の形、形ある全ての“差異”を与えるアペイロン。

 

───限界点だ。お前が聞きたかった幻想の本質、私が大好きだったあの光、言葉のベールを外してまぜりゃこの答えに辿り着く。臨界点って言い換えてもいい。なんにせよ、私らは私ら以上に超越的には永劫成れやしない。

 

お前は、何があっても…その力があったとしても、“神”は……“幻想”は、お前自身のおままごとの中に入ってきてくれない。

 

「────」

 

「…………」

 

「──身の程をわきまえろと?」

 

あちら側はあちら側、私らは私ら。身の程をわきまえない愚か者はバベルの街行きさ。超越的視座を持ちたいのなら無知蒙昧なアホになればいい、まぁ“ご鞭撻”だなんて行儀ぶった言葉を吐くやつにできるわけないか。

 

身の程で生きてけよ、化け物女。悩まず、苦しまず、楽観的に、欲しいものを欲しがって悠々と生きていけ。

 

───全てを管理したいだなんて夢は捨てて、私のように古臭い家屋で珈琲飲んで、いつまでも、いつまでも、夢褪せながら死んでいこう。

 

 

 

 

元より、幻想郷なんて儚い夢だったのさ。

 

 

 

 

────。

 

それが結論だ。どうだい、つまらなかっただろう?

昔話ってのは常退屈なものなの。瞬間で味わいを変える人生は、賞味期限がコンマ0.00000000なんぼぐらい。

 

結局、私が考えていたモノ、アイツが考えていたモノ、それらが重なることは無かった。

 

「ふぅん」

 

ペットの中で一番つまらない奴に会いに来た気分はどうだい?徒労、だっただろ。

 

「徒労?」

 

丁度そこの血の池地獄の縁で、どうにか脱出しようと必死にもがいている奴が居る。

絶壁とも思えるものに指を立て、爪が割れ、肉が削げ、骨折り損を繰り返す間にも煮られ悶える。

 

何十年繰り返し、さて、進んだ距離は一体どれほどか。

 

……ゼロだ。

 

昇っては落ちていくからな、これが徒労さ。妹さん。

 

「残酷なのね」

 

そうでもないさ、アイツは罪人だ。今は過去の帰結なんだよ、残酷でも何でもなく当然。罪を犯したから苦しんで当然と言ってるわけじゃない、どれだけ非情で残酷に見えても、アイツが過ごす今と西日の当たる温かな庭先で遊ぶ親子の今は同じというだけ。

 

君も、同じようなモノだろうに。

 

私はカウンセラーでないし哲学者でもない。

ただのペットだ。だから口にする言葉も何もない。

 

それでも流れ出す音に期待したいというのなら、私からは一つ。

 

もしも過去の君に出会ったとして、根を上げて絶縁を切り出すのは君の方だ。

 

「……ふぅん」

 

「ねぇ、お姉さん」

 

なんだい、可愛い子。

 

「私にとっての幻想もね」

 

「──この“目”を閉じた時に生まれたの」

 

「似た者同士だね、お姉さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……。

 

……。

 

…本当にどこだ此処。

 

なんか果てしない闇が見えるんだけど、酒でも飲んでたっけ。

なんかやけに重力が軽く感じるんだけど、クスリでも吸ったっけ。

 

“神様”は本当に意地悪だな、一度も私に微笑んでくれたことがない。

 

「────」

 

お、第一村人。うさぎんちゅじゃん?ってことはこの場所は月だったりして。

いきなりでなんだけど、おうちがあるなら泊めてくれない?

 

「に、にに、に…」

 

おう、なんだ。人参くれないとダメとかか。

 

「人間だ───!?!?穢れだ!!依姫様──!!」

 

……。

 

ああ、そういう。はいはい。いつの世でも、月まで来ても、口を開かなくても嫌われ者ですかあーそうですかはいはい、分かったって。

 

てか穢れって、風呂ちゃんと入ってるし臭くないし。けっ。

はぁ、あのうさちゃんが逃げてった……竜宮城っぽい建物に行けば、明日のご飯にありつけたりすんのかな。

 

……日向ぼっこならぬ星夜ぼっこにでも興じますか。そいえばなんで呼吸が出来てるんだろ、相変わらずご都合的な世界なこって。

 

……────。

 

────眠い。

 

……。

 

…。

 

 

「人間」

 

………。

 

はい。人間です。

 

「本来であれば即捕縛のち断罪だが…貴様がここに在ること、即ち月の大結界を通り抜けたと同義だ」

 

「答えよ。どのようにしてこの地へ降り立った」

 

