事情聴取を終え、風紀委員の詰所を後にしたわたくしは、ゲヘナの学区を抜け出し、トリニティの境界にほど近い郊外へと足を運びました
編入初日にして風紀委員会の皆様に多大なご迷惑をおかけした手前、明日またトラブルを起こすなんて事があってはなりませんわ。
そのためには、もう一人の相棒をどうしても調達せねばなりません。
空崎委員長の仰せの通り、彼女はロマンこそ最高峰でも風紀委員の装備としては少々……ええ、少しばかり過剰な代物ですので。
「でも、ここで信念を変えてしまっては織宮の名に恥じますわ…」
独り言を呟きながら、わたくしは慣れた道を進みます。
トリニティ総合学園の郊外、学生街から少し離れた閑静な一角に、わたくしの贔屓にしている銃砲店はございます。
市販の銃器やヴィンテージがメインですけれど、裏では「特別なご要望」にも応じてくれる、信頼のおける老舗ですの。
ちなみに、オーナーが趣味で焼いているスコーンが絶品ですわ。
店先の看板には『アームズ・エデン』と洒落た名前が掲げられており、ガラス越しに様々な銃器が整然と並んでいるのが見えます。
重厚な扉を開けると、いつものようにカウベルが軽やかな音を立てました。
「いらっしゃい……おやおや、これは織宮のお嬢様ではありませんか。トリニティを離れたとお聞きしましたが…」
カウンターの奥から、白髪交じりの髭を蓄えた獣人の紳士が顔を上げ、眼鏡の奥で目を細めます。相変わらず、穏やかでありながら鋭い視線を隠しきれていませんわ。
「ご無沙汰しておりますわ、ミスター・ヴァレンティーノ。実は本日、ゲヘナ学園へ編入いたしまして……風紀委員会への入部が決まりましたの」
「ゲヘナの風紀委員会? ……ほう。それはまた随分と大胆なご決断を」
店主は小さく笑い、磨いていた古めかしいリボルバーをカウンターに置いた。
「本日は如何様なお品物をお求めで?
ゲヘナと言うと、また、対空機関砲を携帯版にしろなどとはおっしゃるつもりでは?
アレは本来、車両に載せるか固定砲台にするかしか選択肢がありませんでしたよ」
「ふふっ、流石にご記憶にございますのね。あの件は本当に感謝しておりますわ。でも今回は、少し控えめな……いえ、風紀委員として相応しい、しかし浪漫を損なわない程度のものを」
わたくしはバッグからメモを取り出し、カウンターに広げました。
店主はメモに目を落とし、わずかに眉を上げました。
「ほう……浪漫と実用性の両立、ですか。これはまた…」
「ええ。以前仕立てて頂いたM1ガーランドはトリニティの後輩にあげてしまいましたの。あれは式典用に使う目的もありましたけれど、今回は風紀委員として実際に現場で使うものですから、実用性を最優先に考えて頂きたいのです。
ただ…浪漫までは完全に捨て去っては、私のポリシーに反しますわ」
店主は髭を軽く撫でながら、くすりと笑いました。
「相変わらずお嬢様らしいご注文ですな。ガーランドを譲られた今、実用性を重視しつつ浪漫を求める……となると、ちょうど良いものが数本ございますよ」
彼はカウンターの奥から三挺の銃器を丁寧に取り出し、テーブルに並べました。
「まずこちらは、近代化カスタムを施したレバーアクションライフルです。
M1892*1をベースにKeyMod規格対応のハンドガードと20mmレールを装備しているので様々な周辺機器に対応できます。ですが素の状態でも集光チューブ入りのサイトやチークパット付きのストックが装備されているので現代的な基準には必要十分と言った所でしょうか。」
次に、彼はコンパクトでやや短めの銃身を持つ一挺を手に取りました。
「次にこちらは、単銃身のアサルトカービンです。
AKS74U*2をベースにハンドガードが近代的なM-LOKタイプに変更されておりますが、織宮様の好みに合わなければ通常のウッドタイプにも変更可能です。
軽機関銃モデルとマガジンが共用になりますので、ドラムマガジンやロングマガジンを装備する事で装弾数が増え、火力の持続性に優れています。取り回しも良く、この状態であればストックを展開しても730mmしかありません。なにより、携帯性に優れるのでスリングを付ければ「ドレッドノート」のサブとしても運用可能でしょう。」
そして最後にもう一挺、他と比較するとコンパクトな拳銃を二丁並べました。
「最後はこちら、グロック18C*3を。こちらを二丁ご用意できます。
フルオート射撃が可能なマシンピストルで、以前仰っていた二丁拳銃としての優雅さと弾幕形成を両立できます。
