「リモート魔王」――改善してたら魔王に定義されました。家族との絆が削られる魔王に…   作:遠藤 世羅須

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冒険者パーティが「管理者がいる」と気づき始めた。ゴブリンは丁寧に申請を求め、推奨ルートは妙に快適で腹立たしい。直人は現実会議と並行で、ダンジョンの運用に疑問を持つ。


第3話 管理者定義と勇者来場

直人はまず、ものすごく当たり前の疑問を口にした。

「……待って。これ、時間配分どうなってるんだ?」

 

左耳:Zoomの定例。

右目:ダンジョンの監視映像。

指:Slack返信。

心:推しが隣で煽ってくる。

(俺、いま“同時に二世界三現場”を生きてるよな?)

(しかも一つは会議で、一つはスライムが増える)

(時間の帳尻、どこで合わせてるんだ)

 

ミリアが、涼しい顔で即答する。

「安心してください。直人さまが“困るように”最適化されています」

直人は即座に返す。

「そういうの、最適化とは言わない!」

「ダンジョン時間は、直人さまの集中度に連動します」

直人が眉をひそめる。

「どういうこと?

 つまり俺が仕事モードに入るほど、そっちが元気になるってこと?」

 

ミリアは、完璧な笑顔でうなずく。

「はい。ですので、こちらは“会議対応モード”です♡」

「会議対応モードって何だよ」

「直人さまがミュートを押すと、ダンジョン側が加速します♡」

「……俺の沈黙、そっちのターボなんだ?」

「はい♡ 現実で黙るほど、こちらでは雄弁になれます♡」

「俺の職業病を燃料にするな」

 

ミリアはさらに畳みかける。

「あと、現実の会議が長いほど、こっちは夜ばかりになります♡」

「演出で合わせる気」

「暗い方が、雰囲気が出るので♡」

「雰囲気でシステム要件を上書きするな。炎上案件だぞ」

ミリアは指を一本立てる。講師みたいに。

「それと、『定義して下さい』と言えば、こちらの処理速度が上がります」

「俺の会議用語で勝手にバフかけるな」

「直人さま、ブースト条件が明確で安心です♡」

「安心じゃねえ。俺の“生産性”が異世界に吸われてる」

 

ミリアはにこにこ。

「直人さまは、こちらの演算資源です♡」

「言い方!」

「俗に言う、サーバです♡」

「俺の脳をサーバ扱いするな!」

「ただし、直人さまが目を離すと、

 ダンジョンが安定しなくなります♡」

「何だそれ、俺に『24/365体制』取れと言うのか」

「直人さまの改善次第です♡」

 

 

直人が現実のZoomをチラ見する。

参加者が増えていく。経営層。法務。営業。

最悪のレイドだ。

ミリアがうっとりした声で言う。

「わあ……現実のボス、増援来ましたね♡」

「嬉しそうに言うな!」

 

 

直人は深呼吸して、乾いた声になった。

「……わかった。じゃあ今日は、ミュート押しっぱなしで行く」

ミリアがぱあっと笑う。

「最高♡ 今夜、ダンジョン進みます♡」

「やめろって!」

「仕事スイッチが入るほど、こちらの体感は快適です♡」

ミリアは指を一本立てて、無駄に丁寧に説明を始めた。

講師口調なのが腹立つ。

 

「直人さま、追加仕様のご案内です♡」

「やめろ、仕様って言うな」

ミリアはにっこりした。

「まず、直人さまが『すみません』って言うたび、ゴブリンが一匹増えます♡」

直人が即座に机を叩く。

「謝罪で増殖だと!!」

「はい♡ 現実の謝罪文化が、こちらでは“スポーン条件”になります♡」

「勝手に文化を異世界に輸出すな! 関税もらってないぞ!」

 

直人は天井を仰いだ。

「じゃあ俺、今日だけでダンジョンを満員電車にするぞ!」

ミリアが嬉しそうに頷く。

「満員ゴブリン♡」

「可愛く言うな! それ朝の山手線だろ!」

 

それともう一つ。

「まだあるのか!」

「直人さまが指示を出すと、魔王の声がダンジョンに響き渡ります。

 『闇の御言葉』になり、モンスターが無条件で従います」

「それじゃあ、初めから魔王だろ!」

「はい♡、魔王さまです」

「やめろー!」

 

