幻想とは何たるや   作:カピバラバラ

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語り部:暇人(完)

 

幻想とは何たるや。

 

答えは明快単純、“願い”だよ。

願うんだ、必死に希う。現実と幻想が入れ替われと。

 

明日のテストが辛いから、明日から世界はファンタジーに変わってしまえ。自分の望み通りに全ては動け、嫌なことは全部なくなれ。

 

幻想とは何たるや。

 

答えなんて沢山ある、意味なんて無数にある。

沢山ありすぎて、自分の答えを信じられないぐらいに。

 

「………」

 

私の最初の記憶は、温かい日差しの中のまどろみだ。

あくびが出るほどに穏やかで、呆れるほどに生命の循環が身近にある世界。

 

生も死も渦巻く原初の地球で、自意識というものが芽生えた。

食べ物に手を伸ばす理由を自分に問うた時だろうか、直面した生命の危機によって、“生存”し続ける事への疑問が湧いて出てきた瞬間の事だろうか。

 

その瞬間から、私は“楽園”を求めるようになったのだと思う。苦痛から解放されるために、苦痛に囚われている自分の惨めさと直面したくない為に。

 

能力の根幹を考えれば、私は微生物の時からこの力を行使していたと考えられる。いや、それよりも以前から、過去の過去、全てが産まれた瞬間から。

 

では、問題を出そう。

この“輪廻を歩む程度の能力”を、何の取り柄も無い一般人が有していたら何をすると思う?

 

…───。

 

……。

 

まぁ、色々あるね。色々あるさ、そりゃ。

ただ、頭の片隅に少しでも…───私が“超人的”な存在だと思ったとしたら、それは修正した方が良い。

 

自意識が芽生えてから初めての“死”。その次の輪廻で目覚めた時、私が一番初めにした事は何だ、一体何をしでかした。

 

────自害さ。皆様方。

 

曰く、“精神”と呼ばれる不透明なもので自殺をする生物は、人間のほかに居ないらしい。

 

月の民と違って、普通の人間が耐えられるのはたった三十年だったのさ。あ、昔の平均寿命はそれぐらいだったからな。

 

……。

 

惨めなもんだ。そうは思わないかい。

あらゆる生命を侮辱する最強の力、そんな風に言われることもあったよ。この能力を治療してもらうためにお医者さんに会いに行ったらね。

 

一回、たったの一回でこの輪廻から抜け出したくなった。この苦痛から解放されたくなった、普通の生命のように生まれた理由なんて考えずとも、生を全うして死ねたらよかった。

 

…はぁ。

 

……。

 

…───上っては落ち、昇っては堕ちる。あらゆる人生で“解放”を目的として、生きて、死んで、生きて、死んで────。

 

生きて、死んで、生きて、死んで、生きて、死んで、生きて、死んで、生きて、死んで、生きて、死んで、生きて、死んで、生きて、死んで、生きて、死んで、生きて、死んで、生きて、死んで、生きて、死んだ。

 

狭い狭い人生という箱から、狭い狭い輪廻という自分だけの部屋から、何処かに旅立ちたかった。

 

理念を変えた、思想を変えた、主観を変えた。肉体の面でも変われるところは変えてきた。

 

親しみを覚えた友人たちも、ぬくもりをくれた両親たちも、慈しみを教えてくれた全ての親友たちとも別れて、目覚めてしまう。

 

希望も絶望も繰り返し、記憶が掠れ、何とかして“前世の記憶達”を一つずつ、記憶しては古いモノから忘れていく余生の中で、ああ、そうさ、“幻想”を欲しがった。

 

良いじゃないか幻想郷。私が望んでいた平穏、私の望みである“苦痛”からの解放、その全てを達成できる下地がある。

 

──なぁ、八雲紫。私の能力さえ解明できれば、根本原理を妖怪にも適用できる。月の民にも勝つ事が出来るし、幻想郷は永遠に尊い真の楽園になる、とおもってたか?

 

所詮凡人が持つには過ぎた力で、一刻も早く手放せるなら手放すほど、能力に飽き飽きしていると。理屈は分からずとも、私の生まれ変わりに干渉できたから、制御もできると。

 

「………そうじゃない。って返すには苦しそうな顔をするものね」

 

…───。

 

まぁ、あれだ。前世一回分の記憶しか引き継げない私にとって、せいぜい五回分程度が継承できる限界さ。覚えておきたい事とか、記録したい事とかは日記に書いて足していけばいいから問題なし。数世代は今記録している数字が何だったのか忘れるときもあるが、ふとした拍子に思い出す。

 

つまりは、感じれる“苦痛”も高々数世代。しまいには何が苦痛なのかもわからなくなっていく。

 

何が目的で、何から解放されたくて、どうして苦しくて、なんでこんなことを続けさせられているのかさえ、何も。

 

不老不死の連中と違い、私は何度も“死”の中に放り込まれては、“生”の中へと引きづりだされるんだ。

 

そして誰も────この輪廻を証明できない。だから、散々話しただろ?“神”の事について。誰にも証明できないモノこそ、誰にも証明されない誰かの手が加わってるって。

 

さしずめ、私は寓話の中の囚人。あらゆる物語で万物の流れるままを享受するしかない凡人で、洞窟の炎の影すら理解できない愚鈍で、虚無にすら至れない現実主義者。

 

…───。

 

自分で言ってて悲しくなってきたな。まとめよう、私は否定ばっかで“神”を信じる愚か者。でも、どうしても、この輪廻から解放されたい苦労人。お前に呪われ、同じ姿で死と生を繰り返した観光客。