反動は少々強いですが、手懐ける事が出来れば近接戦闘では火力と手数での面制圧が可能です。二丁共に改造済みで、マグウェルやサイトマウント、グリップもフレーム一式ごと社外のカスタム品になります。携帯性は少し低下しますが、SMG並の33発の装弾数を持つロングマガジンも装備可能です。」
わたくしは三挺を順番に手に取り、じっくりと感触を確かめました。
ウィンチェスターはクラシックでありながら近代的な装備の対比が非常に美しいですが、装弾数がやや物足りない……。
グロック18Cの二丁は確かに浪漫に満ちておりますけれど、拳銃かつ二丁拳銃という都合上やはり命中精度に不安が残りますわね。人質や他の委員の方に誤射でもしたら目も当てられませんわ…いっその事、一丁だけというのもアリかしら…
AKSは…
「装填にクセこそありますけれど、かなり良いですわね。」
実用性もあってドラムマガジンを装備すればロマンも十分。ショートバレルとドラムマガジンの組み合わせに間違いはありませんわ。なにより、以前欲しかったAKタイプという点にも惹かれます。無骨なレシーバー周辺の造形に、この子は変更されておりますけれどウッドのハンドガード。兵器然とした飾らない機能美には非常に心惹かれるものがありましたの。
まぁ、その兵器然とした部分が式典で扱うには少々難があり以前はガーランドにしてしまいましたが…そこは自由と混沌のゲヘナ学園、一昔前ならともかく体裁やメンツを気にする上層部はいないでしょう。
「この子に致しますわ。ただ、ハンドガードはウッドに戻して頂いてもよろしいかしら?」
ミスター・ヴァレンティーノは満足げに頷きました。
「良い選択です。織宮様の考える浪漫と実用性を両立させた良いモデルですよ。納期は明日の朝、登校前にいらっしゃってください。試験射撃はなされますか?」
「いえ、必要ありませんわ。
それと、以前から頼んでいた例の鉄拳生徒会の火砲は見つかりましたの?」
店主は一瞬、手元のリボルバーを磨く手を止め、眼鏡の奥の目を細めました。犬耳を若干引き絞り、声がワントーン下がります。
「織宮様も随分と危険なものに目を付けたものです…」
店主はカウンターの下から数枚の写真と報告書の様なものを取り出しましたが、直ぐにため息を吐きました。
「古い友人を当たって見たのですが…残念ながら詳細は掴めませんでした。得られた資料はこれだけです。」
写真に写っているのは巨大な砲身部分でしょうか。
ただの巨大な筒のような見た目ですが、銃口から覗いた画角にライフリングが施されている事が確認できます。
資料に目を通すと、一部地域で話題にされている噂話がまとめられていました。
「曰く、現在も万魔殿が保有している。
曰く、アビドスの砂漠に放置されている。
曰く、既に解体され現存していない。
曰く、カイザーが秘密裏に改造している。
曰く、雷帝のシンパが持ち出した。
…どれも噂話の域を出ませんわね。
写真は当時のもののようですから、存在自体はしていたのでしょうけれど。」
「織宮様、ロマンを愛するお嬢様の気質は十二分に理解しております。しかし、アレは個人が所有できるレベルを超えています。その存在自体が抑止力となるべく開発された兵器と言って過言ではございません。」
わたくしは小さく肩を竦め、微笑みました。
「ふふっ、ご忠告感謝致しますわ。しかし、私の野望の為に、絶対的な抑止力は必要なのです。なにより、このような巨大な火砲、一度で良いから撃ってみたいのが乙女というものでしょう?」
店主は呆れたように息を吐きつつも、口元に笑みを浮かべました。
「まったくあなたと言う方は…織宮様の場合は、後者が本音でしょう。」
バレてますわ!
バレバレですわ!
「まさか身内に遺産を狙う物が居るとは、風紀委員会も大変でしょうな。
明日の朝、ウッドストックへの交換とスリングを付けた状態でお持ちいたします。スコーンも焼いておくので、ぜひお召し上がりください。」
「ええ、楽しみにしております。それでは、失礼致しますわ。」
やっぱり現行の万魔殿や風紀委員会は雷帝の遺産を隠匿したがっているのかしら。
まあ、独裁者兼マッドサイエンティストの超兵器だなんて扱いに困るでしょうし…
言うなれば黒歴史みたいなものでしょうね。
重厚な扉を開け外に出ると、すっかり夜になってしまっておりました。
夜風に当たりながら、わたくしは新しい相棒と例の火砲に想いを馳せながら帰路につきます。
嗚呼、早くぶっぱなしたくてたまりませんわ〜!!!