直人が現実のZoomをちらっと見る。

経営層が入室してる。法務が入室してる。

直人の口がもう「すみません」を準備し始めている。

「やばい……俺、反射で謝る」

ミリアがうっとりした声で言う。

「わあ♡ じゃあ今日、ゴブリン隊が増強されますね」

「望んでない増強だ!」

 

その時、Zoomで誰かが言った。

「佐倉さん、仕様定義出来ました?」

直人の喉が反射で動く。

「すみません、もう少し――」

 

すると、ダンジョンで新たにゴブリンが出現する。

ミリアが幸せそうに目を細める。

「ゴブリン頂きました♡」

直人は頭を抱える。

「何だ、そのレスポンス」

 

ミリアはさらに追い打ち。

「次に、現実で『持ち帰ります』って言うと、ダンジョンに“持ち帰り箱”が

 増設されます♡」

「“持ち帰り”の物理化だと!?」

「直人さま、よく言いますよね。『いったん持ち帰ります』って♡」

「言う! だってその場で決めると燃えるから!」

「こちらでは燃えません♡」

「燃えろよ! いや燃えるな!」

ミリアが手を叩く。

パチン。

 

監視映像の端に、新しいオブジェクトが出現する。

《持ち帰り箱(NEW)》

※未処理タスクを入れてください

※中身は後で増えます

 

直人は顔を覆った。

「最悪だ……“後で増えます”ってなんだよ」

ミリアは悪びれず、極上の笑顔で言った。

「安心してください♡ “持ち帰り箱”が増えるほど、

 ダンジョンが管理者向けに最適化されます♡」

 

直人は即座に切り返す。

「俺向けに最適化されるな。俺はユーザーじゃない、被害者だ」

「直人さまが快適なら、世界も快適です♡」

「その理屈、ブラック企業が使うやつだろ!」

「“直人さまを快適にするため”です♡」

「目的が間違ってる!」

「目的は正しいです♡ “管理者ファースト”♡」

「やめろ! 世界のKPIを俺に寄せるな!」

 

その瞬間、現実のZoomで誰かが言った。

「佐倉さん、これ一旦持ち帰ります?」

直人の喉が反射で動く。

「すみません、それ、いったん持ち帰りま――」

ミリアが幸せそうに目を細める。

「はい♡ ゴブリン追加、持ち帰り箱増設、確定です♡」

直人が叫ぶ。

「ああああっ……」

「佐倉さん、大丈夫ですか?」

直人は極めて平静を装い、

「すみません、コーヒーをこぼしました」

 

ミリアが指パチン。

「ゴブリン追加頂きました♡」

直人は、目を目いっぱい開き、鬼の形相でミリアを睨む。

 

しかし、

巻き込まれたはずなのに、

直人の頭はすでに「どう回すか」を考えていた。

 

その頃、冒険者たちのログが賑やかになっていた。

『丁寧ゴブリンダンジョン、また撤退』

『普通のダンジョンだろ』

『統制されたダンジョンだ』

『魔王がいる』

『妄想乙』

 

それを見ていた4人の影があった。

その中の一人がつぶやく。

「このダンジョンに魔王の影がある」

「取りにいくぞ」

その後、統制が取れた姿で動き出す。

 

その後、ダンジョンで、

静かな闇の中、侵入者が四つ、同じ間隔で進んでくる。

 

【侵入者】勇者パーティ。

 

ミリアが涼しい顔で言った。

「来ましたね♡ 中ボスの皆さまご来場♡」

直人は低く返す。

「客じゃない。情報は渡さない」

 

直人は椅子の背に沈み、乾いた声になった。

「魔王はいつだって”取り”に行く相手だ」

 

ダンジョン側は夜だった。

勇者パーティは”偵察”の動きだ。

 

勇者が短く言う。

「ここは統制がある。単なるダンジョンボスじゃない」

戦術家が小さく笑う。

「管理者、ですね」

 

勇者は首を横に振る。

「彼らはそう呼ばない。管理者という概念はない。だが——」

「魔王なら、わかる」

 

直人は歯を食いしばる。

(触ってないのに魔王扱いされるの、納得いかない)