またそれか、またまたそれかよ。

どいつもこいつも自分の住居に自信を持ち過ぎだ、私の家なんてあちこちネズミが出たり入ったりしてたんだぞ。経験あるか?明日食べようと思ってたクソ硬いパンを自慢げに目の前で食われたことがよぉ。

 

なんか化け物の中でも一番化け物っぽいし、頭の中もそれ相応そうだしで私は今やる気が無い。星空で心を満たさせてくれ、その後ならゆっくり話せる。

 

「………」

 

………。

 

「────」

 

…人間ってのはな、そうそう自分の身に起きる出来事全部を把握できるわけじゃないんだ。

ホワイダニットには答えられないし、お前が対面してるのは白紙の問題用紙。

 

答える答えない、じゃない。答えられない。

 

「私の気は長い方ではない」

 

ああ。そう。まぁ、信じて欲しいとは思ってない。

断罪って言ったか。なら罪人なりに交換条件として聞こう。───どうして今私は罪を問われている?住居侵入の罪とかだったらごめん。

 

「言うまでも無く、貴様は穢れているからだ」

 

穢れ…穢れ…────ヨリヒメ…──穢れ、か。

なるほど、あい分かった。お前神か。断罪は追放?宇宙に放り出すとか辞めてくれよ。

 

思った通りだ。生命の循環を罪とするなんて御宅趣味が悪いな。何が良くてそんな価値観になったんだ、やっぱり不老不死の神様ってのは手に負えないな全く。

 

自分の肉体、言語、意思がこの世界に在るくせに。

──今まで出会ってきた中で、一番傲慢で身の程知らずだぞ、お前ら。

 

「────」

 

気に障ったかい。

私から言えることはこれで終わり、後は万能の神様パワーで好き勝手しなよ。聞きたい事を聞き出して捨てちまえ。最も、神様が力を行使して望む結果を得られないとなれば────。

 

それはそれは、捧腹絶倒の笑い話だな!天岩戸も御開帳だ!

 

 

 

「ならば貴様に、真の罰を与えてやろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人間には、限界がある。

 

「……」

 

人間には限界がある。

自分の身体で空を飛んだり、生身で宇宙に行ったり……なんて事とは違う。それは肉体の限界だ。

 

人間の限界は、思考だ。

明確に壁がある、限界点がある。その壁を人は神と呼んだりしている。

 

専門外だが数学なら不完全性定理やオメガってやつかな。文学であれば言語そのものの不安定の消去と解釈の集合。

 

未知にメスを入れ既知にする科学でさえも、担い手が人間ならいつかは限界がある。

 

要するに、実体の無いモノへのアプローチの欠如。

 

神社に賽銭投げ入れて、祈った相手が神サマだったら嘲笑ってやる。そーゆー時は友達の幸運やら身内の元気を自分に祈って言い聞かせるもんだ。

 

「なあ、もっとシンプルに言ってくれよ。私にも分かりやすく、な」

 

……。

 

なら、お前は心の中で呟いた言葉の実在を証明できるか?───いやまった、魔法とか能力とか無しで。

 

「そりゃ、出来る。さとり妖怪に詠んでもらえばいい」

 

───。はぁ。

前提条件を踏み潰すなよ。さとり妖怪のソレも能力だろ。それにどうやって…さとり妖怪が告げた言葉に嘘が無いかを証明すんだ。

 

「それも簡単だ、他のさとり妖怪を連れてくる」

 

ループするだろそれ、無限に。最後の一人どうすんだ。

 

「ははっ、バレたか」

 

つまるところ、どんな奴でも踏みとどまるしかない壁がある。ロジック問題じゃない、思考の真理って奴。人間の限界とは言ったが、人外魔境のここでも全員に当てはまる。

 

ちな、別に他の方法がどうとかいう話でもない。観測不可能なものの実在証明には“神”が関わってるって話。

 

「へぇ…」

 

「うーん、私が魔女になってもその神やら壁やらはあるの?」

 

ああ。

 

「──いっつもそうだけど、サブ師匠からは常にねじ曲がった性根のオーラが漂ってる!そこはなんとかできるっていうもんだぜ?」

 

はいはい…。ならちょっとした例だ、思考の限界はすぐそこにある、無限ってのをイメージしてみろ。イメージしたか、そうだ目をつぶって瞑想して、“無限”を必死に形作って見ろ。

 

もし本当にイメージできたなら──お前は終わりだ。

 

「…………?」

 

ああ良かった、まだ目の前に魔女っ子のおままごとをしてる少女がいる。まだイメージしてないらしい。これで今、お前の限界点は分かった。

 

「……??」

 

……あー、その、無限なんて本当には理解できないものだ。でもイメージする為に……なんかこう、頭の中でこねくり回しただろ?無限ってのを単なる言葉として理解する、とか。

