「リモート魔王」――改善してたら魔王に定義されました。家族との絆が削られる魔王に…   作:遠藤 世羅須

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直人君の訓練は続きますが、どうすればLv上げる事が出来るのか気になります。そして魔王の「本業」?に挑むことに。


第二章 第3話

訓練部屋は今日も相変わらず遊び場だった。

スライムが跳ね、ゴブリンが木剣を振り回し、

角のある何かが壁に激突して弾まれている。

相変わらず火を吹く魔獣。

 

直人は一歩だけ中に入り、深呼吸した。

「シズク、『異界の』という二つ名やめてくれないか?」

「考慮いたします」

「考慮かよ」

 

シズクは手を叩いた。

「終わり。今日は増築してください。」

直人は眉を寄せる。

「増築?」

「階層を増やします」

ミリアが嬉しそうに言う。

「階層を増やすと魔王さまのレベルが上がります」

「魔王さまの本業♡」

直人は肩を落とした。

「本業が増築って…」

 

玉座の間。

相変わらず豪華で、相変わらず座りたくない。

直人は渋々座り、UIを開く。

【管理】の中に、見慣れない項目が増えていた。

 

【ダンジョン】

・階層管理

・迷宮化(ルート編集)

・侵入者導線(推奨)

 

直人は【階層管理】を開いた。

【現在階層:1】

【増築:+1階層】

注意:1日あたりの増築上限:1階層

 

直人はそこで止まった。

「……“1日あたり1階層”?」

ミリアが頷く。

「はい♡ 造るの、重いので♡」

直人は眉を寄せる。

「“日”って、こっちの一日だよな」

「はい♡」

 

直人は舌打ちを飲み込む。

(ミュート5分=1日。つまり……)

直人は現実の癖で、頭の中に簡易計算表を出した。

ミュート5分=異界1日

異界1日=階層1つ増築できる

つまり現実で5分黙れれば、階層が1つ増やせる

直人は目を細めた。

「……会議で黙ってる時間、建築」

ミリアが嬉しそうに言う。

「はい♡ 会議がダンジョンを育てます♡」

 

直人はもう一つ、嫌な計算をする。

復活。

「俺が死んだら、復活は一年……だったな」

ミリアが頷く。

「いまは♡」

直人が続ける。

「レベルが上がると、復活は伸びる」

ミリアは笑うだけで、答えない。

その笑いが答えだ。

 

直人は低い声で結論を出す。

「……死ねないな」

シズクが背後で即答する。

「はい。ですので壊さないでください」

「壊すのと話違わないか?」

 

直人は視線をUIに戻した。

結局、やることは単純だ。

「階層を増やせば、レベルが上がる」

ミリアが指を一本立てる。

「はい♡ ただし、最初は分かりやすく上がりますが、だんだん重くなります♡」

「重く?」

「ゲームなので♡」

(うっ、こいつ自分のゲーム時代の仕様の事言ってる)

 

直人は【増築:+1階層】にカーソルを合わせた。

押せば増える。

押せば現場が増える。

押せば仕事が増える。

「……増やす」

ミリアが拍手しそうになり、直人の視線で止まる。

ミリアは口を尖らせたまま、囁く。

「偉い♡」

「本業・・・なのか?」

直人はクリックした。

 

床が震える。

遠くで岩が削れる音。

空気が一瞬だけ重くなる。

そして、UIが更新される。

 

【増築進行:開始】

必要時間:1日

上限:本日は残り0回

 

直人は目を細めた。

「……今日の分、使い切り」

シズクが頷く。

「はい。1日1階層縛りです」

「縛りって嫌な言葉だな。色々と」

「仕様です」

「仕様だともっと嫌だ」

「魔界は仕様です」

 

ミリアが嬉しそうに言う。

「明日は迷宮化しましょう♡」

「一本道を、嫌にします♡」

「言い方」

ミリアが笑顔で

「侵入者が疲れます♡」

直人は即答する。

「帰還推奨は同意だな」

 

 

直人は【迷宮化(ルート編集)】を開いた。

画面に、簡単な地図が出る。

今はほぼ一本道。

直人は現実の仕事モードで考える。

迷宮化=最適化。

侵入者導線=動線設計。

 

「……これは楽すぎる。ダンジョンじゃない」

ミリアが頷く。

「はい♡ だから抜かれます♡」

直人は歯を食いしばる。

ミノタウロス案件だ。門だ。

 

直人は“迷宮度”のスライダーを見つけた。

低/中/高。

「高にしたら?」

シズクが即答する。

「異界の魔王さまが迷います」

ミリアが吹き出す。

「魔王さま、自分で迷子♡」

「うるさい」

 

直人は中にした。

現実でもそうだ。急に全部は変えない。段階的に行く。

次に、導線。

直人は眉を寄せる。

「殺すと面倒が増える」

ミリアがにこっとする。

「魔王さま優しい♡」

「これは合理的判断だ」

 

