「リモート魔王」――改善してたら魔王に定義されました。家族との絆が削られる魔王に…   作:遠藤 世羅須

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いよいよ第二章「魔王編」開始です。直人は魔王になり、「門」を閉じたはずだったが……


第二章 「魔界編」 通勤魔王
第二章 第1話 魔王Lv1


封印処理:62% … 79% … 93% … 100%

【結果】接続遮断:完了

【警告】“残留”が発生する可能性があります。

 

直人は唇だけで動かした。

「……やめろ。続きを出すな」

「それわたしです♡」

早い。即答すぎる。

 

直人は深呼吸を一つだけして、モニター右下を見る。

そこに、見慣れないボタンが増えていた。

 

【コマンド】

・管理

・修繕

・雇用

・封印(実行済)

・――魔王

 

直人は目を細める。

「魔王」コマンド

「……押したらどうなる」

ミリアが涼しい顔。

「押したら、魔王です♡」

「もう魔王だろ」

 

直人は一瞬迷い――クリックした。

 

視界が“反転”した。

PCの画面が部屋になり、部屋の空気が現実から剥がれる。

次の瞬間、直人は立っていた。

豪華すぎる玉座の間。

「……やりすぎだろ」

天井が高い。無駄に高い。

赤い絨毯が敷かれ、柱が並び、照明が「陰影」を作る気満々だ。

 

ミリアが隣で当然のように立つ。

異界衣装。青いダイヤ。煽り顔。

「ようこそ♡ 魔王さま♡」

「俺が来る場所なのか」

「玉座、どうぞ♡」

「指定席か」

「映えます♡」

「座るのは、判断が揃ってから」

直人の正面、玉座の上に薄いUIが浮かぶ。

 

【魔王室:起動ウィザード】

STEP1:魔王装備(身体)を適用してください

推奨:フル装備(標準)

※未適用の場合、機能が使用できません

 

直人は目を閉じた。

「コスプレか!」

 

直人は渋々スクロールした。

【魔王装備(身体)】

角:魔術(系統選択)

衣装:防御(耐性/属性)

靴:敏捷(移動/回避)

マント:時間・場所移動(制限あり)

手袋:怪力(作業/拘束)

オプション:

牙:魔素吸収(※倫理注意)

髪色:属性強化(炎/水/土/魅了 等)

眼:魔力増大/相手魔力減衰(片目ずつ可)

 

直人は玉座を見た。

玉座が「はやく座れ」と言っている気がする。

言ってない。言ってる気がする。

嫌だ。

 

「……角って、いる?」

ミリアが即答。

「必要です♡ 魔王なので♡」

「論理が死んでる」

 

直人は“角”にカーソルを合わせた。

【角:未展開】

展開しますか?

YES / NO

 

直人は小声でYESを押した。

瞬間、頭が少し重くなった。

そして“空間が取られる感覚”。

直人は思わず姿勢を低くする。

ミリアが満足そうに頷く。

「立派な魔王らしい角あります♡」

「魔王らしいの定義して」

 

次に衣装。

直人は“フル装備(標準)”にチェックを入れかけ――止めた。

「標準って何だよ。魔王の標準って」

ミリアが胸を張る。

「直人さま、標準化大好き♡」

「大好きじゃない。必要に迫られてるだけだ」

直人は最低限にしようとして、結局“標準”を押した。

弱い。俺が弱い。

その瞬間、全身に“重み”が乗る。

服の感触が変わる。

背中に何かが追加される。

 

「……マントまで?」

ミリアが即答。

「移動です♡」

「移動って、どこに」

「逃げるために♡」

「正直だな」

 

ミリアが肩を揺らして笑っている。

直人は睨む。

「笑うな」

「だって♡ 魔王さま、社会人♡」

「社会人は仕様確認するんだ」

 

直人は手袋の項目を見て眉をひそめた。

怪力。

「ガントレット?」

「腕が強くなります♡」

「雑な説明だな」

 

直人が手袋をYESにした瞬間、肘から先に力が満ちる。

重いのに軽い。

矛盾した感覚。

直人は反射で、玉座の肘掛けを握った。

――ミシ。

肘掛けが壊れる。

「ちょ、待て」

ミリアが目を輝かせる。

「直人さま怪力♡」

「壊すな、玉座を! ……って俺か!」

 