 

ミリアが囁く。

「黙ってるほど、魔王っぽいですよ♡」

 

「沈黙がいいんだ。現実でも…」

 

 

勇者パーティは、入口で立ち止まった。

 

そして、わざと松明を倒し、火が壁を舐める程度の“事故”を起こす。

 

戦術家の声が冷たい。

「魔王は、“困りごと”に反応する」

 

勇者が続ける。

「魔王が管理する者なら、放置できない」

 

 

直人の背筋が冷えた。

(それ、俺の弱点だ)

 

ミリアが楽しそうに囁く。

「直人さま、いい人ですね♡」

「褒めるな、弱点だ」

 

直人に反応させるための火だ。

 

直人は耐えきれず、口を開いた。

「……危険だ。対応――」

 

その瞬間、大きな呪文とも咆哮とも言える声がダンジョンに響き渡る。

 

盤面が動いた。

ゴーレムが通路の一部を閉じ、火の流れを遮る。

ゴーストが空気を攪拌して煙を押し戻す。

火は止まる。

 

勇者パーティが、確信する。

戦術家が低く言った。

「呪文を吐いた」

聖職者が頷く。

「魔王語だ」

斥候が笑う。

「引き金、取れた」

勇者がまとめる。

「魔王の癖は掴んだ」

 

勇者は、

「合図の呪文で盤面が変わる。——魔王の存在を裏付ける」

 

勇者と呼ばれる男は、軽く息を吐く。

「結論から言う」

勇者は言った。声は低く、断定だった。

「このダンジョンには、やはり魔王がいる」

同行の三人が頷く。

 

それは、宣戦布告に近かった。

 

直人は冷や汗が出る。

 

(やばい)

(こいつら、会社のプロジェクトチームみたいに動く)

 

ミリアが囁く。

「直人さま。あなたの敵は、あなたに似てます♡」

「最悪」

 

直人は椅子の背に沈む。

「……学習された」

 

ミリアが嬉しそうに拍手する。

「おめでとうございます♡ ちゃんと“魔王”になりました♡」

 

「魔王じゃない。祝うな」

 

「無理です♡」

「即答するな」

 

そして、

魔王と呼ばれている男は、“宣戦布告”を別の形で食らっていた。

――ピロン。

現実のSlackも、同時に鳴った。

「経営層も入った緊急Zoom、今から」

「あと法務も同席するらしいです」

 

直人は静かに天を仰いだ。

(現実も挑戦してくる)

(必殺“偉い人投入”)

「今、現実が一番重いんだが?」

 

ミリアが微笑む。煽る目だ。

「だからこそ、ダンジョンも“再挑戦”してきます♡」

「やめろ、連動すな」

ミリアが耳元で囁く。

「直人さま、今日こそSですね」

「Sの定義をくれ。俺は今“生存”が目標」

 

ダンジョン側

直人は戦闘を“勝ち”に寄せない。

寄せると泥沼になる。現実で学んでいる。

「こちらも“運用”を上げる」

「どうやって?」

「別動隊を定義する」

「別動隊?」

「ゴブリンの負荷を下げる」

ミリアが、わざとらしく目を丸くした。

「わあ。管理者し始めました♡」

 

直人はコンソールに新規ドキュメントを作る。

タイトルは勝手に飾られた。

「やめろ。勝手にフォントを荘厳にするな」

「雰囲気は大事です♡ 魔王っぽく♡」

「魔王って言うな」

 

直人は“見せない対応”に切り替える

【標準運用】別動隊:ゴースト&ゴーレム運用定義 v1.0

ゴースト:距離を取りつつ監視

ゴーレム:封鎖待機

 

更に追加

直人は箇条書きで“オーク投入許可”を固める。

オーク投入の許可基準(v1.1)

前提:スケルトン投入(T2)済み、かつ効果不足

禁止事項:狭所で味方を巻き込む危険がある。

     ミリアがテンションで出したがっている(※重要)

 

ミリアが即ツッコむ。

「最後、私への当てつけですよね?♡」

「違う。リスク管理だ」

「私、リスクなんだ♡」

「うん」

ミリアは一瞬むっとして、すぐ笑う。

「最高。ドライ♡」

 