直人は、コマンドで遠回り設定にした。

疲れる。だが安全。

そして、追い込みすぎない。

直人は小さく息を吐いた。

「……これでいい。まずは事故を減らす」

 

シズクが淡々と評価する。

「合格です。魔王さまにしては」

「余計な一言が入ってる」

「必要です」

 

増築が進む間、直人は現実の時間を思い出す。

現実で黙れば、こちらが進む。

なら、現実の会議を建築資材にするしかない。

「……明日から、会議が怖いな」

ミリアが囁く。

「黙るほど進みます♡」

「言ってくれるな」

「言いました♡」

 

直人は玉座の間の端に立ったまま、次の手を考えた。

階層を増やすだけでは、侵入者が来たらまた崩れる。

迷宮化で時間を稼いでも、根本は“守り”だ。

必要なのは――現場を任せられる人材。

直人は、ふとデーモンロードの顔を思い出した。

支配力。統治。撤退の誘導。

あいつなら、やれる。

直人は【雇用】を開きかけて、手を止めた。

まだ早い。

まずは相談だ。現場の経験者に。

 

直人はUI画面で呼び出す。

「……デーモンロード」

気配が揺れる。

あの“統治する圧”が近づく。

「呼んだか、魔王」

声が落ち着いている。余裕がある。

 

直人は短く要件だけ。

「次の階層、増やした。迷宮化も入れる。――フロアボスを増やしたい」

デーモンロードは一拍置いた。

「ほう。人材が欲しいか」

「そうだ。お前の方で、使えるのはいるか」

デーモンロードが笑う。

「“使える”の定義が雑だな」

直人は睨む。

「定義は必要ない」

ミリアが横で小さく笑った。

「成長♡」

直人が睨む。

ミリアはいたずらっ子のような眼で見る。

 

デーモンロードは肩をすくめるように言った。

「候補はいる。ただし――」

「ただし?」

「面接は必要だ。魔王としてな」

直人は息を吐いた。

面接。

現実でも嫌いな単語だ。

でも、逃げられない。

「……分かった。候補を出せ」

デーモンロードの目が細くなる。

「明日、連れてくる」

 

直人は玉座の間のUIを見る。

増築進行はまだ続いている。

現実の時計は進んでいない。

それでも、仕事は増える。

 

直人は低い声で言った。

「……次は雇用だ」

ミリアが、にやりと笑った。

「面接♡」

「本業だ」

 

「候補はいる」

デーモンロードが言った瞬間、直人の胃が重くなった。

候補がいる=面接が始まる。

現実でも嫌いな単語だ。面接。

(またドラゴンみたいなのが来るのか)

 

直人は玉座の間の端で腕を組む。座らない。絶対に座らない。

「……誰だ」

「二名」

デーモンロードは淡々と言う。

「アークデーモンと、サラマンダー」

ミリアが横で、待ってましたとばかりに囁く。

「強そう♡」

直人が睨む。

「“強そう”で採用はしない」

「はい♡ “強い”で採用しましょう♡」

「そういうことじゃない」

 

背後で、シズクが冷たく言った。

「両方採用してください」

直人は振り向く。

「まだ面接してない」

「異界の魔王さまは戦えないので」

「そこを殴らないで」

「評価です」

 

直人は息を吐いた。

いいとこ取りなのが自分の癖だ。

「……条件がある」

デーモンロードに言う。

「最下層はお前だ。そこは動かさない」

デーモンロードが口角を上げた。

「最下層守護。いい響きだ」

「響きじゃなくて責任だ」

「責任は嫌いじゃない」

 

直人は続けた。

「二人は、もう一階層増やした時に両方採用する」

ミリアが拍手しかけて、直人の視線で止まる。

「採用計画♡」

「まだ地獄の始まりだ」

 

【階層管理】を開く。

昨夜増築した地下二階層目が、ちょうど“形”になりかけていた。

【現在階層:2(地下二階層)】

【増築:+1階層】

注意:1日あたりの増築上限:1階層

 

画面を睨む。

(1日1階層縛り。つまり今日の“5分”をどこで捻出するか)

現実でミュートを押せば、こっちが1日進む。

その1日で、階層を1つ増やせる。

数字が少ないほど嫌だ。現実の沈黙が資材になる。

 

直人は自分の喉を押さえるように呟いた。

「……会議が怖い」

ミリアが楽しそうに言いかけた。

「会議で夜に――」

直人が即切る。

「廃止」

ミリアが露骨に不満な顔になる。

「……は~い♡」

 

直人はクリックした。

【増築:+1階層】実行。

床が低く震えた。

遠くで岩が削れる音がして、空気が少しだけ重くなる。

【増築進行:開始】

必要時間:1日

上限:本日は残り0回

「……よし」

直人は小さく拳を握った。

これで、採用枠が増える。

 

シズクが横で淡々と告げる。

「壊さないでください」

「増築しただけだろ」

「異界の魔王さまは破壊が標準です」

 

増築が走っている間、魔王の杖のUIがチカ、と明滅した。

嫌な感じの明滅だ。

ミリアが、珍しく先に言う。

「直人さま♡ ステータスが更新されます♡」

相変わらず探るような目つきだ

「再起動でもしろと」

「New直人さま♡」

 

直人の目の前に、簡素な表示が出た。

【魔王ステータス(抜粋)】

Lv:2

時間加速:上昇(ミュート連動)

復活:延長

 

直人は眉を寄せる。

「……Lv2」

ミリアが頷く。

「地下二階層が成立したので♡」

 

直人は即座に現実の癖で計算する。

頭の中に、メモ帳が立ち上がる。

Lv1:ミュート5分=1日

Lv2:……?