靴を適用すると、足裏が妙に落ち着かなくなる。

“走れる”感じがする。

走るな。きっと良くない事になる。

 

直人は歯を食いしばりながら、最後にオプション欄を見た。

牙:魔素吸収(※倫理注意)

直人は即座にNOを押した。

「これはダメだろ」

 

髪色。

候補に“銀(魅了強化)”があって、直人はミリアを見た。

「……お前の色じゃん」

ミリアがにこっとする。

「お揃い♡」

「リンクコーデ。遠慮する」

 

直人は意地で“茶(土)”にしようとした。

だが説明が出る。

【茶:安定/保守/安全】

【銀:認識誘導/対人最適化】

直人は指を止めた。

(対人最適化って何だよ。ミリアがこれだと?)

結局、直人は“茶”を選んだ。

現場は安定が命。魔王も同じだ。たぶん。

 

最後に、眼。

紫(魔力増大)と水色(相手魔力減衰)。

直人は顔をしかめる。

「オッドアイまでやるのか」

ミリアが即答。

「素敵♡ 魔王さま♡」

「魔王を理由にするな」

直人は、片目だけ水色にした。

“減衰”は安全装置だ。たぶん。

たぶんばっかりだな。

 

直人は、そっと息を吐いた。

豪華な玉座の間で、自分の体が“別仕様”になっている。

「……コスプレじゃない」

ミリアが満足そうに頷く。

「素敵なお姿です♡」

「最悪だ」

「最高です♡」

 

 

そのとき、控えめなノック音がした。

玉座の間に似合わない、丁寧すぎる音。

コンコン、と二回。

 

扉が、音もなく開いた。

そこに立っていたのは――メイドだった。

黒と白の正統派。姿勢も呼吸も、無駄がない。

……なのに背中に長物、腰に短剣。袖口には小瓶。

手には銀のトレー。

 

直人は虚ろな眼差しで言った。

「武装してるけど」

ミリアが小声で囁く。

「当然♡ 戦闘メイドです♡」

「当然のラインがおかしい」

 

メイドは深々と頭を下げた。

「異界の魔王さま。魔王室付・戦闘メイド、シズクです」

声は柔らかいのに、内容が硬い。

 

直人は目を細める。

「戦闘メイドって何だよ」

シズクは即答した。

「役割です。家事と殺意の両立です」

「……両立の方向性を間違えてるな」

 

ミリアが肩を揺らして笑う。

「直人さま♡ 家事できる魔王さまどうですか♡」

直人は一拍だけ真顔で頷いた。

「魅力的だが、今それ言うと俺が調子に乗る。後で」

 

シズクはトレーを差し出した。

湯気の立つ椀。

「初期配布です。魔王化直後は、判断力が落ちます」

「判断力って、今の俺に残ってた?」

シズクは目も逸らさず。

「ありません」

「容赦ないな」

 

直人が覗くと、椀の中で丸い具が浮いていた。

ぷかぷか。

ぴくぴく。

 

直人は無表情で言う。

「……生きてる?」

「はい。鮮度です」

「鮮度の概念が違う」

「魔界の料理は“制圧してから食べる”が基本です」

「制圧?」

 

シズクは腕だけを滑らせた。

次の瞬間、椀の具がピタリと止まる。

「今の何だよ」

「厨房制圧術式(弱)です」

「魔法?」

「厨房は戦場ですから」

「魔界概念!」

 

直人は一口飲んだ。

――うまい。普通に。

悔しい。

「……味はちゃんとしてる」

 

シズクは淡々と頷く。

「当然です。味が悪いと士気が落ちます」

「魔王室が軍隊運用になってる」

 

シズクは視線を直人の手元に落とした。

魔王装備――手袋(怪力)が適用済みになっている。

「異界の魔王さま。忠告です」

「何」

「厨房に入り、その手で料理をすると、鍋が殉職します」

「鍋が労災?」

「道具が先に折れます。次に器が割れます。最後にキッチンが死にます」

「インシデント」

 

ミリアが吹き出した。

「魔王さま、キッチンブレイカー♡」

「やめろ。響きが最悪だ」

 