そして、変わらず唯の人間だ。

 

幻想とは何たるや。

 

苦痛から逃げ続ける意味は一体何なのか。

 

“神”は何を考えて私を生んだのか。

 

人間って、一体何。現実って、真実って、真理って何。

 

……。

 

あー、うん。

 

 

 

 

「そうだな」

 

「みんな違って!みんないい!」

 

 

 

「……それが答え?」

 

 

 

ああ。まぁ。

 

そんなもんだろ、何億回、何億年繰り返しても、答えなんて一人一人違うってことに気づけなかった。結論なんていらないんだよ。

 

ありがとな、八雲紫。幻想郷ってのは良いところだ。

今までの私の言葉は忘れてくれ!能力を解明するために必死になってたみたいだが、もうどうでもいい。

 

百人十色の解釈が世界を作る、過去に何回も辿り着いた答えなんだろうけれどさ、まぁ、忘れてたわ。

 

「あくまでも、私と敵対する……と」

 

だって諦めないじゃんお前。

 

私は無理って言った、お前は出来るって言った。

私と貴方、外と内、これで争い合う条件は揃っただろ?

 

ならこっからはもう、理屈じゃねぇよな!

 

「……わざわざ霊夢の手で殺されておいて、目的が喧嘩を売る事だけ。…どうやら貴方の事を過大評価しすぎていたみたいね」

 

出たよお得意の管理者面。傲慢を隠そうともしないその姿勢。

本当に変わらないよなお前は。だから───。

 

お前が嫌いな奴、全員集めといた。

 

「………」

 

スキマ空間で何ができる?なんだって出来るさ、月の神様の有難い贈り物があるから。

呼んだのは確か、お前の古い冥界の、桜の似合う友人と私のおっかけさとりストーカー、畜生界の神獣様に頼んで扉の神様と交渉、後は……呪いを口実に月に宣戦布告、とか?

 

後は、博麗第結界を壊すつもりの私にガチギレして殺しに来るこわーい博麗の巫女、それと私の弟子、とか。

 

「────」

 

「………」

 

「…──」

 

あーあ、これでお前も異変の主犯だな。

首輪をつけようとするからさ、何でもかんでも理解できると、制御できると思ってるから、一番身近な理解できない代物である“心”を無視しちゃった。

 

最初から言ってただろ、理解できていると、結論があると、元から答えのないものを知ったかぶりするのはやめて────。

 

身の程を知るべきなんだよ、八雲紫。

 

身の程を尊ぶべきなんだ、化け物女。

 

形あるものとして、自分の形を愛するなんて、簡単な話だろうに。いつまで聞かないふりをしてるんだ。

 

“心”が理解できないモノなんて、そこら辺の子供でも分かってるぞ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「まぁ、そうだな」

 

「完勝ってところだ。何の力も持ってなくても、指先一つで押しつぶされるような力量差でも、口先だけで圧倒的な強者に対抗できた」

 

「最初にあの女から目を付けられてから始まった災難。どうしても管理者精神が抜けきらない奴を諦めさせるのに何百年も働かされた」

 

「ああ。これも、幾億年幾億回ある人生の中の一つさ」

 

「毎回こんな感じだよ。輪廻の渦で記憶できる情報は少ないから、特に一秒で思いつける事、なんてのは真っ先に忘れるんだ」

 

「次は何十年かかってこの事を思い出すかな、それもまた、少しの楽しみなの」

 

「ん?なに、なんだよ、変に笑って」

 

「あ?毒気抜けすぎだろって?そりゃ、一回死んだからな」

 

「毎回若いころは元気なのさ。中年期で落ち込んで、それからはずっと右肩下がり」

 

「今ならお前より年下だぞおい、なんかないのか、お年玉とか」

 

「はい?聞いておくことがあるって?いまさら何、幻想郷での生活は楽しかったし、悪役仕草と変人仕草は紫対策だしで、もう隠してることは無いって」

 

「────」

 

「………」

 

「……。ああ。そうか、確かに日記には題名の意味を本人に聞けって書いてあったな」

 

「どうどう、お前が助けに来てくれた時はガチギレしてて話すにも話せなかっただろ?」

 

「………」

 

「そうだなぁ……」

 

「うーん……」

 

「うん」

 

「───温かい日差しの中のまどろみ」

 

「そして、逃れられない苦痛」

 

「それが、私にとっての幻想、いや……幻想郷かな」

 

「もっとわかりやすく言えって?いやだね、ボケてた私の前で“癖”の話したろ。そん時から私はもう難しい言葉をお前ら向けに優しくするのを辞めたの」

 

「………」

 

「この言葉から得た意味や、結論は人それぞれ。私はそれを、尊いものだと、思ってるから」

 

「まぁ、うん」

 

「博麗霊夢、そう難しく考えるな」

 

 

 

 

 

永遠に尊い妖怪と神の楽園なんて、元から存在しないし

 

忘れられた存在の揺り籠だなんて、ペテンにも程がある

 

異変と呼ばれる全ては日常の延長線上、何一つ異変と呼んでいいものは無い

 

元より、幻想郷なんて儚い夢だった、としても

 

 

 

身の程を知れるまで頑張ってみな

身の丈を愛してみるのも大切だよ

身の程が私たちの全てなんだから

 

 

私は本を読んで、眼精疲労の明滅を愛した、ただそれだけの暇人だよ。

 

 

 

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