「リモート魔王」――改善してたら魔王に定義されました。家族との絆が削られる魔王に…   作:遠藤 世羅須

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「想定外」
どこにもある言葉。
しかし、直人の前に現れる「想定外」


第二章 第10話 B1突破アラート

直人はいつものようにzoom会議。

そう、いつものように、いつもの・・・

 

――ピロン。

モニターのUIが、slack通知みたいな軽さで鳴った。

軽いくせに、内容は重い。

【アラート】B1:防衛ライン突破

状態:侵入者、B2へ移行

 

直人は椅子から半分立ち上がりかけて、慌てて座り直した。

物音を立てるな。現実だ。

「……突破? B1が?」

 

脳内の最悪ケースが、勝手に走る。

サラマンダーがやられた。

撤退誘導が崩れた。

侵入者がB2へ。

 

直人は低い声で言った。

「サラマンダー……!」

叩くようにログを開く。

【B1】フロアボス応答:なし

【B1】被害:軽微(※戦闘なし)

 

直人が固まる。

「戦闘なし……?」

 

急いでミュートし、「魔王」コマンドで玉座の間に行く。

背後から、涼しい声。

「落ち着いてください」

振り向くと、例の銀髪。

 

直人は噛みつくように言う。

「落ち着けるか! B1が抜かれたんだぞ!」

 

すると、デーモンロードがB3側の影から、姿を見せずに“声”だけを落とした。

姿は見えないのに、圧だけがある。

「抜かれたのではない」

「何が違う!」

「通した」

 

直人の眉間に皺が寄る。

「通した?……誰が」

「私だ」

 

直人は一拍、言葉を失った。

(出ないボスが、なぜ……? いや、出てない。声だけだ)

 

直人は低い声で問う。

「サラマンダーはどうした」

 

デーモンロードが淡々と答えた。

「狩猟休暇を与えた」

「狩猟休暇?……」

「魔界では通常だ。狩りに出る。餌を取り、戦意を整え、魔素を回す」

ミリアが横で、嬉しそうに補足する。

「直人さま♡ “有給”です♡」

 

直人が睨む。

「言い換えるな。通じない方がまだマシだ」

デーモンロードの声が続く。

「サラマンダーは“撤退”を学んでいる。だが、異文化学習には休息がいる」

 

直人は低い声で言い返す。

「休息のせいでB1突破されてる!」

デーモンロードは

「心配するな――B2で止まる」

 

直人はログを見直す。

【B2状況】

侵入者:(4名)

状態:滞留 4時間

進捗:ボス部屋到達 0%

帰還:未

戦闘:一部配置魔獣

備考:ループ判定 12回

 

直人は目を細めた。

「……12回?」

ミリアが嬉しそうに言う。

「魔王さま♡ 迷ってます♡」

 

背後から、声だけ。

デーモンロード。

「設計通りだ。 侵入者は自分で折れる」

 

戦闘痕なし。

つまり侵入者は「勝った」のではない。

「空いていたから通った」。

 

直人は、胃の奥が嫌な方向に冷えるのを感じた。

(……運用事故だ。魔界でも同じかよ)

ミリアが囁く。

「直人さま♡ “穴”って、怖いですよね♡」

直人は、頭痛を堪えるように奥歯を噛み締めた。

「穴はどこでも怖い」

 

デーモンロードの声が、静かに落ちる。

「魔王。学べ。強さではなく、穴を埋めることが統治だ」

直人は唇を噛んだ。反論したい。でも正しい。

「……次から勝手に休ませるな」

「承知した」

「事前に“狩猟休暇”の申請を出せ」

「申請文化を植える気か」

「植える。俺は社会人だ」

ミリアが吹き出す。

「最悪♡」

直人が睨む。

「褒めるな」

 

直人はUIの配置画面を開いた。

B1が空く。穴ができる。そこを突かれる。

戦闘じゃない。運用だ。

 

「……今はB2だ。止める」

直人は杖のUIを切り替え、B2の現場ログを見る。

 

【会話ログ(抜粋)】

剣士「……同じ石像、三回目だ」

弓手「違う。角の欠け方が、さっきと逆だ」

魔法使い「……逆? じゃあ、戻ってる?」

神官「戻ってるなら帰れるはずだよね……?」

剣士「帰れない。出口がない」

 

(イメージです)

https://kakuyomu.jp/users/Echoes711030/news/2912051596422282206

 

直人は椅子の背に体重を預けた。

「……士気、死んでるな」

 

直人は眉を寄せた。

「戻れないのは問題だ」

デーモンロードはあっさり言う。

「戻れる。だが見えないだけだ」

「……見えない?」

「人間は、帰り道が見えないと“帰れない”と思う。

 その錯覚が士気を削る」

ミリアがにこにこする。

「魔王さま♡ ほっとけば勝ち♡」

直人が睨む。

「勝ちって言うな。撤退させるんだ」

 

シズクが冷たく補足する。

「異界の魔王様。士気が落ちれば座り込みます。

 座り込みは、最も安全な敗北です」

 

直人は喉の奥で唸った。

(安全な敗北……それは確かに、望んでいた形だ)

 

デーモンロードが軽く言う。

「撤退“させる”必要すらない。

 侵入者は、放置されると自分で撤退の理由を作る。

 管理者が“回収”を用意する」

 

直人が顔を上げる。

「回収?」

 

直人は一拍考えた。

(締め切り運用か……現実と同じだな)

 

直人はUIに短く入力した。

 

【B2運用ルール】

滞留が一定時間(概ね4時間)を超えた侵入者に、

“撤退導線”を一度だけ提示。

提示後は、追撃なし。

 

ミリアが拍手しそうになって止める。

「魔王さま♡ 優しい♡」

直人は即答。

「優しくない。事故が嫌なだけ」

 

その頃、B2の迷子パーティは、石の床に座り込んでいた。

 

剣士が剣を置き、天井を見上げる。

「……なあ。これ、帰れなくね?」

魔法使いが小さく言う。

「殺さないで見てる」

神官が泣きそうになる。

「やだぁ……」

 

剣士が吐き捨てた。

「……魔王、性格悪い」

 

その瞬間、足元の石がふっと温かくなった。

床の魔紋が一筋だけ淡く光り、

まるで誰かがそっと帰り道を示したかのように線を描いた。

矢印ではない。

“帰れるかもしれない”程度の、いやらしい導線。

 

剣士が顔を上げた。

「……今?」

弓手が歯を食いしばる。

「……選ばせてる」

神官が泣きながら立ち上がる。

「帰る! 帰る帰る帰る!」

 

四人は光の線を辿る。

辿った先に、出口があった。

最初からあったのに、見えなかった出口が。

 

誰も振り返らない。

誰も“次は勝つ”と言わない。

言えるほど、心が残っていない。

 

直人はログを閉じた。

「……よし。これで放置運用できる。だが締め切りは必要だ」

デーモンロードの声が落ちる。

「統治だ」

ミリアが嬉しそうに囁く。

「魔王さま♡ お仕事♡」

 

直人は乾いたため息を吐いた。

「仕事じゃない。

 だが、仕事みたいにしか守れない。

 今日はB2で折れた。

 それでも、穴は一度開いた。」

 

B2の表示が静かに脈打つ。

“無限ループ”は、今日も静かに誰かを折る。

 

(つづく)




直人は、運用の穴を身に沁みる事になった。
トラブル対処は出来るが、トラブルを起こさないようにすることが大事。
そして、門を守る事が重要。
心構えを外す魔界との戦いは続く。
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