シズクは一礼。

「よって、調理は私が担当します。異界の魔王さまは味見のみ許可します」

直人は即答。

「味見は許可制なのかよ」

「はい。安全のため」

「おれは危険物か」

 

シズクは淡々と続けた。

「それと、玉座の肘掛けが破損しています」

直人は目を逸らす。

「……事故だ」

「承知しました。再発防止だけ実施します」

直人の目が死んだ。

「仕事だ……」

 

ミリアが楽しそうに言う。

「直人さま♡ 仕事モード♡」

「やめろ.。戻れなくなる」

 

シズクは、背中の長物に指を添えた。

添えただけで、空気が変わる。

玉座の間の影が、ほんの少し“正される”。

 

直人は喉が鳴った。

(……こいつ、強い)

 

「シズク」

直人が呼ぶと、シズクは即座に顔を上げた。

「はい」

「お前、どれくらい強い」

シズクは一拍も置かずに言った。

「異界よりお越しの魔王さま(Lv1)よりは強いです」

直人は眉を寄せる。

「異界……つまり、こっちの世界の異物は俺か」

「現状分析です」

「……やめてくれ、刃が刺さる。」

 

シズクは淡々と追撃する。

「異界の魔王さまは“装備”を得ました。ですが、使えません」

直人は反射で言い返す。

「使えるだろ。いま角も――」

「天井を気にしている時点で、使えていません」

「冒険者が装備揃えただけでお強いですか?」

「論破確定」

 

ミリアが、嬉しそうに頷く。

「教育♡」

「うるさい」

 

シズクは、まっすぐに言った。

「私が初期訓練を担当します」

直人は即答する。

「いやだ」

「拒否権はありません」

「あるだろ」

「ありません。魔王室規定です」

「規定って俺が作るんじゃ・・・」

 

シズクは直人に有無を言わせず指示し、最後に、椀を指した。

「飲み干してください。訓練は明日です」

直人は口の中だけで呟く。

「……明日って。現実の明日なのか、こっちの明日なのか」

シズクは微笑まないまま言った。

「どちらでも対応してください」

「……雑だな」

 

玉座の間に、戦闘メイドが配属された時点で――

もう、戻れない気がした。

 

直人は、豪華すぎる玉座の間で、静かに拳を握った。

そして思い出した。

封印はした。

だが、終わっていない。

 

“残留”は、笑っていた。

ミリアが満面の笑みで言う

 

「ようこそ魔王さま♡ 可能性って、だいたい起きます♡」

 

そして、玉座の間から「現世」を押して戻った直人は、

まず現実の確認から入った。

寝室は静か。妻と娘の呼吸も規則正しい。

(よし。家庭内インシデントは回避)

机に戻り、ノートPCを開く。

 

画面右下に、あのボタンがある。

【コマンド】

・管理

・修繕

・雇用

・封印(実行済)

・魔王

 

「魔王さま♡」

 

ミリアが、リビングの空気を吸って、にっこり笑う。

青いダイヤのネックレスが、現実の照明で嫌に冷たく光る。

 

直人は椅子から半分ずり落ちた。

「なんでここにいる」

「出られるようになりました♡」

「誰の許可で」

「現世ボタンで私も出られます。残留ですから」

「ボタンじゃない、コマンドな」

「魔王さまの秘書なので♡」

「最悪だな。家族がいるんだぞ。」

「私もファミリーです♡」

 

直人は絶望しながらも深呼吸する。

しかし、自宅に推し・・・

もとい、家族以外の女性がいるのは、呼吸に良くない。

(もし今、妻がトイレに起きてきたら完全に終わる)

汗を拭きながら、コンソールに集中する。

 

直人は設定を開いた。

設定欄の片隅に、見覚えのない項目がある。

【環境:演出照明(夜)】

管理者:ミリア(手動)

備考:気分が上がる

 

直人は画面を指で叩いた。

「……手動?」

ミリアが澄ました顔で頷く。

「はい♡ 趣味です♡」

「業務に趣味を混ぜるな」

「混ぜるとおいしいので♡」

「料理の話じゃない」

背後でぬるい声。

「映えます♡」

「その趣味、廃止」

 