 

本質、真実、真理、捉えられないものを別の形に落とし込む。人間の常套手段。無限なんてものを理解した途端、想像もつかない────それこそ、“幻想的”な現象が起きる。空想しても想像しても、何をしても辿り着けないような結果が残る。

 

「うぐぐぐぐ……?」

 

図書館に引きこもる陰険な子供になれば、口先だけで絶対的な力量差がある相手に困惑だけは与えられるって事。知識の伝承と継承……本は沢山読んどけよ。

 

「…………」

 

私でも話せる事だ、人里に降りて…哲学者数学者、文学者に歴史と思想の教本でも数冊手に取れば、答えが一極に集合してくのが分かるさ。

 

──アホなこと考えるのは辞めて、大人しく楽しく、愉快に爽快に、暗く絶望しながら生きてれば問題無いって。

 

「なんだよ…私が理解できないからって、誤魔化してるんだろ。そもそもこの話が修行と関わってるのかすら分かんないのに…」

 

お前に適当な指導をして、化け物女の同僚に踏み潰されるのは私なんだが?……。魔術魔法、上手くなりたいなら限界を理解した方がいいからこんな話をしてるんだ。

 

お前の脳ミソはプログラムのコードじゃない、体験と直感、無秩序さの極みを前にして出来るのは──。

 

「身の程を知る事、分かったってー。いつも聞いてんだからさ」

 

…………魔女になりたけりゃ人間をもっと知れ、今のお前が魔法で出来ることは人間でも出来る。

 

魔女になるんだ、人間、なんてものに縛られないよう、人間を知り尽くせ。人間が出来ないことを理解しろ、自分が普通の生命とは全く違う超越的な存在だと自覚しなきゃ、それを自然と体現してる化け物女共とは一生張り合えない。

 

──人間はな、一歩一歩、限界点だと思う壁を乗り越えてきた。乗り越え続けてきた。思考の神を殺し、空想を現実に、幻想を暴き未知を切り伏せこれ以上何処にも行けないっ……て所まで。

 

私達は自然界全てを暴くまで壁を壊すことを辞めない、だからこそ、だからこそだ、人間を止められるのはいや止まる瞬間ってのは、

 

…。

 

「……zzz」

 

魅魔に告げ口するか。霧雨魔理沙は修行する気がありませんって。

 

「────!!お、起きてるから!そもそもサブ師匠が抽象的な言い回しばっかするのが悪いんだろ!?」

 

……大火力の魔法研究は楽しそうにしてる癖に。

 

まぁいい、こういうのは人間だった頃から慣れてる。私と出会えば大体の奴が一時間で怪訝な顔をするんだ、三日もったお前はよくやったよ。

 

いつか…いつかは、忘れるさ。こんな女と話した事も、こんな程度の低い雑談をしてたのも、明日か……もっと先か、いつかはどうでもよくなる。

 

「…サブ師匠、酔ってなくてそれかよ」

 

百年経つとな、誰でも婆臭くなるんだ。あとサブじゃないメインと呼べ、化け物婆は放任主義で私が今メインの師匠。それに酔ってなくとも、昔の私の発言を思い出してしもだえ、苦しんで、忘れるために酒を飲む。いつの間にか飲んでなくても酔ってくる。

 

今、お前の頭の中でぐちゃぐちゃに…それでいて元の形とは全く違う無茶苦茶な無限が、頭の中で永遠に囚われちまった様に…。

 

…。

 

……寝るか。

 

あーあ、一つの人生を長く生きるのも大変だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

形あるものには、限界がある。

 

形無きものには、自由が無い。

 

形無きものは、形あるものの“限界”の中でしか生きられない。夢想すらできないモノとして、集合の外にあるとして把握されるだけ。

 

円の中にあるものと、円の外にあるもの。ただそれだけがこの世界の真実だというのだから。

 

「美術品眺めてそんなこと言ってると、アンタもそろそろ末期かしら」

 

ボケてない。私はボケない。

 

「そう?私の知ってる年増は大体ボケてるけど」

 

ボケたらここの品、全部売ってお前の賽銭箱にぶち込んでやるよ。

 

「売るなら小鈴にね」

 

……。

 

この世界で、一番初めに壊されたもの…ってなんだと思う。

 

「さあ?そんなこと、考えた無いわよ」

 

壊される、つまり壊した奴が居る。

芸術が何回もその形態を変えてきたように、数学が何度も崩壊の危機に見舞われてきたように。

 

考えたことが無いのなら今、答えを出してみろ。答えられたら────お前の明日の晩御飯には酒が付いてくる。昼飯の心配もしなくていい。

 

「……適当でもいい?」

 

相変わらずのめんどくさがりだな。

 