「どれだけ上がる」

ミリアが、わざと“限定”して答える。

「体感で分かるくらいは上がります♡」

「限定説明すぎる」

「全部言うと、直人さまが計算地獄になります♡」

「もうなってる」

 

直人は復活の行を見る。

「復活の延長、って」

ミリアがニヤッとする。

「魔力が増える代わりに、死んだ時のペナルティが増えます♡」

直人は歯を食いしばる。

「……具体は」

ミリアは笑うだけだ。

 

シズクが代わりに冷たく言った。

「異界の魔王さま。死なないでください。以上です」

「それは説明じゃない」

「最も重要な仕様説明です」

 

直人は息を吐く。

限定でいい。全部は要らない。

要るのは判断材料だけだ。

(Lvが上がる=ミュートの威力が増える)

(Lvが上がる=死んだ時の復帰が遠のく)

結論:軽々しく上げるな。でも上げないと現実が危ない。

最悪のトレードオフ。

ミリアが甘い声で囁く。

「魔王さま♡ いい顔してます♡」

直人は黙ったまま睨む。

 

直人は実際に増築されたB2へ足を運んだ。

B2は“生まれたて”の匂いがした。

湿り気、新しい岩肌、薄い魔素の膜。

迷宮化を入れる前の、まっさらな空間――まだ何も置いていない。

直人は足元を確かめ、壁を見上げる。

「……本当に“何もない”な」

ミリアが指で岩肌を撫でる。

「白紙♡」

「レストランでも作るか」

 

シズクが淡々と告げる。

「レストランを配置する前に、まずB1を固めてください」

シズクに軽口は通じないらしい。

「分かってる。だから視察――」

その言葉が途切れた。

魔王の杖のUIとは違う、魔王の“気づき”が刺さる。

脳内に、短い通知だけが落ちる。

 

【インシデント検知】

発生階層:B1

種別:侵入(複数)

 

直人は反射で息を吐いた。

「……来たか」

ミリアが、にやりと笑う。

「イベント♡」

「喜ぶな。仕事だ」

 

直人は即座に確認する。

侵入者はB1にいる。

そして――重要なのはここだ。

「B1ボス討伐が、B2到達の条件だ」

シズクが頷く。

「正解です。よって対応はB1のみ」

 

直人は歯を食いしばる。

「B2はまだ空っぽ。ここで迎撃できない」

ミリアが残念そうに口を尖らせる。

「えー、せっかく新フロアなのに♡」

「お披露目は化粧直しが終わってからだ」

 

直人は一瞬だけ、B2の“何もない”空間を見回した。

まっさらなフロア。

何もない。守る場所じゃない。

守るべきは――入口のB1。

 

直人は低い声で命じた。

「戻る。」

ミリアが嬉しそうに並ぶ。

「はい♡ 魔王さま♡」

シズクが即答する。

「承知しました」

 

直人が踵を返した瞬間、B2の階段口(上り)が、淡く光った。

“条件ロック”の表示。

【アクセス制限】

B2到達条件:B1ボス討伐

状態:未達

 

直人は舌打ちした。

「……ロックは動いてる。よし」

シズクが淡々と言う。

「ロックはありますが、止めるのはB1の現場です」

直人は一度だけ頷いた。

「分かってる。現場だ」

 

B1魔王部屋へ戻る途中、空気が違った。

湿り気の匂いに、人の汗と油の匂いが混じっている。

松明の煙。金属音。足音。

――侵入者パーティ。

魔王部屋に戻る。

UIで侵入者が追える。

 

冒険者が呟く

「前とルートが違う」

直人は小さく息を吸って吐いた。

 

そして低い声で言った。

「デーモンロード。B1の“ボス”として、止めろ」

ミリアが囁く。

「最下層守護、いまはB1が最下層♡」

シズクが一歩前に出る。

「異界の魔王さま。お手並み拝見いたします」

 

直人は口角だけで笑いそうになって失敗した。

笑えない。

でも、やるしかない。

松明の光が近づく。

四つ。パーティだ。

直人は拳を握る。

「……デーモンロード、ここで全て止めろ」

 

(つづく)




まだ以前と同じB1だけの段階で来訪者。しかし、今回は違う。体制は出来つつある。お手並み拝見の侵入者対応。
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