――空気が一段、冷えた。

ミリアの笑顔が、口だけ残った。

目が笑ってない。

青いダイヤの光が、なんか鋭い。

「……廃止、ですか」

声は甘いのに、温度がない。

「廃止。『会議で夜になる』は無し。今すぐ」

直人は淡々と追撃する。

「暗いは事故の危険がある。危険は排除」

ミリアは一拍置いて、笑顔のまま言った。

「はい♡ 廃止しました♡」

 

その直後、胸の前で両手を組み、子どもが拗ねたみたいに肩を落とした。

覚めた目つきになっている。

――いつもか。

でも、明らかに不満顔だ。

 

「……あれ、好きだったのに」

「知らん」

「雰囲気が♡」

「要らない」

「ドラマチックが♡」

「要らない」

「直人さま、無情♡」

「業務判断だ」

 

ミリアは唇を尖らせ、ぼそっと言った。

「……じゃあ、代わりに“別の”趣味を――」

直人が即切る。

「却下」

「えー…………はい♡」

 

言いながら、ミリアの眉がほんの少しだけ吊り上がった。

そのまま、やけに丁寧に微笑む。

「直人さま。不満です♡」

「笑顔で言ってもダメだ」

 

直人はため息をつきながら、キーボードに指を置く。

仕事の癖で、要点だけを拾う。

「レベル。時間。そこだけ教えろ。一言でいい」

 

ミリアが肩をすくめる。

「はい♡ すごく短く言います♡」

「要点が知りたい」

ミリアは指を一本立てた。講師みたいに。

「魔王さまは今、Lv1です♡」

「Lvがあるんだな」

「LV上げが流行りです♡」

 

直人は無視して続ける。

「で、時間」

ミリアはにこっとして、わざと簡潔に言った。

「現実でミュート5分。それで、こっちは――1日動きます♡」

 

直人の眉が動く。

「……1日」

「はい♡ Lv1なので♡……ただし、少し“負荷”が来ます♡」

「それだけ?」

「それだけです♡」

 

直人は、思わず肩の力を抜きかけて――抜けなかった。

最小の数字ほど、怖い。

「じゃあ、俺が会議で黙るたび、ダンジョン側で一日進む」

「はい♡」

「……日報が増えるな」

「増えます♡」

 

ミリアは楽しそうに首を傾げる。

「直人さま、現実の会議では?」

「黙って聞く時間が長い」

 

直人は自分で結論を出した。

(俺が“受け身”の会議ほど、向こうが勝手に進む)

それは、運用として最悪だった。

やるなら自分の手で進めたい。

進むなら把握したい。

直人は画面の端を見た。

Zoomはまだ繋がっていない。

今日は休みじゃない。明日も仕事はある。

(これ、放っておくと――またミノタウロス案件になる)

 

背後でミリアが、わざとらしく囁く。

「だから魔王さまは、忙しい♡」

「忙しさは褒めるところじゃない」

 

直人は一度、魔王コマンドから目を逸らして、現実の時計を見る。

秒針は普通に動いている。

止まって見えたのは錯覚。

でも、空気の密度が変わった感覚はまだ残っている。

 

「……質問」

「はい♡」

「俺がミュートを切ったら、こっちの時間はどうなる」

 

ミリアは指を一本立てた。

「基本は通常速度に戻ります♡」

「通常って、現世と魔界と同じ?」

「そこまでピタッとは揃いません。ズレは残ります♡」

「ズレって、どれくらい」

「……“待てば分かる”くらい」

「雑だな」

 

「でも大事なのはここです♡」

ミリアはにこっと笑って、指を二本に増やした。

「ミュート中だけ加速。解除したら同時進行。これが標準です♡」

「最初からそう言え」

「魔界は最初に結論を言う文化がないので♡」

「ややこしいな」

 

直人は椅子の背にもたれ、最低限のルールだけを頭に固定する。

ミュート5分=(今は)1日

だから、現実の“無言”が異界の“稼働”を生む

進むなら、管理が要る

――そこまででいい。

数字は増やすな。今は。

直人は静かにマウスを握った。

 

「……Lvを上げるとどうなる」

ミリアが即答する。

「早くなります♡」

「一言で済ますな」

「一言で済ませて、と言ったのは直人さまです♡」

「……確かに」

 