「──私とアンタ、ここと外に居る奴全員分の何かしらって所、顔を見るに…自由とか、権利とか口に出してきそう」

 

────正解。巫女の勘か?魔理沙は一向にはてな顔なのに…まぁいい、酒蔵は漁っとく。

……“初め”は“最初”。群体に見えて原初を共有する私らは、形を持たないことを奪われ壊され、現象の中に囚われた。

 

目玉焼き、作るだろ。気分が向いたら人里で卵を買って、朝に台所で割り、熱された鉄の上で広がる白身をあくびしながら眺める。

 

「そういえば最近食べてないわね、明日の朝にでも食べようかしら」

 

……。

 

広がった白身の中に、黄身がある。

食べるときは膜を破って、黄身を広げながら食べる。

 

さて、私らは一体幾つの“円”を破ったのか。殻に覆われていた命は元から無かったのか、殻を壊したから無くなったのか。

 

「答えは…美味しかった、それで終わり」

 

「アンタ、老いてからキレが無くなってる。答えが出てることを一々こねくり回す奴じゃなかった」

 

──ああ。

 

老いたな。私は。幼い私が今の私を見れば、私を鼻で笑ってた奴らと同じ顔をするさ。

 

思ったより楽しかったんだよ、普通の感性をもった普通の人間だからな。数年、ここで刺激的な体験をすれば満足感で反抗心が折れていく。地獄めぐりとかめちゃ楽しかったし。

 

数年でこれだ、お前がもう少し大きくなって巫女の座を継いで、辞めるまでには昔と同じく廃墟で珈琲啜ってるよ。

 

「───紫が私を監視に回す相手が、ほんと…丸くなったわ」

 

化け物女はな、未だに私が“神”の勅令、人と妖怪と神様を繋ぐロゼッタストーンを作り上げられるって信じてる馬鹿なんだ。

出来ないって言った、幻想郷を諦めろとも言った、何も聞きやしない。

 

ガラクタの寄せ集めで作ったこのクソデカいアトラクションパークがそんなに自慢かよ。あのクソ婆開き直って無茶苦茶してんじゃねぇ、顔を思い出すだけで腹立つ。博麗結界ぶち壊してやる。

 

「やっぱり気のせいか」

 

ああ。気のせいだったわ。

私がボケた時はすぐに化け物女の話題を出してくれ、ここの美術品売る前にな。百億パーセント目を覚ますから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───。

 

限界がある、何もかもに。

プロメテウスが盗んだ神の火も、風で消えゆく塵芥だ。

 

この神と人間の境界を隔てていたものさえも、人の影を洞窟に焼き付ける事しかできない。“外”を知るもの、円に含まれないものを知った智者は帰ってこない。

 

「お前のような奴を…何だったか、虚無主義者…だっけ?そう呼ぶんだよな」

 

「基本ゲテモノでも頂くが、時々喰う気すら起きないゲテモノ以下が現れる」

 

ああ。ゲテモノ以下だな。

 

「お前がここに居ると色々迷惑なんだ、見たところ殺しても死ななそうだし、大人しく帰ってくれると助かる」

 

能力を使えばいいさ、あいや、喰いたくなかったんだったか。

さて、私はどうしたらいいだろう。ああそうだな、扉が欲しい、帰る為の扉が。

 

「畜生界、此処に来た方法で帰ればいい、それ以外のやり方があるか?」

 

手伝ってくれよ、私一人で寂しく帰れだなんて。

特に…アンタは私好みの見た目をしてる。くりんくりんの瞳が好きでさ。

 

「────」

 

絶対的な力量差を持つ相手に、口先だけで不快な思いをさせられる。

指ではじけば殺せる相手に向ける人差し指は、いつの間にか虚空を指す。

 

化け物だらけのこの世界で生き残るのも中々大変だって事。

しまいには普通の人間がこんなに長い間生きさせられて、虐められてる。

 

月の神様怒らせたらこえぇわ、まぁ、あとちょっとで死ねそうだけど。

ともかくだ、お嬢さん。本気で帰り方が分からないんだけど、どうすればいい?

 

「……本当に迷子なのかよ。仕方ない、私直々に道案内してやるさ」

 

「エスコートは必要かい、おばあさん」

 

────。

 

……。

 

その心配はいらないが、一つだけ。

 

「なんだ」

 

お嬢さんが優しく道案内をした結果、幻想郷と月が滅びるかもしれないが、あまり気を落とさないでくれ。

 

決してお嬢さんの責任ではなく、目の前の老婆の仕業だと、それだけ理解してもらえたらそれでいい。

 

───ああ、そうだね。

 

身の丈で生きていくにも、中々難しいもんだよ、本当に。

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