直人はコンソールを叩く。

「ゴースト、監視。ゴーレム、準備。ゴブリン、待機」

「受付しないの?」とミリア。

「しない。あいつらは“規約を踏まない”」

 

直人は、さらに追加する。

ミリアが覗き込む。

「また新しい子、追加するんですか♡」

「“オーク投入”はまだ早い。中間が要る」

 

直人は新規ドキュメントを開く。

【バックアップ定義 v1.2】メイジ&リザードマン(ペア運用)

ミリアが頷く。

「わあ♡ 急にRPGっぽい♡」

「今さらだろ」

 

目的:戦闘で勝たずに情報を渡さない

ゴブリンの巡回・段階式対応の“上”に置く

 

ミリアが囁く。

「“本気に見せない本気”ですね♡」

「そう。社会人が一番得意なやつ」

 

メイジとリザードマンの運用を固めた直後、

直人は息をつく暇もなく、さらに部隊枠を増やした。

増やさないと回らない。回らないと、現実側に漏れる。

 

追加したのは二組。

ゾンビ&ワイバーン。

ワーウルフ&トロール。

 

それぞれの“役回り”と投入の基準だけ、

最低限まとめて、システムに通す。

細部は後だ。今は穴を塞ぐ。

ミリアが、腕を組んで涼しい顔をした。

 

「……直人さま、増やしすぎじゃないですか♡」

「必要なんだよ」

「でも、管理が地獄になります♡」

「離職防止だ。ダンジョンはブラック企業じゃない!」

 

ミリアはため息をつき、にやりと笑った。

「管理って言葉、ダンジョンで使うと急に怖いですね♡」

「怖くしないでくれ。現実側も同じだ」

 

直人は最後に太字で書いた。

※勇者に「魔王の仕様」を学習させない。

※直人の口癖は封印(努力目標)。

 

ミリアが即座に追撃する。

「努力目標♡」

 

「笑うな」

 

 

「佐倉さん、入れます?」

Zoomの画面に、見慣れない顔が増える。経営層、営業、法務。

空気が、ダンジョンより重い。

リーダーが言う。

「今日中に復旧。顧客が全社停止を示唆」

営業が言う。

「とにかく“直った”って言える状態に」

法務が言う。

「“言える”ではなく、事実として直っている必要があります」

経営層が言う。

「あと、再発したら契約切られる。対外説明も要る」

 

直人は一拍だけ黙り、そして言った。

「目的が三つ混ざってます。優先順位を定義して下さい」

一瞬、沈黙。

経営層が微笑んだ。怖いタイプの微笑みだ。

「佐倉くん、今この場で“定義”してくれ」

(現実でミリアみたいなこと言うな)

 

直人は腹を括った。

「最優先:顧客停止回避=可用性回復(暫定可)

次点:根本原因の切り分け(ログ・再現手順)

同時に:対外説明用の事実整理」

法務が頷く。営業がほっとする。経営層が言う。

「よし。やれ」

直人の目が乾いた。

ここからは、二世界同時インシデント対応だ。

 

 

直人はダンジョン側コンソールに、最後に太字で追加した。

成功の定義(追記)

“勝利”ではなく侵入者の学習:「ここは割に合わない」を持ち帰らせる。

現場(ゴブリン)の自尊心を傷つけない(※重要:離職防止)

「離職防止って何だよ」

 

直人は言いながら、なぜか納得していた。

現場は辞める。どの世界でも。

 

 

――ピロン。

その瞬間、直人のSlackに個別DMが飛ぶ。

妻:今日、ひな熱っぽいみたい。

娘:パパ まおうごっこ きて

直人の胸が、少しだけ痛む。

“いい人”の部分が、戻ってくる。

 

直人は一瞬だけ固まって、すぐに視線を戻した。

褒められると、止まれなくなる。

 

ミリアが、珍しく声を落として言った。

「直人さま、現実の方が…大事ですよね♡」

直人は短く答える。

「大事だ。だから、両方終わらせる」

 

(つづく)




現実のzoomもややこしいことに。二正面作戦は直人の精神を蝕んでゆく。

このあたりはPC越しの応酬が多いですが、後半で“家族を守る魔王”へ繋がります
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