直人は舌打ちを飲み込む。

自分の要求に負けるのは、嫌いじゃない。

ただし相手がミリアだと腹が立つ。

 

直人は玉座の間を思い出す。

豪華すぎる部屋。

あそこで“魔王”としての何かが進む。

 

そして、戦闘メイドのシズク。

――あいつは強い。

強すぎる。

Lv1魔王より強いと、平然と言った。

(つまり、俺はまだ“管理者”のままだ。しかも「異界」の魔王の肩書きだけ)

 

直人が椅子に座り直した、そのとき。

PC画面の隅に、小さな通知が出た。

ポップアップではない。淡々とした、事務的な文字。

 

【訓練予定】

場所:訓練部屋

担当:シズク

内容:魔王装備の安全運用(初期)

 

直人は無表情のまま小声で言った。

「……安全運用って何だよ」

背後でミリアが、露骨に不満そうな顔のまま答える。

「事故防止です♡」

「事故って…くっ…」

「シズクが♡ 容赦なく♡」

「嫌な情報だけ鮮明だな」

 

直人は画面から目を離さず言う。

「で、どこだよ。訓練部屋って」

ミリアが、指で宙をなぞる。

「魔王室から行けます♡ “部屋”が増えるのも、魔王の特権♡」

「特権じゃなくて仕様だろ」

 

直人は一度、呼吸を整えた。

現実の寝室は静かだ。

いまは現世で騒げない。

でも、訓練を先延ばしにすると――また事故る。

 

直人は“魔王”コマンドにカーソルを合わせた。

押すのは一瞬。

そして――あっちへ行く。

「……行く」

ミリアが満足げに頷く。

「はい♡ 魔王さま♡」

「現世では静かに」

「はい♡ ミュート♡」

会議時間ではないが、ダミーのZoom会議室を立ち上げ、ミュートボタンを押す。

 

直人は「魔王」コマンドをクリックした。

 

玉座の間。

豪華。無駄。静か。

相変わらず“座れ”という圧がある。

直人は座らない。

座らずに、いつもの癖で右手を見る。

――杖がある。

これまでの「管理者の杖」。

……のはずだった。

 

柄の刻印が、ゆっくりと光っている。

光が走るたびに、文字が上書きされ形状が「それっぽく」変わっていく。

【管理者の杖】

 ↓

【魔王の杖】

 

直人は眉をひそめた。

「……自動更新かよ」

ミリアが横で、露骨に不満そうな顔のまま小声で言う。

「バージョンアップです♡」

「嬉しそうだな」

「不満です♡ でも、これは好き♡」

「どっちだよ」

 

杖の先端が“カチッ”と鳴った。

物理じゃないのに、確定音だけはやけに現実的だ。

画面のようなUIが空中に立ち上がる。

いつものコンソール――より、露骨に豪華そうな見た目。

 

【杖:バージョンアップ完了】

・名称:管理者の杖 → 魔王の杖

・権限:テリトリー統治(有効)

・追加:魔王室アクセス(有効)

・追加:施設メニュー(解放)

※外観装備と連動します(機能)

 

直人は低い声で言った。

「……また“機能”」

ミリアが即答する。

「機能です♡」

「お前、便利な単語覚えたな」

「直人さまが教えました♡」

 

直人は杖を軽く振ってみる。

空気が“切り替わる”感じがした。

玉座の間のUIが、少しだけ言うことを聞く。

直人は一拍置いて、最悪な確認をする。

「……これ、仕様書ないの?」

ミリアは笑った。

「魔王さま管理者♡」

 

 

直人は座らない。

座らずに、壁際のUIを探す。

あった。

【施設】

・玉座の間

・執務室

・厨房(※シズク管理)

・――訓練部屋

 

直人は眉をひそめた。

「厨房、勝手に管理されてる」

ミリアが涼しい顔で。

「魔王さま、手袋で鍋を殉職させますから♡」

「労災の概念はあるんだ」

 

直人は【訓練部屋】を押した。

 

(第2章 第2話に続く)




いよいよ少なくとも外見は魔王っぽくなった直人。しかし、まだLV1。しかも魔王業を学習しなければならない。早速シズクからの呼び出し。次回、シズク教育へ。
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